投稿者: 実家じまいナビ編集部

  • 相続した実家の火災保険|契約は相続されます。ただし解除されると、さかのぼって保険金が出ません

    親が亡くなって、実家に誰も住まなくなった。相続登記や遺品整理に追われているあいだ、たいてい後回しになるのが火災保険です。

    後回しにしてしまう理由ははっきりしています。「契約者が死んだのだから、保険はもう切れているだろう」と思うか、逆に「保険料は引き落とされ続けているのだから、何もしなくても大丈夫だろう」と思うか。どちらかです。

    どちらも危ない。契約は消えませんが、そのまま放っておくと、いざというときに保険金が出ないことがあります。

    この記事は、e-Gov法令検索の条文と、日本損害保険協会・損害保険料率算出機構の公表資料だけで、この話を確認したものです。各社の約款は読んでいません。確認できなかったことは、最後にそのまま書いています。

    最終更新:2026年8月19日

    結論だけ先に

    • 火災保険の契約は相続されます。民法896条は「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」と定めています。親が死んだ瞬間に保険が消えるわけではありません。
    • 契約後に伝えなければならないこと(通知事項)は、火災保険では2つだけです。日本損害保険協会は「建物の構造・用法の変更」と「家財の他の場所への移転」を挙げています。所在地の変更や他社契約の情報は「契約時の告知事項」であって、通知事項には入っていません。
    • 通知を怠ると、契約を解除されることがあります(保険法29条1項)。しかも解除の効力は将来に向かってしか及ばないのに、危険が増えた時点までさかのぼって保険金が支払われません(保険法31条2項2号)。「解除は将来だけだから、それまでの事故は出る」ではありません。
    • 地震保険は、法律の入口で「居住の用に供する建物」に限られています(地震保険に関する法律2条2項1号)。誰も住んでいない実家がここに入るのかは、条文からは読み取れません。
    • 実家から火が出て隣家が焼けても、重大な過失がなければ賠償責任を負いません(失火ノ責任ニ関スル法律)。ただしこの法律が名指ししているのは民法709条だけです。塀や屋根が落ちて人が怪我をしたときの民法717条は、条文に挙げられていません。

    根拠と条番号は本文にあります。条文はすべてe-Gov法令検索で本文を確認しました。

    まず、親が死んでも火災保険は消えない

    民法896条は、こう書いてあります。

    相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。

    「一切の権利義務」です。不動産や預金だけではありません。火災保険の契約者としての地位も、ここに含まれます。

    だから、親が亡くなった翌日に実家が火事になっても、契約が生きている限り、保険金の請求権そのものは相続人にあります。「契約者が死亡したから無効」ではありません。

    ただし条文には「ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない」という但し書きがあります。火災保険が一身専属かどうかは、条文には書いてありません。ここは実務の理解として「一身専属ではない(=相続される)」とされていますが、その根拠を示す公的な文書は、今回は見つけられませんでした。

    問題は「消えるかどうか」ではなく「誰の名前になっているか」

    ここからが本題です。契約は消えません。でも、契約書に書いてある名前は、亡くなった親のままです。

    火災保険には、立場の違う3つの名前が出てきます。

    呼び名 意味 相続でどうなるか
    保険契約者 保険会社と契約し、保険料を払う人 相続人が承継する(民法896条)
    被保険者 保険の対象になる建物について、損害を受ける立場の人。ふつうは建物の所有者 建物の所有者が変わるので、実質的に変わる
    保険金受取人 保険金を受け取る人。火災保険では被保険者と同じことが多い 同上

    ここでいちばん動くのは「被保険者」です。建物の所有者が親から相続人に移るからです。

    相続人が複数いると、被保険者は「全員」になる

    民法898条1項は、こう定めています。

    相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。

    そして2項。

    相続財産について共有に関する規定を適用するときは、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分をもって各相続人の共有持分とする。

    遺産分割が終わるまで、実家は相続人全員の共有です。兄弟3人なら、建物は3人の共有物になります。

    つまり火災保険の被保険者も、遺産分割が終わるまでは相続人全員だと考えることになります。1人だけが手続きをして、1人だけの名義にしてしまうと、あとで揉めます。

    共有の実家をどう扱うかは、実家が兄弟の共有になっているで、同意が要る場面と要らない場面を条文で整理しています。

    火災保険で「あとから伝えること」は2つしかない

    ここが、この記事でいちばん大事なところです。

    日本損害保険協会の損害保険Q&A(すまいの保険・問59)は、火災保険の告知事項と通知事項を、次のように整理しています。

    いつ 中身
    告知事項 契約するとき ①建物の構造・用法
    ②建物の所在地
    ③他の火災保険契約等(重複保険契約)の情報
    通知事項 契約したあと ①建物の構造・用法の変更
    ②家財の他の場所への移転

    通知事項は2つだけです。そして、そのうちの1つが「建物の構造・用法の変更」です。

    協会が挙げている例は、「住宅専用の建物を改築して店舗併用の建物に変更するなど」。

    ——ここで正直に書きます。「人が住まなくなった」ことが、この『用法の変更』にあたるかどうかは、協会の説明にも、保険法の条文にも、書かれていません。

    書かれているのは「用法の変更は通知事項である」という一般則だけです。あなたの実家がそれに当たるかどうかを判断するのは、あなたでも私でもなく、保険会社です。

    だから、この記事の結論は最初から1つしかありません。「誰も住まなくなりました」と保険会社に電話してください。それだけです。

    告知事項と通知事項を混ぜないこと

    ここを混同している解説をよく見ます。「所在地が変わったら通知が必要」は誤りです。所在地は契約時の告知事項であって、通知事項の2項目には入っていません(建物の所在地が後から変わることは、そもそも普通ありません)。

    逆に「他社の火災保険にも入った」は告知事項です。相続で、親の契約と自分がかけた契約が二重になっているケースは実際にあります。これは新しく契約するときに申告するものであって、既存契約の通知事項ではありません。

    入り直すときは「告知義務」のほうが働く

    ここまでは、親の契約を引き継ぐ話でした。いったん解約して、自分の名前で入り直す場合はどうなるか。

    そのときに働くのは通知義務ではなく、契約するときの告知義務です。保険法4条は、こう定めています。

    保険契約者又は被保険者になる者は、損害保険契約の締結に際し、損害保険契約によりてん補することとされる損害の発生の可能性(以下この章において「危険」という。)に関する重要な事項のうち保険者になる者が告知を求めたもの(第二十八条第一項及び第二十九条第一項において「告知事項」という。)について、事実の告知をしなければならない。

    読み落としやすいのは「保険者になる者が告知を求めたもの」という限定です。日本の保険法は、契約者が思いつくことを何でも自発的に申告する仕組み(自発的申告義務)ではありません。保険会社が申込書で聞いたことに、正確に答える。それが告知義務です。

    だから、申込書に「現在お住まいですか」「空き家ですか」という欄があれば、そこに正直に書く。欄がなければ、条文上は告知義務の対象ではありません。ただし、欄がないからといって言わなくていいという意味ではありません。言わずに入った契約は、いざというときに使えない契約になりかねません。

    そして、いま入っている契約を解約して入り直す場合、解約と新契約のあいだに1日でも空白があると、その日の事故は誰も補償しません。順番を必ず確認してください。

    伝えなかったときに、実際に何が起きるか

    「言わなくてもバレないだろう」で済まないのは、保険法の作りがそうなっているからです。

    保険法29条——危険増加による解除

    保険法29条1項は、こう書いてあります(括弧書きを含めて引用します)。

    損害保険契約の締結後に危険増加(告知事項についての危険が高くなり、損害保険契約で定められている保険料が当該危険を計算の基礎として算出される保険料に不足する状態になることをいう。以下この条において同じ。)が生じた場合において、保険料を当該危険増加に対応した額に変更するとしたならば当該損害保険契約を継続することができるときであっても、保険者は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合には、当該損害保険契約を解除することができる。

    一 当該危険増加に係る告知事項について、その内容に変更が生じたときは保険契約者又は被保険者が保険者に遅滞なくその旨の通知をすべき旨が当該損害保険契約で定められていること。

    二 保険契約者又は被保険者が故意又は重大な過失により遅滞なく前号の通知をしなかったこと。

    読みどころは3つあります。

    1つめ。「保険料を上げれば契約を続けられるときであっても」解除できる、と書いてあります。「差額を払えば済む」ではありません。

    2つめ。解除には1号と2号の両方が必要です。1号は「約款に通知義務が書いてあること」。2号は「故意または重大な過失で通知しなかったこと」。うっかり忘れた(軽過失)だけでは、条文上は解除できません。

    3つめ。「危険増加」の意味が括弧の中に定義されています。「告知事項についての危険が高くなり、保険料が不足する状態になること」。つまり、保険料が足りなくなるかどうかが基準です。

    保険法31条——ここが本当に怖いところ

    31条1項は、あっさりしています。

    損害保険契約の解除は、将来に向かってのみその効力を生ずる。

    これだけ読むと「解除されても、それまでの事故は保険金が出るのか」と思います。思いますが、2項があります。

    31条2項は「保険者は、次の各号に掲げる規定により損害保険契約の解除をした場合には、当該各号に定める損害をてん補する責任を負わない」として、29条1項(危険増加による解除)については、「解除に係る危険増加が生じた時から解除がされた時までに発生した保険事故による損害」を挙げています。

    解除は将来に向かってしか効きません。それなのに、保険金は危険が増えた時点までさかのぼって支払われません。

    具体的に言えば、こうなります。

    時点 起きたこと
    2026年3月 親が亡くなり、実家が空き家になった(=危険増加が生じた時、と保険会社が判断したとする)
    2026年3月〜9月 相続人は何も通知していない。保険料は引き落とされ続けている
    2026年9月 実家が全焼
    2026年10月 保険会社が事実を知り、契約を解除

    この場合、9月の火災は「危険増加が生じた時から解除がされた時までに発生した保険事故」です。31条2項2号にそのまま当てはまります。

    ただし同じ号には、ただし書きがあります。「当該危険増加をもたらした事由に基づかずに発生した保険事故による損害については、この限りでない」。空き家であることと無関係に起きた損害なら、支払われます。

    これは告知義務違反の側でも同じ考え方です。協会の問59は、木造の建物をコンクリート造と偽って告知した場合でも、木造でもコンクリート造でも同じように床上浸水したのであれば、告知義務違反と損害との間に因果関係がないので保険金は支払われる、という例を挙げています。

    「嘘をついたから一律に全部払わない」ではありません。そこは条文も協会の説明も、はっきり線を引いています。

    告知義務違反のほうには、期限がある

    契約するときの告知義務違反(保険法28条1項)については、解除権に期限があります。28条4項です。

    第一項の規定による解除権は、保険者が同項の規定による解除の原因があることを知った時から一箇月間行使しないときは、消滅する。損害保険契約の締結の時から五年を経過したときも、同様とする。

    知ってから1か月、契約から5年。この2つの期間を過ぎれば、告知義務違反を理由に解除することはできなくなります。

    そして29条2項は、この28条4項を危険増加による解除にも準用しています。ただし「損害保険契約の締結の時」を「危険増加が生じた時」と読み替える、と書いてあります。起算点が契約時ではなく、危険が増えた時になるということです。

    また、28条2項は解除できない場合も定めています。①保険会社が契約時にその事実を知っていた、または過失で知らなかったとき ②保険を仲介した人(代理店など)が告知を妨げたとき ③仲介した人が「言わないほうがいい」と勧めたとき。②③は、それがなくても告知しなかっただろうと認められる場合には適用されません(28条3項)。

    「住宅物件」と「一般物件」——空き家はどちらなのか

    ここは、ネット上でいちばん断定されていて、いちばん根拠が薄いところです。

    損害保険料率算出機構は、火災保険参考純率のページで、建物を4つに分けています。機構が書いている定義は、次のとおりです。

    区分 機構の定義(原文)
    住宅物件 住居としてのみ使用する建物です。
    一般物件 オフィスビルや学校など、住宅物件・工場物件・倉庫物件のいずれにも該当しないものです。
    工場物件 食料品製造工場や化学工場など、動力や電力を大量に使用し製品の製造・加工などを主として行う建物です。
    倉庫物件 倉庫業者が顧客から預かった物品を保管するための建物です。

    このページに、空き家がどれに当たるかは書かれていません。今回確認した範囲では、「空き家」という語自体が出てきません。

    いっぽう、空家等対策の推進に関する特別措置法2条1項は、「空家等」をこう定義しています。

    建築物又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの及びその敷地(国又は地方公共団体が所有し、又は管理するものを除く。)

    片方は「住居としてのみ使用する建物」。もう片方は「居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの」。

    この2つの文を並べると、誰も住んでいない家を「住居として使用する建物」と呼べるのかという論点が浮かびます。浮かびますが、これは条文と定義を並べた結果そう見えるというだけで、「だから空き家は一般物件になる」と書いてある公的な文書は、今回は見つけられませんでした。

    実務では、保険会社ごとに扱いが違います。ここを断定している解説は、根拠を確かめたほうがいいと思います。私たちは断定しません。あなたの契約がどうなるかは、証券番号を伝えて保険会社に聞くのが唯一の確実な方法です。

    なぜ区分が変わると困るのか

    区分が変わると、保険料が変わります。それだけならお金の問題です。問題は、住宅物件向けの商品にしか付いていない補償があることです。

    たとえば個人賠償責任の特約や、家財の補償。こうした「住まいであること」を前提にした特約は、一般物件の商品には用意されていないことがあります。ただし、どの特約がどう扱われるかは各社の商品ごとの話で、今回は約款を読んでいません。

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    地震保険は、法律の入口で「居住の用に供する建物」に限られている

    火災保険よりはっきりしているのが地震保険です。これは条文に書いてあります。

    地震保険に関する法律2条2項は、「地震保険契約」の要件を4つ挙げています。その1号がこれです。

    居住の用に供する建物又は生活用動産のみを保険の目的とすること。

    「居住の用に供する建物」または「生活用動産」だけ。これが地震保険の入口です。

    残りの3つも押さえておく価値があります。

    • 2号——地震・噴火・津波を直接または間接の原因とする火災、損壊、埋没、流失による損害を、政令で定める金額でてん補すること
    • 3号——特定の損害保険契約に附帯して締結されること。つまり地震保険は単独では入れません。火災保険とセットです
    • 4号——附帯する損害保険契約の保険金額の30%以上50%以下に相当する金額を保険金額とすること(政令で定める上限あり)

    4号は意外と知られていません。地震保険は、火災保険と同額はかけられません。上限は火災保険金額の半分です。

    そして1号に戻ります。誰も住んでいない実家が「居住の用に供する建物」に当たるのかどうか。条文には書いてありません。財務省と損害保険料率算出機構のページも確認しましたが、空き家についての記載は見つけられませんでした。

    ここも保険会社に聞く以外にありません。ただ、火災保険の物件区分より、地震保険のほうが条文の縛りがはっきりしている分、断られる可能性は高いと考えておくほうが安全です。

    火災保険では守れないもの:隣の家に燃え移ったとき

    ここは、火災保険の話と混ざりやすいので分けて書きます。

    実家から火が出て、隣の家が焼けた。このとき、あなたは隣家に賠償しなければならないのか。

    日本には、明治32年から続く1条だけの法律があります。失火ノ責任ニ関スル法律です。全文はこれだけです。

    民法第七百九条ノ規定ハ失火ノ場合ニハ之ヲ適用セス但シ失火者ニ重大ナル過失アリタルトキハ此ノ限ニ在ラス

    民法709条は、こう書いてあります。

    故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

    つまり、火事については709条を使わない。ただし重大な過失があったときは別。これが失火責任法です。

    だから「隣に燃え移っても、重過失がなければ賠償しなくていい」というのは、条文どおりです。

    ただし、この法律が名指ししているのは709条だけ

    もう一度、条文を見てください。「民法第七百九条ノ規定ハ」としか書いていません。

    民法には、もう1つ、建物の所有者に関わる条文があります。717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)です。

    土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。

    この条文の恐ろしさは「ただし」以降にあります。占有者が必要な注意をしていたときは、所有者が賠償しなければならないと書いてあります。所有者には「注意していました」という逃げ道が用意されていません。

    空き家の場合、占有者も所有者もあなたです。屋根瓦が落ちて通行人が怪我をした、ブロック塀が倒れて隣の車を壊した、外壁が剥がれて隣家を傷つけた。これらは火事ではないので、そもそも失火責任法の出番がありません。

    では、火事なら717条も免れるのか。失火責任法の条文は717条を挙げていません。ここから「工作物責任には失火責任法が及ばない」という読み方が実務では取られていますが、その根拠になる判例の本文は、今回は確認していません。条文に書いてあるのは「709条には適用しない」ということだけです。

    放置した空き家がどこまで危険になるかは、空き家を放置するとどうなるかで、行政の措置と実際の費用を整理しています。

    解体するとき、保険はどうなるか

    実家を解体すると決めたときも、火災保険には手続きが要ります。

    保険の対象になっている建物が無くなるからです。建物が無くなれば、その建物にかけた保険は目的を失います。長期契約で保険料を前払いしている場合、残りの期間に対応する保険料が返ってくることがあります。

    ——ただし、ここも正直に書きます。解体したときの解約返戻金の計算方法は、各社の約款によります。今回は確認していません。「必ず返ってくる」とは書けません。

    言えるのは1つだけです。解体業者と契約する前に、保険会社に「いつ解体するか」を伝えておくこと。解体してから連絡すると、その間の保険料が無駄になります。

    解体費そのものについては、実家の解体費用はいくらかと全国の解体補助金一覧で、構造・坪数別の相場と、自治体ごとの補助制度を1件ずつ確認しています。補助金はほぼすべての自治体で「契約前の申請」が条件です。保険の連絡と一緒に、順番を間違えないようにしてください。

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    保険の連絡より前に、解体費の見当を付けておく

    解体を保険会社に伝えるタイミングも、補助金の申請も、解体をいつやるかが決まっていないと順番を組めません。費用の見当が付けば、その順番が決まります。

    ①同社サイトには「ご利用は無料。ご成約後の請求も一切ございません」と書かれています。
    ②同社は「契約まで、業者からご連絡がいくことはございません」と説明しています。
    ③申し込みには物件の情報と写真が要ります。遠方の実家で写真が手元にないなら、次に帰ったときに外観と傷んでいる箇所を撮っておいてください。
    ④解体する予定がないなら申し込まないでください。重複した申込や、連絡先が実在しない申込は無効と明記されています。
    ⑤1社の見積りだけで決めないでください。地元の解体業者にも自分で1社あたって、金額の桁が合っているかを確かめてください。
    ⑥解体補助金を使う予定があるなら、契約・着工の前に自治体へ申請してください。着工後の申請は原則として通りません。

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    見積書のどこを見るかは、この記事の見積書の章に戻って確認してください。お住まいの自治体の制度を先に調べておくと、受付期間に間に合うかどうかも一緒に分かります。

    相続放棄をしても、実家の管理義務が残ることがある

    「保険の名義変更が面倒だから、相続放棄すればいい」——そう考える人がいます。放棄すれば火災保険の契約も承継しません。民法896条の「一切の権利義務を承継する」の裏返しです。

    ただし、建物そのものから完全に手が離れるとは限りません。民法940条1項は、こう定めています。

    相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。

    条件は「その放棄の時に……現に占有しているとき」です。実家に住んでいた、鍵を持って出入りしていた、荷物を置いていた。そういう状態で放棄した場合、次の相続人か相続財産清算人に引き渡すまで、保存義務が残ります。

    「自己の財産におけるのと同一の注意」という水準です。自分の物と同じ程度に扱えばよい、という意味で、善良な管理者の注意(善管注意義務)より軽い水準とされています。ただし、何もしなくていいという意味ではありません。

    この状態で建物が崩れて他人に損害を与えたら、先ほどの民法717条が問題になります。そして、保険はもう自分のものではありません。

    相続放棄そのものの判断は、実家が「負動産」だったら相続放棄すべきかで、3か月の期限と、放棄しても残るものを条文で整理しています。

    やることの順番

    ここまでを、手を動かす順に並べ直します。

    1.保険証券を探す

    親の家の書類箱、仏壇の引き出し、通帳と一緒の封筒。証券が見つからなくても諦めないでください。預金通帳の引き落とし履歴に保険会社名が出ていれば、そこから照会できます。

    2.保険会社に「相続が起きたこと」と「誰も住んでいないこと」を伝える

    この2つはセットで伝えてください。名義の話だけして、居住状況を言わないと、いちばん大事な部分が抜けます。

    聞くことは、次の4つです。

    • この契約は、空き家のままで継続できますか
    • 継続できる場合、物件の区分(住宅物件かどうか)は変わりますか
    • 地震保険は付けたままにできますか
    • 被保険者を相続人全員にする手続きには、何が必要ですか

    3.遺産分割が決まったら、もう一度連絡する

    遺産分割協議が終わって、実家の名義が1人に決まったら、被保険者をその人に変える手続きが要ります。民法898条の共有状態が解けるからです。

    4.解体・売却が決まったら、その前に連絡する

    建物が無くなる日、あるいは所有者が他人に移る日を、事前に伝えます。

    やってはいけないこと

    • 「保険料が引き落とされているから大丈夫」で放置する。保険料が落ちていることと、保険金が出ることは別の話です
    • 自分で「これは用法の変更ではない」と判断する。判断するのは保険会社です
    • 相続人が1人だけで名義を自分に変えてしまう。遺産分割が終わるまで、建物は全員の共有です
    • 解体してから保険会社に連絡する。順番が逆です

    この記事で確認できなかったこと

    この記事は、e-Gov法令検索の条文と、日本損害保険協会・損害保険料率算出機構の公表資料だけで書いています。次の点は確認できませんでした。

    • 「人が住まなくなったこと」が、通知事項である「建物の用法の変更」に当たるかどうか。協会の説明が挙げている例は「住宅専用の建物を改築して店舗併用の建物に変更するなど」までで、空き家についての記述はありません
    • 空き家が住宅物件から一般物件に変わるかどうか。損害保険料率算出機構の火災保険参考純率のページには、空き家についての記載がありません
    • 誰も住んでいない建物が、地震保険に関する法律2条2項1号の「居住の用に供する建物」に当たるかどうか。条文にも、財務省・機構のページにも書かれていません
    • 各保険会社の約款。空き家に関する条項、通知義務の具体的な文言、解約返戻金の計算方法は、いずれも各社の約款によります。今回は1社も読んでいません
    • 火災保険が「一身専属」でないことを示す公的な文書。民法896条の但し書きに当たらないという理解は実務上のものです
    • 失火責任法が民法717条に及ばないとする判例の本文。失火責任法の条文が709条だけを挙げていることは確認しましたが、判例そのものは取得していません
    • 空き家の火災保険料が、住んでいる家と比べてどれくらい上がるか。公表されている数値を見つけられませんでした
    • 被保険者の変更に必要な書類。戸籍謄本や遺産分割協議書が要るかどうかは、保険会社ごとに違います
    • 民法940条1項の「現に占有している」の具体的な判断基準。鍵を持っているだけで占有にあたるのかは、条文からは読み取れません
    • 地震保険の政令で定める金額(2条2項2号・4号)の具体的な水準。地震保険に関する法律施行令は今回開いていません

    当サイトには監修者がいません。ここに書いたのは条文と公表資料の内容であって、あなたの契約に当てはめた判断ではありません。証券番号を用意して、保険会社に電話してください。それが唯一の確実な方法です。

    あわせて読みたい

    空き家の瓦が落ちて人にあたったら、賠償するのは所有者です——民法717条には「知らなかった」という逃げ道がありません。庭木も対象です。

  • 実家の境界が決まっていない|「筆界」と「所有権の境界」は別の言葉です

    実家を売ろうとしたら、不動産会社に「境界が確定していないので、まず測量を」と言われた。見積もりは数十万円。隣の家の人とは、親の代から話していない——。

    この話には、最初に整理しておくべき言葉の違いがあります。「筆界」と「境界」は、法令上ちがう言葉です。混ぜて理解すると、必要のない手続に進むことになります。

    この記事は、不動産登記法・民法・国土調査法・宅地建物取引業法の条文と、法務省・法務局・国土交通省の公表資料だけで確認したものです。確認できなかったことは、最後にそのまま書いています。

    最終更新:2026年8月19日

    結論だけ先に

    • 「筆界」は登記された時に決まった線、「所有権の境界」は誰のものかの線。別物です。不動産登記法132条1項5号は、申請が「所有権の境界の特定その他筆界特定以外の事項」を目的とするときは却下すると定めています。法律のほうが、はっきり切り分けています。
    • 筆界特定をしても、境界は確定しません。148条が、後の確定判決と抵触する範囲で筆界特定はその効力を失うとしています。裁判のほうが強いという建て付けです。
    • 売買に測量を義務づけた条文は、見つけられませんでした。そして重要事項説明の法定事項にも、境界は入っていません(宅建業法35条1項)。測量が要るのは法律の要求ではなく、契約と取引実務の要求です。
    • 地籍調査の全国進捗率は53%で、3年間横ばいです(令和5年度末〜令和7年度末・国土交通省)。市町村の約2割は、未着手か休止中です。
    • 隣の人が所在不明でも、道はあります。令和4年の法務省通知により、現地復元性のある図面があれば隣地立会い(筆界確認情報)を原則求めないことになりました。

    根拠と条番号は本文にあります。条文はすべてe-Gov法令検索で本文を確認しました。

    まず、3つの言葉を分けます

    同じ「境界」の話に見えて、根拠になっている法律が違います。

    言葉 根拠 意味
    筆界 不動産登記法123条1号 その土地が登記された時にその境を構成するものとされた、2以上の点とそれを結ぶ直線
    所有権の境界 (定義規定なし) 誰の所有権がどこまで及ぶかの線
    境界標 民法223条・224条 現地に打つ杭や金属標そのもの

    筆界の定義を、条文から引きます。

    「筆界」とは、表題登記がある一筆の土地…とこれに隣接する他の土地…との間において、当該一筆の土地が登記された時にその境を構成するものとされた二以上の点及びこれらを結ぶ直線をいう。

    出典:不動産登記法123条1号(e-Gov法令検索で本文を確認/2026年8月19日)

    「登記された時に」です。筆界は、いま誰が持っているかとは関係なく、過去に登記されたときに決まっている線です。だから動かせません。当事者が合意しても変わりません。

    一方、所有権の境界は動きます。時効取得、越境の黙認、隣同士の合意。だから筆界と所有権の境界はズレることがあります。

    法務省も「一致することが多いですが、一致しないこともあります」と説明しています。

    筆界特定制度は「特定」であって「確定」ではありません

    筆界がどこか分からないときに使えるのが、筆界特定制度です(不動産登記法123条以下)。法務局の筆界特定登記官が、現地における筆界の位置を特定します。

    ★ 所有権の話を持ち込むと却下されます

    132条1項5号が、却下事由をこう書いています。

    申請が対象土地の所有権の境界の特定その他筆界特定以外の事項を目的とするものと認められるとき。

    法律自身が、「所有権の境界の特定」を「筆界特定以外の事項」として並べています。ここが、この制度でいちばん誤解されるところです。

    法務局も「筆界特定は、土地の所有権界がどこにあるのかを特定することを目的とするものではありません」と明記しています。

    そして、裁判には勝てません

    筆界特定がされた場合において、当該筆界特定に係る筆界について民事訴訟の手続により筆界の確定を求める訴えに係る判決が確定したときは、当該筆界特定は、当該判決と抵触する範囲において、その効力を失う。

    出典:不動産登記法148条

    条文が「その効力を失う」と書いています。東京法務局も、筆界特定は「行政処分ではなく、法的に不可争力をもって筆界を確定するものではありません」とし、結果に不満があればいつでも筆界確定訴訟を提起できるとしています。

    逆方向は塞がっています。すでに筆界確定訴訟の判決が確定している筆界について、筆界特定の申請はできません(132条1項6号)。すでに筆界特定がされている筆界も、原則として申請できません(同7号)。

    ただし、無駄になるわけではありません。147条により、訴訟が起きたときに裁判所が筆界特定の記録の送付を嘱託できます。

    誰が申請できるか

    131条1項は「土地の所有権登記名義人等」としています。この「等」には、123条5号により相続人その他の一般承継人が含まれます。相続登記が終わっていなくても、相続人として申請できる建て付けです。

    東京法務局のQ&Aは、共有地でも共有者の1人が単独で申請できるとしています(他の共有者は「関係人」として意見提出や実地調査の立会いができます)。

    費用:申請手数料は安い。測量費は別です

    手数料は登記手数料令8条で決まります。計算は3段階です。

    1. 自分の土地と隣の土地の価額の合計を2で割る
    2. それに「筆界特定によって通常得られることとなる利益の割合」を掛ける(法務局の資料では5%)
    3. 出た額を、政令の表に当てはめる

    法務省が挙げている例では、合計4,000万円の土地で申請手数料は8,000円です。

    ただし、これは申請手数料だけです。法務省は「測量が必要となることがあります。そのときには、測量費用を負担する必要が生じます」としており、東京法務局のQ&Aは測量費用の目安を「概ね50万円から80万円くらいの間」としています(東京法務局管内の記載で、全国一律の数字ではありません)。

    なお、133条1項の公告・通知の前に取り下げるか却下された場合は、納付額から納付すべき額の2分の1を控除した金銭が、請求により還付されます(登記手数料令8条3項〜5項。請求期限は5年)。

    ★ かかる時間は、法務局によって違います

    これは調べていて意外だったところです。標準処理期間は全国一律ではありません。

    • 東京法務局:9か月(同局のQ&A)
    • 徳島地方法務局:6か月(同局のQ&A・PDF)

    法務省本省のページとリーフレットには、処理期間の記載がありませんでした。「筆界特定は◯か月」と書いてある説明を見たら、それがどの局の数字か確かめてください。管轄の法務局が公表している数字を見るのが正解です。

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    そもそも、法務局にある図面は正確ではないことがあります

    不動産登記法14条は、登記所に地図を備え付けるとしています(1項)。そして2項が、その地図は「各土地の区画を明確にし、地番を表示する」ものとしています。

    ところが4項に、こう書かれています。

    第一項の規定にかかわらず、登記所には、同項の規定により地図が備え付けられるまでの間、これに代えて、地図に準ずる図面を備え付けることができる。

    これが、いわゆる公図です(条文に「公図」という語は出てきません。通称です)。5項が求めるのは「土地の位置、形状及び地番を表示する」ことまでで、区画の明確化までは求めていません。

    法務省の説明が端的です。

    公図は、明治期の地租改正の際に作成されたものが多く、現地を復元するほどの精度と正確性は有していません。

    山形地方法務局は、公図の精度が低い理由として作成時の申告面積が実際より小さかったことと簡易な測量機器による未熟な測量を挙げ、「面積に相当の開きがある場合があります」としています。

    大阪法務局も「形状が正確でなかったり、地図の接合関係が不明確であり、正確な位置を特定することができません」としています。

    14条地図の整備率について、時点つきの公表値は見つけられませんでした。国土交通省の地籍調査Webサイトに「正確な測量に基づき作成された地図は、全体の半数程度」という記述がありますが、このページには基準時点の記載がありません。数字を書くなら、ここまでが限界です。

    地籍調査は、3年間動いていません

    国土調査法2条5項の定義です。

    「地籍調査」とは、毎筆の土地について、その所有者、地番及び地目の調査並びに境界及び地積に関する測量を行い、その結果を地図及び簿冊に作成することをいう。

    ここでは「境界」という語が使われています。不動産登記法の「筆界」とは用語が違います。

    実施主体は地方公共団体等で、国土交通省は「主に市町村が実施主体となって調査が進められています」としています。

    そして進捗です。

    基準時点 全国 優先実施地域
    令和5年度末 53% 80%
    令和6年度末 53% 81%
    令和7年度末 53% 81%

    出典:国土交通省 報道発表(令和6年6月26日/令和7年6月27日/令和8年6月26日)

    全国値は3年間53%のまま動いていません。そして地籍調査Webサイトは、未着手の市町村5%、休止中12%——約2割の市町村で地籍調査が行われていないとしています。昭和26年に始まって70年以上が経った制度です。

    自分の実家がある市町村の状況は、国土交通省の地籍調査状況マップで調べられます。ただし表示の粒度は市区町村単位と説明されており、地番単位で「うちの土地は済んでいるか」を調べる方法は、官公庁のページでは確認できませんでした。

    隣の人と、どこまでやり取りが必要か

    立会いを義務づける条文は、ありません

    調べたかぎり、隣人に境界立会いを義務づける条文は、民法にも不動産登記法にも見当たりませんでした。

    ただし、測量のために隣地に入る根拠はできました

    令和5年4月1日施行の民法改正で、209条1項がこう変わりました。

    土地の所有者は、次に掲げる目的のため必要な範囲内で、隣地を使用することができる。ただし、住家については、その居住者の承諾がなければ、立ち入ることはできない。

    そして1項2号に、「境界標の調査又は境界に関する測量」が明記されています。

    改正前は「使用を請求できる」でしたが、改正後は「使用することができる」です。ただし条件があります。

    • 住家には、居住者の承諾がないと立ち入れません(1項ただし書)
    • 日時・場所・方法は「損害が最も少ないもの」を選ぶこと(2項)
    • あらかじめ通知すること。困難なときは使用開始後、遅滞なく(3項)
    • 損害が出たら償金(4項)

    これは立ち入りの根拠であって、隣人に立会いや筆界の合意を強制するものではありません。

    費用の分担は、条文に書き分けがあります

    境界標の設置及び保存の費用は、相隣者が等しい割合で負担する。ただし、測量の費用は、その土地の広狭に応じて分担する。

    出典:民法224条

    境界標は折半、測量費は面積按分。条文がはっきり書き分けています。なお223条は「境界標を設けることができる」という「できる」規定で、設置義務ではありません。

    越境した枝は、条件つきで自分で切れます

    同じ令和5年4月施行の改正で、民法233条に3項が追加されました。次のときは、土地の所有者が自分で枝を切り取れます。

    1. 竹木の所有者に催告したのに、相当の期間内に切除しないとき
    2. 竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき
    3. 急迫の事情があるとき

    (根については、4項により従来どおり無条件で切れます。)

    2号は、相続した実家では両方向に効きます。隣が所在不明でも枝を切れる一方で、あなたの実家が空き家で連絡がつかない状態なら、切られる側になります。空き家の放置については空き家を放置するとどうなるにまとめています。

    ★ 売るのに、測量は法律上の義務ではありません

    ここは調べた結果として、はっきり書けます。

    売買に際して測量を義務づけた条文は、今回の調査では見つかりませんでした。民法の売買の節にも相隣関係の規定にも、国土交通省の標準媒介契約約款にも、境界や測量を求める条項は確認できませんでした。

    そして、もう1つ。

    宅地建物取引業法35条1項の重要事項説明の法定事項に、境界は入っていません。各号を確認しましたが、「境界」「筆界」の語はありません。いちばん近いのは3号の「私道に関する負担に関する事項」ですが、これは私道負担の話で、境界の確定状況ではありません。

    国土交通省の「重要事項説明・書面交付制度の概要」でも、35条の説明事項一覧に境界の項目はありません。同じ資料の中で境界は、苦情・紛争相談の分類として「日影、眺望、境界等相隣関係」という形で登場します。説明義務の対象ではなく、トラブルの類型として出てくるという位置づけです。

    つまり測量が求められるのは、法律の要求ではなく、契約と取引実務の要求です。「法律で決まっているから」と説明されたら、根拠を聞いてください。

    ただし——買う側から見れば、境界が分からない土地は買いにくい。これは事実です。だから実務では求められます。法律上の義務ではないが、値段に効く。この整理をしておくと、費用をかけるかどうかを自分で判断できます。

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    分筆するなら、筆界の確認は避けられません

    土地の一部だけ売る、兄弟で分ける——このときは分筆の登記が要ります(不動産登記法39条)。

    分筆には地積測量図の提供が必要で、その地積測量図には、不動産登記規則77条1項により筆界点間の距離(6号)と基本三角点等に基づく測量の成果による筆界点の座標値(8号)を記録しなければなりません。

    これが「境界が決まっていないと分筆できない」の正体です。座標を書けないからです。

    ★ ただし、隣地の立会いが常に必須というわけではなくなりました

    令和4年4月14日付けの法務省の依命通知(民二第536号)が、筆界確認情報——隣同士が現地立会いで筆界を確認し、認識が一致したことを示す情報——の扱いを変えました。

    現地復元性を有する登記所備付地図または地積測量図等の図面がある場合には、「原則として筆界確認情報の提供等を求めないものとする」とされています。求める場合でも「登記官が筆界の調査及び認定をするために必要な最小限の範囲のものに限る」。

    法務省の「隣の土地の所有者が分からなくてお困りの方へ」も、「精度の高い地図や地積測量図などが法務局に備え付けられているときは、その資料などで筆界の確認ができる場合があります」としています。

    隣が誰か分からない、連絡がつかない——それだけで詰むわけではありません。まず法務局に、その土地の図面が14条地図なのか公図なのかを確かめに行ってください。

    国に引き取ってもらう道も、境界で止まります

    相続土地国庫帰属制度の却下事由に、「境界が明らかでない土地その他の所有権の存否、帰属又は範囲について争いがある土地」があります(法2条3項5号)。

    境界が分からない土地は、売るのも、分けるのも、国に渡すのも止まります。制度の全体像は相続土地国庫帰属制度にまとめました。

    動く順番

    1. 法務局で「地図証明書」を取る。それが14条地図なのか地図に準ずる図面(公図)なのかで、その先が変わります
    2. 地積測量図があるか調べる。あれば、隣地の立会いなしで進める可能性があります(令和4年通知)
    3. 市町村の地籍調査の状況を、国土交通省の地籍調査状況マップで確認する
    4. 現地に境界標があるか見る。杭や金属標が残っていれば、話は早くなります
    5. 売るだけなら、測量が本当に要るかを確かめる。法律上の義務ではありません。値段への影響と費用を比べて決めてください
    6. 筆界が分からず、隣と主張が食い違うなら筆界特定。ただし所有権の争いは対象外で、判決には勝てません

    よくある質問

    Q. 筆界特定をすれば、境界が確定しますか。

    A. しません。148条が、後の確定判決と抵触する範囲で筆界特定は効力を失うと定めています。東京法務局も「行政処分ではなく、法的に不可争力をもって筆界を確定するものではありません」としています。

    Q. 隣の人と所有権を争っています。筆界特定でしょうか。

    A. 違います。132条1項5号が、申請が「所有権の境界の特定その他筆界特定以外の事項」を目的とするときは却下すると定めています。所有権の争いは訴訟の領域です。

    Q. 測量しないと売れませんか。

    A. 測量を義務づけた条文は見つかりませんでした。重要事項説明の法定事項にも境界は入っていません(宅建業法35条1項)。ただし買う側から見れば境界不明の土地は買いにくいので、実務では求められます。法律の義務と、取引上の要請を分けて考えてください。

    Q. 隣が空き家で連絡がつきません。

    A. 令和4年の法務省通知により、現地復元性のある図面があれば筆界確認情報を原則求めないことになりました。まず法務局で図面の種類を確認してください。また越境した枝については、所在を知ることができないときは民法233条3項2号により自分で切り取れます。

    Q. 筆界特定はどれくらいかかりますか。

    A. 法務局によって違います。東京法務局は9か月、徳島地方法務局は6か月と公表しています。法務省本省は処理期間を公表していません。管轄の局のページを確認してください。

    まとめ

    • 筆界(不動産登記法123条)と所有権の境界は別物。法自身が132条1項5号で切り分けている
    • 筆界特定は確定判決に負ける(148条)。確定させる制度ではない
    • 手数料は安い(4,000万円で8,000円)が、測量費は別。東京法務局の目安は50万〜80万円
    • 標準処理期間は局によって違う(東京9か月・徳島6か月)
    • 公図は「現地を復元するほどの精度と正確性は有していません」(法務省)
    • 地籍調査の全国進捗率は53%で3年間横ばい。市町村の約2割が未着手か休止中
    • 売買に測量を義務づけた条文はなく、重要事項説明の法定事項にも境界は入っていない
    • 隣が所在不明でも、現地復元性のある図面があれば立会いは原則不要(令和4年 民二第536号)

    この記事で確認できなかったこと

    • 14条地図の整備率の、時点つきの公表値。国土交通省の記述は「全体の半数程度」で、そのページに基準時点の記載がありませんでした。この記事で割合を断定していないのはそのためです
    • 裁判所による筆界確定訴訟の解説ページ。裁判所のサイト内を探しましたが、この訴訟類型を一般向けに説明したページに到達できませんでした
    • 手数料算定の「法務省令で定める方法・割合」を定める規則の条番号。法務局のPDFで運用(固定資産課税台帳の価格を基礎とし、割合は5%)を確認したにとどまります
    • 宅地建物取引業法施行規則16条の4の3の条文本体。35条1項14号を受けた省令事項に境界がないことの最終確認はできていません。国土交通省の制度概要資料の説明事項一覧には境界の項目がありませんでした
    • 不動産登記令別表八項(分筆の登記)の条文本体。地積測量図が必要であることは法務省通知で裏が取れていますが、令の別表の文言は確認していません
    • 地籍調査状況マップの実際の表示粒度。市区町村単位と説明されていますが、地番単位で調べられるかは確認していません
    • 「地籍調査対象地域」と「優先実施地域」の定義の違い
    • 全国50局分の標準処理期間。局ごとの個別ページで公表される形式のため、網羅していません
    • 判例は一切確認していません。筆界確定訴訟が形式的形成訴訟であることなどは判例の領域で、この記事は条文と官公庁資料に書かれていることだけを書いています

    当サイトには監修者がいません。ここに書いたのは条文と公的資料の内容であって、あなたの土地に当てはめた判断ではありません。まず法務局で地図証明書と地積測量図の有無を確かめ、そのうえで土地家屋調査士に相談してください。

    あわせて読みたい

    越境した枝は、切れるようになりました——2023年4月の民法233条改正。相続登記のされていない空き家は「所有者が分からない」に当たり得ます。

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    相続した実家を、壊すのも売るのも決めきれない。とりあえず誰かに貸して、家賃で固定資産税をまかなえないか——。

    その判断の前に、1つだけ先に知っておくべき条文があります。

    一度でも人に貸すと、空き家の3,000万円特別控除は使えなくなります。しかも、貸すのをやめても戻りません。

    この記事は、借地借家法・民法・地方税法・租税特別措置法の条文と、国土交通省・国税庁の公表資料だけで確認したものです。確認できなかったことは、最後にそのまま書いています。

    最終更新:2026年8月19日

    結論だけ先に

    • 貸すと3,000万円控除が消えます。措置法35条3項の1号イ・2号イ・2号ロ・3号のすべてに「相続の時から譲渡の時まで事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないこと」という要件が入っています。「供されていたことがない」という完了否定なので、途中でやめても復活しません。条文に例外はありません。
    • 普通借家で貸すと、簡単には返してもらえません。更新を拒むには正当の事由が要り(借地借家法28条)、これに反して賃借人に不利な特約は無効です(30条)。
    • 定期借家なら期間で終われます。ただし書面で契約し、あらかじめ書面を交付して説明することが条件(38条1項・3項)。説明を怠ると「更新がない」という定めだけが無効になり、普通借家になります(38条5項)。
    • 立退料は、条文では「考慮要素の1つ」です。28条が拾っているのは「財産上の給付をする旨の申出」であって、払えば必ず明け渡させられるとは書かれていません。
    • 住宅用地の特例は、貸家でも維持されます。地方税法349条の3の2の要件は「専ら人の居住の用に供する家屋」の敷地であることで、所有者自身が住んでいることは条文に書かれていません。

    根拠と条番号は本文にあります。条文はすべてe-Gov法令検索で本文を確認しました。

    ★ 先に税金の話をします。ここで結論が決まることがあるからです

    空き家の3,000万円特別控除(租税特別措置法35条3項)は、相続した実家を売るときの最大の特例です。そして、この特例には「貸したら終わり」という要件が入っています。

    条文の該当部分を、そのまま引きます。

    当該相続の時から当該譲渡の時まで事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないこと。

    出典:租税特別措置法35条3項1号イ(e-Gov法令検索で本文を確認/2026年8月19日)

    この文言は、1号イだけではありません。

    • 1号イ——家屋と敷地を一緒に売る場合
    • 2号イ——取り壊す場合の、相続から取壊しまでの期間
    • 2号ロ——同じく、相続から譲渡までの期間
    • 3号——買主が耐震改修または取壊しをする場合(括弧書きの中に同じ要件)

    3つの譲渡パターンすべてに入っています。逃げ道がありません。

    国税庁のタックスアンサーNo.3306も、適用要件として「相続の時から譲渡の時まで事業の用、貸付けの用または居住の用に供されていたことがないこと」を挙げています。

    「途中でやめれば戻る」ではありません

    条文をもう一度読んでください。「供されていたことがない」です。

    「譲渡の時点で貸していないこと」ではありません。相続してから売るまでの全期間を通じて、一度も貸していないことを求めています。2年貸して、やめて、空き家に戻して、それから売っても、この特例は使えません。

    つまり「とりあえず数年貸してみて、ダメなら売る」という発想は、この特例に関するかぎり成立しません。

    3,000万円控除がいくらの差になるかは、当サイトの判定ツールで計算できます。空き家の3,000万円特別控除に制度の全体像をまとめています。

    なお、この特例には相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までという期限もあり、取得費加算の特例(39条)とは併用できません。適用対象期間は令和9年12月31日までの譲渡です。

    ただし、住宅用地の特例は貸家でも維持されます

    逆に、税金で有利になる面もあります。

    地方税法349条の3の2は、住宅用地の課税標準を価格の3分の1(200平方メートル以下の部分は6分の1)に軽減しています。この要件は「専ら人の居住の用に供する家屋」の敷地であることで、所有者自身が住んでいることを求める文言は条文にありません。

    そして同項の括弧書きが、勧告を受けた管理不全空家等・特定空家等の敷地を、住宅用地から除いています。

    空き家のまま放置して勧告を受ければ特例が外れ、人に貸して居住の用に供されていれば貸家でも特例は残る。条文の構造はそうなっています。特定空家については特定空家に指定されるとどうなるにまとめました。

    普通借家で貸すと、返してもらうのが難しくなります

    「いずれ子どもが住むかもしれない」「数年したら売るかもしれない」——そう思っているなら、契約の型を間違えると詰みます。

    更新は、黙っていると自動で起きます

    借地借家法26条1項は、期間の定めがある建物賃貸借について、当事者が期間満了の1年前から6か月前までの間に更新しない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で更新したものとみなすとしています。

    そして同項ただし書が重要です。「その期間は、定めがないものとする」。法定更新されると、期間の定めがない契約になります。

    期間の定めがない契約を賃貸人から終わらせるには、27条により解約の申入れの日から6か月かかります。

    そして、断るには「正当の事由」が要ります

    28条は、更新拒絶や解約申入れに正当の事由を要求しています。条文が挙げている考慮要素は4つです。

    1. 賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情
    2. 賃貸借に関する従前の経過
    3. 建物の利用状況及び現況
    4. 賃貸人が明渡しの条件として、または明渡しと引換えに財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出

    いわゆる立退料は、4番目に出てきます。条文は「使用を必要とする事情のほか」と書いて1番目を先頭に置き、立退料はそれに付け加えて考慮される要素として並べています。

    しかも条文が拾っているのは「申出をした場合におけるその申出」です。払った金額ではなく、申し出たという事実が考慮要素になっています。

    「立退料を積めば必ず出ていってもらえる」とは、条文からは読めません。金額の相場も算定式も、条文には一切ありません。

    そして30条が、「この節の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効とする」としています。契約書に「更新しない」「正当事由は不要」と書いても無効です。

    貸すか売るかで迷っているなら、先に売った場合の金額を1つ知っておくと比較になります。査定は無料で、出したあとに断っても費用はかかりません。家賃収入の見込みと、いま売った場合の手取りを並べてから決めてください。

    先に場所を確認してください。不動産SHOPナカジツが受け付けられるのは愛知・岐阜・静岡・千葉・埼玉・福岡・熊本とその周辺だけです(全40店舗のうち39店舗がこの7県。同社の店舗一覧で確認/2026年8月19日)。それ以外の道府県にある実家は、申し込んでも査定は返ってきません。対象外の方は、ラクウルの買取査定のほうをご覧ください。

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    愛知・岐阜・静岡・千葉・埼玉・福岡・熊本の実家なら、もう1社あります

    不動産SHOPナカジツは、40店舗すべてを直営で運営している会社です。そのうち39店舗が、上の表の7県にあります(残る1店舗は東京都小平市ですが、査定の受付エリアに東京は入っていません)。ノムコムが対応していない岐阜・静岡・福岡・熊本と、名古屋市以外の愛知県は、こちらなら受け付けられます。仲介・買取・買取保証付き仲介・任意売却・リースバックの5つの売り方を自社で扱っているので、「囲い込まれても困らない売り方があるか」を、契約の前に1社の中で聞けます。

    申し込む前に、4つだけ確認してください。①対応しているのは上の表の市区町村とその周辺だけです。県が合っていても、店舗から遠い地域は受け付けられないことがあります。②申し込むと30日以内に電話またはメールで連絡が入り、物件の状況を聞かれます。所在地・築年数・間取りを答えられるようにしておくと早く終わります。③申し込めるのは名義人か、そのご親族だけです。相続した実家なら、相続人であるあなたが申し込めます。名義人と関係のない方からの問い合わせは受け付けられません。④売却を考えていない相談は対象外です。迷っている段階なら「まだ決めていませんが、金額を知りたい」と伝えてください。

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    査定を出したあとは、媒介契約の種類を決める段階です。この記事で書いたレインズの登録証明書の確認と、仲介と買取の違いを、契約書に判を押す前に済ませておいてください。

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    定期借家なら、期間で終われます

    だからこそ、借地借家法38条が用意されています。

    条件は「書面」と「あらかじめの説明」

    38条1項は、「公正証書による等書面によって契約をするときに限り」、30条にかかわらず更新がないこととする旨を定められるとしています。2項により、電磁的記録でも書面とみなされます。

    そして3項が、あらかじめ賃借人に対して、更新がなく期間満了で終了することをその旨を記載した書面を交付して説明しなければならないとしています。

    ★ 説明を忘れると、普通借家になります

    建物の賃貸人が第三項の規定による説明をしなかったときは、契約の更新がないこととする旨の定めは、無効とする。

    出典:借地借家法38条5項

    無効になるのは契約全体ではなく、「更新がない」という定めだけです。つまり契約は生き残ったまま、普通借家に変わります。期間で終われるはずだった契約が、正当事由がないと終われない契約になる、ということです。

    なお、この説明の書面が契約書とは別個の書面でなければならないかどうかは、38条3項の文言だけからは読み取れませんでした。条文は「あらかじめ」「その旨を記載した書面を交付して」としか書いていません。

    定期借家にしかできないこと

    • 1年未満でも設定できます。29条1項は「期間を一年未満とする建物の賃貸借は、期間の定めがない建物の賃貸借とみなす」としていますが、38条1項後段が「第二十九条第一項の規定を適用しない」と明記しています。
    • 賃料を据え置く特約が機能しえます。38条9項が「第三十二条の規定は、…借賃の改定に係る特約がある場合には、適用しない」としているためです。

    定期借家でも、借りる側から解約できる場合があります

    38条7項は、居住用建物で床面積200平方メートル未満のものに限り、転勤・療養・親族の介護その他のやむを得ない事情により賃借人が生活の本拠として使用することが困難になったときは、賃借人が解約を申し入れられるとしています。申入れの日から1か月で終了します。

    そして8項により、この権利を特約で奪うことはできません。賃借人に不利な特約は無効です。

    オーナー側から中途解約できる規定は、38条にはありません。

    賃料は、あとから下げられることがあります

    借地借家法32条1項は、租税負担の増減・不動産価格の変動・近傍同種の借賃との比較で借賃が不相当になったとき、「契約の条件にかかわらず」当事者が増減を請求できるとしています。

    ただし書はこうです。

    ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。

    条文が拾っているのは「増額しない特約」だけです。「減額しない特約」はただし書に書かれていません。

    これが「普通借家では賃料を下げない約束が効きにくい」と言われる条文上の根拠です。ただし「減額しない特約が無効だ」と条文が書いているわけではありません。ただし書に書かれていないことからの反対解釈です。

    そして前述のとおり、定期借家で借賃の改定に係る特約を置けば、32条そのものが適用されません(38条9項)。

    敷金と原状回復

    敷金は、明渡しを受けてから返します

    民法622条の2は、敷金を「いかなる名目によるかを問わず」担保目的で交付される金銭と定義しています。「保証金」と書いても、実質が担保なら敷金です。

    返す時期は1項1号にこうあります。「賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき」。「かつ」です。契約が終わっただけでは足りず、明渡しを受けてからになります。

    返す額は「受け取った敷金の額から…債務の額を控除した残額」。当然に差し引いた残りを返す構造です。

    2項は、賃貸人が敷金を弁済に充てることができるとしたうえで、賃借人の側から「敷金から差し引いてくれ」とは請求できないとしています。

    返還までの日数は、条文にありません。

    通常損耗と経年変化は、条文で明示的に除かれています

    賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。…)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。

    出典:民法621条

    括弧書きで、通常損耗と経年変化が「損傷」の定義から外されています。2020年4月施行の改正で明文化されました。さらにただし書により、賃借人の責めに帰することができない事由による損傷も義務の対象外です。

    国交省のガイドラインは、法令ではありません

    「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」(国土交通省住宅局)は、本文に「法的な拘束力を持つものでもない」と明記されています。指針です。

    最新は平成23年8月の再改訂版で、それ以降ガイドライン本体は改訂されていません。令和5年3月に「参考資料」が公表されていますが、これは本体の改訂ではありません。

    ガイドラインの原状回復の定義は、こうです。

    原状回復とは、賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること

    「借りた当時の状態に戻すこと」ではない、と定義されています。次の入居者確保のための設備交換や化粧直しは、経年変化・通常使用による損耗の修繕であり賃貸人が負担すべきとされ、その費用は賃料に含まれるという考え方が示されています。

    修繕義務はオーナー側。放置すると借主が直せます

    民法606条1項は「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う」としています(賃借人の責めに帰すべき事由による場合を除く)。

    そして607条の2が、賃貸人に通知したのに相当の期間内に修繕しないとき、または急迫の事情があるときは、賃借人が自分で修繕できるとしています。

    遠方の実家を貸すなら、ここが現実的な問題になります。連絡がつかないまま放置すると、借主が自分で直す道が条文上用意されています。

    サブリース(一括借上げ)の「家賃保証」

    「30年家賃保証」という提案を受けることがあります。法律の建て付け自体が、その家賃は下がりうることを前提にしています。

    根拠法は賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(令和2年法律第60号)。サブリース規制の部分は令和2年12月15日から施行されています。

    この法律は、特定転貸事業者等に対して次を課しています。

    内容 条文 違反したときの罰則
    誇大広告等の禁止 28条 30万円以下の罰金(44条)
    不当な勧誘等の禁止 29条 6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金(42条)
    締結前の書面交付・説明 30条 50万円以下の罰金(43条)

    説明すべき事項は国土交通省令に委任されていて、施行規則45条に14号あります。3号が「家賃の額、支払期日及び支払方法等の賃貸の条件並びにその変更に関する事項」、14号が「借地借家法その他の法令の概要」です。

    そして国土交通省の「解釈・運用の考え方」の30条関係に、こう書かれています。

    また、契約において、家賃改定日が定められていても、その日以外でも、…借地借家法に基づく減額請求が可能であることについて記載し、説明すること。

    国が、業者に対して「家賃は減額されうる」と説明させています。国土交通省のポータルにも、将来の家賃減額リスク、サブリース業者から契約解除される可能性、オーナーからの解約には正当事由が必要であることを説明すべき旨が示されています。

    「保証」という言葉と、法律の建て付けが食い違っています。提案を受けたら、重要事項説明書のこの部分を必ず読んでください。

    土地活用の一括請求については土地活用プラン一括請求サービス比較と土地活用の一括請求と営業電話にまとめています。

    家賃収入の税金

    家賃は不動産所得です(国税庁タックスアンサーNo.1370)。必要経費は「不動産収入を得るために直接必要な費用のうち家事上の経費と明確に区分できるもの」とされ、主な例として固定資産税・損害保険料・減価償却費・修繕費が挙げられています。

    このページに挙げられているのは以上の4つだけです。管理委託料や借入金利子などは、このページの列挙には含まれていません。

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    貸したときに手元に残る額を、提案書の数字で見る

    経費に落とせる範囲が限られる以上、家賃がいくらかではなく、手元にいくら残るかで判断することになります。複数社の提案書を並べると、その差が数字で出ます。

    ①一括で複数社に依頼する形です。1社だけ選ぶと提案書は届きません。成果条件がそう決められています。
    ②地域や物件の条件によっては、提案できる会社が見つからないことがあります。その場合は提案書が届きません。
    ③届くのは「提案書」であって、売れる価格でも確定した金額でもありません。
    ④申し込むと、各社から連絡が入ります。連絡の受け方を先に決めておいてください。
    ⑤すでに方針が決まっているなら、請求しなくてかまいません。迷っている段階の材料です。

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    壊す場合の費用は実家の解体費用と全国の解体補助金一覧で、税金の側は空き家の3,000万円特別控除で確認できます。持ち続ける場合の年額は空き家の維持費にまとめました。

    やってはいけないこと

    • 「とりあえず貸してみる」。3,000万円控除は一度貸すと戻りません。売る可能性が少しでもあるなら、先に売却の見込みを確かめてください
    • 普通借家で貸して、数年後に返してもらうつもりでいる。更新拒絶には正当の事由が要ります(28条)
    • 定期借家の事前説明を省く。「更新がない」という定めだけが無効になり、普通借家になります(38条5項)
    • 「30年家賃保証」を保証だと思う。法律は減額されうることを前提にしています
    • 敷金を契約終了時に返す。条文は「賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき」です(民法622条の2)
    • 通常損耗を借主に請求する。民法621条が括弧書きで明示的に除いています

    動く順番

    1. 売る可能性があるかを先に決める。あるなら、貸す前に査定を取る。3,000万円控除は貸した時点で消えます
    2. 貸すと決めたら、契約の型を選ぶ。いずれ返してほしいなら定期借家。書面と事前説明が必須です
    3. 修繕の連絡体制を作る。放置すると借主が自分で修繕できます(民法607条の2)
    4. 原状回復の考え方を契約前に共有する。国交省のガイドラインは指針ですが、負担区分の共通言語になります
    5. サブリースの提案を受けたら、重要事項説明書の家賃改定の項を読む

    よくある質問

    Q. 2年だけ貸して、そのあと空き家に戻してから売れば、3,000万円控除は使えますか。

    A. 使えません。条文は「相続の時から譲渡の時まで…貸付けの用に供されていたことがないこと」という完了否定です。途中でやめても戻りません。条文に例外規定はありません。

    Q. 親族にタダで住まわせるのも「貸付け」になりますか。

    A. 条文からは読み取れませんでした。35条3項の文言は「事業の用、貸付けの用又は居住の用」で、無償使用が「貸付けの用」に含まれるかは書かれていません。なお「居住の用」も要件から外れる事由に並んでいる点に注意してください。税務署に確認してください。

    Q. 定期借家なら、いつでも出ていってもらえますか。

    A. 期間満了で終われます。ただし期間1年以上の場合は、満了の1年前から6か月前までに終了通知が必要です(38条6項)。オーナー側から中途解約する規定は38条にありません。

    Q. 貸したら固定資産税は上がりますか。

    A. 住宅用地の特例は貸家でも維持されます。地方税法349条の3の2の要件に、所有者自身が住んでいることは書かれていません。むしろ空き家のまま勧告を受けると特例から外れます。

    まとめ

    • 一度貸すと、空き家の3,000万円特別控除は戻らない(措置法35条3項1号イ・2号イ・2号ロ・3号)
    • 普通借家は正当の事由がないと終われない(28条)。特約で外せない(30条)
    • 定期借家は書面+事前説明が条件。説明を欠くと普通借家になる(38条5項)
    • 立退料は条文上考慮要素の1つ。しかも拾っているのは「申出」
    • 32条ただし書が拾うのは増額しない特約だけ。定期借家+改定特約なら32条自体が不適用(38条9項)
    • 敷金は明渡しを受けてから(民法622条の2)。通常損耗・経年変化は条文で除外(621条)
    • サブリースは、国が業者に「減額請求が可能」と説明させている
    • 住宅用地の特例は貸家でも維持される(地方税法349条の3の2)

    この記事で確認できなかったこと

    • 定期借家の事前説明が「契約書とは別個の書面」でなければならないか。38条3項の文言からは読み取れませんでした
    • 「貸付けの用」に無償使用が含まれるか。措置法35条3項の文言には書かれていません。解釈通達は確認していません
    • 短期・一時的な賃貸に例外があるか。条文には例外規定がない、というところまでが確認できたことです
    • 「減額しない特約」が無効であること。32条1項ただし書が「増額しない特約」だけを挙げていることからの反対解釈で、無効と書いた条文はありません
    • 「借賃の改定に係る特約」(38条9項)がどの程度具体的であれば適用除外になるか
    • 通常損耗補修特約の有効性の限界。民法621条は任意規定ですが、その限界は条文外です
    • 原状回復ガイドラインの経過年数による負担割合の数値表。本文PDFの該当箇所は確認していません
    • 住宅用地の特例における空室期間の扱い。「政令で定めるもの」に委任されており、募集中の空室が「居住の用に供されている」といえるかは法律の条文からは読めません
    • 不動産所得の必要経費のうち、管理委託料・借入金利子などの扱い。タックスアンサーNo.1370の列挙には含まれていません
    • 賃貸住宅管理業の登録制度部分の施行日。サブリース規制部分(令和2年12月15日)は確認できましたが、登録制度側は国土交通省のページから確認できませんでした
    • 判例は一切確認していません。正当事由と立退料の関係、通常損耗補修特約、敷引特約はいずれも判例の領域です。この記事は条文に書かれていることだけを書いています

    当サイトには監修者がいません。ここに書いたのは条文と公的資料の内容であって、あなたの実家に当てはめた判断ではありません。とくに3,000万円控除の判断は税額が大きく動きます。貸す契約を結ぶ前に、必ず税務署か税理士に確認してください。

    あわせて読みたい

  • 実家と一緒に畑や山も相続した|農地は農業委員会へ、山林は市町村長へ。期限が違います

    実家を相続したら、畑と山も付いてきた。名寄帳を取り寄せたら、知らない地番が10筆並んでいた。

    これは地方の実家では普通に起きます。そして農地と山林には、宅地にはない「届出の義務」があります。しかも届出先も期限も、農地と山林で別々です。

    この記事は、農地法・森林法とそれぞれの省令、農林水産省・林野庁・国税庁・法務省の公表資料だけで確認したものです。とくに「10か月」という数字については、他所の説明と食い違うことを先に書いておきます。

    最終更新:2026年8月19日

    結論だけ先に

    • 農地は農業委員会へ、山林は市町村長へ。届出先が違います。農地は農地法3条の3、山林は森林法10条の7の2です。
    • 山林は90日以内。これは省令に書いてあります(森林法施行規則7条1項)。農地の「10か月」は法律の期限ではありません。農地法3条の3の条文は「遅滞なく」としか書いておらず、10か月は農林水産省の処理基準とリーフレットによる運用上の目安です。
    • どちらも、怠ると10万円以下の過料です(農地法69条・森林法213条)。過料であって罰金ではありません。前科にはなりません。
    • ただし無許可の転用は桁が違います。農地を無許可で農地以外にすると3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金(農地法64条)。法人なら1億円以下の罰金(同67条)。
    • 許可を受けずにした権利移動は「その効力を生じない」(農地法3条6項)。契約書があっても所有権が移りません。

    根拠と条番号は本文にあります。条文はすべてe-Gov法令検索で本文を確認しました。

    まず、何を相続したのかを確定させる

    市区町村で名寄帳(固定資産課税台帳)を取ると、その市区町村内にある不動産が地目つきで一覧になります。「田」「畑」「山林」「原野」が並んでいたら、この記事の話です。

    山林については、もう1つ確認することがあります。その山が「地域森林計画の対象となっている民有林」かどうかです。森林法10条の7の2の届出義務は、この森林だけが対象だからです。市町村の林務担当課で確認できます。

    農地:届出先は農業委員会。期限は「遅滞なく」

    条文はこう書いています

    農地又は採草放牧地について第三条第一項本文に掲げる権利を取得した者は、…遅滞なく、農林水産省令で定めるところにより、その農地又は採草放牧地の存する市町村の農業委員会にその旨を届け出なければならない。

    出典:農地法3条の3(e-Gov法令検索で本文を確認/2026年8月19日)

    ★「10か月」は法律の期限ではありません

    この届出について、「相続を知った日から10か月以内」と説明されることがあります。ですが、農地法にも農地法施行規則にも、10か月という数字はありません。

    条文は「遅滞なく」です。委任先の農地法施行規則19条を開いても、書いてあるのは届出書に記載する5項目だけで、期間の定めはありませんでした。

    では10か月はどこから来ているのか。農林水産省の「農地法関係事務に係る処理基準」です。ここに「遅滞なく」とは「農地等についての権利を取得したことを知った時点からおおむね10か月以内の期間」という趣旨の記載があります。農林水産省のリーフレット「農地を相続したときは…」にも「相続発生日からおおむね10か月以内に届出が必要です」と書かれています。

    つまり、法律の期限ではなく行政の運用基準です。だからといって守らなくていいわけではありません。ただ「農地法で10か月と定められている」という説明は、条文と違います。

    相続に許可は要りません。でも届出は要ります

    農地の権利を移すには、通常農業委員会の許可が必要です(農地法3条1項)。相続の場合はこの許可が要りません。

    ここも正確に書きます。「相続は許可不要」と書いた号は、農地法3条1項の中にありません。号として書かれているのは遺産分割(12号)などです。単純な相続については、3条1項本文が対象にしている「設定し、又は移転する」(当事者の法律行為)に当たらないから許可が要らない、という読み方になります。

    そして3条の3の届出は、その除外から12号が外されています。条文が「同項各号(第十二号及び第十六号を除く。)のいずれかに該当する場合…を除き」と書いているためです。遺産分割で取得した場合も、届出は必要です。

    農林水産省の処理基準は、届出の対象になる権利取得を「相続(遺産分割、包括遺贈及び相続人に対する特定遺贈を含む。)、法人の合併・分割、時効等による権利取得」と説明しています。

    怠ると10万円以下の過料

    第三条の三の規定に違反して、届出をせず、又は虚偽の届出をした者は、十万円以下の過料に処する。

    出典:農地法69条

    過料です。罰金でも科料でもありません。行政上の秩序罰なので前科にはなりませんが、金額としては10万円以下です。

    ★19ある「許可が要らない場合」のどこにも、「相続」は書かれていません

    相続で畑を受け取るのに、農業委員会の許可は要りません。では、どこにそう書いてあるのでしょうか。

    農地法3条1項には「許可が要らない場合」が19通り並んでいます(十六号まで、枝番が3つ=九の二・十四の二・十四の三)。そのどこにも「相続」という言葉はありません。

    根拠は、号ではなく、もっと手前にありました。

    農地法第三条第一項(農地又は採草放牧地の権利移動の制限)
    農地又は採草放牧地について所有権を移転し、又は地上権、永小作権、質権、使用貸借による権利、賃借権若しくはその他の使用及び収益を目的とする権利を設定し、若しくは移転する場合には、政令で定めるところにより、当事者が農業委員会の許可を受けなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合及び第五条第一項本文に規定する場合は、この限りでない。

    出典:e-Gov法令検索 農地法第3条第1項(一号から十六号まで、枝番を含む19の号すべてを開いて確認/2026年9月3日)

    本文が「当事者が」と書いています

    「移転し」「設定し、若しくは移転する場合には」「当事者が」。この条が許可を求めているのは、当事者が権利を移転したり設定したりする場合です。人が亡くなって法律上当然に承継される相続は、この枠に入らないという扱いで運用されています(農林水産省の処理基準・リーフレット)。だから、号による除外を待たずに許可が要りません。

    ただし、条文の並びだけで割り切れる話ではありません。11号は「土地収用法その他の法律によつて……収用され、又は使用される場合」で、収用も当事者が進んでするものではないのに、わざわざ号で除いてあります。「当事者の行為でなければ本文に入らない」という理屈だけでは、11号の存在が説明できません。号の有無だけで割り切れる作りではない、ということです。

    号のほうを見ると、これがはっきりします。19の号のうち、相続に近いのは12号です。

    同第十二号
    遺産の分割、民法第七百六十八条第二項……の規定による財産の分与に関する裁判若しくは調停又は同法第九百五十八条の二の規定による相続財産の分与に関する裁判によつてこれらの権利が設定され、又は移転される場合

    出典:e-Gov法令検索 農地法第3条第1項第12号(全文を開いて確認/2026年9月3日)

    12号は「遺産の分割」です。単純な相続ではありません。遺産分割は相続人どうしの合意や裁判で決めるものなので、号を置いて除いてあります。単純な相続には、その号がありません。そう読める並びになっています。

    ★12号で取得したときも、届出は要ります

    ここに落とし穴があります。3条の3の条文を、括弧書きまで読んでください。

    農地法第三条の三(農地又は採草放牧地についての権利取得の届出)
    農地又は採草放牧地について第三条第一項本文に掲げる権利を取得した者は、同項の許可を受けてこれらの権利を取得した場合、同項各号(第十二号及び第十六号を除く。)のいずれかに該当する場合その他農林水産省令で定める場合を除き、遅滞なく、農林水産省令で定めるところにより、その農地又は採草放牧地の存する市町村の農業委員会にその旨を届け出なければならない。

    出典:e-Gov法令検索 農地法第3条の3(全文を開いて確認/2026年9月3日)

    「同項各号のいずれかに該当する場合」は届出が要らない。ただし括弧書きで12号と16号が外されています。つまり遺産分割で農地を取得した場合は、届出の対象です。

    相続でも、遺産分割でも、農業委員会への届出は要ります。単純な相続は3条1項各号のどれにも当たらないので除外にならず、遺産分割は12号に当たるけれど括弧書きで外されている。入口が違うだけで、行き先は同じです。

    なお3条の3には「その他農林水産省令で定める場合を除き」ともあります。その省令は農地法施行規則18条で、法5条1項本文に規定する場合や特定農地貸付けなどが並んでいます。相続と遺産分割は、ここには入りません。

    入口は2つ、行き先は1つです 相続 遺産分割 届出 農業委員会 許可は要りません。届出だけです

    入口を19通り探して、行き先は1つでした。許可は要らない。届出は要る。宛先は農業委員会です。では、山林のほうは何が違うのか。期限も、宛先も、罰則も違います。並べて見ます。

    山林:届出先は市町村長。期限は90日

    地域森林計画の対象となつている民有林について、新たに当該森林の土地の所有者となつた者は、農林水産省令で定める手続に従い、市町村の長にその旨を届け出なければならない。

    出典:森林法10条の7の2第1項

    そして期限は、農地と違って省令に明記されています。

    …新たに当該森林の土地の所有者となつた日から九十日以内に届出書を市町村の長に提出してしなければならない。

    出典:森林法施行規則7条1項

    添付書類も同条2項に書かれていて、土地の位置を示す地図と登記事項証明書その他の届出の原因を証明する書面です。

    条文は「新たに当該森林の土地の所有者となつた者」としか書いておらず、取得の原因を限定していません。林野庁の「森林の土地の所有者届出制度 市町村事務処理マニュアル」も、売買・相続・贈与・遺贈・交換・法人の分割や合併など、移転の事由を問わないとしており、相続の場合の起算日は相続開始の日(被相続人の死亡の日)としています。

    怠ったときは、森林法213条により10万円以下の過料です。農地と同じ金額・同じ性質です。

    ただし、林野庁の届出制度のページには罰則の記載がありません。罰則は森林法213条を直接見る必要があります。

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    届出が済んでも、母屋の始末は別に残ります

    農地と山林の届出は、土地の話です。同じ相続で受け取った家屋は、この届出とは関係なく残り続けます。家のほうに値が付くかどうかは、別に調べる必要があります。

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    2つの届出を並べると

    農地 山林
    根拠 農地法3条の3 森林法10条の7の2
    届出先 市町村の農業委員会 市町村長
    期限 条文は「遅滞なく」(運用上おおむね10か月) 90日以内(施行規則7条1項)
    起算点 権利取得を知った時点(処理基準) 所有者となった日(=相続開始の日)
    対象 農地・採草放牧地 地域森林計画の対象となっている民有林
    罰則 10万円以下の過料(69条) 10万円以下の過料(213条)

    役所の窓口が違うので、片方だけ済ませて終わったつもりになりやすいところです。

    ★届出書に何を書くのか、何を添えるのか

    表の6項目は「どこへ、いつまでに」でした。実際に窓口へ持っていくものは、それぞれの省令に書いてあります。

    届出は2つ。宛先が違います 農地 農業委員会へ 山林 市町村長へ 同じ相続でも、宛先は別々です

    農地法施行規則第十九条(農地又は採草放牧地についての権利取得の届出の方法)
    法第三条の三の届出は、次に掲げる事項を記載した書面を提出してしなければならない。
    一 権利を取得した者の氏名及び住所(法人にあつては、その名称及び主たる事務所の所在地並びに代表者の氏名)
    二 権利を取得した農地又は採草放牧地の所在、地番及び面積
    三 権利を取得した事由及び権利を取得した日
    四 取得した権利の種類及び内容
    五 所有権を取得した場合には、所有権を取得した者の国籍等(法人にあつては、その設立に当たつて準拠した法令を制定した国)

    出典:e-Gov法令検索 農地法施行規則第19条(全文を開いて確認/2026年9月3日)

    5項目です。添付書類の定めは、この条にはありません。2号の「所在、地番及び面積」は登記簿か固定資産税の課税明細書を見れば分かります。3号の「事由」は「相続」、「日」は被相続人が亡くなった日です。

    5号だけ、性質が違います。取得した人の国籍を書かせる号で、法人なら設立の準拠法の国です。相続でも所有権を取得すれば書きます。

    山林のほうは、省令に添える書類の定めが置かれています。

    森林法施行規則第七条(森林の土地の所有者となつた旨の届出等)
    1 法第十条の七の二第一項本文の規定による届出は、地域森林計画の対象となつている民有林について新たに当該森林の土地の所有者となつた日から九十日以内に届出書を市町村の長に提出してしなければならない。
    2 前項の届出書には、次に掲げる書類を添えなければならない。
    一 当該土地の位置を示す地図
    二 当該土地の登記事項証明書その他の届出の原因を証明する書面
    3 法第十条の七の二第二項の規定による通知は、届出のあつた日から三十日以内に第一項の届出書の写しを添えてするものとする。

    出典:e-Gov法令検索 森林法施行規則第7条(全文を開いて確認/2026年9月3日)

    2項が添付書類です。地図と、登記事項証明書。90日は、思っているより短いです。四十九日と納骨が済んでひと息ついたころには、半分が過ぎています。登記事項証明書は法務局に頼むもの、地図も自分で用意するもので、どちらも1日では出てきません。山林が何筆あるかを名寄帳で数えるのは後でいいので、この2つだけ先に動かしてください。

    3項は、届出を受けた市町村長が都道府県知事に写しを送る話です。保安林や保安施設地区のときに動きます(法10条の7の2第2項)。自分がする手続ではありませんが、届出がそこで止まらないことは知っておいてよいと思います。

    ★山林の届出が要らない場合があります。ただし相続では使えません

    さきほどの森林法10条の7の2第1項には、続きがあります。

    森林法第十条の七の二第一項(森林の土地の所有者となつた旨の届出等)
    地域森林計画の対象となつている民有林について、新たに当該森林の土地の所有者となつた者は、農林水産省令で定める手続に従い、市町村の長にその旨を届け出なければならない。ただし、国土利用計画法第二十三条第一項の規定による届出をしたときは、この限りでない。

    出典:e-Gov法令検索 森林法第10条の7の2(全文を開いて確認/2026年9月3日)

    ただし書があります。国土利用計画法23条1項の届出をしたときは、森林法の届出は要りません。その23条1項も開きました。

    国土利用計画法第二十三条第一項(土地に関する権利の移転又は設定後における利用目的等の届出)
    土地売買等の契約を締結した場合には、当事者のうち当該土地売買等の契約により土地に関する権利の移転又は設定を受けることとなる者は、その契約を締結した日から起算して二週間以内に、次に掲げる事項を……都道府県知事に届け出なければならない。

    出典:e-Gov法令検索 国土利用計画法第23条第1項(全文を開いて確認/2026年9月3日)

    「土地売買等の契約を締結した場合には」です。相続は契約ではありません。だから相続で山林を受け取った人に、このただし書は使えません。森林法の届出を、90日以内にしてください。

    買った場合の話としては、覚えておく値打ちがあります。売買で山林を取得して23条1項の届出をしたなら、森林法の届出は重ねてしなくてよい。ただし23条1項には、対象になる面積の定めがあります。売買の予定があるなら、その面積に当たるかどうかを市町村の林務担当課に確かめてください。

    届出書に書くこと・添えるもの 農地は5項目 氏名と住所 所在・地番・面積 取得の事由と日 権利の種類と内容 所有権なら国籍等 山林は2種類 位置を示す地図 登記事項証明書など 農地は規則19条、山林は規則7条2項です

    売る・貸す・転用する

    農地のまま動かすなら、農業委員会の許可

    農地法3条1項は、農地について所有権を移転したり、賃借権などを設定・移転したりする場合に農業委員会の許可を要求しています。

    そして3条6項が、こう書いています。

    第一項の許可を受けないでした行為は、その効力を生じない。

    契約書を交わしてお金を払っても、所有権が移りません。これは無効の効果であって、罰則とは別の話です。

    農地以外にするなら、都道府県知事等の許可

    農地を宅地や駐車場にするのが転用です。

    • 農地法4条1項——自分で転用する場合。都道府県知事(指定市町村の区域内では指定市町村の長)の許可
    • 農地法5条1項——転用する目的で他人に売る・貸す場合。同じく都道府県知事等の許可

    ここで罰則の桁が変わります。

    次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の拘禁刑又は三百万円以下の罰金に処する。/一 第三条第一項、第四条第一項、第五条第一項…の規定に違反した者

    出典:農地法64条

    さらに67条の両罰規定により、法人が転用違反をした場合は1億円以下の罰金です。

    届出を忘れた場合の10万円以下の過料と、無許可転用の3年以下の拘禁刑。同じ農地法の中で、この差です。

    ★市街化区域内なら、許可ではなく届出で足ります

    ここは実家じまいで効いてくる例外です。

    農地法4条1項7号は、市街化区域内にある農地を、あらかじめ農業委員会に届け出て農地以外のものにする場合を、許可が要らない場合として挙げています。5条1項6号も同じ構造です。

    「あらかじめ」です。事後の届出では要件を満たしません。

    実家のある土地が市街化区域内なら、畑を駐車場や貸地にする道が現実的に開けます。土地活用については相続した土地の使い道5つを比較と土地活用プラン一括請求サービス比較にまとめています。

    ★「小さい畑なら許可は要らない」は、自分で耕している人だけの話です

    4条1項8号にも5条1項7号にも、末尾に「その他農林水産省令で定める場合」という号が置かれています。その中身が、農地法施行規則の29条と53条です。

    農地法施行規則第二十九条(農地の転用の制限の例外)
    法第四条第一項第八号の農林水産省令で定める場合は、次に掲げる場合とする。
    一 耕作の事業を行う者がその農地をその者の耕作の事業に供する他の農地の保全若しくは利用の増進のため又はその農地(二アール未満のものに限る。)をその者の農作物の育成若しくは養畜の事業のための農業用施設に供する場合
    (以下、農林水産大臣が管理する農地の貸付け、売払い、地域計画に記載された認定農業者の農業用施設など)

    出典:e-Gov法令検索 農地法施行規則第29条(全文を開いて確認/2026年9月3日)。第2号以降は本文の要約です

    1号が、実家の農地でいちばん使われるものです。条件を分けて読みます。

    • 「耕作の事業を行う者が」——自分でその農地を耕作している人が主体です。耕作をやめている人は、ここに入りません。
    • 「二アール未満のものに限る」——200平方メートル未満。坪なら約60坪、畳なら120枚ほどです。物置や小屋なら、まず余ります。つまり、この号でつまずくのは面積ではありません。上の「自分で耕している」と、下の「農業に使う施設」の両方を満たしたうえで、この広さに収まる場合の話です。広さは、いちばん緩い条件です。
    • 「農作物の育成若しくは養畜の事業のための農業用施設」——農業に使う施設です。住宅や駐車場は入りません。
    広さは、いちばん緩い条件です 200平方メートル(約60坪) 効くのは、耕している人かどうか そして、農業に使う施設かどうかです

    5条1項7号のほうは、規則53条です。こちらは「農地を農地以外にするために権利を移す」場合の例外で、号は20あります。1号は農林水産大臣が管理する農地、4号は地域計画に記載された認定農業者の農業用施設、そのあとは土地改良事業、地方公共団体の道路・河川・水路、鉄道、空港、電気事業者の送電設備、都市再生機構——と公共インフラが並びます。実家じまいで自分が使う号はありませんでした。

    2アール未満の例外は、自分で耕作している人の農業用施設だけです。「小さいから大丈夫」ではありません。耕作をやめた農地に物置を建てるのは、この号には入りません。先に農業委員会に聞いてください。

    税金

    農地の相続税評価は4区分

    国税庁のタックスアンサーNo.4623は、農地を純農地・中間農地・市街地周辺農地・市街地農地の4つに分けています。

    • 純農地・中間農地——倍率方式(固定資産税評価額 × 国税局長が定める倍率)
    • 市街地周辺農地——市街地農地であるとした場合の価額の80%
    • 市街地農地——宅地比準方式または倍率方式

    ここで1つ、よくある誤解を正しておきます。「農地は農業投資価格で評価されるから相続税が安い」という説明がありますが、タックスアンサーNo.4623に農業投資価格は出てきません。農業投資価格が使われるのは、次に書く納税猶予の猶予税額の計算です。

    山林は純山林・中間山林・市街地山林

    国税庁の「評価倍率表(一般の土地等用)の説明」に、山林欄の記号として「純」=純山林、「中」=中間山林、「比準」または「市比準」=市街地山林が示されています。

    区分があることは国税庁の資料で確認できましたが、その根拠となる財産評価基本通達の項番号は、今回確認できませんでした。該当ページの取得を3回試みて、毎回異なる内容が返ってきたためです。通達番号を確かめたい方は、国税庁のページを直接開いてください。

    農地の納税猶予は、打ち切り事由が厳しい

    租税特別措置法70条の6の納税猶予は、農業を継ぐ相続人のための制度です。猶予が打ち切られる主な事由を、条文から挙げます。

    • 譲渡・贈与・転用、権利の設定、耕作の放棄などがあった面積が、その時点の耕作等の用に供する土地の面積の20%を超えたとき(1項1号)
    • 相続で取得した特例農地等に係る農業経営を廃止したとき(1項2号)

    該当した場合、その日から2か月を経過する日までが猶予期限になります。つまり納付です。

    免除されるのは、農業相続人が死亡した場合、一定の贈与をした場合、そして申告期限の翌日から20年を経過した場合(市街化区域内農地等に係る部分)です(39項)。

    「とりあえず猶予を使っておく」という制度ではありません。耕作を放棄した面積が20%を超えた時点で崩れます。

    遊休農地は、固定資産税が実質1.8倍になります

    農業委員会から農地中間管理機構と協議すべきことの勧告(農地法36条1項)を受けた遊休農地は、固定資産税の評価方法が変わります。

    総務省の資料に、「農地売買の特殊性を考慮し正常売買価格に乗じられている割合(0.55)を乗じないこととする」と明記されています。農林水産省の資料は、これを「結果的に1.8倍になる」と説明しています。平成29年度から実施されています。

    放置していると、税金のほうから動かされます。

    ★税金が動く前に、紙が届きます。放っておける期間は6か月です

    ただし、いきなり上がるのではありません。順番があります。

    農業委員会が畑を見に来て、「どうするつもりですか」という紙が届いて、それを半年置いたところで、税金が動きます。1.8倍はいちばん最後に起きることです。その手前の3段が、農地法に条文で書かれています。

    放置が課税に届くまでの順番 1 利用状況調査 農地法30条。農業委員会が見に来ます 2 利用意向調査 32条1項。どうするか聞かれます 3 6か月 ★返事をしないまま過ぎると 4 勧告 36条1項。機構と協議すべきこと 5 課税が変わる 地方税法附則17条の3・17条の4

    ★1つめ——農業委員会が、見に来ます(30条)

    農地法30条が、農業委員会に利用状況調査をさせています。

    農地法第三十条(利用状況調査)
    1 農業委員会は、農林水産省令で定めるところにより、毎年一回、その区域内にある農地の利用の状況についての調査(以下「利用状況調査」という。)を行わなければならない。
    2 農業委員会は、必要があると認めるときは、いつでも利用状況調査を行うことができる。

    出典:e-Gov法令検索 農地法第30条(全文を開いて確認/2026年9月3日)

    「毎年一回」「行わなければならない」です。農業委員会の側から見れば、年に1度は必ず見に来ます。2項があるので、必要と認めればいつでも来ます。その結果を受けて次が動きます。

    農地法第三十二条第一項(利用意向調査)
    農業委員会は、第三十条の規定による利用状況調査の結果、次の各号のいずれかに該当する農地があるときは、農林水産省令で定めるところにより、その農地の所有者……に対し、その農地の農業上の利用の意向についての調査(以下「利用意向調査」という。)を行うものとする。
    一 現に耕作の目的に供されておらず、かつ、引き続き耕作の目的に供されないと見込まれる農地
    二 その農業上の利用の程度がその周辺の地域における農地の利用の程度に比し著しく劣つていると認められる農地(前号に掲げる農地を除く。)

    出典:e-Gov法令検索 農地法第32条第1項(全文を開いて確認/2026年9月3日)

    1号は「作っていない、これからも作らないだろう」。2号は「作ってはいるが、周りに比べて著しく劣る」。実家の田を相続して手を付けていない状態は、1号です。

    ここで来るのが「利用意向調査」です。どうするつもりかを聞かれます。紙が届きます。

    ★2つめ——返事をしないまま6か月で、勧告の対象になります(36条1項)

    農地法第三十六条第一項(農地中間管理権の取得に関する協議の勧告)
    農業委員会は、……利用意向調査を行つた場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、これらの利用意向調査に係る農地の所有者等に対し、農地中間管理機構による農地中間管理権の取得に関し当該農地中間管理機構と協議すべきことを勧告するものとする。ただし、当該各号に該当することにつき正当の事由があるときは、この限りでない。
    一 ……その農地を耕作する意思がある旨の表明があつた場合において、その表明があつた日から起算して六月を経過した日においても、その農地の農業上の利用の増進が図られていないとき。
    二 ……所有権の移転又は……権利の設定若しくは移転を行う意思がある旨の表明があつた場合において、その表明があつた日から起算して六月を経過した……とき。
    三 当該農地の所有者等にその農地の農業上の利用を行う意思がないとき。
    四 これらの利用意向調査を行つた日から起算して六月を経過した日においても、……意思の表明がないとき。
    五 前各号に掲げるときのほか、当該農地について農業上の利用の増進が図られないことが確実であると認められるとき。

    出典:e-Gov法令検索 農地法第36条第1項(全文を開いて確認/2026年9月3日)

    4号が、いちばん多い入口です

    「利用意向調査を行つた日から起算して六月を経過した日においても、意思の表明がないとき」。紙が届いて、置いたまま半年。それだけで勧告の対象です。

    1号と2号は、答えた場合です。「耕作します」と答えても、6か月で利用が進んでいなければ対象。「売ります・貸します」と答えても、6か月で動いていなければ対象。答えれば終わり、ではありません。

    3号だけ、6か月がありません。「作る気はありません」と答えると、その時点で勧告の対象です。返事をしなかった人には半年あるのに、正直に答えた人のほうが早い。条文はそういう並びになっています。だから、答えるなら「作れません」で終わらせないことです。売りたいのか、貸してもいいのか、決まっていないのか。そこまで書いて出してください。

    「勧告するものとする」です。「できる」ではありません。該当すれば勧告する、という書き方です。そのかわり、ただし書があります。「正当の事由があるときは、この限りでない」。事情があるなら、放置せずに窓口で話してください。

    ただし、この「正当の事由」は勧告のほうの話です。届出を忘れたときの過料には、それがありません。相続登記の過料は「正当な理由がないのに」から始まるので、事情を言う余地があります。農地と山林の届出は、その一言がない条文です。知らなかった、忙しかった——それを置く場所が、条文に用意されていません。

    農地法第六十九条
    第三条の三の規定に違反して、届出をせず、又は虚偽の届出をした者は、十万円以下の過料に処する。

    森林法第二百十三条
    第十条の七の二第一項の規定に違反して、届出をせず、又は虚偽の届出をした者は、十万円以下の過料に処する。

    出典:e-Gov法令検索 農地法第69条・森林法第213条(全文を開いて確認/2026年9月3日)

    どちらも「届出をせず、又は虚偽の届出をした者は」で、そこで切れています。相続登記や住所変更登記の過料には「正当な理由がないのに」が入っていますが、この2つの条文は入口が違います。「正当の事由」で救われる余地があるのは、36条1項の勧告のほうです。

    勧告の入口は、放置だけではありません 耕作すると答えた 表明から6か月で利用が進まない 1号 売る・貸すと答えた 表明から6か月で動いていない 2号 利用しないと答えた 6か月を待ちません 3号 返事をしなかった 調査から6か月を経過した日 4号 ただし正当の事由があるときは、この限りでない

    ★3つめ——勧告を受けると、評価と負担調整が変わります(地方税法附則17条の3・17条の4)

    ここから条文が2本続きます。日本語が固いので、読み飛ばしてもかまいません。数だけ持っていってください。勧告を受けると、外れるものが2つあります。

    1つは評価——いくらの土地とみなすか。もう1つは負担調整——上がり方にふたをしている仕組みです。条文はそれぞれ1本ずつです。

    地方税法附則第十七条の三(平成二十九年度以降の勧告遊休農地の価格の特例)
    ……新たに勧告遊休農地(農地のうち農地法第三十六条第一項の規定による勧告があつたものをいう。……)となり、又は勧告遊休農地であつた土地が勧告遊休農地以外の農地となる事情がある土地については、当該事情がある賦課期日に係る年度分の固定資産税に限り、第三百四十九条第二項第一号に掲げる事情があるものとみなす。……勧告遊休農地について農地法第三十六条第一項の規定による勧告がなかつた場合における課税標準となるべき価格……

    同附則第十七条の四
    賦課期日に所在する勧告遊休農地に対して課する固定資産税及び都市計画税については、附則第十九条及び第二十六条の規定は、適用しない。

    出典:e-Gov法令検索 地方税法附則第17条の3・第17条の4(全文を開いて確認/2026年9月3日)

    17条の3が評価の話です。勧告を受けると、その農地は「第三百四十九条第二項第一号に掲げる事情があるものとみなす」。基準年度の価格に据え置かず、その年度から価格を洗い直す、という意味です。そして読替表の下欄が「勧告がなかつた場合における課税標準となるべき価格」なので、遊休であることによる目減りを見ないで評価します。

    総務省の資料がいう「0.55を乗じないこととする」は、この洗い直しで実際に何をするかの説明です。0.55という数字は法律の条文ではなく固定資産評価基準(告示)の側にあります。e-Gov法令検索は告示を収録していないので、その原文にはあたれていません。

    17条の4は、別のものを外しています。「附則第十九条及び第二十六条の規定は、適用しない」。この19条と26条が、いまの自分を守っているほうの条文です。19条が固定資産税、26条が都市計画税。次の引用で拾うのは一言だけでいいです——「負担水準の区分に応じ、負担調整率を乗じて得た額」。税額の上がり方にふたをしている、という意味です。

    地方税法附則第十九条(農地に対して課する令和六年度から令和八年度までの各年度分の固定資産税の特例)
    農地に係る令和六年度から令和八年度までの各年度分の固定資産税の額は、……当該農地の当該年度の……負担水準の区分に応じ、……負担調整率を乗じて得た額を当該農地に係る当該年度分の固定資産税の課税標準となるべき額とした場合における固定資産税額……

    出典:e-Gov法令検索 地方税法附則第19条(全文を開いて確認/2026年9月3日)。附則第26条は同じ作りの都市計画税版です(表題は「農地に対して課する令和六年度から令和八年度までの各年度分の都市計画税の特例」)

    つまり、勧告を受けると、評価と負担調整の両方が変わります。①評価のほうで、遊休による目減りを見てもらえなくなる(17条の3)。②負担水準の区分に応じた負担調整も使えなくなる——固定資産税の附則19条と、都市計画税の附則26条の両方です(17条の4)。「1.8倍」という数字は①の言い換えで、外れるのは①だけではありません。

    逆に言えば、勧告を受けていない農地は、令和6年度から8年度までは附則19条の負担調整の中にいます。放置していても、勧告の前ならそこにいます。境目は「勧告があったかどうか」の一点です。なお19条も26条も「令和六年度から令和八年度までの各年度分」の特例で、ずっと続く制度ではありません。

    やることは、1つだけです

    境目は「勧告があったかどうか」の一点でした。そして勧告は、いきなり来ません。先に「どうするつもりですか」という紙が届きます。あの紙を、半年そのままにしないことです。

    作る気はない。貸す先も分からない。売れるとも思えない。——それでかまいません。そのまま農業委員会の窓口で言ってください。36条1項には「正当の事由があるときは、この限りでない」というただし書があり、事情を聞く余地が条文の側に用意されています。黙っていることだけが、条文に守られていません。

    返事に書くのは、これだけです 売りたい 貸してもいい 決まっていない 決まっていなくても、それを書いて出す
    勧告を受けると、軽い扱いが外れます 農地法36条1項の勧告を受けましたか はい 評価も負担調整も 附則17条の3と17条の4 いいえ 負担調整の中 附則19条と26条

    手放したいとき

    相続土地国庫帰属制度は、農地も山林も対象です

    法務省のQ&Aは、農地について「承認申請をすることができます」、森林についても「承認申請をすることができます」としています。地目を理由に一律に排除される仕組みではありません。

    ただし森林には固有の壁があります。法務省の案内に、適切な造林・間伐・保育が実施されておらず、国による整備が追加的に必要な森林は不承認となる旨が書かれています。手入れされていない山ほど、通りません。

    そして負担金。宅地や農地は「市街化区域等の中にあるか」で面積計算か一律20万円かが分かれますが、森林は区域を問わず全部が面積計算です。

    この制度の全体像は相続土地国庫帰属制度にまとめました。最低でも21万4千円かかり、建物が建っていると申請すらできません。

    農地バンクという選択肢

    農地中間管理機構(農地バンク)は、都道府県ごとに知事が1つだけ指定する法人です。農林水産省は、その業務を「所有者等から借受け、担い手等へ貸付を行い、農地の集積・集約化を進めていく」と説明しており、所有者不明農地や遊休農地も含めて借り受けるとしています。

    自分では耕作できない相続人が使える仕組みです。ただし必ず借り受けてもらえるという保証は、農林水産省の資料には書かれていませんでした。

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    農地バンクに出す前に、他の使い道も並べておく

    「活用するにも立地が」「何年も決まらないまま放置」——そういう土地を専門に扱う一括提案サービスがあります。タウンライフ土地解決は、複数の会社から売却・賃貸・活用のプランを無料でまとめて受け取れるサービスです。農地バンクや森林経営管理制度に出す前に、民間で値が付くのかどうかを1回だけ確かめておくと、判断材料が増えます。

    ①複数社から連絡が入ります。電話が重なるのが嫌なら、備考欄にその旨を書いてください。②提案は「その会社がやりたい事業」の提案です。複数社を並べて、共通して出てくる案と、1社だけが強く勧める案を見分けてください。③成果条件が「一括問合せ」なので、1社だけを選ぶと対象外です。複数社を選んでください。④このリンク経由の申込で、当サイトは広告収入を受け取ります。それによって提案内容が変わることはありません。

    複数社にまとめて土地の活用・売却プランを請求する(無料)

    農地は、届出と転用許可が先です。この記事の2章と5章のとおり、市街化調整区域の農地は転用が「許可」制で、農用地区域内なら原則不許可です。プランを受け取っても、そのまま実行できるとは限りません。

    やってはいけないこと

    • 宅地の相続登記だけ済ませて安心する。農地の届出(農業委員会)と山林の届出(市町村長)は、登記とは別の手続です
    • 許可を取らずに農地を売る。効力を生じません(3条6項)。お金を払っても所有権が移りません
    • 許可を取らずに転用する。3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金(64条)。届出忘れの過料とは桁が違います
    • 市街化区域内で「あとで届け出よう」と工事を始める。4条1項7号は「あらかじめ」と書いています
    • 納税猶予を受けたまま耕作をやめる。20%を超えると打ち切られます
    • 山を放置して国庫帰属を当てにする。手入れ不足の森林は不承認事由です

    動く順番

    1. 名寄帳を取る。市区町村ごとに、その市区町村内の不動産が地目つきで出ます
    2. 山林は、地域森林計画の対象かを市町村の林務担当課で確認する。対象なら90日以内に市町村長へ届出
    3. 農地は農業委員会へ届出。条文は「遅滞なく」、運用の目安はおおむね10か月
    4. 市街化区域内かどうかを都市計画課で確認する。ここで転用が許可か届出かが変わります
    5. 相続登記を進める。登記の義務は3年です(不動産登記法76条の2)
    6. 手放すか活用するかを決める。放置すると、遊休農地の課税強化のほうから動かされます

    よくある質問

    Q. 農地の届出は10か月以内でいいのですか。

    A. 法律の期限ではありません。農地法3条の3の条文は「遅滞なく」で、農地法施行規則19条にも期間の定めはありませんでした。10か月は農林水産省の処理基準とリーフレットによる運用上の目安です。「農地法で10か月と定められている」という説明は条文と違います。

    Q. 相続なのに、なぜ届出が要るのですか。

    A. 農地法3条の3が、3条1項各号の除外から12号(遺産分割等)を外しているためです。許可は要らないが届出は要る、という構造になっています。

    Q. 山の届出をしていませんでした。何年前の相続でも出すべきですか。

    A. 期限は所有者となった日から90日ですが、過ぎたら出せなくなるという規定は条文にありません。市町村の林務担当課に相談してください。罰則は10万円以下の過料です(森林法213条)。

    Q. 畑を駐車場にしたいのですが。

    A. 転用にあたります。市街化区域内なら農業委員会への事前届出(4条1項7号)、そうでなければ都道府県知事等の許可(4条1項)です。無許可でやると3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金(64条)。まず市区町村の都市計画課で区域を確認してください。

    Q. 山も国に引き取ってもらえますか。

    A. 申請はできます。ただし手入れ不足の森林は不承認事由に当たり、負担金も区域を問わず面積計算です。相続土地国庫帰属制度を読んでください。

    まとめ

    • 農地は農業委員会へ、山林は市町村長へ。届出先が違う
    • 山林は90日以内(省令に明記)。農地は条文上「遅滞なく」で、10か月は運用の目安
    • どちらも10万円以下の過料(農地法69条・森林法213条)
    • 無許可転用は3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金。法人は1億円以下
    • 許可を受けない権利移動は効力を生じない(3条6項)
    • 市街化区域内なら、転用は事前届出で足りる(4条1項7号・5条1項6号)
    • 納税猶予は20%超の譲渡・転用・耕作放棄、または農業経営の廃止で打ち切り
    • 勧告を受けた遊休農地は、固定資産税が実質1.8倍

    この記事で確認できなかったこと

    • ★遺産分割が未了で相続人が共有している間、山林の届出を誰がするか。森林法施行規則7条を全文開きましたが、共有についての定めはありませんでした。農地のほうには、農地法32条3項に「数人の共有に係る場合には、その農地又は権利について二分の一を超える持分を有する者」という文言があります(探索をしても所有者等を確知できない場合についての規定の中で、共有のときに誰を相手にするかを示したものです)。山林の届出について同じ定めは見つけられませんでした。共有のまま90日が来るなら、市町村の林務担当課に聞いてください。
    • 「0.55を乗じない」の原文。この数字は法律の条文ではなく固定資産評価基準(告示)の側にあります。e-Gov法令検索は告示を収録していないため、原文にはあたれていません(収録されるのは憲法・法律・政令・勅令・府省令・規則までです)。総務省・農林水産省の資料での説明までを確認しています。
    • 財産評価基本通達の山林関係の項番号。純山林・中間山林・市街地山林の区分があることは国税庁の評価倍率表の説明で確認できましたが、通達番号は確認できませんでした。通達も、e-Gov法令検索には収録されていません。
    • 農地法関係事務処理要領(本体)の「10か月」の記述。10か月の根拠は処理基準とリーフレットで確認しています。要領そのものは法令ではないため、e-Gov法令検索では引けません。あわせて農地法施行規則19条を全文開き、期間の定めがないことを条文の側から確かめました。
    • 国土利用計画法23条1項の対象になる面積。森林法10条の7の2第1項ただし書が同項の届出を挙げているので条文を開きましたが、面積の要件(同条2項以下や施行令)は開いていません。相続には使えないただし書なので、この記事では立ち入りませんでした。
    • 農地バンクが必ず借り受けてくれるかどうか。農林水産省の資料に保証の記載はありませんでした。農地法36条1項も「協議すべきことを勧告する」までで、機構が借りる義務は書いていません。
    • 届出義務違反で実際に過料が科された件数。確認できませんでした。

    当サイトには監修者がいません。ここに書いたのは条文と公的資料の内容であって、あなたの土地に当てはめた判断ではありません。農地は農業委員会、山林は市町村の林務担当課に、まず電話で確認してください。どちらも無料です。

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  • 相続した実家が未登記だった|期限は1か月です。相続登記の3年ではありません

    相続した実家の登記を取り寄せようとしたら、「登記記録がありません」と言われた。固定資産税の納税通知書は毎年届いているのに、法務局には何も無い。

    これは珍しい話ではありません。昭和の時代に建てた家、増築した部分、農地の中の納屋。登記されていない建物は、いまも普通に存在します。

    そしてここでいちばん危ないのは、「相続登記の義務化で3年以内だから、まだ余裕がある」と思ってしまうことです。未登記の建物は、条文の文言上、その3年の対象ではありません。期限は1か月です。

    この記事は、不動産登記法・地方税法・登録免許税法の条文と、法務省・法務局・総務省の公表資料だけで確認したものです。確認できなかったことは、最後にそのまま書いています。

    最終更新:2026年8月19日

    結論だけ先に

    • 期限は1か月です。表題登記がない建物の所有権を取得した者は、取得の日から1か月以内に表題登記を申請しなければなりません(不動産登記法47条1項)。怠ると10万円以下の過料(同164条1項)。
    • 相続登記の義務化(3年)とは別の条文です。76条の2は「所有権の登記名義人について相続の開始があったとき」に働きます。登記名義人がいない未登記建物は、条文の文言上その対象に入りません。
    • 相続人申告登記も使えないと読めます。76条の3は「所有権の登記名義人の相続人である旨」を申し出る制度だからです。3年に延ばす逃げ道がありません。
    • 所有権保存登記のほうは、義務ではありません。164条の過料の列挙に74条は入っていません。ただし売るなら結局必要になります。
    • 未登記でも固定資産税はかかります。登記簿にない家屋は家屋補充課税台帳に登録され、そこに所有者として登録された人が納税義務者になります(地方税法341条13号・381条4項・343条2項)。

    根拠と条番号は本文にあります。条文はすべてe-Gov法令検索で本文を確認しました。

    まず、何が「無い」のかを確かめる

    登記には2つの層があります。

    不動産登記法12条は「登記記録は、表題部及び権利部に区分して作成する」と定めています。そして不動産登記規則4条4項が、権利部を甲区(所有権)と乙区(所有権以外)に分けています。

    層 何が載るか 最初にする登記
    表題部 所在・地番・家屋番号・種類・構造・床面積(44条1項) 表題登記
    権利部 甲区 所有権 所有権保存登記
    権利部 乙区 抵当権など所有権以外 —

    「登記されていない」には、じつは2種類あります。

    • まったく登記記録が無い(表題登記もない)——完全な未登記
    • 表題部だけあって、甲区が空——表題登記はされているが所有権保存登記がされていない

    後者の場合、表題部に「表題部所有者」として名前が載っています。不動産登記法2条10号が、表題部所有者を「所有権の登記がない不動産の登記記録の表題部に、所有者として記録されている者」と定義しています。

    どちらなのかで、次にやることが変わります。法務局で建物の登記事項証明書を請求して、そもそも記録が出てくるか、出てきたら甲区に何か書いてあるかを確認してください。

    期限は1か月です。3年ではありません

    ここがこの記事の本題です。

    表題登記の義務(47条1項)

    新築した建物又は区分建物以外の表題登記がない建物の所有権を取得した者は、その所有権の取得の日から一月以内に、表題登記を申請しなければならない。

    出典:不動産登記法47条1項(e-Gov法令検索で本文を確認/2026年8月19日)

    条文の後半、「区分建物以外の表題登記がない建物の所有権を取得した者」には、取得の原因が書かれていません。売買でも贈与でも相続でも、区別されていません。

    そして164条1項が、47条1項を含む複数の申請義務について「正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、十万円以下の過料に処する」と定めています。

    相続登記の義務化(76条の2)は、別の話です

    2024年4月から始まった相続登記の義務化は、こう書かれています。

    所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。

    出典:不動産登記法76条の2第1項

    主語を見てください。「所有権の登記名義人について」です。

    先ほど引いた2条10号の定義を思い出してください。表題部所有者は「所有権の登記がない不動産」の表題部に載っている人です。つまり所有権の登記名義人ではありません。登記記録そのものが無い建物なら、なおさらです。

    条文の文言上、未登記建物・表題登記だけの建物は、76条の2の対象に入りません。そして義務の内容も「所有権の移転の登記」に限定されていて、表題登記は含まれていません。

    2つの条文を並べると、違いがはっきりします。

    表題登記(47条1項) 相続登記(76条の2)
    対象 表題登記がない建物 所有権の登記名義人がいる不動産
    やること 表題登記 所有権の移転の登記
    期限 1か月 3年
    起算点 所有権の取得の日 相続の開始と所有権の取得を知った日
    過料 10万円以下(164条1項) 10万円以下(164条1項)

    期間が36倍違い、起算点も違います。「知った日」からではなく「取得の日」から数えます。

    ここは正直に書きます。「相続した未登記建物に47条1項の義務がある」と明示した法務省・法務局の資料は、見つけられませんでした。法務省の相続登記義務化Q&Aにも、未登記建物や表題登記に触れた項目はありません。上の整理は、条文の文言を読んだ結果です。法務局に確認してください。

    相続人申告登記という逃げ道も、使えないと読めます

    相続登記が3年以内にできないとき、相続人申告登記(76条の3)という制度があります。登記官に「自分が相続人である」と申し出れば、義務を履行したものとみなされる仕組みです。

    ただし条文はこう書いています。

    登記官に対し、所有権の登記名義人について相続が開始した旨及び自らが当該所有権の登記名義人の相続人である旨を申し出ることができる。

    出典:不動産登記法76条の3第1項

    ここでも「所有権の登記名義人」です。登記名義人が存在しない未登記建物では、条文の文言上、この申出ができないと読めます。

    さらに、この制度で義務を果たしたことになるのは76条の2第1項の義務だけです(76条の3第2項)。遺産分割がまとまったら、その日から3年以内に所有権移転登記が必要で(同4項)、これを怠るとやはり10万円以下の過料です。

    法務省も「相続人申告登記で義務を果たすことができるのは、基本的義務のみ」と明記しています。

    所有権保存登記は、義務ではありません

    意外に思われるかもしれませんが、条文はそうなっています。

    74条1項は「所有権の保存の登記は、次に掲げる者以外の者は、申請することができない」と書いています。これは申請できる人を限定する規定であって、「しなければならない」ではありません。

    そして164条1項が列挙している条文の中に、74条は入っていません。つまり保存登記をしなくても過料はありません。

    申請できるのは次の3つだけです。

    1. 表題部所有者又はその相続人その他の一般承継人
    2. 所有権を有することが確定判決によって確認された者
    3. 収用によって所有権を取得した者

    1号が重要です。「表題部所有者又はその相続人」。表題登記がなければ表題部所有者が存在しないので、保存登記もできません。順番が決まっています。

    未登記だと、何ができないか

    条文から言えることを、順番に並べます。

    売買そのものは禁じられていません

    「未登記建物は売れない」と書いてある条文は、どこにもありません。売買契約自体を禁じる規定は見当たりませんでした。

    条文から言えるのは、登記を移すには順番があるということです。

    1. 表題登記(2条20号——表題部に最初にされる登記)
    2. 所有権保存登記(74条1項1号——表題部所有者またはその相続人だけが申請できる)
    3. 所有権移転登記(60条——登記権利者と登記義務者が共同して申請する)

    60条が「登記権利者及び登記義務者が共同してしなければならない」としているので、甲区に所有権の登記がなければ、登記義務者が存在しません。

    そして民法177条が、「不動産に関する物権の得喪及び変更は、…その登記をしなければ、第三者に対抗することができない」と定めています。買った側は、登記がなければ第三者に「これは自分のものだ」と言えません。

    抵当権も、条文上は所有権の登記が前提です

    抵当権は権利に関する登記で(3条7号)、乙区に記録されます(規則4条4項)。そして60条により、抵当権設定登記も原則として共同申請です。設定者=所有権の登記名義人が必要になります。

    ただし「未登記建物には抵当権を設定できない」と明言した条文はありません。上は条文からの読みです。そして金融機関が住宅ローンの条件として何を求めるかは、法令の問題ではありません。条文からは答えが出ないので、この記事では書きません。

    ★ 借地なら、話はもっと深刻です

    実家が借地の上に建っている場合、未登記は致命的になり得ます。

    借地借家法10条1項です。

    借地権は、その登記がなくても、土地の上に借地権者が登記されている建物を所有するときは、これをもって第三者に対抗することができる。

    出典:借地借家法10条1項

    対抗力の条件が「登記されている建物を所有するとき」です。建物に登記がなければ、この条文の要件を満たしません。つまり借地権そのものの登記がないかぎり、土地を買った新しい所有者に借地権を主張できないことになります。

    なお条文は「登記されている建物」としか書いておらず、表題登記だけで足りるのか、所有権保存登記まで必要なのかは書かれていません。建物の名義が親のままの場合の扱いも、条文にはありません。

    借地については借地に建っている実家にまとめています。

    壊したときはどうするのか

    登記されている建物なら、手続きは法務局です。建物滅失登記を自分でやる手順に、必要書類と、解体業者からもらう取壊し証明書の頼み方を書きました。

    建物を解体したら、滅失の登記が要ります。

    建物が滅失したときは、表題部所有者又は所有権の登記名義人は、その滅失の日から一月以内に、当該建物の滅失の登記を申請しなければならない。

    出典:不動産登記法57条

    これも164条1項により10万円以下の過料の対象です。

    問題は、未登記の建物を壊した場合です。57条の名宛人は「表題部所有者又は所有権の登記名義人」ですが、登記記録が無い建物には、どちらも存在しません。

    ここは正直に書きます。法務局の建物滅失登記に関する公表資料を4種類確認しましたが、未登記建物についての記載は1つもありませんでした。そして地方税法の本則にも、家屋の滅失を申告する義務の規定は見当たりませんでした(383条の申告義務は償却資産についてのものです)。

    実務では市区町村の資産税課に「家屋滅失届」を出す、という説明をよく見ますが、その法的根拠を一次情報で確認できませんでした。市町村の条例や規則にあるのだと思われますが、確かめていません。解体したら、法務局と市区町村の資産税課の両方に確認してください。

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    その解体、いくらかかるのかを先に見る

    未登記の家を壊すときは、滅失の手続きが登記済みの家と変わります。手続きの話の前に、そもそも壊すのにいくらかかるのかが分からないと、壊すかどうかを決められません。

    ①同社サイトには「ご利用は無料。ご成約後の請求も一切ございません」と書かれています。
    ②同社は「契約まで、業者からご連絡がいくことはございません」と説明しています。
    ③申し込みには物件の情報と写真が要ります。遠方の実家で写真が手元にないなら、次に帰ったときに外観と傷んでいる箇所を撮っておいてください。
    ④解体する予定がないなら申し込まないでください。重複した申込や、連絡先が実在しない申込は無効と明記されています。
    ⑤1社の見積りだけで決めないでください。地元の解体業者にも自分で1社あたって、金額の桁が合っているかを確かめてください。
    ⑥解体補助金を使う予定があるなら、契約・着工の前に自治体へ申請してください。着工後の申請は原則として通りません。

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    見積書のどこを見るかは、この記事の見積書の章に戻って確認してください。お住まいの自治体の制度を先に調べておくと、受付期間に間に合うかどうかも一緒に分かります。

    税金:登記がなくても課税されます

    固定資産税は、登記の有無と関係ありません

    地方税法341条13号が、家屋補充課税台帳を「登記簿に登記されている家屋以外の家屋でこの法律の規定によつて固定資産税を課することができるものについて…登録した帳簿」と定義しています。

    そして381条4項が、市町村長にその台帳への登録を義務づけ、343条2項が納税義務者を「登記簿又は土地補充課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に所有者として登記又は登録がされている者」としています。

    つまり、登記簿に載っていない家屋のための受け皿が、税法の側にはちゃんと用意されています。総務省の「固定資産税の概要」も、家屋・土地は登記の有無にかかわらず登録する旨を記載しています。

    「登記していないから税金もかかっていないはず」は成り立ちません。納税通知書が届いているなら、それが未登記家屋の存在を示す手がかりです。

    表題登記に登録免許税はかかりません(と読めます)

    登録免許税法2条は「登録免許税は、別表第一に掲げる登記…について課する」と定めています。

    別表第一の「一 不動産の登記」を全部確認しましたが、「表題登記」という語は一度も出てきません。表示に関する登記で課税対象になっているのは、所有権の登記がある不動産の分筆・合筆などの表示変更登記(1個につき1,000円)だけです。

    ですから、建物の表題登記に登録免許税は課されないと読めます。ただしこれは「非課税と定めた条文がある」のではなく、「別表第一に掲げられていないから課税されない」という反対解釈です。国税庁のタックスアンサーNo.7191にも、表題登記についての記載はありませんでした。

    なお、税がかからないことと、費用がかからないことは別です。表題登記は土地家屋調査士に依頼するのが通常で、その報酬は税ではないので条文には一切書かれていません。

    所有権保存登記の登録免許税

    登記 課税標準 税率
    所有権の保存の登記 不動産の価額 1,000分の4(0.4%)
    相続による所有権の移転の登記 不動産の価額 1,000分の4(0.4%)
    売買による所有権の移転の登記 不動産の価額 1,000分の20(2.0%)

    出典:登録免許税法別表第一 一(e-Gov法令検索で本文を確認)/国税庁タックスアンサーNo.7191(2026年8月19日確認)

    住宅用家屋の軽減措置は租税特別措置法の規定で、今回は本則しか確認していないため、この記事では税率を書きません。

    やってはいけないこと

    • 「相続登記の義務化は3年だから」と待つ。未登記建物は条文上その対象ではありません。表題登記の期限は1か月です
    • 登記事項証明書を取らずに話を進める。まったく無いのか、表題部だけあるのかで、やることが変わります
    • 先に解体する。借地の場合、建物の登記は対抗力の足場です。そして未登記建物を壊したときの手続は、一次情報が見当たりません
    • 納税通知書が来ているから登記もされていると思い込む。固定資産税は家屋補充課税台帳で課されます。登記の有無とは無関係です
    • 買主に「登記は後で」と言われて契約する。60条により、甲区に所有権の登記がなければ移転登記の登記義務者が存在しません

    動く順番

    1. 法務局で建物の登記事項証明書を請求する。「記録が無い」のか「表題部だけある」のかを確定させる
    2. 市区町村で固定資産課税台帳(名寄帳)を取る。家屋補充課税台帳に載っている内容が、建物を特定する手がかりになります
    3. 表題登記を申請する。期限は取得の日から1か月(47条1項)。土地家屋調査士の領域です
    4. 売る・担保に入れるなら、所有権保存登記まで進める。義務ではありませんが、これが無いと移転登記ができません(74条1項・60条)
    5. 借地なら、順番を間違えない。登記が対抗力の条件です(借地借家法10条1項)

    未登記のままだと、解体補助も申請できません

    未登記で止まるのは売買と相続登記だけではありません。全国501自治体のうち46自治体が、対象要件や提出書類に登記に関する条件を挙げていました。宗像市のように「登記されていない家屋は対象外」と明記している自治体もあります。

    自治体上限額
    愛媛県松山市160万円
    佐賀県伊万里市100万円
    大阪府富田林市100万円(長屋・共同住宅は1棟20…
    山形県山形市100万円
    山梨県笛吹市100万円
    東京都檜原村100万円
    福井県鯖江市100万円(加算要件に該当する場合。…
    長野県長野市100万円
    高知県南国市92万5000円
    福島県郡山市80万円
    宮崎県都城市75万円
    新潟県柏崎市50万円(居住誘導区域内にある場合は…

    該当は全部で46自治体です。全国の一覧表で実家のある市区町村を確認してください。

    表題登記には1か月の期限があります。解体補助を使うつもりなら、この手続きが最初のブロックになります。実家のある市区町村で、必要書類を確認してください。

    よくある質問

    Q. 相続登記の義務化で3年以内と聞きました。未登記の建物も3年でいいのですか。

    A. 条文の文言上は違います。76条の2は「所有権の登記名義人について相続の開始があったとき」に働く規定で、義務の内容も「所有権の移転の登記」です。登記名義人がいない未登記建物は、この条文の対象に入らないと読めます。表題登記の期限は47条1項の1か月です。ただしこの整理を明示した官公庁資料は見つけられませんでした。法務局に確認してください。

    Q. 表題登記をしないと、いくら取られますか。

    A. 10万円以下の過料です(164条1項)。過料は刑罰ではなく、裁判所が決定するものです。ただし47条1項について、登記官が裁判所に通知する運用があるかどうかを示す法務省の資料は見つけられませんでした。相続登記(76条の2)については、登記官が催告し、期限内に登記されなければ裁判所に通知する流れが法務省Q&Aに書かれています。

    Q. 所有権保存登記もしないといけませんか。

    A. 義務ではありません。164条の過料の列挙に74条は入っていません。ただし売る・担保に入れるなら結局必要です。

    Q. 未登記の建物を解体しました。何をすればいいですか。

    A. 一次情報では答えが出ませんでした。滅失登記の義務(57条)の名宛人は「表題部所有者又は所有権の登記名義人」で、未登記建物にはどちらも存在しません。法務局の公表資料にも未登記建物の記載がありません。法務局と市区町村の資産税課の両方に確認してください。

    Q. 未登記でも固定資産税は来ています。おかしくないですか。

    A. おかしくありません。登記簿にない家屋は家屋補充課税台帳に登録され(地方税法341条13号・381条4項)、そこに所有者として登録された人が納税義務者になります(343条2項)。

    登記を直してから売るか、そのまま買い取ってもらうかで手取りが変わります。先に仲介の査定額を知っておくと、登記費用をかける価値があるかどうかを金額で判断できます。未登記であることは、査定を頼む段階で伝えてください。

    先に場所を確認してください。不動産SHOPナカジツが受け付けられるのは愛知・岐阜・静岡・千葉・埼玉・福岡・熊本とその周辺だけです(全40店舗のうち39店舗がこの7県。同社の店舗一覧で確認/2026年8月19日)。それ以外の道府県にある実家は、申し込んでも査定は返ってきません。対象外の方は、ラクウルの買取査定のほうをご覧ください。

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    まとめ

    • 表題登記の期限は取得の日から1か月。過料は10万円以下(47条1項・164条1項)
    • 相続登記の3年(76条の2)は、条文の文言上、未登記建物には及ばないと読める。相続人申告登記(76条の3)も同じ理由で使えないと読める
    • 所有権保存登記は義務ではない。ただし売るなら必要(74条1項・60条)
    • 借地×未登記は、対抗力を失う組み合わせ(借地借家法10条1項)
    • 未登記でも固定資産税はかかる(家屋補充課税台帳)
    • 表題登記に登録免許税は課されないと読める。保存登記は0.4%

    この記事で確認できなかったこと

    この記事は条文と官公庁の公表資料だけで書いています。次の3点は、特にはっきり書いておきます。

    • 「相続した未登記建物に47条1項の表題登記義務がある」ことを明示した官公庁資料。条文の文言(「区分建物以外の表題登記がない建物の所有権を取得した者」に取得原因の限定がないこと)からはそう読めますが、法務省・法務局の資料に未登記建物への言及が1つもありませんでした
    • 未登記建物を取り壊したときの手続。法務局の建物滅失登記に関する公表資料4種すべてに未登記建物の記載がなく、地方税法の本則にも家屋滅失の申告義務規定は見当たりませんでした。家屋滅失届の法的根拠(条例か規則か)は確認できていません
    • 「表題登記は登録免許税が非課税」は、非課税と定めた条文があるのではなく、別表第一に掲げられていないことからの反対解釈です

    そのほか、次も確認できませんでした。

    • 相続の場合の「所有権の取得の日」がいつを指すか(相続開始日か遺産分割成立日か)。条文に定めがありません
    • 47条1項・57条についての「正当な理由」の内容。法務省Q&Aの5類型は相続登記についてのものです
    • 表題登記義務違反・滅失登記義務違反で実際に過料が科された件数
    • 借地借家法10条1項の「登記されている建物」が表題登記だけで足りるのか、保存登記まで必要なのか
    • 住宅用家屋の登録免許税の軽減措置の要件と期限(租税特別措置法の規定で、今回は本則しか確認していません)

    当サイトには監修者がいません。ここに書いたのは条文と公的資料の内容であって、あなたの建物に当てはめた判断ではありません。まず法務局で登記事項証明書を取り、そのうえで法務局・土地家屋調査士・司法書士に相談してください。

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    越境した枝は、切れるようになりました——2023年4月の民法233条改正。相続登記のされていない空き家は「所有者が分からない」に当たり得ます。

  • 相続土地国庫帰属制度|最低21万4千円かかります。建物が建っていたら申請できません

    相続した実家の土地が、売れない。貸せない。それでも固定資産税は毎年かかる。

    そういうときに名前が挙がるのが相続土地国庫帰属制度です。2023年4月27日に始まった、いらない土地を国に引き取ってもらう制度。

    ただ、この制度は「タダで国が引き取ってくれる制度」ではありません。そして建物が建っている土地は、そもそも申請できません。

    この記事は、法務省の公表資料とe-Gov法令検索の条文だけで、この制度の実際を確認したものです。確認できなかったことは、最後にそのまま書いています。

    最終更新:2026年8月19日

    結論だけ先に

    • いちばん安いケースでも21万4千円かかります。審査手数料が土地1筆につき14,000円(施行令3条)、負担金が最低20万円(施行令5条1項4号)。手数料は却下されても不承認でも取り下げても返ってきません。
    • 建物が建っていたら申請できません(法2条3項1号)。登記の有無は関係ありません。先に解体する必要があります。
    • 「宅地は面積で計算される」は誤りです。面積計算になるのは市街化区域(または用途地域が定められた区域)の中にある宅地だけ。区域の外なら一律20万円です。逆に森林は、区域を問わず全部が面積計算になります。
    • 法令にある数値基準は「崖」の1つだけです。勾配30度以上かつ高さ5メートル以上(施行令4条1項)。「地下何メートルまで」「何平方メートル以上は不可」といった基準は、法令のどこにもありません。
    • 審査には標準で8か月かかります(法務省Q&A)。そのあいだも固定資産税は止まりません。

    根拠と条番号は本文にあります。条文はすべてe-Gov法令検索で本文を確認しました。

    まず、この制度が何なのか

    正式名称は「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」(令和3年法律第25号)です。

    施行日は2023年(令和5年)4月27日。法律の附則1条は「公布の日から起算して二年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する」としか書いておらず、具体的な日付は施行令の附則で「法の施行の日(令和五年四月二十七日)」と定められています。

    使えるのは、相続または遺贈で土地を取得した人です。法2条1項が、申請できる者を「相続等によりその土地の所有権の全部又は一部を取得した者に限る」と書いています。売買で買った土地は対象外です。

    ここで1つ、誤解されやすい点があります。共有の場合です。

    法2条2項は、共有地については共有者の全員が共同して行うときに限り申請できるとしています。1人でも反対すれば進みません。ただし後段に例外があって、持分を売買で買った共有者が混ざっていても、相続で取得した共有者と一緒に申請すればよいとされています。

    遺贈については、法務省のQ&Aが「相続人に対しての遺贈に限られます」としています。相続人以外への遺贈は使えません。

    制度が始まる前に相続した土地でも使えます。法務省のQ&A(Q6-1)が「令和5年4月27日以前に相続した土地も対象になります」と明記しています。

    申請の期限について。法律に期限を定めた規定は置かれていません。ただし「期限はない」と明言した法務省の記述は見つけられませんでした。条文に期限規定がない、というところまでが確認できたことです。

    建物が建っていたら、申請すらできません

    この制度でいちばん先に確認すべきは、ここです。

    法2条3項は、申請そのものができない土地(却下事由)を5つ挙げています。

    1. 建物の存する土地
    2. 担保権又は使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地
    3. 通路その他の他人による使用が予定される土地として政令で定めるものが含まれる土地
    4. 土壌汚染対策法に規定する特定有害物質(法務省令で定める基準を超えるものに限る)により汚染されている土地
    5. 境界が明らかでない土地その他の所有権の存否、帰属又は範囲について争いがある土地

    1号です。「建物の存する土地」。相続した実家には、まず建物が建っています。この制度を使うには、先に解体しなければなりません。

    法務省のQ&Aは、建物を「屋根及び周壁又はこれに類するものを有し、土地に定着した建造物」と説明しており、登記の有無は問わないとしています。未登記の物置でも、現に建っていれば該当します。

    3号の政令(施行令2条)は、次の4つを挙げています。

    • 現に通路の用に供されている土地
    • 墓地内の土地
    • 境内地
    • 現に水道用地、用悪水路又はため池の用に供されている土地

    2号の「使用及び収益を目的とする権利」には、借地権も入ります。誰かに貸している土地は、その契約が生きているかぎり申請できません。

    5号の「境界が明らかでない土地」も、実家の土地では現実的な壁です。どこまでの資料があれば「明らか」と言えるのかについて、条文にも政令にも数値的・形式的な基準はありません。

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    建物があると申請できないので、まず壊す費用が要ります

    国庫帰属は、更地でないと入口に立てません。負担金より先に、解体費という現金が必要になります。その額を知らないまま検討しても、他の選択肢と比べられません。

    ①同社サイトには「ご利用は無料。ご成約後の請求も一切ございません」と書かれています。
    ②同社は「契約まで、業者からご連絡がいくことはございません」と説明しています。
    ③申し込みには物件の情報と写真が要ります。遠方の実家で写真が手元にないなら、次に帰ったときに外観と傷んでいる箇所を撮っておいてください。
    ④解体する予定がないなら申し込まないでください。重複した申込や、連絡先が実在しない申込は無効と明記されています。
    ⑤1社の見積りだけで決めないでください。地元の解体業者にも自分で1社あたって、金額の桁が合っているかを確かめてください。
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    申請できても、通らない土地がある

    却下事由をクリアして申請できたとしても、次に不承認事由があります。法5条1項の5号です。

    1. 崖(勾配、高さその他の事項について政令で定める基準に該当するものに限る)がある土地のうち、その通常の管理に当たり過分の費用又は労力を要するもの
    2. 土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上に存する土地
    3. 除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができない有体物が地下に存する土地
    4. 隣接する土地の所有者その他の者との争訟によらなければ通常の管理又は処分をすることができない土地として政令で定めるもの
    5. 前各号のほか、通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地として政令で定めるもの

    法令にある数値基準は、崖の1つだけです

    ここは、ほかの解説記事と食い違うかもしれないので、条文をそのまま引きます。施行令4条1項です。

    法第五条第一項第一号の政令で定める基準は、勾配(傾斜がある部分の上端と下端とを含む面の水平面に対する角度をいう。)が三十度以上であり、かつ、その高さ(傾斜がある部分の上端と下端との垂直距離をいう。)が五メートル以上であることとする。

    出典:相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律施行令4条1項(e-Gov法令検索で本文を確認/2026年8月19日)

    法令に書かれた数値は、これだけです。「地下◯メートルまでの埋設物はダメ」「◯平方メートル以上は対象外」といった基準は、法律にも政令にも省令にも存在しません。地下埋設物(3号)に深さの基準はなく、面積の基準もありません。

    そして崖についても、条文をよく読むと二段構えです。勾配30度以上かつ高さ5メートル以上に「該当するものに限る」うえで、さらに「その通常の管理に当たり過分の費用又は労力を要するもの」が不承認事由になります。基準を満たす崖があれば即アウト、とは条文は書いていません。

    ただし、この二段構えが実際にどう運用されているかを示す公的資料は、見つけられませんでした。

    5号の政令(施行令4条3項)が、実は広い

    「過分の費用又は労力を要する土地」として政令が挙げているのは、次の5類型です。

    • 災害のおそれ——土砂の崩壊、地割れ、陥没、水や汚液の漏出などによる災害が発生し、または発生するおそれがあり、現状に変更を加える措置が必要なもの
    • 動物——鳥獣、病害虫その他の動物が生息し、人の生命・身体、農産物、樹木に被害が生じ、または生ずるおそれがあるもの
    • 森林の手入れ不足——市町村森林整備計画に定められた事項に適合しておらず、追加的に造林・間伐・保育を実施する必要があると認められるもの
    • 国庫帰属後に、法令に基づく処分により国が通常の管理費用以外の金銭債務を負担することが確実と認められる土地
    • 法令に基づく処分により申請者が金銭債務を負担していて、国庫帰属に伴い国がその債務を承継することとなる土地

    3つ目は、山林を相続した人に効きます。手入れされていない山は、それ自体が不承認の理由になり得ます。

    4号の政令(施行令4条2項)は、袋地で現に通行が妨げられている土地と、所有権に基づく使用・収益が現に妨害されている土地を挙げています。ただし妨害の程度が軽微なものは除かれます。

    お金の話:最低でも21万4千円

    審査手数料は1筆14,000円。返ってきません

    施行令3条は、手数料を「承認申請に係る土地の一筆ごとに一万四千円」と定めています。収入印紙で納めます。

    複数筆をまとめて申請しても、減額の規定はありません。3筆あれば42,000円です。

    そして重要なのは、この手数料は返ってこないことです。法務省のQ&Aが、取り下げた場合(Q4-4)も、却下・不承認になった場合(Q4-5)も「返還されません」と明記しています。理由は、書面調査・実地調査・関係機関への照会という審査コストが実際に発生するためです。

    つまり「とりあえず出してみる」は、1筆14,000円の賭けになります。

    負担金は「原則20万円」。ただし例外の条件を読み違えないこと

    承認されたら、10年分の管理費用にあたる負担金を納めます(法10条)。施行令5条1項が、土地を4つに区分しています。

    第4号が原則です。「前三号に掲げる土地以外の土地 二十万円」。

    面積で計算されるのは、次の3つに当たる場合だけです。

    区分 面積計算になる条件
    宅地 市街化区域の中(区域区分が定められていない都市計画区域では、用途地域が定められている区域の中)にあるもの
    農地 市街化区域内、農用地区域内、または土地改良事業等の施行区域内にあるもの
    森林 区域による限定なし。すべて面積計算

    ここが、ほかの解説でよく間違われているところです。「宅地は面積で計算される」と書かれていることがありますが、条文はそう書いていません。市街化区域や用途地域の外にある宅地は、第4号に落ちて一律20万円です。

    地方の実家の土地は、多くがここに当たります。つまり20万円で済む可能性があります。

    逆に、森林だけは区域を問わず全部が面積計算です。ただし単価は低く設定されています。

    市街化区域等にある宅地の負担金(施行令5条1項1号)

    地積 負担金
    50平方メートル以下 地積×4,070円+208,000円
    50超100平方メートル以下 地積×2,720円+276,000円
    100超200平方メートル以下 地積×2,450円+303,000円
    200超400平方メートル以下 地積×2,250円+343,000円
    400超800平方メートル以下 地積×2,110円+399,000円
    800平方メートル超 地積×2,010円+479,000円

    森林の負担金(施行令5条1項3号)

    地積 負担金
    750平方メートル以下 地積×59円+210,000円
    750超1,500平方メートル以下 地積×24円+237,000円
    1,500超3,000平方メートル以下 地積×17円+248,000円
    3,000超6,000平方メートル以下 地積×12円+263,000円
    6,000超12,000平方メートル以下 地積×8円+287,000円
    12,000平方メートル超 地積×6円+311,000円

    出典:施行令5条1項(e-Gov法令検索で本文を確認/2026年8月19日)。1,000円未満の端数は切り捨て(同条2項)。農地の表は本文では省略しています。

    隣接する2筆以上が同じ区分に属するときは、1筆とみなして負担金を算定するよう申し出ることができます(施行令6条)。手数料は筆ごとにかかりますが、負担金はここで圧縮できます。

    払わないという選択もできます

    法10条は、負担金の通知を受けた日から30日以内に納付しないときは、承認はその効力を失うとしています。

    法務省のQ&A(Q9-21)は、「納付が強制されるわけではありませんので、承認後に負担金を支払わないという選択も可能です」としています。ただし審査手数料は返ってきません。

    そして所有権が国に移るのは、負担金を納付した時です(法11条1項)。承認された時点ではありません。

    数字で見る:本当に通っているのか

    法務省が統計を公表しています。令和8年(2026年)6月30日現在の数字です。

    区分 件数
    申請 5,698件
    帰属(承認) 2,885件
    却下 83件
    不承認 93件
    取下げ 1,063件

    出典:法務省「相続土地国庫帰属制度の統計」(令和8年6月30日現在/2026年8月19日確認)

    却下83件と不承認93件を足すと176件。申請5,698件の約3.1%です。これだけを見ると「ほとんど通る制度」に見えます。

    ですが、取下げが1,063件あります。法務省はその理由も公表していて、内訳はこうです。

    • 有効活用の見込みが生じた——562件
    • 却下・不承認事由に当たることが判明した——375件
    • その他——126件

    375件は、審査の途中で「これは通らない」と分かって引っ込めたものです。却下・不承認の176件と合わせると551件。取り下げた人の手数料も返っていません。

    申請の地目別内訳は、田・畑2,226件、宅地1,973件、山林868件、その他631件。いちばん多いのは農地です。

    時間:標準で8か月

    法務省のQ&A(Q3-11・Q3-12)は、標準処理期間を「8か月」としたうえで、「事案によっては標準処理期間を超える場合もあります」としています。

    建物の解体から数えると、1年仕事です。そのあいだ、固定資産税は毎年かかり続けます。更地にしたあとは住宅用地の特例が外れるので、むしろ上がります。

    この点は解体すると固定資産税が6倍になる?で計算しています。実際には最大4.2倍です。

    相談は、法務局の本局だけです

    相談先は、土地が所在する都道府県の法務局・地方法務局の本局の不動産登記部門です。支局・出張所では受け付けていません。

    相談方法は対面・電話・ウェブ会議の3つで、いずれも事前予約制。ウェブ会議は2024年10月15日から始まりました。1回の枠は30分で、延長できません。

    法務省は、相談担当者の見解が承認を保証するものではなく、実際の審査結果が異なることがある旨も明記しています。

    この制度を考える前に、確かめてほしいこと

    ここまで読んで分かるとおり、この制度は「最後の手段」です。手数料と負担金で最低21万4千円、建物があれば解体費が別にかかり、審査に8か月。

    その前に確かめる順番があります。

    1. 本当に売れないのか。「近所の不動産屋に断られた」だけで結論を出していないか。再建築不可・借地・共有・事故物件といった事情がある土地でも、専門に買い取る会社があります
    2. 解体に補助金が出ないか。解体しないと申請できない以上、解体費は避けられません。自治体の補助金は契約・着工より前に申請しないと出ません
    3. 貸せないか。ただし借地権など「使用及び収益を目的とする権利」を設定してしまうと、この制度は使えなくなります(法2条3項2号)。順番を間違えないこと
    4. 相続放棄という選択肢との比較。ただしこれは性質がまったく違います(後述)

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    国に渡す前に、値段が付くかどうかだけ確かめる

    国庫帰属は建物があると申請できず、先に解体が要ります。負担金も原則20万円かかります。買い手が付くなら、この費用も手続きも、全部いらなくなります。

    先に断っておきます。買取は、仲介で売れた場合より手取りが下がります。それでも見る価値があるのは、比較対象の数字が手に入るからです。運営は株式会社ネクサスプロパティマネジメント(宅地建物取引業免許:国土交通大臣(1)第10311号)。同社は「個人情報の入力は不要、匿名のまま利用でき、営業電話もありません」という匿名のAI査定も公開しています(入力3項目・最短30秒/2026年6月20日 同社発表)。まだ売ると決めていない段階なら、まず匿名のほうで桁だけ確かめてください。ただし匿名で出るのは機械的な概算です。実際の金額を知るには、連絡先を入れて査定を申し込む必要があります(申し込めば担当者から連絡が来ます)。

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    相続放棄と、どちらが良いのか

    よく比較されますが、法務省の公式資料に、相続放棄と本制度の難易度や優劣を比較した記述は見当たりませんでした。法務省のQ&Aは、本制度以外の方法として「相続放棄」「地方公共団体等への寄附」「民間売買・贈与」を並列の選択肢として挙げているだけです。

    ですから、「国庫帰属のほうが簡単」とは書けません。確認できた事実は、手続として軽くはないということだけです——1筆14,000円、標準8か月、却下事由5類型と不承認事由5類型、負担金は最低20万円。

    性質の違いとしてはっきりしているのは、この制度は土地1筆ごとに選べる(法5条2項「承認は、土地の一筆ごとに行うものとする」)のに対し、相続放棄は相続財産全体を放棄するものだという点です。実家の預金は受け取って山だけ手放す、ということは相続放棄ではできません。

    相続放棄そのものについては実家が「負動産」だったら相続放棄すべきかにまとめています。

    よくある質問

    Q. 建物が建ったままでも、いちおう申請して判断してもらえますか。

    A. できません。法2条3項1号が「建物の存する土地」を却下事由としており、申請そのものができません。法務省のQ&Aも、建物がある場合はすべて却下対象で、申請前に取壊しが必要としています。登記の有無は問いません。

    Q. 農地や山林も対象になりますか。

    A. なります。むしろ申請の地目別内訳では田・畑が2,226件で最多です(令和8年6月30日現在)。ただし森林は、手入れ不足で市町村森林整備計画に適合していない場合、不承認事由になり得ます(施行令4条3項3号)。負担金も森林は区域を問わず面積計算です。

    Q. 却下されたら手数料は戻りますか。

    A. 戻りません。取り下げても戻りません。法務省のQ&Aが明記しています。理由は、書面調査・実地調査・関係機関への照会という審査コストが実際に発生するためです。

    Q. 兄弟で共有しています。1人が反対したらどうなりますか。

    A. 申請できません。法2条2項が「共有者の全員が共同して行うときに限り」としています。共有の実家については実家が兄弟の共有になっているを読んでください。

    Q. 負担金の通知が来てから、やめられますか。

    A. できます。30日以内に納付しなければ承認は失効します(法10条)。法務省のQ&Aも「承認後に負担金を支払わないという選択も可能です」としています。ただし審査手数料は返ってきません。

    まとめ

    • 最低21万4千円(手数料14,000円+負担金20万円)。手数料は却下・不承認・取下げのいずれでも返らない
    • 建物が建っていたら申請できない(法2条3項1号)。解体が前提
    • 負担金が面積計算になるのは市街化区域等の宅地・農用地区域等の農地・森林(森林は区域を問わず全部)。それ以外は一律20万円
    • 法令の数値基準は崖(勾配30度以上かつ高さ5メートル以上)の1つだけ
    • 標準処理期間は8か月。解体から数えると1年仕事
    • 統計上の却下・不承認は3.1%だが、取下げ1,063件のうち375件は「通らないと分かって取り下げた」もの
    • 共有地は全員の共同申請が必要

    この記事で確認できなかったこと

    この記事は法務省の公表資料とe-Gov法令検索の条文だけで書いています。次の点は確認できませんでした。

    • 「申請に期限はない」と明言した法務省の記述。法律に期限規定が置かれていないことは条文で確認しましたが、期限がないと断定する公式の文言は見つけられませんでした
    • 施行通達(令和5年2月8日 民二第70号)の本文。「境界が明らかでない」「過分の費用又は労力」といった実務上の判断基準は、この通達に詳細がある可能性がありますが、今回は開いていません
    • 崖の二段構え(基準に該当し、かつ過分の費用を要する)の運用実態を示す公的資料
    • 不承認事由の号ごとの内訳。法務省の統計は却下・不承認の合計件数までで、どの号で落ちたかは公表されていません
    • 都道府県別の内訳、審査中の件数、平均審査日数。いずれも統計ページに掲載がありません
    • 実際の平均処理日数。標準処理期間8か月という目安はQ&Aで確認できましたが、実績値の公表は見当たりません
    • 相談が無料かどうかの明示。法務省の相談窓口のページからは読み取れませんでした
    • 負担金を払わずに失効させたあと、同じ土地で再申請する場合に手数料が再度必要か。「申請をやり直す必要」という記述までで、手数料の扱いは明示されていません
    • 相続放棄との比較。民法の相続放棄に関する条文(915条・940条など)は今回の調査で本文を取得できていません。この記事では、法務省が両者を比較していないという事実だけを書いています

    当サイトには監修者がいません。ここに書いたのは条文と公的資料の内容であって、あなたの土地に当てはめた判断ではありません。申請の前に、必ず法務局の本局に相談してください。相談は事前予約制で、1回30分です。

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  • 実家の相続で兄弟と揉めたとき|10年で消える権利と、決裂したあとに起きること

    【PR】本ページには広告(PR)を含みます。当サイトはこのリンク経由の申込で広告料を受け取りますが、記事の内容や紹介する順番がそれによって変わることはありません。条文はe-Gov法令検索で全文を開いて確認し、手続きは裁判所の公式ページ、件数は最高裁判所の司法統計年報に当たりました(いずれも2026年8月19日確認)。

    最終更新:2026年8月19日

    結論だけ先に

    • 相続開始から10年を過ぎると、特別受益と寄与分は主張できなくなります(民法904条の3)。「親の金で家を建てた」「自分だけが介護した」は、10年で言えなくなります。
    • 止める方法は1つだけ。10年経過前に家庭裁判所へ遺産分割の請求をすることです。兄弟に手紙を出しても、内容証明を送っても止まりません。
    • 調停が決裂しても終わりではありません。遺産分割の調停が不成立になると、申立ての時にさかのぼって審判の申立てがあったものとみなされ、自動的に審判へ移ります(家事事件手続法272条4項)。改めて申し立てる必要はありません。
    • 調停の費用は被相続人1人につき収入印紙1,200円分と連絡用の郵便切手。弁護士がいなくても申し立てられます。
    • 介護したのが子の配偶者(嫁・婿)なら、寄与分ではなく特別寄与料です。ただし相続開始と相続人を知った時から6か月、相続開始から1年で請求できなくなります(民法1050条)。

    根拠と出典は本文にあります。条文番号はすべてe-Gov法令検索で全文を確認したものです。

    揉めているのはあなたの家だけではない、けれど多数派でもありません

    最初に、事実だけを置きます。最高裁判所の司法統計年報(令和7年・家事編)の第2表「家事審判・調停事件の事件別新受件数―全家庭裁判所」によると、「遺産の分割に関する処分など」で新しく家庭裁判所に持ち込まれた件数は4,454件でした。

    同じ資料の系統で、相続放棄の申述受理は令和6年に308,753件あります。母集団も年も違うので単純な比較はできませんが、桁が2つ違います。実家の相続で家庭裁判所まで行く人は、相続そのものの件数から見ればごく一部です。

    手続き 件数 出典
    遺産の分割に関する処分など(新受) 4,454件 最高裁判所 司法統計年報 令和7年 家事編 第2表
    相続放棄の申述受理 308,753件 最高裁判所 司法統計(令和6年)
    年も母集団も異なるため、割合として比べられる数字ではありません。「桁の違い」としてだけ読んでください。
    桁が2つ違います 遺産分割の申立て 4,454件 令和7年 司法統計年報 第2表(新受) 相続放棄の受理 308,753件 令和6年 司法統計 (申述受理) 年も母集団も違うので、割合としては比べられません

    この数字を出したのは、安心してもらうためではありません。「揉めるのはうちだけ」と思って抱え込む必要はないが、「みんな揉めている」わけでもないということです。多くの家は、揉める前に決まっています。決まっている家との違いは、性格でも仲の良さでもなく、数字と期限を先に共有したかどうかであることが多い、というのがこの記事の立場です。

    いちばん先に知るべきは「10年」です

    民法904条の3が、実家の相続の話し合いを根本から変えました。近年の改正で新設された条文です。当サイトは施行日そのものを附則まで当たって確認していないので、日付は書きません。条文はこうです。

    第九百四条の三 前三条の規定は、相続開始の時から十年を経過した後にする遺産の分割については、適用しない。ただし、次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。
    一 相続開始の時から十年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。
    二 相続開始の時から始まる十年の期間の満了前六箇月以内の間に、遺産の分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から六箇月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。

    出典:e-Gov法令検索「民法」(2026年8月19日確認)

    「前三条」とは、903条(特別受益)、904条(贈与の評価)、904条の2(寄与分)です。この3つが、10年を過ぎると使えなくなります。

    10年を過ぎると言えなくなること 条文 ありがちな主張
    特別受益 903条 「兄は家を建てるとき親から1,000万円もらった。その分を差し引くべきだ」
    贈与の評価 904条 「もらった土地を売って使ってしまっても、もらった時の価値で計算すべきだ」
    寄与分 904条の2 「10年間、私だけが親を介護した。その分を上乗せしてほしい」
    10年を過ぎると、遺産は原則として法定相続分どおりに分けることになります。

    止める方法は、条文に1つしか書かれていません。10年を経過する前に、家庭裁判所に遺産の分割の請求をすることです。兄弟に手紙を出しても、内容証明を送っても、話し合いの記録を残しても止まりません。裁判所に対して請求をする必要があります。

    逆に言うと、10年が近づいているのに話し合いが動かないなら、調停を申し立てること自体が「権利を守る手続き」になります。ここは「揉めたくないから我慢する」が、そのまま権利を手放すことになる場面です。

    税のほうにも、別の3年が走っています。申告期限から3年で小規模宅地等の特例が消え、その直後の2か月に出す書類があります。遺産分割がまとまらないときの期限一覧にまとめました。調停を申し立てていること自体が、その申請の添付書類になります。

    なお、10年の起算点は「相続開始の時」=親が亡くなった日です。あなたが相続を知った日ではありません。相続放棄の3か月(民法915条1項)が「自己のために相続の開始があったことを知った時から」であるのとは、起算点の考え方が違います。混同しないでください。放棄の期限については実家が負動産だったら相続放棄すべきかにまとめてあります。

    「特別受益」と「寄与分」は、条文の書き方がまったく違います

    この2つは並べて語られますが、条文を読むと性格が違います。

    特別受益(903条1項)は、対象が限定列挙です。「遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者」。つまり、結婚のための資金、養子縁組のための資金、そして生活の元手になるような贈与です。小遣いや誕生日のプレゼントは入りません。

    計算は、贈与の額を相続財産に足し戻して(持戻し)、その人の相続分から差し引く方式です。

    項目 金額
    亡くなった時点の遺産(実家3,000万円+預金1,000万円) 4,000万円
    兄が家の建築資金として受けた贈与(特別受益) +1,000万円
    みなし相続財産 5,000万円
    兄弟2人の法定相続分(各2分の1/900条1号・4号) 各2,500万円
    兄の取り分(2,500万円 − 贈与1,000万円) 1,500万円
    弟の取り分 2,500万円
    当サイトによる計算例です。実際には評価額の争いや債務の扱いが入るため、この表のように単純にはなりません。
    持ち戻すと、取り分はこうなります 兄(贈与1,000万円あり) 1,500万円 弟 2,500万円 遺産4,000万+兄への贈与1,000万で計算した例

    この計算には例外が2つ、条文に書いてあります。

    • 903条3項——「被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う」。親が「これは持ち戻さなくてよい」と表示していれば、足し戻しません(持戻し免除の意思表示)。
    • 903条4項——婚姻期間が20年以上の夫婦の一方が、他方に居住用の建物又はその敷地を遺贈・贈与したときは、持戻し免除の意思表示があったものと推定されます。父が母に実家を生前贈与していたケースがこれに当たります。

    一方の寄与分(904条の2第1項)は、対象が限定列挙ではありません。「被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者」。

    読みどころは「財産の維持又は増加について」です。気持ちの重さではなく、財産にいくら効いたかで測る建て付けになっています。介護でヘルパー代が浮いた、実家の修繕費を出した、という形で財産に跳ね返ったものが対象になります。そして「特別の」寄与なので、親子として通常期待される程度を超えている必要がある、という建て付けです。

    上限も条文にあります。904条の2第3項——「寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない」。遺産の総額を超える寄与分は認められません。

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    分ける前に、更地にしたときの数字も出しておく

    寄与分も特別受益も、遺産の総額が決まらないと計算できません。建物付きのままか、壊して更地にするかで、その総額は変わります。両方の数字を持って話し合いに臨むほうが、結局は早く終わります。

    ①同社サイトには「ご利用は無料。ご成約後の請求も一切ございません」と書かれています。
    ②同社は「契約まで、業者からご連絡がいくことはございません」と説明しています。
    ③申し込みには物件の情報と写真が要ります。遠方の実家で写真が手元にないなら、次に帰ったときに外観と傷んでいる箇所を撮っておいてください。
    ④解体する予定がないなら申し込まないでください。重複した申込や、連絡先が実在しない申込は無効と明記されています。
    ⑤1社の見積りだけで決めないでください。地元の解体業者にも自分で1社あたって、金額の桁が合っているかを確かめてください。
    ⑥解体補助金を使う予定があるなら、契約・着工の前に自治体へ申請してください。着工後の申請は原則として通りません。

    解体の窓口で、無料シミュレーションを試す

    見積書のどこを見るかは、この記事の見積書の章に戻って確認してください。お住まいの自治体の制度を先に調べておくと、受付期間に間に合うかどうかも一緒に分かります。

    寄与分は、単独では主張できません

    ここは見落とされがちな条文です。

    第九百四条の二 4 第二項の請求は、第九百七条第二項の規定による請求があった場合又は第九百十条に規定する場合にすることができる。

    出典:e-Gov法令検索「民法」(2026年8月19日確認)

    907条2項の請求とは、遺産分割を家庭裁判所に請求することです。つまり「寄与分だけを裁判所に決めてもらう」ことはできません。遺産分割の調停や審判が動いているという土台があって、はじめて寄与分を定める請求ができます。

    実務上の意味は単純です。「介護の分を認めてほしい」と言い続けても、遺産分割の手続きを起こさなければ、裁判所は取り合いようがありません。そして10年が過ぎれば、その主張自体ができなくなります(904条の3)。寄与分を本気で主張するつもりなら、遺産分割の申立てから逃げられないという構造です。

    介護したのが「嫁」だったときは、別の条文です

    寄与分(904条の2)の主語は「共同相続人中に」です。相続人でない人は使えません。長男の妻が義父母を介護しても、彼女は相続人ではないので寄与分を主張できません。

    民法1050条(特別の寄与)が、この穴を埋めました。

    第千五十条 被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族(相続人、相続の放棄をした者及び第八百九十一条の規定に該当し又は廃除によってその相続権を失った者を除く。…)は、相続の開始後、相続人に対し、特別寄与者の寄与に応じた額の金銭…の支払を請求することができる。

    出典:e-Gov法令検索「民法」(2026年8月19日確認)

    寄与分(904条の2) 特別寄与料(1050条)
    使える人 共同相続人 被相続人の親族(相続人・放棄した者・欠格・廃除を除く)
    対象になる行為 事業の労務提供/財産上の給付/療養看護その他 無償の療養看護その他の労務の提供
    請求する相手 遺産分割の手続きの中 相続人に対して直接
    期限 10年(904条の3) 相続開始及び相続人を知った時から6か月/相続開始から1年
    上限 遺産の価額から遺贈を控除した残額 同左(1050条4項)
    相続人が複数のとき — 各相続人が相続分に応じて負担(1050条5項)
    出典:e-Gov法令検索「民法」(2026年8月19日確認)。
    相続人かどうかで、使う条文が変わる 寄与分 904条の2 共同相続人だけ 遺産分割の中で 対象は労務や給付 特別寄与料 1050条 相続人以外の親族 相続人に直接請求 無償の療養看護など 長男の妻が介護しても、寄与分は主張できません

    期限の短さが決定的です。6か月です。四十九日を終え、遺品整理をして、ようやく実家をどうするかという話が始まる頃には、もう半分が過ぎています。介護をしたのが相続人でない家族なら、他の何よりも先にこの話をしてください。

    また、条文は「無償で」と書いています。生活費をもらっていた、お礼として現金を受け取っていた、という事情があると、そこが争点になります。逆に、無償で介護していたなら、介護日誌・領収書・通院の付き添い記録が、そのまま証拠になります。捨てないでください。

    主張できる期間は、条文で違います 6か月 特別寄与料(相続開始と相続人を知った時から) 1年 特別寄与料(相続開始から) 10年 特別受益と寄与分(904条の3)

    話し合いの前に、数字を1枚にする

    兄弟の話し合いが止まる原因は、感情だけとはかぎりません。よくあるのは「実家がいくらなのか、誰も知らないこと」です。金額が分からないまま「兄さんが住めばいい」「私は現金がほしい」と言い合っても、どちらが得なのか誰にも判定できません。

    先に用意する数字は4つです。全部、無料か数百円で分かります。

    調べるもの やり方 費用と時間
    実家の売却相場 固定資産税の課税明細書、路線価、成約事例から自分で出す 0円/30分。実家の売却相場を自分で調べる3つの方法
    年間の維持費 固定資産税・火災保険・水道光熱の基本料金・管理の交通費を足す 0円/15分。空き家の維持費は年間いくらか
    解体した場合の費用 構造と坪数から概算し、補助金の有無を自治体で確認 0円/10分。解体費用シミュレーターと全国501自治体の解体補助金データベース
    売ったときの税金 取得費・譲渡費用・特例の可否を確認する 0円/20分。譲渡所得税と空き家の3,000万円特別控除
    この4つを1枚の紙にして、先に全員へ同じものを配ってください。数字が共通になるだけで、議論の対象が「気持ち」から「選択肢」に変わります。

    相続税の申告が必要な家では、小規模宅地等の特例と取得費加算の特例も一緒に確認してください。誰が実家を取るかによって、相続税も譲渡所得税も変わります。取り分の話をする前に、税額がいくら動くのかを知っておかないと、あとで「そんな話は聞いていない」になります。

    葬儀費用や当面の生活費は、話がまとまる前でも預金から出せます

    「口座が凍結されて、葬儀代も出せない」という話をよく聞きます。民法909条の2で、この状況は変わりました。

    第九百九条の二 各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の三分の一に第九百条及び第九百一条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(…預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。

    出典:e-Gov法令検索「民法」(2026年8月19日確認)

    法務省令で定める額は150万円です(民法第九百九条の二に規定する法務省令で定める額を定める省令・平成30年法務省令第29号・令和元年7月1日施行)。

    前提 計算 単独で払い戻せる額
    A銀行に600万円/相続人は子2人(各2分の1) 600万 × 1/3 × 1/2 = 100万 100万円
    A銀行に1,200万円/相続人は子2人(各2分の1) 1,200万 × 1/3 × 1/2 = 200万 → 上限150万 150万円
    A銀行900万円・B銀行900万円/子2人 各行 900万 × 1/3 × 1/2 = 150万 合計300万円(上限は金融機関ごと)
    当サイトによる計算です。条文の上限は「預貯金債権の債務者ごと」=金融機関ごとと書かれています。実際の手続きや必要書類は各金融機関で異なるので、窓口で確認してください。

    ただし条文の後段に重要な但し書きがあります。「当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす」。もらい得ではありません。あとの遺産分割で、その分は取り分から差し引かれます。使ったら、必ず記録と領収書を残してください。

    「とりあえず共有名義」がいちばん危ない

    結論が出ないまま「では法定相続分どおり、兄弟で2分の1ずつの共有にしておこう」で登記してしまう。これは、あとで身動きが取れなくなる着地です。

    民法898条1項は「相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する」と定めています。分割前は当然に共有ですが、共有のまま登記を確定させると、遺産分割の問題から共有物の問題へ移ってしまいます。そして共有物のルールは、こうなっています。

    やりたいこと 必要な同意 条文
    売る・建て替える・取り壊す(変更) 共有者全員 民法251条1項
    人に貸す(管理・建物は3年以内) 持分の価格の過半数 民法252条1項・4項
    修繕する(保存行為) 単独でできる 民法252条5項
    自分の持分だけを売る 単独でできる —(持分は自分の財産)
    出典:e-Gov法令検索「民法」。2分の1ずつの共有では「持分の価格の過半数」に届かないため、貸すことすらできません。
    2分の1ずつだと、できることは2つ 売る・建て替える 共有者全員の同意が必要です 251条1項 人に貸す 持分の価格の過半数が必要です 252条1項 修繕する 単独でできます 252条5項 自分の持分を売る 単独でできます 持分は自分の財産 2分の1と2分の1は、過半数ではありません

    2分の1と2分の1は、過半数ではありません。兄弟2人の共有では、売ることも貸すこともできない状態が固定されます。そして持分だけは単独で売れるので、関係がこじれた側が業者に持分を売り、見知らぬ会社が共有者として現れる、という展開があり得ます。

    もう1つ、住んでいる相続人がいる場合に効く条文があります。民法249条2項——「共有物を使用する共有者は、別段の合意がある場合を除き、他の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負う」。実家に兄が1人で住み続けているなら、持分を超える分の対価を請求できます。詳しくは実家が兄弟の共有になっている場合にまとめました。

    共有は「決められないことを先送りする方法」に見えて、実際は「決められない状態を固定する方法」です。先送りするなら、登記をせずに遺産分割未了のまま置くほうがまだ選択肢が残ります。ただしその場合も、相続登記の申請義務(相続登記の義務化)と904条の3の10年は別に走っていることを忘れないでください。

    分け方を決める前に、いくらで売れるのかを1つ出しておいてください。金額がないまま話し合うと、どうしても感情の議論になります。第三者が出した数字が1枚あるだけで、話し合いの土台が変わります。査定は無料で、売らなくても費用はかかりません。

    先に場所を確認してください。不動産SHOPナカジツが受け付けられるのは愛知・岐阜・静岡・千葉・埼玉・福岡・熊本とその周辺だけです(全40店舗のうち39店舗がこの7県。同社の店舗一覧で確認/2026年8月19日)。それ以外の道府県にある実家は、申し込んでも査定は返ってきません。対象外の方は、ラクウルの買取査定のほうをご覧ください。

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    査定を出したあとは、媒介契約の種類を決める段階です。この記事で書いたレインズの登録証明書の確認と、仲介と買取の違いを、契約書に判を押す前に済ませておいてください。

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    話し合いが止まっているなら、金額を1つ用意してください

    この記事で書いたとおり、話し合いが止まる原因の一つは「実家がいくらなのか、誰も知らないこと」です。代償金を用意できる人がいないなら、売って現金で分ける(換価分割)が現実的な出口になります。そのとき要るのは、全員が同じものを見られる1つの金額です。ラクウルは自社で買い取る会社で、全国が対象、メールでも手続きが進みます。仲介と違って買主を探す期間がないので、「今この家を現金にするといくらか」という下限の目安が早く手に入ります。

    先に、いちばん大事なことを書きます。この記事が勧めているのは、実家全体の金額を知ることであって、あなたの持分だけを売ることではありません。持分は単独で売れてしまいますが、黙って売れば兄弟との関係は決定的に壊れますし、買った業者から共有物分割を求められることもあります。そして実家そのものの売買契約は、共有者全員の同意がないと結べません(民法251条1項)。査定の申込みは1人でできますが、契約は1人ではできません。そのうえで、①買取は仲介より手取りが下がります。買主を探す手間とリスクを業者が引き受ける分が価格から引かれます。仲介の金額も知りたい場合は一括査定サイトの比較を見てください。②問い合わせ後、電話またはメールで物件の状況を聞かれます。メールでも進むので、電話が苦手な方でも構いません。③LINEからの相談は対象外です。④売却を考えていない相談は対象外です。売る方向がまったく固まっていない段階なら、先に実家の売却相場を自分で調べる3つの方法で無料の調べ方を試してください。

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    金額が出たら、遺産分割協議書か調停調書に「売って分ける」と書いてください。口約束のままだと、あとで1人が翻意した時点で全部止まります。売り方の選択は仲介と買取の違い、手取りの計算は譲渡所得税にまとめてあります。

    遺産分割調停は、思っているより軽い手続きです

    「裁判所」と聞くと身構えますが、遺産分割の調停は裁判ではありません。調停委員が間に入って話を整理する手続きで、相手と直接顔を合わせない運用が一般的です。裁判所の公式ページには「当事者双方から事情を聴いたり、必要に応じて資料等を提出してもらったり…解決案を提示したり、解決のために必要な助言をし、合意を目指し話合いが進められます」と書かれています。

    項目 内容
    申立先 相手方のうちの一人の住所地の家庭裁判所、又は当事者が合意で定める家庭裁判所
    費用 被相続人1人につき収入印紙1,200円分+連絡用の郵便切手(額は裁判所ごとに異なる)
    主な書類 申立書、事情説明書、進行に関する照会回答書、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本類、相続人全員の戸籍謄本、住民票または戸籍附票、不動産登記事項証明書、固定資産評価証明書 など
    戸籍が揃わないとき 「申立前に入手できない戸籍等がある場合は、その戸籍等は申立後に追加提出することでも差し支えありません」
    戸籍の代わり 「法定相続情報一覧図の写し」を提出できる場合があります
    弁護士 必須ではありません。本人だけで申し立てられます
    出典:裁判所「遺産分割調停」(2026年8月19日確認)。申立書の書式と記載例は裁判所のウェブサイトからダウンロードできます。

    戸籍を集めるところでつまずく人が多いので、2つだけ実務の話をします。令和6年3月1日から戸籍の広域交付が始まり、本籍地以外の市区町村の窓口でも、まとめて請求できるようになりました。ただし郵送請求と代理人による請求は対象外で、コンピュータ化されていない古い戸籍も対象外です。法定相続情報一覧図は法務局に申し出て作ってもらう一覧図で、申出は本籍地・最後の住所地・申出人の住所地・不動産の所在地のいずれかの法務局から選べます。作っておくと、裁判所にも銀行にも同じ1枚で足ります。

    ここで、条文の話を1つ。「遺産分割は調停前置だ」と書いている解説を見かけますが、条文はそう読めません。家事事件手続法257条1項は「第二百四十四条の規定により調停を行うことができる事件について訴えを提起しようとする者は、まず家庭裁判所に家事調停の申立てをしなければならない」と定めています。主語は「訴えを提起しようとする者」です。遺産分割は訴訟ではなく別表第二の審判事項なので、いきなり審判を申し立てることもできます。ただし裁判所は同法274条1項により職権で調停に付すことができるので、結果として調停から始まることが多い、というのが実際です。

    調停が決裂しても、そこで終わりではありません

    ここが、この記事でいちばん伝えたいことです。

    第二百七十二条 4 第一項の規定により別表第二に掲げる事項についての調停事件が終了した場合には、家事調停の申立ての時に、当該事項についての家事審判の申立てがあったものとみなす。

    出典:e-Gov法令検索「家事事件手続法」(2026年8月19日確認)

    遺産分割は別表第二の事項です。したがって調停が不成立になった瞬間、自動的に審判へ移ります。しかも「家事調停の申立ての時に」申立てがあったものとみなされるので、時間が巻き戻ります。裁判所の公式ページも「話合いがまとまらず調停が不成立になった場合には自動的に審判手続が開始され、裁判官が、遺産に属する物又は権利の種類及び性質その他一切の事情を考慮して、審判をすることになります」と説明しています。

    審判では、裁判官が民法906条の基準で決めます。

    第九百六条 遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。

    出典:e-Gov法令検索「民法」(2026年8月19日確認)

    つまり「話し合いが決裂したら、実家は永遠に宙に浮く」わけではありません。最後は裁判所が決めます。この事実を知っているかどうかで、交渉の姿勢は変わります。「折れなければ相手も動けない」という膠着は、遺産分割については成立しません。

    そしてもう1つ。調停で合意ができた場合、その調書は確定した審判と同一の効力を持ちます(家事事件手続法268条1項)。口約束や私製の覚書とは強さがまったく違います。代償金の支払いが約束どおり行われないときも、調書があれば強制執行に進めます。

    10年を過ぎると、調停をやめるのにも相手の同意が要ります

    あまり知られていない条文です。

    第二百七十三条 2 前項の規定にかかわらず、遺産の分割の調停の申立ての取下げは、相続開始の時から十年を経過した後にあっては、相手方の同意を得なければ、その効力を生じない。

    出典:e-Gov法令検索「家事事件手続法」(2026年8月19日確認)

    民法904条の3の裏返しです。10年経過前に申し立てれば特別受益・寄与分の主張が守られますが、10年を過ぎたあとに一方的に取り下げて、その保護を消してしまうことはできないという設計になっています。

    実務的な意味は2つあります。第一に、10年が近い家では「とりあえず申し立てておく」判断に合理性があります。第二に、申し立てたあとは自分の都合だけでは引き返せなくなる場面があるということです。軽い気持ちで出すものではありませんが、期限が迫っているなら、出さないほうがリスクが大きくなります。

    やってはいけないこと

    やってはいけないこと なぜか
    「とりあえず共有名義」で登記する 2分の1ずつでは売ることも貸すこともできなくなります(251条1項・252条1項)
    10年を意識せずに放置する 特別受益も寄与分も主張できなくなります(904条の3)
    介護をした義理の家族の話を後回しにする 特別寄与料は6か月/1年で請求できなくなります(1050条2項)
    遺産分割の前に、遺産の不動産や車を勝手に処分する 906条の2は、他の相続人全員の同意で「遺産にあるものとみなす」ことができ、処分した本人の同意は不要と定めています(同条2項)。処分しても計算からは逃げられません
    相続分を第三者に譲り渡す 他の共同相続人が価額と費用を償還して取り戻せます(905条1項)。ただし行使は1か月以内(同2項)
    感情の記録だけを積む 寄与分は「財産の維持又は増加について」の寄与です。日誌に書くべきは気持ちではなく、払った金額と、浮いた費用と、費やした時間です
    出典:e-Gov法令検索「民法」(2026年8月19日確認)。

    弁護士に頼むかどうかの判断

    調停は本人だけで申し立てられます。それでも依頼を検討したほうがよい場面は、条件で切り分けられます。

    状況 目安
    相続人が2〜3人、遺産は実家と預金だけ、争点は「誰が実家を取るか」 まず自分で申立て。書式は裁判所のサイトにあります
    相続開始から10年が近い 期限が最優先。間に合わせるために、まず申立て
    特別受益や寄与分の金額が数百万円以上動く 相談だけでもしたほうがよい場面です
    相続人に行方不明者・認知症の方がいる 不在者財産管理人や成年後見の手続きが先に必要になります。認知症の親の家を参照
    相手方に弁護士が付いた こちらも付けたほうが対等になります

    費用が心配なら、法テラス(日本司法支援センター)の民事法律扶助があります。収入・資産の要件を満たす場合に、無料の法律相談と弁護士費用の立替えを利用できる制度です。当サイトでは、令和8年時点の具体的な資力基準の数値を確認していません。利用の可否と金額は法テラスに直接確認してください。

    よくある質問

    Q. 親が亡くなってから何年も経っています。もう手遅れですか。

    A. 10年を過ぎているかどうかで答えが変わります。

    10年以内なら、まだ間に合います。特別受益(903条)も寄与分(904条の2)も主張できます。ただし止めるには家庭裁判所への遺産分割の請求が必要です(904条の3第1号)。話し合いを続けているだけでは止まりません。

    10年を過ぎている場合でも、遺産分割そのものはできます。期限が切れるのは特別受益と寄与分の主張であって、分割の権利ではありません。原則として法定相続分(民法900条)で分けることになります。兄弟2人なら2分の1ずつです。

    まずやることは3つです。①親が亡くなった日を確認する(除籍謄本で分かります)。②10年までの残りを数える。③残りが1年を切っていて、話し合いが動いていないなら、調停の申立てを準備する。申立ての費用は収入印紙1,200円分と郵便切手だけです。

    相続登記の期限は別に走っています。相続登記の義務化を確認してください。

    Q. 兄が実家に住み続けています。家賃を請求できますか。

    A. 請求できる場合があります。民法249条2項に「共有物を使用する共有者は、別段の合意がある場合を除き、他の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負う」と書かれています。

    ポイントは「別段の合意がある場合を除き」です。親が生前「長男に住まわせる」と決めていた、相続人の間で当面住むことを了解していた、という事情があると、そこが争点になります。

    手順としては、①持分割合を確定する(遺産分割が済んでいなければ法定相続分)②近隣の賃料相場を調べる(不動産ポータルで同じ広さ・築年数の賃貸を見れば目安は出ます)③持分を超える分を計算する、という順です。金額を出したうえで、遺産分割の話し合いの中で調整するのが現実的です。使用対価だけを切り離して請求すると、話が余計にこじれます。

    詳しくは実家が兄弟の共有になっている場合にまとめました。

    Q. 実家は兄が取り、私は現金がほしい。そんな分け方はできますか。

    A. できます。代償分割と呼ばれる方法で、実家を取る人が他の相続人に金銭(代償金)を支払います。

    実家に住み続けたい相続人がいる家では、よく選ばれる形です。ただし代償金を用意できるかどうかがすべてで、ここで詰まる家が多くあります。

    詰まったときの選択肢は3つです。①換価分割——売って現金で分ける。取り分が金額で確定するので、争点が減ります。②現物分割——土地が広ければ分筆する。ただし接道や建ぺい率の制約があるので、先に市区町村の建築指導課で確認してください。③共有——おすすめしません。理由は本文の「とりあえず共有名義がいちばん危ない」に書きました。

    換価分割を選ぶ場合は、売却価格が全員の取り分に直結します。一括査定サイトの比較と仲介と買取の違いを先に読んでおくと、金額の妥当性を自分で判断できます。手取りで比べるために譲渡所得税も確認してください。

    Q. 調停には必ず出席しないといけませんか。相手と顔を合わせたくありません。

    A. 相手と同席する運用にはなっていません。調停は調停委員が当事者から交互に事情を聴く形で進みます。待合室も分けられているのが通常です。

    遠方に住んでいて出頭が難しい場合には、家事事件手続法270条1項の「調停条項案の書面による受諾」という制度があります。「当事者が遠隔の地に居住していることその他の事由により出頭することが困難であると認められる場合」に、あらかじめ提示された調停条項案を受諾する旨の書面を出せば、合意が成立したものとみなされます。

    また同法268条3項の書きぶりから、映像と音声の送受信による方法(ウェブ会議)が制度上想定されていることが読み取れます。ただし各家庭裁判所で実際にどこまで運用されているかは、当サイトでは確認していません。申立てを予定している家庭裁判所に直接聞いてください。管轄は相手方のうち一人の住所地の家庭裁判所です。

    Q. 兄弟の1人が話し合いに応じません。連絡も取れません。

    A. 応じない相手がいることは、調停を申し立てられない理由になりません。むしろ「協議をすることができないとき」として、家庭裁判所に請求できる場面です(民法907条2項)。

    連絡先が分からない場合は、まず戸籍の附票を取ってください。住民票の異動が記録されているので、現住所をたどれます。相続人であることを示せば取得できます。

    それでも所在が分からない場合は、不在者財産管理人(民法25条)の選任を家庭裁判所に申し立てる方法があります。管理人が本人に代わって遺産分割に参加します。生死不明が長期にわたるときは失踪宣告という手続きもあります。

    いずれも時間がかかるので、10年の期限がある家では早く動いてください。手続きの詳細と費用は、申立先の家庭裁判所の手続案内で確認できます。

    Q. 葬儀費用を立て替えました。遺産から返してもらえますか。

    A. 葬儀費用の負担者について、民法に定めはありません。当サイトが確認した範囲では、条文に「葬儀費用は相続財産から支出する」といった規定は見つかりませんでした。実務では遺産分割の話し合いの中で調整されることが多い項目です。

    ただし、支払いの原資を作る制度はあります。民法909条の2の預貯金の払戻しです。相続開始時の残高の3分の1に自分の相続分を掛けた額まで、金融機関ごとに150万円を上限として、単独で払い戻せます。条文の考慮要素にも「平均的な葬式の費用の額」が挙げられています。

    やることは2つです。①領収書と明細を全部残す。香典の額も記録してください。②払い戻した分は遺産の一部分割で取得したものとみなされる(909条の2後段)ので、あとで取り分から差し引かれることを最初に全員へ伝えておく。ここを黙っていると、あとで「勝手に引き出した」という話になります。

    Q. 生前に親から住宅資金をもらった兄がいます。証拠がありません。

    A. 特別受益(民法903条1項)の主張には、贈与があったことを示す資料が要ります。記憶や伝聞だけでは動きません。

    探せるものを挙げます。①親の預金通帳と取引履歴——金融機関に相続人として開示請求できます。大きな出金の時期が分かれば、住宅の登記の時期と突き合わせられます。②兄の家の登記事項証明書——法務局で誰でも取得できます。取得の時期と、抵当権の設定額が分かります。借入額が少なければ、その差額の出どころが問題になります。③贈与税の申告の有無——本人以外は確認できませんが、調停の中で開示を求めることはできます。

    そして期限です。10年を過ぎると、この主張自体ができなくなります(904条の3)。資料を完璧に揃えてから申し立てようとすると、間に合わないことがあります。資料が不完全でも、まず期限内に申し立ててください。資料は手続きの中でも集められます。

    Q. 母の介護を10年しました。兄は何もしていません。取り分は増えますか。

    A. 寄与分(民法904条の2)の対象になり得ますが、認められるハードルは条文が想定しているより高いと考えておいてください。条文は「被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与」と書いています。大変だったかどうかではなく、財産にいくら効いたかで測る建て付けです。

    したがって記録すべきは、①あなたが払った金額(医療費・おむつ代・住宅改修費の領収書)②浮いた費用(介護保険サービスを使わなかった分。ケアプランや要介護認定の記録が残っていれば、必要だったサービス量が分かります)③費やした時間(介護日誌、通院の付き添い記録)です。

    手続きの注意が1つあります。寄与分だけを裁判所に決めてもらうことはできません。904条の2第4項が、寄与分の請求は遺産分割の請求(907条2項)があった場合にできると定めているからです。遺産分割の調停か審判を申し立てるところから始まります。

    そして10年(904条の3)。介護が長かった家ほど、相続開始からの年数も経ちがちです。先に日付を数えてください。

    Q. 私は長男の妻です。義父の介護をしました。相続人ではありませんが、何かもらえますか。

    A. 特別寄与料(民法1050条)を、相続人に対して直接請求できます。相続人でなくても、被相続人の親族であれば対象になります。

    ただし期限が非常に短いので、これを最初に読んでください。1050条2項——「特別寄与者が相続開始及び相続人を知った時から六箇月を経過したとき、又は相続開始の時から一年を経過したときは、この限りでない」。協議が調わない場合に家庭裁判所へ処分を請求できる期間が、6か月/1年で終わります。

    要件でとくに注意すべきは「無償で」です。生活費を受け取っていた、お礼として現金をもらっていた、という事情があると争点になります。逆に、無償で介護していたなら、介護日誌・領収書・通院の付き添い記録がそのまま証拠になります。

    請求する相手は相続人です。相続人が複数いる場合、各相続人は相続分に応じた額を負担します(1050条5項)。義兄弟が2人なら、それぞれに2分の1ずつ請求する形になります。四十九日が済んだら、すぐに動いてください。

    Q. 話し合いで決まったことを、口約束のままにしていて大丈夫ですか。

    A. やめてください。遺産分割協議が成立したら、必ず遺産分割協議書を作って、相続人全員が署名し、実印を押して印鑑証明書を添えてください。

    理由は3つあります。①相続登記に必要です。法定相続分と違う分け方をするなら、協議書がないと登記できません。②金融機関の手続きに必要です。③言った・言わないを防げます。とくに代償金を分割払いにする場合は、金額・支払期日・振込先を明記してください。

    もし調停で決めたなら、調停調書がその役割を果たします。調停調書は、別表第二の事項について確定した審判と同一の効力を持ちます(家事事件手続法268条1項)。代償金が約束どおり支払われないとき、私製の協議書だと訴訟から始めることになりますが、調停調書ならそのまま強制執行に進めます。金額が大きいときや、相手の支払能力に不安があるときは、調停で決めておく価値があります。

    まとめ

    1. 相続開始から10年で、特別受益と寄与分は主張できなくなります(民法904条の3)。止められるのは家庭裁判所への遺産分割の請求だけです。
    2. 寄与分だけを単独で請求することはできません(904条の2第4項)。遺産分割の手続きが土台になります。
    3. 介護したのが相続人でない家族なら、期限は6か月/1年です(1050条2項)。最優先で話してください。
    4. 葬儀費用と当面の資金は、金融機関ごと150万円まで単独で払い戻せます(909条の2+平成30年法務省令第29号)。ただしあとで取り分から差し引かれます。
    5. 「とりあえず共有名義」は、決められない状態を固定します。2分の1ずつでは貸すことすらできません(251条1項・252条1項)。
    6. 調停の費用は収入印紙1,200円分と郵便切手。弁護士は必須ではありません。
    7. 調停が決裂しても自動的に審判に移ります(家事事件手続法272条4項)。最後は裁判所が決めるので、膠着は続きません。
    8. 10年を過ぎると、調停の取下げにも相手方の同意が必要になります(同273条2項)。

    この記事で確認できなかったこと

    • 遺産分割事件の遺産価額別の分布。司法統計の第52表(遺産分割事件のうち認容・調停成立件数)の個票PDFは閲覧できましたが、そのファイルに年の表記がなく、何年の統計か特定できませんでした。裁判所のサイトには「年報の詳細検索は令和2年までの年報が対象」とあるため、当該PDFは令和2年以前のものである可能性があります。年が確定できない数字は本文に載せていません。
    • 遺産分割事件の平均審理期間。令和7年司法統計年報の目次に第45表(遺産分割事件数 終局区分別審理期間及び実施期日回数別)があることは確認しましたが、本文の数値まで読み取れませんでした。
    • 寄与分・特別寄与料が実際に認められた件数と金額の水準。公表統計から抽出できませんでした。「認められにくい」と書いている解説は多くありますが、その根拠となる一次データを当サイトでは確認していません。
    • 法テラスの民事法律扶助の資力基準(令和8年時点の具体的な金額)。確認していないため、数値を書いていません。
    • 各家庭裁判所でウェブ会議による調停がどこまで運用されているか。条文上の根拠は確認しましたが、運用の実態は確認していません。
    • 葬儀費用を誰が負担するかについての民法の規定。探した範囲では見つかりませんでした。「見つからなかった」であって「存在しない」と断定はしていません。
    • 民法904条の3・1050条の施行日と経過措置。条文の本文はe-Gov法令検索で確認しましたが、いつの相続から適用されるのかを附則まで当たって確認していません。10年の起算日が微妙な方は、家庭裁判所か弁護士に確認してください。
    • 「特別の寄与」と評価される具体的な線引き。条文には基準が書かれておらず、裁判例の検討が必要な領域です。当サイトは裁判例を確認していません。

    あわせて読みたい

    越境した枝は、切れるようになりました——2023年4月の民法233条改正。相続登記のされていない空き家は「所有者が分からない」に当たり得ます。

  • 空き家バンクは売れるのか|調べて分かった「補助金の入口」という使い道

    【PR】本ページはプロモーションを含みます。

    本ページには広告(PR)を含みます。条文は空家等対策の推進に関する特別措置法をe-Gov法令検索で全文開いて確認し、統計は国土交通省「全国版空き家・空き地バンク」(令和8年7月末時点)と総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査」の公表資料に当たりました。自治体の制度は当サイトが独自に調査した501自治体のデータベースから集計しています(2026年8月17日確認)。孫引きはしていません。

    最終更新:2026年8月17日

    結論だけ先に

    空き家バンクは、法律にない制度です。空家等対策の推進に関する特別措置法を全文検索しても、「バンク」という語は一度も出てきません。市町村が自主的にやっている取り組みなので、あるかないかも、登録できるかも、載せて売れるかも、自治体ごとに全部違います。

    そして、思っているほど売れていません。国が運営する全国版バンクの成約は、本格運用から約8年で累計およそ26,000件。一方、放置されている空き家(その他の住宅)は385万6千戸あります。

    ただし、売る場所として見るから期待外れになるのだと思います。この記事の後半で、当サイトが501自治体の解体補助金を1件ずつ調べて分かったことを出します。空き家バンクは「売る場所」ではなく「補助金の入口」として機能している自治体があります。

    ★ 空家法に「バンク」という言葉はありません

    空き家の解説記事は、たいてい「空家等対策特別措置法に基づく空き家バンク」と書きます。これは正確ではありません。e-Gov法令検索で空家等対策の推進に関する特別措置法(平成26年法律第127号)の全文を開いて「バンク」で検索すると、ヒットは0件です。

    法律が定義しているのは、まず「空家等」そのものです。

    この法律において「空家等」とは、建築物又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの及びその敷地(立木その他の土地に定着する物を含む。)をいう。ただし、国又は地方公共団体が所有し、又は管理するものを除く。

    出典:空家等対策の推進に関する特別措置法第2条第1項(e-Gov法令検索で全文を確認/2026年8月17日)

    バンクに一番近い条文は、第11条です。

    市町村は、空家等…に関するデータベースの整備その他空家等に関する正確な情報を把握するために必要な措置を講ずるよう努めるものとする。

    出典:同法第11条

    「データベース」であって「バンク」ではありません。しかも第11条のデータベースは、行政が空き家の場所と状態を把握するためのものです。売買情報を公開して買い手を探す仕組みのことではありません。さらに条文には、不動産業者が販売・賃貸のために所有・管理している物件は除くという括弧書きが入っています。

    所有者に向けた支援を定めているのは第12条です。

    市町村は、所有者等による空家等の適切な管理を促進するため、これらの者に対し、情報の提供、助言その他必要な援助を行うよう努めるものとする。

    出典:同法第12条

    空き家バンクは、この「情報の提供、助言その他必要な援助」の枠でやられている、市町村の自主事業です。努力義務ですから、やらなくても違法ではありません。だから隣の市にはあってこちらの市にはない、登録できる築年数が違う、掲載の期限が違う——といったことが平気で起こります。

    ここを間違えると全部ずれます

    「国の制度だから全国どこでも同じルール」ではありません。全国版空き家・空き地バンクという国交省の横断検索サイトは存在しますが、それは各自治体のバンクの情報を集めて表示しているサイトであって、登録の可否も条件も、決めているのは市町村です。まず、あなたの実家がある市町村にバンクがあるかどうかから調べてください。

    数字で見ると、どのくらいの規模なのか

    国土交通省が公表している全国版空き家・空き地バンクの実績です。

    項目 数値
    参加自治体数 1,148自治体
    実際に物件を掲載している自治体 744自治体
    現在掲載されている物件数 19,626戸(2社合計・重複あり)
    成約済み物件(累計) 約26,000件
    運営 株式会社LIFULL/アットホーム株式会社の2社
    試行運用の開始 平成29年10月
    本格運用の開始 平成30年4月

    出典:国土交通省「全国版空き家・空き地バンク」(令和8年7月末時点)

    比べる相手が要ります。総務省統計局の住宅・土地統計調査です。

    区分 2023年(令和5年) 2018年からの増減
    空き家 総数 900万2千戸(空き家率13.8%) +51万3千戸
    賃貸用の空き家 443万6千戸 —
    売却用の空き家 32万6千戸 —
    二次的住宅(別荘等) 38万4千戸 —
    賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家
    (いわゆる放置空き家)
    385万6千戸 +36万9千戸

    出典:総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計(確報集計)結果」

    実家じまいで問題になるのは、一番下の385万6千戸です。賃貸に出しているわけでも、売りに出しているわけでも、別荘でもない。ただ誰も住んでいない家。親が亡くなった実家、施設に入ったあとの実家は、ここに入ります。

    ★★ 放置空き家の99.5%は、そもそも載っていません

    「載せても売れないのでは」と考える前に、確かめておくべき数字があります。国交省の資料によれば、全国版バンクに現在掲載されている物件は19,626戸です(2社合計・重複あり・各月末日時点の掲載中件数)。

    戸数 放置空き家に対する割合
    放置空き家(その他の住宅) 3,856,000戸 100%
    全国版バンクに今、載っている物件 19,626戸 約0.5%
    載っていない 約3,836,000戸 約99.5%

    出典:国土交通省「全国版空き家・空き地バンク」参加自治体数・物件掲載件数推移/総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査」。割合は当サイトによる計算です。

    載っているのは200戸に1戸 19,626 戸 / 全国385万6千戸 載っている 19,626戸(0.5%) 載っていない 約3,836,000戸

    200戸に1戸しか載っていません。空き家バンクは「売れない場所」だと言われがちですが、その前に「誰も使っていない仕組み」だというのが実態に近いです。

    なぜ載せないのか。理由は分けて考えられます。①自治体にバンクがない(掲載している自治体は744/1,741です)/②所有者が制度を知らない/③登録の手間に見合わないと判断している/④そもそも売る決断ができていない(国交省の調査では「将来、自分や親族が使うかもしれない」が33.8%)。

    競合の少なさは、使う側から見れば有利です

    0.5%という数字は、裏から読むこともできます。掲載件数が19,626戸ということは、ひとつの自治体あたり平均26戸ほどしか載っていない計算になります(19,626 ÷ 744自治体)。ページに並ぶ物件が数十件しかない、ということです。

    移住や二拠点生活を考えている人が「この町の空き家」を探すとき、候補がそれだけしかないなら、載っていること自体の露出は小さくありません。数万件が並ぶ大手ポータルの中で埋もれるのとは、見え方が違います。

    ただしそれは「探しに来る人がいれば」の話です。成約が年3,100件程度にとどまっているのは、物件が少ないのと同じくらい、探しに来る人も少ないということでもあります。

    ★ 8年かけて26,000件。放置空き家148戸に1件です

    この2つを並べると、規模感がはっきりします。

    数
    放置空き家(その他の住宅) 3,856,000戸
    全国版バンクの累計成約(約8年4か月分) 約26,000件
    比率 約148戸に1件
    1年あたりに直すと 約3,100件/年(放置空き家の約0.08%)

    ※当サイトによる計算です。3,856,000 ÷ 26,000 ≒ 148。本格運用開始(平成30年4月)から令和8年7月末までを約8年4か月として年換算しました。

    正直に注記します。この約26,000件は全国版を通じた成約の累計です。自治体が独自サイトだけで運用していて全国版に載せていないケースや、バンクをきっかけに直接取引になった分は、この数字に入っていない可能性があります。だから実際の成約はもう少し多いはずです。それでも、385万戸に対する桁が変わるほどではありません。

    この数字の読み方

    「空き家バンクに載せれば売れる」という前提は、いったん外してください。そのうえで、載せること自体には別の意味があります。後半で出す自治体の補助金要件が、その理由です。

    逆に、売ることが目的で、実家がまだ普通に住める状態なら、仲介や買取のほうが早いです。バンクは「不動産会社が扱ってくれない物件の受け皿」として設計されている面が強く、市場で売れる家をわざわざ載せる理由は薄いと考えたほうが現実に合います。

    参加自治体の3分の1は、物件を1件も載せていません

    もう一度、国交省の数字を見てください。

    自治体数 全1,741市区町村に対する割合
    全国版バンクへの参加 1,148 約66%
    実際に物件を掲載 744 約43%
    参加表明はしたが掲載なし 404 約23%

    出典:国土交通省(令和8年7月末時点)/市区町村数は総務省資料の1,718市町村+東京23特別区=1,741を分母としました(2017年4月1日時点の市町村数)。割合は当サイトによる計算です。

    参加しても、載せているのは4割 全市区町村 1,741自治体 バンクに参加 1,148自治体 実際に掲載 744自治体 参加した1,148のうち404は、物件が1件もありません

    参加表明した1,148自治体のうち404、つまり3分の1以上が、物件を1件も載せていません。ページはあるが中身が空、という状態です。

    これは怠慢というより、構造的な話だと思います。バンクに載せるには、所有者が自分で申し込み、自治体が現地や書類を確認し、多くの場合は宅建業者につなぐ手順が要ります。職員が数人で兼務している部署に、その手数をかける余力があるかどうか。空き家対策の担当課は、特定空家の指導や苦情対応で手一杯になっていることが珍しくありません。

    だから、あなたの実家の自治体がバンクに「参加している」と書いてあっても、実際に動いているとは限りません。電話で「今、何件載っていますか」と聞くのが一番早いです。

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    バンクが動いていないなら、壊す側の数字も持っておく

    掲載しても動かないバンクは珍しくありません。売れるのを待つ間も維持費は出ていきます。壊した場合の費用を並べておくと、待つ期間の上限を自分で決められます。

    ①同社サイトには「ご利用は無料。ご成約後の請求も一切ございません」と書かれています。
    ②同社は「契約まで、業者からご連絡がいくことはございません」と説明しています。
    ③申し込みには物件の情報と写真が要ります。遠方の実家で写真が手元にないなら、次に帰ったときに外観と傷んでいる箇所を撮っておいてください。
    ④解体する予定がないなら申し込まないでください。重複した申込や、連絡先が実在しない申込は無効と明記されています。
    ⑤1社の見積りだけで決めないでください。地元の解体業者にも自分で1社あたって、金額の桁が合っているかを確かめてください。
    ⑥解体補助金を使う予定があるなら、契約・着工の前に自治体へ申請してください。着工後の申請は原則として通りません。

    解体の窓口で、無料シミュレーションを試す

    見積書のどこを見るかは、この記事の見積書の章に戻って確認してください。お住まいの自治体の制度を先に調べておくと、受付期間に間に合うかどうかも一緒に分かります。

    ★★ 調べた範囲で、解体補助の入口がバンクだったのは4市でした

    ここからは、当サイトが独自に調べたデータです。

    当サイトは全国の解体補助金データベースを作るために、288自治体の空き家関連制度を1件ずつ公式ページで確認しています。その150件を「空き家バンク」という語で串刺しにしました。

    集計項目 自治体数
    調査した自治体 288
    解体に使える制度がある 226
    解体補助の要件そのものにバンク登録が入っている 3
    バンク登録が条件の補助が別にある(家財処分・改修・跡地活用) 4(※最初の150自治体を調べた時点で見つけた数。残り138自治体では同じ確認をしていません)

    出典:当サイト調べ(288自治体・2026年8月19日時点)※その後の追加収録により、データベースの収録数は501自治体になっています。上の集計は288自治体を調べた時点のものです。「解体に使える制度がある」=制度区分が「空き家特化」「耐震型」「部分的」「地区限定」のいずれか。「要件そのもの」は、その226自治体の「対象となる空き家の要件」欄に「バンク」の語が含まれるものを数えました。

    解体補助の要件にバンク登録が入っていたのは、焼津市・戸田市・甲府市・可児市の4市でした。制度のある226自治体のうち1.8%です(可児市は2026年8月にデータベースへ追加した際に確認しました。空き家バンク登録またはインターネット掲載が補助の要件になっています)。残りの4市は、解体ではない補助(家財処分・改修・跡地活用)の条件としてバンク登録を求めています。つまり自治体の側も、バンクを「壊す人」ではなく「壊さない人」に向けた入口として設計しています。

    タイプ 自治体 バンクの位置づけ
    ① 解体補助の要件がバンク登録 甲府市 バンクに6か月以上載せないと除却補助が出ない
    ② 家財処分・改修補助の条件がバンク登録 盛岡市・山口市・呉市 解体費は出ないが、残置物処分や改修の補助はバンク登録者向け(呉市は宅建業者との媒介契約でも可)
    ③ 跡地をバンクに載せると上乗せ 四日市市 解体後の土地を空き家・空き地バンクに3年以上登録すると20万円が加算される

    出典:当サイト調べ(各市公式ページ/2026年8月確認)

    ★★ 甲府市——バンクに6か月載せないと、解体補助が出ません

    調べた中で、いちばん設計が明快だったのが甲府市です。

    項目 内容
    制度名 甲府市空き家バンク活用促進助成制度(建物除却工事費用)
    補助額 除却工事費の2分の1。上限は基本50万円、居住誘導区域内70万円、まちなかエリア内80万円
    条件① 甲府市空き家バンクに登録し、6か月以上継続して掲載した物件であること
    条件② 売買契約が成立していること(売主が申請)
    条件③ 昭和56年5月31日以前に建築された建物であること
    条件④ 申請は売買契約締結日から6か月以内/世帯全員が市区町村税を滞納していないこと/交付決定後に着工すること

    出典:甲府市公式ページ(当サイト確認/2026年8月)

    読み解くとこうなります。甲府市は「解体したい人」に金を出しているのではありません。「バンクに載せて、買い手を見つけて、売った人」にだけ解体費を出しています。

    ふつうの実家じまいの動線——更地にしてから売りに出す、あるいは不動産会社に頼んで普通に売る——では、この補助は1円も出ません。順番が逆なのです。

    甲府市で使うなら、こうなります

    ①空き家バンクに登録する(この時点で解体してはいけません。建物がないと登録できません)
    ②6か月以上、掲載を続ける
    ③買主を見つけて売買契約を結ぶ
    ④契約から6か月以内に申請し、交付決定を待ってから解体する

    甲府市にはこのほか、空き家バンク登録物件の家財道具処分費補助(2分の1・上限10万円)もあります。遺品整理・残置物処分の費用は実家じまいで確実にかかるので、合わせ技が組めるなら効きます。

    ただし建物が傷んでいる場合は、別枠の甲府市特定空家等除却費助成金(2分の1・上限100万円)のほうが大きいです。こちらは市が特定空家等に認定した物件が対象です。どちらを狙うかで、これから半年の動き方が完全に変わります。空き家対策課に現況を伝えて、先に整理してください。

    盛岡市はもっと徹底しています。県庁所在地・中核市でありながら、解体費への補助が確認できませんでした。市の空き家補助は空き家等バンク登録物件を対象とした活用系のみで、改修事業補助金、購入費補助金、家財処分事業補助金(上限10万円・補助率2分の1)が並んでいます。壊すのではなく、載せて使え、という政策判断がはっきり出ています。

    山口市も、解体補助(老朽危険空家等除却促進事業補助金・上限50万円)とは別に、空き家バンクに登録して売却・賃貸する場合の家財道具等処分事業補助金と改修事業補助金を用意しています。解体補助は危険度評点100点以上という厳しい条件があるので、そちらが空振りしたときの受け皿として機能します。

    ★★ 解体補助の条件と、バンクで売れる条件は、真逆を向いています

    逆に、改修(リフォーム)の補助はバンク登録が入口になっている自治体が多数あります。静岡市・防府市・白山市はいずれも要綱に登録を条件として書いています。壊さずに直す側の制度は空き家を壊さずに直す補助金にまとめました。

    これが、288自治体を調べていて一番はっきり見えたことです。

    解体に使える制度がある226自治体の要件を数えました。

    要件 該当自治体数 意味
    特定空家等の認定が必要 63 倒壊の恐れがあるレベルまで放置されて初めて認定されます
    危険度の評点(100点以上など)が必要 93 市の調査で「不良住宅」と判定される必要があります
    旧耐震(昭和56年5月31日以前)の建物であること 83 平成以降に建てた実家は最初から対象外です

    出典:当サイト調べ(288自治体のうち解体に使える制度がある226自治体・2026年8月19日時点)※その後の追加収録により、データベースの収録数は501自治体になっています。上の集計は288自治体を調べた時点のものです。対象要件の記載に「特定空家」「評点/不良度」「昭和56年」の語が含まれるものを数えました。1つの自治体が複数の要件に該当する場合があります。

    解体補助の要件は「もう住めない家」 危険度の評点が必要 93自治体 旧耐震(昭和56年5月以前) 83自治体 特定空家等の認定が必要 63自治体 解体に使える制度がある226自治体の要件。重複あり

    解体補助が出るのは「もう住めない家」です。一方、空き家バンクに載せて買い手がつくのは「まだ住める家」です。

    実家の状態 解体補助 空き家バンク 普通に売る
    まだ住める・多少の手入れで住める ×(要件を満たさない) ○(載せられる) ◎(仲介や買取のほうが早い)
    傷んでいるが倒壊まではしない △(自治体次第) △(買い手は選ぶ) △(古家付きか更地かの判断)
    倒壊の恐れがある・特定空家 ○(ここで初めて出る) ×(載せても動かない) ×

    同じ実家が、両方を同時に満たすことはまずありません。だから「とりあえずバンクに載せて、ダメなら補助金で壊す」という順番は、多くの自治体で成立しません。バンクに載せられる状態の家は解体補助の要件に届かず、解体補助が出る状態まで傷めばバンクでは動かないからです。

    同じ実家が、両方を満たすことはない 解体補助が出る家 もう住めない家 特定空家等の認定 危険度の評点 旧耐震の建物 バンクで動く家 まだ住める家 多少の手入れで 住める状態 傷むと動きません 「まず載せて、ダメなら壊す」は成立しません

    先に決めるべきこと

    「売る」か「壊す」かを、最初に決めてください。そのうえで、自分の自治体がどちらに金を出しているかを確認します。甲府市や盛岡市のように「載せて売る」側に振っている自治体もあれば、危険家屋の除却にだけ出す自治体もあります。

    実家がある自治体の制度は、こちらで調べられます。→ 全国の空き家解体補助金データベース

    ちなみに、金額が公表されていた216自治体の補助上限額は、最小20万円・中央値50万円・最大1,550万円でした。木造戸建ての解体費は100万〜200万円が中心なので、中央値の50万円では半分も埋まりません。補助金を前提に計画を立てないほうが安全です。

    載せる前に確認しておくこと

    バンクに載せると決めたなら、先に押さえておくと後戻りが減ります。

    確認すること なぜ
    名義は変わっているか 登録は所有者が申し込みます。相続登記は3年以内が義務ですが、登記が済んでいないと登録も売買もできません
    共有になっていないか 共有名義なら全員の同意が要ります。1人でも反対すると登録も売却も止まります
    宅建業者が入るか、直接取引か 自治体によって扱いが違います。直接取引だと契約書の作成も引き渡しも自分でやることになります
    掲載に期限があるか 更新制の自治体があります。放っておくと掲載が切れます
    残置物をどうするか 家財が残ったままでは内覧になりません。遺品整理の費用は先に見ておいてください
    再建築できる土地か 再建築不可だと買い手はほぼ現金の投資家に限られます
    境界は確定しているか 未確定だと引き渡しの直前で止まります。測量には数十万円と数か月かかります
    売れたら税金はどうなるか 空き家の3,000万円特別控除や譲渡所得税の確認を、売る前にしてください

    とくに3つ目です。宅建業者が入らない直接取引の場合、契約不適合責任(買主に引き渡した後で欠陥が見つかったときの責任)を誰がどう負うのかが曖昧になりがちです。「安く手放せたと思ったら、あとから雨漏りで揉めた」という事態を避けるために、自治体が宅建協会と提携しているかどうかは、登録前に必ず聞いてください。

    売れない理由は、価格だけではありません

    国土交通省が所有者に聞いた「空き家を活用しない理由」の上位です。

    理由 割合
    買い手・借り手の少なさ 46.9%
    取り壊すと固定資産税が高くなる 36.7%
    将来、自分や親族が使うかもしれない 33.8%

    出典:国土交通省「空き家政策の現状と課題及び検討の方向性」

    同じ資料に、空き家の取得経緯は「相続」が54.6%という数字も出ています。空き家問題の半分以上は、実家じまいの話です。

    2番目の36.7%に注目してください。「取り壊すと固定資産税が高くなる」——これは住宅用地の特例が外れる話です。壊すと税金が上がるから壊さない。壊さないから傷む。傷むから売れない。この循環に入っている家が、385万戸のかなりの部分を占めていると考えられます。

    ただし、放置していれば税金が安いままとは限りません。令和5年の法改正で、管理不全空家等という区分ができました。

    令和5年改正で追加された「管理不全空家等」

    市町村長は、空家等が適切な管理が行われていないことによりそのまま放置すれば特定空家等に該当することとなるおそれのある状態にあると認めるときは、当該状態にあると認められる空家等(以下「管理不全空家等」という。)の所有者等に対し、…当該管理不全空家等が特定空家等に該当することとなることを防止するために必要な措置をとるよう指導をすることができる。

    出典:空家等対策の推進に関する特別措置法第13条第1項

    これまでは「特定空家」になって初めて行政が動けました。令和5年の改正で、その一歩手前の段階で指導・勧告ができるようになりました。

    段階 行政の動き 固定資産税
    普通の空き家 — 住宅用地の特例あり
    管理不全空家等(令和5年新設) 指導 → 勧告 勧告を受けると特例が外れます
    特定空家等 助言・指導 → 勧告 → 命令 → 代執行 勧告で特例が外れます

    「壊すと税金が上がるから放っておく」という判断の前提が、崩れつつあります。放置していても、勧告を受ければ同じことになるからです。しかも建物は残っているので、解体費は依然として自分持ちです。

    令和5年改正では、ほかにも空家等管理活用支援法人(市町村がNPO法人等を指定して所有者の相談や活用を担わせる仕組み)や、空家等活用促進区域(区域を定めて用途規制を緩和する仕組み)が新設されています。バンクだけが窓口ではなくなってきています。

    バンク・仲介・買取をどう使い分けるか

    空き家バンク 仲介 買取
    向いている家 市場では扱いにくいが住める家 普通に売れる家 状態が悪い・急ぐ・訳あり
    スピード 遅い(年単位もある) 3〜6か月が目安 速い
    価格 安くなりがち 相場 相場より低い
    手数料 自治体次第(無料の場合も) 仲介手数料 原則かからない
    補助金との関係 登録が条件の補助がある自治体も 関係なし 関係なし
    期限との相性 △ 時間がかかる ○ ◎

    期限との相性は、思っている以上に効きます。空き家の3,000万円特別控除は相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日まで、取得費加算の特例は相続税の申告期限の翌日以後3年まで。バンクに載せて何年も待っているうちに、控除のほうが先に消えます。

    順番として現実的なのは、こうだと思います。

    1. まず相場を調べる。売れる家なのかどうかがここで分かります
    2. 売れそうなら仲介で出す。バンクに載せる理由がありません
    3. 反応がない・そもそも扱ってもらえないなら、バンクを検討する。同時に自治体の補助金要件を見て、バンク登録が条件になっていないかを確認します
    4. 建物が危険な水準なら、売る話をいったん外して解体補助を取りにいく

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    バンクに載せる前に、買取の金額だけ先に見ておく

    この記事で見たとおり、空き家バンクに載せて売れる確率は高くありません。載せたまま動かず、維持費と固定資産税だけを何年も払い続けるのがいちばん多い結末です。ラクウルは自社で買い取る会社なので、仲介と違って買主を探す期間がありません。「いくらなら今すぐ終わるか」という数字が1つあると、バンクに載せて待つ判断も、待たない判断も、根拠を持ってできます。

    申し込む前に、4つだけ確認してください。①買取は仲介より手取りが下がります。買主を探す手間とリスクを業者が引き受ける分が、価格から引かれます。ただし維持費・固定資産税・草刈りが何年も続く場合は、待つより手元に残ることもあります。金額を見てから決めてください。②問い合わせ後、電話またはメールで物件の状況を聞かれます。メールでも手続きは進むので、電話が苦手な方でも構いません。③LINEからの相談は対象外です。この記事のリンクから進んでください。④売却を考えていない相談は対象外です。迷っている段階なら「まだ決めていませんが、金額を知りたい」と伝えてください。

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    金額が出たら、空き家の維持費は年間いくらかと並べてください。あと何年待てるのかが、そこで初めて数字になります。解体して更地にする道を考えるなら、先に全国288自治体の解体補助金データベースで、実家のある市区町村に補助があるかを確かめてください。申請は工事の契約・着工より前でないと使えません。

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    「バンク経由でないと解体補助が出ない」型があります

    この記事で書いたとおり、当サイトが調べた自治体のなかには、空き家バンクに一定期間載せてからでないと解体補助が使えないところがありました。甲府市がその例です。順番を間違えると、使えたはずの補助が消えます。逆に、バンクで売れる見込みが薄いなら、待っている間の維持費と固定資産税だけが積み上がります。解体費がいくらか分かっていれば、「載せて待つ」か「壊す」かを金額で決められます。

    ①★自治体によって順番が逆になります。バンク登録が先の自治体と、解体が先でも構わない自治体があります。動く前に必ず自治体へ確認してください。
    補助金を使う予定があるなら、見積りより先に自治体へ連絡してください。当サイトが調べた288自治体では、ほぼすべての制度が「交付決定の前に契約・着工したら対象外」です。
    複数の業者から連絡が来る仕組みです。電話を受ける時間が取れないなら、希望する連絡手段を備考欄に書いてください。
    いちばん安い1社をそのまま選ばないでください。マニフェスト(産業廃棄物管理票)の写しを出せるか、建設リサイクル法の届出を代行するか。安すぎる見積りは、ここを省いていることがあります。
    サービス内容の説明は同社サイトの記載であって、当サイトが確かめた事実ではありません。

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    この記事で分からないこと

    正直に書きます。調べても答えが出なかったこと、当サイトの限界です。

    • あなたの自治体にバンクがあるか、今何件載っているか。当サイトが確認したのは288自治体で、全国1,741市区町村の一部でしかありません
    • バンクに載せて実際に売れる確率。国交省が公表しているのは累計成約数であって、登録件数に対する成約率ではありません
    • 自治体独自サイトのみの成約がどれだけあるか。全国版に載らない取引は、公表数値から漏れます
    • 直接取引でトラブルになったときの実際の解決の仕方。契約不適合責任の範囲は個別の契約書によります
    • バンク経由で売った場合の価格が、仲介と比べてどれだけ低いか。比較できる公表データを見つけられませんでした

    当サイトは宅地建物取引業・司法書士・税理士のいずれの登録もない情報サイトです。この記事の役割は、市役所や不動産会社に相談しに行く前に「何を聞けばいいか」が分かる状態にすることです。

    よくある質問

    Q. 空き家バンクに載せると、固定資産税は安くなりますか。

    変わりません。固定資産税の住宅用地特例は「住宅が建っているかどうか」で決まるもので、バンクに載せているかどうかは関係ありません。

    ただし逆方向のリスクはあります。放置して特定空家等や管理不全空家等に該当し、勧告を受けると住宅用地特例が外れます(空家法第13条・第22条)。バンクに載せること自体が税金を左右するわけではありませんが、「載せて誰かに見てもらう状態」を保つことは、放置していないという実態づくりにはなります。

    Q. 遠方に住んでいます。バンクの登録は郵送やオンラインでできますか。

    自治体によります。これは統一されていません。空き家バンクは法律に基づく制度ではなく市町村の自主事業なので、申込様式も手続きも全部バラバラです。

    ただ、多くの自治体で現地の確認や写真の提出が要ります。実家が遠い場合、ここが最初の壁になります。空き家対策の担当課に電話して、「県外に住んでいるが登録できるか」「現地立ち会いは必要か」を先に確認してください。写真だけで済む自治体もあります。

    Q. バンクに載せている間、家の管理はどうすればいいですか。

    あなたの責任のままです。空家法第5条は所有者等の責務をこう定めています。「空家等の所有者又は管理者は、周辺の生活環境に悪影響を及ぼさないよう、空家等の適切な管理に努めるとともに、国又は地方公共団体が実施する空家等に関する施策に協力するよう努めなければならない」。バンクに載せても、この責務は自治体に移りません。

    草刈り、通風、郵便物の処理は続ける必要があります。放置すると、売れる前に管理不全空家等の指導対象になりかねません。空き家の維持費と放置した場合に起きることを、先に見ておいてください。管理代行サービスを使うなら、その費用も売却までの総コストに入れて計算してください。

    Q. 甲府市のような「バンク登録が条件の補助金」は、他の自治体にもありますか。

    当サイトが調べた288自治体のうち、解体補助そのものの要件にバンク登録が入っていたのは焼津市・戸田市・甲府市の3市でした。ほかに盛岡市・山口市・呉市は家財処分や改修の補助に、四日市市は跡地をバンクに3年以上載せた場合の上乗せ20万円に、それぞれバンク登録を条件として付けています。多数派ではありませんが、ゼロでもありません。288市中の数としては小さいですが、該当する自治体に実家がある人にとっては、数十万円が動く話です。

    そしてこの条件は、市の「補助金」ページではなく「空き家バンク」ページに書かれていることが多いです。解体補助を探して補助金ページだけ見ていると、見落とします。市の空き家関連ページは、補助金・バンク・相談窓口を全部開いて読んでください。当サイトの解体補助金データベースでは、その周辺制度も備考に書き込んでいます。

    Q. 買い手がついたら、価格の交渉は自分でやるのですか。

    宅建業者が入るかどうかで変わります。自治体が地元の宅建協会と協定を結んでいる場合は、業者が間に入って交渉・契約書作成・重要事項説明までやります(この場合は仲介手数料がかかります)。一方、自治体が「当事者同士でどうぞ」という運用なら、交渉も契約書も自分たちです。

    後者はおすすめしません。不動産の売買契約は、境界・設備の不具合・契約不適合責任・引き渡し時期など、決めることが多くあります。数十万円を惜しんで、あとから数百万円の紛争になるのは割に合いません。「宅建業者が入りますか」は、登録前に必ず確認してください。

    Q. 空き家バンクに載せたまま、不動産会社にも売却を頼めますか。

    これも自治体によります。「他で売りに出していないこと」を登録要件にしている自治体があります。一方、併用を認めている自治体もあります。登録申込書の要件欄を必ず読んでください。

    また、不動産会社と専任媒介契約や専属専任媒介契約を結んでいる場合は、そちらの契約でバンク掲載が制限されることがあります。一般媒介なら問題になりにくいですが、契約前に不動産会社にも確認してください。囲い込みの問題とも関係する話なので、媒介契約の種類は理解しておいて損はありません。

    Q. 土地だけ(更地)でもバンクに載せられますか。

    「空き家・空き地バンク」という名前のとおり、空き地を扱っている自治体もあります。国交省の全国版も名称に「空き地」が入っています。

    ただし、順番には注意してください。甲府市のように「建物があるうちにバンクに登録すること」が補助の条件になっている場合、先に解体してしまうと登録も補助も不可能になります。そして解体すると固定資産税の住宅用地特例が外れます。更地にするのは、売り先か補助金の道筋が決まってからにしてください。

    Q. 何年も載せていますが、問い合わせが1件も来ません。

    珍しいことではありません。参加自治体1,148のうち404は物件を1件も載せていない状態で、成約は8年で累計約26,000件です。載せれば動く仕組みではありません。

    止まっているなら、次の3つを確認してください。
    ①掲載情報が古くないか。写真が数年前のまま、家財が写ったまま、という物件は動きません
    ②価格が相場から離れていないか。複数社に査定を取れば、いくらならという線が見えます
    ③そもそも掲載が切れていないか。更新制の自治体では、気づかないうちに落ちています

    そのうえで動かないなら、買取や貸すという選択肢に切り替える判断も要ります。待っている間も維持費はかかり続けますし、税金の特例には期限があります。

    Q. 「0円物件」として出すのはどうですか。

    選択肢としてはありますが、0円でも簡単には決まりません。買い手から見れば、取得後は固定資産税・管理費・将来の解体費を引き受けることになるからです。建物の状態が悪いほど、0円でも引き取り手がつきにくくなります。

    税金の面でも確認が要ります。個人から個人への著しく低い価額での譲渡は、贈与とみなされて買主側に贈与税がかかる可能性があります。また売主側は、売却損が出ても取得費加算は使えません(譲渡益がないと加算額はゼロです)。0円で手放す前に、税理士に一度当ててください。

    Q. 結局、空き家バンクは使う価値がありますか。

    目的によります。当サイトの整理はこうです。

    使う価値が高い:①自治体の補助金がバンク登録を条件にしている場合(甲府市型。数十万円が動きます)/②不動産会社に「うちでは扱えません」と言われた物件(市場に出口がないので、バンクが唯一の窓口になります)/③移住希望者に使ってほしいという気持ちがある場合(バンクは移住施策と一体で運用されていることが多く、買い手の顔が見えやすい仕組みです)

    使う価値が低い:①普通に売れる家(仲介のほうが速く高いです)/②期限が迫っている場合(3,000万円控除や取得費加算の期限のほうが先に来ます)/③倒壊しかけている家(載せても動きません。解体補助を取りにいく話になります)

    「載せておけば、そのうち誰か」は成立しません。ただし「載せることで補助金が開く」なら、それは十分な理由です。まず自分の自治体の制度を見てください。

    まとめ

    1. ★ 空家法に「バンク」という語は0回。法定制度ではなく、第12条「情報の提供、助言その他必要な援助」の枠でやられている市町村の自主事業です
    2. 全国版バンクの参加は1,148自治体。うち実際に物件を掲載しているのは744自治体(令和8年7月末・国交省)
    3. ★★ 現在の掲載は19,626戸。放置空き家385万6千戸の約0.5%しか載っていません
    4. ★ 成約は約8年で累計約26,000件。放置空き家385万6千戸に対して、約148戸に1件です
    5. ★★ 当サイトが288自治体を調べたところ、解体補助の要件そのものにバンク登録が入っていたのは焼津市・戸田市・甲府市の3市だけ。最初の150自治体を調べた時点では、ほかに4市が家財処分・改修・跡地活用の補助にバンク登録を条件として付けていました
    6. ★★ 甲府市は「バンクに6か月以上掲載し、売買契約が成立した物件」にだけ除却補助(最大80万円)を出しています
    7. 盛岡市には解体費の補助がなく、バンク登録物件向けの活用系補助だけがあります
    8. ★★ 解体補助の要件は特定空家63/危険度評点93/旧耐震83。バンクで売れる条件とは真逆を向いています
    9. 金額が公表されていた216自治体の補助上限は、最小20万円・中央値50万円・最大1,550万円。解体費の全額は埋まりません
    10. 令和5年改正で管理不全空家等が新設され、勧告を受けると住宅用地特例が外れます。「壊さなければ税金が安いまま」とは限らなくなりました
    11. 普通に売れる家なら、バンクより仲介のほうが速く高い。バンクを使う理由は「補助金の条件」か「市場に出口がない」かのどちらかです

    あわせて読みたい

  • 取得費加算の特例|実家を売るなら「3年10か月」の中身を先に確認してください

    【PR】本ページには広告(PR)を含みます。条文は租税特別措置法・同施行令・相続税法をe-Gov法令検索で全文開いて確認し、国税庁タックスアンサーNo.3267およびNo.3306(いずれも令和7年4月1日現在法令等)と突き合わせました(2026年8月17日確認)。孫引きはしていません。

    最終更新:2026年8月17日

    結論だけ先に

    相続税を払った実家を売ると、払った相続税の一部を「買ったときの値段」に足せます。その分だけ売却益が減り、譲渡所得税が下がります。これが取得費加算の特例です。

    ただし、期限があります。よく「3年10か月」と言われますが、この数字は条文のどこにも書かれていません。条文が書いているのは「相続の開始があった日の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日まで」です。そして空き家の3,000万円特別控除とは、どちらか一方しか選べません。

    この記事は、条文(租税特別措置法39条)と政令(同施行令25条の16)を開いて組み立てています。金額の計算と申告は税理士の仕事です。当サイトは税理士ではありません。ここで読めるのは「どういう仕組みで、いつまでに、何と引き換えなのか」までです。

    まず、これは「相続税が戻ってくる制度」ではありません

    名前が長いので、誤解されやすい制度です。正式名称は「相続財産に係る譲渡所得の課税の特例」、通称が取得費加算です。

    戻ってくるのは相続税ではなく、譲渡所得税のほうです。しかも「戻る」のではなく「これから払う額が減る」だけです。順番はこうなります。

    時期 起きること この特例の関わり
    親が亡くなる 実家を相続する —
    10か月以内 相続税を申告して払う ここで払った額が、あとで使う材料になります
    その後、実家を売る 売却益に譲渡所得税がかかる 払った相続税の一部を取得費に足せます
    売った翌年の確定申告 譲渡所得を申告する ここで申告しないと使えません

    だから、相続税を1円も払っていない人には、この特例は関係ありません。条文は対象者をこう限定しています。

    相続又は遺贈…による財産の取得…をした個人で当該相続又は遺贈につき同法の規定による相続税額があるものが…

    出典:租税特別措置法第39条第1項(e-Gov法令検索で全文を確認/2026年8月17日)

    相続財産の合計が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)以下なら、相続税はかかりません。その場合、この記事の話は最初から成立しません。相続税がかかるかどうかは、この特例を考える前に確かめる必要があります。相続税の申告書を作っていない、税務署から何も来ていない、という場合は、そもそも課税されていない可能性が高いです。まずそこからです。

    ★ 「3年10か月」は条文に書かれていません

    この制度の解説は、まず間違いなく「3年10か月以内」と書きます。実務では正しく機能する言い方ですが、条文はそう書いていません。

    …当該相続の開始があつた日の翌日から当該相続に係る同法第二十七条第一項又は第二十九条第一項の規定による申告書…の提出期限…の翌日以後三年を経過する日までの間に当該相続税額に係る課税価格…の計算の基礎に算入された資産の譲渡…をした場合…

    出典:租税特別措置法第39条第1項

    分解すると、こうなっています。

    条文の書き方 実際の日付
    始まり 相続の開始があった日の翌日 亡くなった日の翌日
    途中 相続税の申告書の提出期限 相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月
    終わり その提出期限の翌日以後3年を経過する日 申告期限+3年

    相続税の申告期限は、相続税法にこう書かれています。

    …その相続の開始があつたことを知つた日の翌日から十月以内…に課税価格、相続税額その他財務省令で定める事項を記載した申告書を…提出しなければならない。

    出典:相続税法第27条第1項

    「知った日」であって「亡くなった日」ではありません。ふつうは同じ日ですが、疎遠だった親の死を数か月あとに知った場合、この2つはずれます。そのとき、10か月のカウントは「知った日」から始まるので、取得費加算の期限は相続開始から3年10か月より長くなります。

    「3年10か月」の正体

    10か月(申告期限)+3年=3年10か月。足し算の通称です。だから、申告期限が延びる事情があれば、取得費加算の期限も一緒に動きます。逆に、期限をカレンダーに書くときは「3年10か月後」ではなく「申告期限の日付+3年」で計算したほうが正確です。

    実家じまいでこの差が効くのは、実家を放置してしまったケースや、共有名義でもめて売却が止まったケースです。「もう3年過ぎたから無理だ」と諦める前に、申告期限の日付を確かめてください。

    「3年10か月」の中身 起算 相続開始の翌日 亡くなった日の翌日から 10か月 申告期限 知った日の翌日から10か月 その翌日以後3年 合わせて通称3年10か月

    いくら足せるのか——政令の計算式

    加算できる金額は、条文本体ではなく政令に書かれています。

    法第三十九条第一項に規定する譲渡をした資産に対応する部分として政令で定めるところにより計算した金額は、第一号に掲げる相続税額に第二号に掲げる割合を乗じて計算した金額とする。

    出典:租税特別措置法施行令第25条の16第1項(e-Gov法令検索で全文を確認/2026年8月17日)

    中身 条文上の根拠
    ①相続税額 その人が実際に納めた相続税額
    延滞税・加算税(附帯税)は含みません
    施行令25条の16第1項一号
    ②分子 売った資産の、課税価格の計算の基礎に算入された価額 同二号
    ③分母 その人の相続税の課税価格
    ただし債務控除がなかったものとした場合の金額
    同二号かっこ書き
    加算額 ① ×(② ÷ ③) —

    売った資産の分だけが分子です。相続した土地を全部足すのではありません。なお国税庁の確定申告書等作成コーナーは「計算式は相続又は遺贈の開始した日によって異なります」と案内しています。古い相続を前提にした解説記事をそのまま読むと、計算式を間違えます。

    ★ 分母は「借金を引く前」の金額です

    ここが、ほとんどの解説で流されている部分です。政令の二号は、分母をこう定義しています。

    …相続税法第十一条の二に規定する課税価格(…同法第十三条の規定の適用がある場合には同条の規定の適用がないものとした場合の課税価格…)のうちに当該譲渡をした資産の当該課税価格の計算の基礎に算入された価額の占める割合

    出典:租税特別措置法施行令第25条の16第1項第2号

    相続税法13条は債務控除の条文です。被相続人の借金と葬式費用を、財産の額から引ける、というルールです。

    …課税価格に算入すべき価額は、当該財産の価額から次に掲げるものの金額のうちその者の負担に属する部分の金額を控除した金額による。
    一 被相続人の債務で相続開始の際現に存するもの(公租公課を含む。)
    二 被相続人に係る葬式費用

    出典:相続税法第13条第1項

    取得費加算の分母は、この債務控除を「なかったことにして」計算します。つまり借金と葬式費用を引く前の、大きいほうの数字が分母になります。

    分母が大きくなれば、割合は小さくなります。割合が小さくなれば、加算できる額も小さくなります。

    Aさん(借金なし) Bさん(借金2,000万円)
    相続した実家の評価額 4,000万円 4,000万円
    その他の財産 2,000万円 2,000万円
    債務・葬式費用 0円 2,000万円
    課税価格(債務控除後) 6,000万円 4,000万円
    取得費加算の分母 6,000万円 6,000万円
    実家の割合 4,000 ÷ 6,000 = 約66.7% 4,000 ÷ 6,000 = 約66.7%

    ※割合の考え方を示すための単純化した例です。実際の相続税額の計算はこれより複雑で、税理士の領域です。

    Bさんは債務控除で相続税そのものが下がっていますが、割合の分母は下がりません。だから加算額は「下がった相続税額 × 変わらない割合」になります。債務があるほど、取得費加算で戻る額は小さくなる、という構造です。

    親の家に住宅ローンが残っていた、施設の未払い金があった、葬式費用が大きかった——実家じまいでは珍しくない事情ですが、これらは相続税を軽くする一方で、取得費加算の効き目を弱めます。

    ★★ 小規模宅地等の特例を使うほど、この特例は小さくなります

    政令の分子をもう一度読んでください。「当該譲渡をした資産の当該課税価格の計算の基礎に算入された価額」です。

    「相続税評価額」ではなく「課税価格に算入された価額」。小規模宅地等の特例を使うと、土地の評価額は330㎡まで20%になります。課税価格に入るのは、その20%のほうです。

    小規模宅地を使わない 小規模宅地を使う
    実家の土地の評価額 5,000万円 5,000万円
    課税価格に算入される価額 5,000万円 1,000万円(20%)
    取得費加算の分子 5,000万円 1,000万円
    相続税額そのもの 高い 大幅に低い

    分子も小さくなり、掛ける相続税額も小さくなります。両方が縮みます。

    小規模宅地を使うと、加算額は小さくなります 使わない 評価額 5,000万円 課税価格 5,000万円 分子 5,000万円 相続税額は高い 使う 評価額 5,000万円 課税価格 1,000万円 分子 1,000万円 相続税額は大幅に低い それでも小規模宅地を使うほうが、ほぼ確実に有利

    では小規模宅地を使わないほうがいいのか

    いいえ。ほぼ確実に、小規模宅地等の特例を使ったほうが有利です。小規模宅地は相続税の課税価格そのものを8割落とします。取得費加算は、払った相続税の一部を譲渡所得の計算に回すだけです。減らせる税額の桁が違います。

    ここで言いたいのは有利不利ではなく、「相続税を抑えるほど、売却時に戻せる額も減る」という関係になっているということです。この2つを合計した金額で比べる話は、税理士でないとできません。当サイトが言えるのは、片方だけを見て判断すると読み違える、というところまでです。

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    控除の判定より先に、売った場合の金額を出しておく

    取得費加算も3,000万円控除も、売却額が決まらないと効き目を計算できません。制度の要件を読む前に、いくらで売れるのかの目安を持っておくほうが、判断は早くなります。

    先に断っておきます。買取は、仲介で売れた場合より手取りが下がります。それでも見る価値があるのは、比較対象の数字が手に入るからです。運営は株式会社ネクサスプロパティマネジメント(宅地建物取引業免許:国土交通大臣(1)第10311号)。同社は「個人情報の入力は不要、匿名のまま利用でき、営業電話もありません」という匿名のAI査定も公開しています(入力3項目・最短30秒/2026年6月20日 同社発表)。まだ売ると決めていない段階なら、まず匿名のほうで桁だけ確かめてください。ただし匿名で出るのは機械的な概算です。実際の金額を知るには、連絡先を入れて査定を申し込む必要があります(申し込めば担当者から連絡が来ます)。

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    売ると決めてから調べるものではありません。決めるために調べるものです。年間の維持費は空き家の維持費を実額で積み上げた記事にまとめました。

    ★★ 空き家の3,000万円特別控除とは、どちらか一方しか選べません

    これが、実家じまいでいちばん判断を迫られる場面です。

    空き家の3,000万円特別控除は、一人暮らしだった親の家を相続して売ったとき、譲渡所得から最大3,000万円を引ける制度です。この制度の条文には、取得費加算を明示的に排除する一文が入っています。

    …次に掲げる譲渡(当該相続の開始があつた日から同日以後三年を経過する日の属する年の十二月三十一日までの間にしたものに限るものとし、第三十九条の規定の適用を受けるもの及びその譲渡の対価の額が一億円を超えるものを除く。以下この条において「対象譲渡」という。)をした場合…

    出典:租税特別措置法第35条第3項(e-Gov法令検索で全文を確認/2026年8月17日)

    「第三十九条の規定の適用を受けるもの」を除く、と括弧の中に書かれています。第39条が、この記事の取得費加算です。国税庁のタックスアンサーも、空き家控除の要件として「売った家屋や敷地等について、相続財産を譲渡した場合の取得費の特例…など他の特例の適用を受けていないこと」と書いています(No.3306/令和7年4月1日現在法令等)。

    併用はできません。同じ実家について、どちらか一方です。

    取得費加算(39条) 空き家3,000万円控除(35条3項)
    減る対象 取得費が増える
    (=譲渡益が減る)
    譲渡益から最大3,000万円を控除
    前提 相続税を払っていること 相続税を払っていなくても使えます
    期限の起算 相続の開始があった日の翌日 相続の開始があった日
    期限の終わり 相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日
    (通称3年10か月)
    3年を経過する日の属する年の12月31日
    制度自体の期限 なし(恒久措置) 令和9年12月31日までの譲渡
    売却額の上限 なし 1億円以下
    建物の条件 なし 耐震基準を満たすか、更地にすること等
    使われた場合 — 貸したり住んだりしていたら使えません

    出典:租税特別措置法第35条第3項/国税庁タックスアンサーNo.3306(令和7年4月1日現在法令等)

    期限の切り方が違う点に注目してください。取得費加算は日付で切れます。空き家控除は年末で切れます。1月に亡くなった親と12月に亡くなった親では、空き家控除の実質的な猶予がほぼ1年違います。取得費加算のほうは、その差が出ません。

    同じ実家について、どちらか一方です 取得費加算 措法39条 取得費が増える =譲渡益が減る 相続税を払った人だけ 空き家3,000万円控除 措法35条3項 譲渡益から 最大3,000万円を控除 相続税なしでも可 35条3項の括弧書きが、39条の適用を受けるものを除く

    どちらを選ぶかの目安

    相続税を払っていないなら、選ぶ余地はありません。空き家控除だけです。

    相続税を払っていて、売却益が3,000万円に届かないなら、空き家控除のほうが単純に有利なことが多いです。控除額が譲渡益を上回れば税額はゼロになります。

    売却益が大きく、かつ相続税額も大きい場合は、計算しないと分かりません。ここは税理士に両方の数字を出してもらってください。確定申告のときには、もうどちらかを選んだあとです。売る前に相談してください。

    売って損したら、この特例は使えません

    政令には、ただし書きが2つあります。どちらも上限と下限の話です。

    ただし、当該計算した金額が、当該資産の譲渡所得に係る収入金額から…当該資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額を控除した残額に相当する金額を超える場合には、その残額に相当する金額とし、当該収入金額が当該合計額に満たない場合には、当該計算した金額は、ないものとする。

    出典:租税特別措置法施行令第25条の16第1項ただし書き

    状況 加算できる額
    計算した加算額が、譲渡益より小さい 計算した加算額をそのまま足せます
    計算した加算額が、譲渡益より大きい 譲渡益の額まで(税額はゼロになりますが、それ以上は出ません)
    売って損が出た(譲渡損) ゼロ。加算はなかったものとされます

    この特例は、譲渡所得税を減らす制度であって、赤字を作る制度ではありません。実家が値下がりしていて売却損が出るなら、この特例の出番はありません。その場合はそもそも譲渡所得税がかからないので、「相続税を払ったのに何も戻ってこない」と感じるかもしれませんが、もともと払う税金がない、というだけの話です。

    地方の実家は、取得費が分からず概算取得費(売却価格の5%)を使うと、逆に大きな譲渡益が出てしまうことがあります。この場合は取得費加算が効きます。売買契約書が見つかっているかどうかで、結論がひっくり返る場面です。

    申告しないと使えません(39条2項)

    小規模宅地等の特例と同じ構造です。黙っていても適用されません。

    前項の規定は、同項の規定の適用を受けようとする年分の確定申告書又は修正申告書…に、前項の規定の適用を受けようとする旨の記載があり、かつ、同項の規定による譲渡所得の金額の計算に関する明細書その他財務省令で定める書類の添付がある場合に限り、適用する。

    出典:租税特別措置法第39条第2項

    必要なのは、①適用を受けようとする旨の記載と、②明細書などの添付です。実務では「相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書」を確定申告書に付けます。

    ただし、第3項に救済規定があります。

    税務署長は、確定申告書若しくは修正申告書の提出がなかつた場合又は前項の記載若しくは添付がない確定申告書若しくは修正申告書の提出があつた場合においても、その提出又は記載若しくは添付がなかつたことについてやむを得ない事情があると認めるときは…

    出典:租税特別措置法第39条第3項

    「やむを得ない事情」の基準は、条文に書かれていません。税務署長の認定です。あてにできる規定ではない、と考えてください。

    あとから相続税が変わったら、加算額も変わります

    政令の第2項に、こう書かれています。

    前項第一号に掲げる相続税額は、同号に規定する納税義務の成立する時後において、当該相続税額に係る相続税につき修正申告書の提出又は…更正があつた場合には、同号の規定にかかわらず、その申告又は更正後の相続税額とする。

    出典:租税特別措置法施行令第25条の16第2項

    相続税の税務調査で評価額が上がれば、取得費加算も増えます。逆も同じです。実家じまいでよくあるのは、未分割のまま申告して、あとから分割が確定して修正するパターンです。共有名義や遺産分割でもめている実家は、この順番が絡み合うので、税理士に流れごと相談してください。

    実家じまいの4つの期限を、1つの表にします

    小規模宅地等の特例の記事で「期限が逆を向いている」と書きました。取得費加算を足すと、その表が完成します。

    制度 期限 その期限が言っていること
    相続登記 取得を知った日から3年以内 名義を変えろ(過料あり)
    小規模宅地等の特例 相続税の申告期限(10か月)まで保有 売るな・貸すな(同居親族・家なき子の場合)
    取得費加算 申告期限の翌日以後3年(通称3年10か月) 売れ
    空き家3,000万円控除 相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日 売れ、ただし貸すな・住むな

    最初の10か月は「売るな」、そのあとの3年は「売れ」。しかもその3年のあいだ、空き家のまま置いておかないと空き家控除が消えます。維持費は毎年かかりますが、賃貸に出した瞬間に空き家控除は使えなくなります。

    4つの期限は、逆を向いています 相続登記 取得を知った日から3年以内 名義を変えろ 小規模宅地等の特例 申告期限(10か月)まで保有 売るな・貸すな 取得費加算 申告期限の翌日以後3年 売れ 空き家3,000万円控除 3年を経過する年の12月31日 売れ、貸すな 最初の10か月は売るな。そのあとの3年は売れ

    逆算するとこうなります

    相続開始 → 10か月:相続税の申告・納付(この間は売らない)
    10か月〜1年半:相場を調べて売り出す準備。相続登記を済ませておかないと売れません
    1年半〜3年:売却活動。仲介で時間をかけるか、買取で確実に決めるかを、残り期間から逆算します
    3年10か月:取得費加算のタイムリミット

    「まだ3年ある」と思っているうちに、売り出しから引き渡しまでで半年から1年が消えます。中古戸建ての売却は、内覧が入ってから決済まで2〜3か月かかるのが普通です。期限の直前に動き出すと、間に合いません。

    建物を壊してから売る場合の注意

    古家付きで売るか、更地にして売るかは実家じまいの定番の悩みです。取得費加算については、壊しても影響しません。条文は「課税価格の計算の基礎に算入された資産の譲渡」としか言っていないからです。

    影響するのは、隣の2つです。

    制度 相続前に壊す 相続後に壊す
    小規模宅地等の特例 使えなくなります(建物の敷地であることが条件) 申告期限まで保有していれば影響しません
    空き家3,000万円控除 — 更地にして売るのは要件のひとつ(または耐震改修)
    取得費加算 — 影響しません

    解体費用そのものは、譲渡費用として売却益から引ける場合があります。解体費用の相場と自治体の補助金も、売却の手取りに直結します。ただし、更地にすると翌年の固定資産税が上がります。「6倍になる」という言い方の中身は別の記事に書きました。

    この特例で見落とされやすい5つ

    見落とし 実際
    1 相続税がゼロでも使えると思っている 使えません。「相続税額があるもの」が条件です
    2 延滞税・加算税も足せると思っている 附帯税は除かれます(施行令25条の16第1項一号)
    3 相続した土地を全部足せると思っている 売った資産の分だけです
    4 空き家控除と両方使えると思っている 選択です(措置法35条3項の括弧書き)
    5 相続税を払えば自動で適用されると思っている 確定申告での記載と添付が必要です(39条2項)

    4番が、いちばん取り返しがつきません。確定申告で片方を選んで提出したあとに、もう片方のほうが有利だったと気づく——これは実際に起きます。売る前に、両方の数字を出してもらってください。

    この記事で分からないこと

    正直に書きます。当サイトは税理士ではありません。条文と政令を読んで書ける範囲には限界があります。次の点は、条文を読んでも決まりません。

    • あなたの場合にいくら加算できるのか。相続税額と課税価格の内訳がないと計算できません
    • 取得費加算と空き家控除のどちらが有利か。売却額・取得費・相続税額の3つが揃わないと比較できません
    • 小規模宅地等の特例との合計でどうなるか。相続税と譲渡所得税をまたぐ比較になります
    • 39条3項の「やむを得ない事情」がどこまで認められるか。条文に基準がありません
    • 共有で相続した場合の各人の加算額。各相続人の相続税額と課税価格がそれぞれ必要です

    これらは税理士の仕事です。この記事の役割は、相談に行く前に「何を聞けばいいか」が分かる状態にすることです。「取得費加算と空き家控除、うちはどちらが得ですか」と一言で聞ければ、話が早く進みます。

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    取得費加算と空き家3,000万円控除、どちらが得かは計算しないと出ません

    この記事で繰り返し書いたとおり、当サイトは税理士ではありません。売却額・取得費・相続税額の3つを入れて両方を計算し、有利なほうを選んで確定申告に載せる——ここから先は税理士の仕事です。
    税理士ドットコムは弁護士ドットコム株式会社が運営する税理士紹介サービスです。全国対応で、相談も紹介も無料。「相続した実家を売るので、取得費加算と空き家控除のどちらが有利か計算してほしい」と条件を伝えて、対応できる税理士を探してもらう形になります。

    ①申し込むと、30日以内に電話またはメールで確認の連絡が来ます。知らない番号でも出てください。ここで内容が確認できないと、税理士の紹介そのものが進みません。
    ②「税理士を紹介してほしい」と伝えるためのサービスです。税務相談そのものに答える窓口ではありません。相続税申告をお願いしたい、という前提で申し込んでください。
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    相談するなら、売る前です。確定申告の時点では、もうどちらかを選んだあとになります。相続税の申告期限(知った日の翌日から10か月)を過ぎていても、取得費加算の期限はまだ残っています。まず小規模宅地等の特例を使ったかどうかと、空き家3,000万円控除の要件に当てはまるかを手元で確かめてから相談すると、話が早く進みます。

    よくある質問

    Q. 相続税を払っていません。取得費加算は使えますか。

    使えません。条文が対象者を「相続又は遺贈につき相続税額があるもの」と限定しているためです(措置法39条1項)。相続財産の合計が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)以下なら相続税はかからないので、この特例の前提が成立しません。

    ただし、がっかりする必要はありません。相続税を払っていない方でも、空き家の3,000万円特別控除は使える可能性があります。こちらは相続税とは無関係の制度です。要件は建物の状態や売却額など別のところにあるので、判定ツールで当てはまるかどうかを先に確かめてみてください。

    Q. 「3年10か月」を1日でも過ぎたらどうなりますか。

    使えません。期限を過ぎた譲渡は対象外です。宥恕規定(39条3項)は「申告書の提出や記載・添付がなかったこと」についてのもので、譲渡の時期そのものは救済されません。

    ただし諦める前に、日付を正確に数え直してください。期限の起点は「亡くなった日」ではなく「相続税の申告期限」です。そして申告期限は「相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月」です(相続税法27条1項)。疎遠だった親の死を後から知った場合、期限は世間で言われる3年10か月より後ろにずれます。相続税の申告書控えに書かれた提出期限を見て、そこに3年を足すのが正確です。

    Q. 空き家の3,000万円控除と、どちらが得ですか。

    金額を入れて計算しないと決まりません。ただし、判断の入口は絞れます。

    売却益が3,000万円以下なら、空き家控除で税額がゼロになる可能性が高いです。控除額が譲渡益を上回れば、それ以上有利にはなりません。一方取得費加算は、払った相続税の一部を取得費に足すだけなので、譲渡益をゼロまで落とせるとは限りません。

    逆に、売却益が大きく(3,000万円をはるかに超える)、かつ相続税額も大きい場合は、取得費加算のほうが上回ることがあります。ここは実際に両方を計算するしかありません。

    なお空き家控除には売却額1億円以下という上限と、相続から譲渡まで貸したり住んだりしていないことという要件があります(措置法35条3項、国税庁No.3306)。空き家3,000万円控除の記事で要件を先に確認してから、税理士に「両方の計算をお願いします」と伝えてください。

    Q. 実家と、親の預金と株を相続しました。実家だけ売った場合はどうなりますか。

    実家の分だけが分子になります。政令は分子を「当該譲渡をした資産の当該課税価格の計算の基礎に算入された価額」としています(施行令25条の16第1項二号)。預金や株の分は、実家を売ったときの加算には乗りません。

    逆に言えば、あとで株も売れば、そのときは株の分で加算が使えます。期限内であれば、資産ごとに使えます。ただし期限は同じ日で切れます。実家の売却に時間を取られて期限を過ぎると、他の資産の分もまとめて使えなくなります。

    Q. 小規模宅地等の特例を使うと損をしますか。

    ほぼ確実に、使ったほうが有利です。小規模宅地等の特例は相続税の課税価格そのものを330㎡まで8割落とします。取得費加算は、払った相続税の一部を譲渡所得の計算に回すだけです。効き目の桁が違います。

    この記事で書いたのは「小規模宅地を使うと取得費加算の分子(=課税価格に算入された価額)も小さくなる」という関係の話で、使うべきでないという話ではありません。「相続税を抑えるほど、売却時に戻せる額も減る」という構造を知っておくと、税理士の説明が腑に落ちやすくなります。

    Q. 兄弟3人で相続しました。取得費加算は3人とも使えますか。

    それぞれが、自分の払った相続税と自分の課税価格で計算します。政令は「当該取得をした者の…相続税額」「同号に規定する者についての…課税価格」と個人単位で書いています(施行令25条の16第1項一号・二号)。兄弟でも取得した財産の内訳が違えば、加算額は違います。

    注意が必要なのは、共有のまま売るケースです。共有名義の実家は全員の同意がないと売れません。1人が反対しているあいだに3年10か月が過ぎると、全員が同時にこの特例を失います。期限があることを、話し合いの早い段階で共有しておいてください。

    Q. 売買契約書が見つかりません。取得費加算は関係ありますか。

    むしろ、関係が深くなります。取得費が分からないと、売却価格の5%を概算取得費として使うことになります。3,000万円で売れた実家なら取得費は150万円。差額の2,850万円がほぼそのまま譲渡益になります。

    このとき取得費加算が大きく効きます。加算額は譲渡益が上限なので(施行令25条の16第1項ただし書き)、譲渡益が大きいほど加算できる枠が広がるからです。

    ただしまず契約書を探してください。実際の取得費が使えるなら、そのほうがはるかに大きく効きます。契約書以外で取得費を証明する方法を別の記事にまとめています。

    Q. 相続してすぐ売りました。小規模宅地等の特例はどうなりますか。

    取得した人によって答えが変わります。配偶者が取得した場合は保有継続要件がありませんが、同居親族と家なき子は、相続税の申告期限まで保有していることが要件です。申告期限(10か月)より前に売ると、その要件を満たさなくなります。

    つまり最初の10か月は「売るな」、そのあとの3年は「売れ」という順番になります。この記事の期限の表を、売却スケジュールを組む前に一度見てください。急いで売ると小規模宅地を失い、のんびりしていると取得費加算を失います。

    Q. 売って損が出そうです。何か使える制度はありますか。

    取得費加算は使えません。譲渡損の場合は「加算額はないものとする」と政令に明記されています(施行令25条の16第1項ただし書き)。

    ただし、損が出るということは譲渡所得税もかからないということです。そもそも減らす税金がありません。この場合に考えるのは税金ではなく、売却額そのものと、売れるまでの維持費です。

    空き家を持ち続ける費用は年間で数十万円になります。特定空家に指定されると固定資産税の優遇も外れます。損切りの判断は、税金ではなくこちらの数字でしてください。仲介と買取の違いも、この段階で効いてきます。

    Q. 確定申告を自分でやるつもりです。何を用意すればいいですか。

    正直に申し上げると、この特例を使う年の確定申告は税理士に頼むことをおすすめします。相続税額と課税価格の内訳、債務控除を戻した分母、譲渡した資産の課税価格算入額——相続税の申告書を読み解かないと数字が揃いません。

    それでもご自身でやる場合、最低限そろえるのは次のものです。

    • 相続税の申告書の控え一式(第1表・第11表など。課税価格の内訳が必要です)
    • 相続税を納付した領収証
    • 売買契約書(売ったときのもの・買ったときのもの)
    • 譲渡費用の領収証(仲介手数料・測量費・解体費など)
    • 「相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書」

    確定申告書に「適用を受けようとする旨」を記載し、明細書を添付しないと適用されません(措置法39条2項)。ここを忘れると、条件を全部満たしていても使えません。

    まとめ

    1. 相続税を払った人だけの制度です。相続税額がゼロなら対象外です(措置法39条1項)
    2. 「3年10か月」は条文にありません。正しくは「相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日まで」
    3. 申告期限は「知った日の翌日から10か月」(相続税法27条1項)。亡くなった日ではありません
    4. 加算額=相続税額 ×(売った資産の課税価格算入額 ÷ 課税価格)(施行令25条の16)
    5. ★ 分母は債務控除を戻した金額です。借金や葬式費用を引く前の数字が分母になります
    6. ★★ 小規模宅地等の特例を使うと分子も小さくなります。それでも小規模宅地のほうが有利です
    7. ★★ 空き家3,000万円控除とは選択です。措置法35条3項が39条の適用を受けるものを除いています
    8. 譲渡損なら加算はゼロ。譲渡益が上限です(施行令25条の16第1項ただし書き)
    9. 附帯税(延滞税・加算税)は相続税額に含めません
    10. 確定申告で記載と添付をしないと適用されません(措置法39条2項)

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  • 小規模宅地等の特例|実家を壊す・貸す・売る前に読んでください

    【PR】本ページには広告(PR)を含みます。条文は租税特別措置法・同施行令をe-Gov法令検索で全文開いて確認し、国税庁タックスアンサーNo.4124(令和7年4月1日現在法令等)と突き合わせました(2026年8月17日確認)。孫引きはしていません。

    最終更新:2026年8月17日

    結論だけ先に

    実家の土地の相続税評価額が、330㎡まで8割引きになる制度です。1億円の土地なら2,000万円として計算されます。実家じまいで一番金額が動くのは、たぶんこの制度です。

    ただし、条件を満たさなくなる行動が4つあります。①相続前に建物を壊す/②親が施設に入ったあと他人に貸す/③申告期限より前に売る/④相続税がゼロだからと申告しない。どれも「よかれと思ってやること」です。

    この記事は、条文(租税特別措置法69条の4)と政令(同施行令40条の2)を開いて組み立てています。金額の判定と申告は税理士の仕事です。当サイトは税理士ではありません。ここで読めるのは「何をすると使えなくなるか」までです。

    条文は「8割引き」とは書いていません

    ほとんどの解説が「80%減額」と書きます。間違いではありませんが、条文の書き方は逆です。

    相続税法第十一条の二に規定する相続税の課税価格に算入すべき価額は、当該小規模宅地等の価額に次の各号に掲げる小規模宅地等の区分に応じ当該各号に定める割合を乗じて計算した金額とする。
    一 特定事業用宅地等である小規模宅地等、特定居住用宅地等である小規模宅地等及び特定同族会社事業用宅地等である小規模宅地等 百分の二十
    二 貸付事業用宅地等である小規模宅地等 百分の五十

    出典:租税特別措置法第69条の4第1項(e-Gov法令検索で全文を確認/2026年8月17日)

    「20%を課税価格に入れる」という書き方です。引き算ではなく掛け算で、残る2割のほうを条文は指定しています。この違いは、複数の土地を持っているときに効いてきます。あとで出てくる面積の計算式が、すべて「掛け算」で書かれているからです。

    区分 限度面積 課税価格に入る割合 よくある言い方
    特定居住用宅地等(実家) 330㎡ 20% 80%減額
    特定事業用宅地等(店・工場) 400㎡ 20% 80%減額
    特定同族会社事業用宅地等 400㎡ 20% 80%減額
    貸付事業用宅地等(アパート・駐車場) 200㎡ 50% 50%減額

    出典:租税特別措置法第69条の4第1項・第2項/国税庁タックスアンサーNo.4124

    実家じまいで関係するのは、ほぼ一番上の行です。330㎡は約100坪。戸建ての敷地なら、たいてい全部が枠に収まります。

    この4つで、8割引きが消えます 相続の前に建物を壊す 建物・構築物の敷地でなくなる 敷地の要件 施設入所後に他人へ貸す 被相続人等以外の者の居住の用 居住の要件 申告期限より前に売る 保有継続を満たさなくなります 保有の要件 税がゼロだからと申告せず 69条の4第7項。申告が要件です 申告の要件 どれも「よかれと思ってやること」です

    ★ 相続の前に建物を壊すと、使えません

    これが、この記事でいちばん先に伝えたいことです。

    条文は、対象になる土地をこう限定しています。

    …被相続人等の事業の用又は居住の用に供されていた宅地等(土地又は土地の上に存する権利をいう。)で財務省令で定める建物又は構築物の敷地の用に供されているもののうち政令で定めるもの…

    出典:租税特別措置法第69条の4第1項

    「建物又は構築物の敷地」であることが条件です。国税庁も「宅地等のうち一定のもの」とは建物または構築物の敷地の用に供されている宅地等だと注記しています。

    つまり、親が生きているうちに実家を解体して更地にすると、その土地はこの特例の対象から外れます。空き家の管理が大変だから、固定資産税の話を聞いたから、近所に迷惑をかけたくないから——理由はどれも正当ですが、税額は動きます。

    順番の話です

    相続が起きる前に壊すと、特例は使えません。相続が起きたあとに壊すなら、相続開始の時点で建物があったので、居住用としての判定はその時点で行われます(ただし申告期限までの保有継続要件は別途かかります)。

    解体を先にすると、固定資産税の住宅用地特例も外れます。そちらは解体すると固定資産税が6倍になるのかで計算しました。相続税と固定資産税で、同じ方向に不利が重なる形です。

    解体そのものの費用と手順は実家の解体費用はいくらかに、アスベストの調査義務は解体とアスベストにまとめています。急いで壊す前に、相続の時期と税理士への相談を先に置いてください。

    親が施設に入っていた場合は、どうなるか

    実家じまいで一番多いのがこのケースです。「相続開始の直前に居住の用に供されていた」という条件を、親はもう満たしていません。施設にいるからです。

    条文は、これを明示的に救っています。第1項のカッコ書きです。

    …居住の用(居住の用に供することができない事由として政令で定める事由により相続の開始の直前において当該被相続人の居住の用に供されていなかつた場合(政令で定める用途に供されている場合を除く。)における当該事由により居住の用に供されなくなる直前の当該被相続人の居住の用を含む)…

    出典:租税特別措置法第69条の4第1項

    その「政令で定める事由」が、施行令に列挙されています。

    必要なこと 内容
    ★ 認定 要介護認定または要支援認定を受けていたこと(介護保険法19条1項・2項)。障害者の場合は障害支援区分の認定
    施設の種類 認知症対応型老人共同生活援助事業が行われる住居(グループホーム)/養護老人ホーム/特別養護老人ホーム/軽費老人ホーム/有料老人ホーム
    介護老人保健施設/介護医療院
    サービス付き高齢者向け住宅(有料老人ホームに当たるものを除く)

    出典:租税特別措置法施行令第40条の2第2項(e-Gov法令検索で全文を確認)

    認定が先、入所が後です

    条文は「要介護認定又は要支援認定を受けていた被相続人…が入居又は入所をしていたこと」と書いています。認定を受けないまま施設に入り、そのまま亡くなった場合、この救済に当てはまるかは条文の文言だけでは読み切れません。

    認定の申請をしていないなら、それは税金以前に介護保険の給付を受け損ねている状態でもあります。施設を探す段階で、地域包括支援センターに認定申請の相談をしてください。認知症の親の家は売れるのかに、判断能力が落ちてからでは何ができなくなるかを書いています。

    ★★ 空けておくか、貸すか。ここで数百万円が動きます

    親が施設に入って、実家が空きました。「傷むから、誰かに貸そう」——自然な発想です。そして、この特例を消す行動です。

    さきほどの第1項のカッコ書きに、除外規定がありました。「政令で定める用途に供されている場合を除く」。その用途が、これです。

    法第六十九条の四第一項に規定する政令で定める用途は、同項に規定する事業の用又は同項に規定する被相続人等(被相続人と前項各号の入居又は入所の直前において生計を一にし、かつ、同条第一項の建物に引き続き居住している当該被相続人の親族を含む。)以外の者の居住の用とする。

    出典:租税特別措置法施行令第40条の2第3項

    施設入所後の実家の状態 特例 理由
    空き家のままにしておく 使える 事業の用でも他人の居住の用でもない
    入所直前から生計を一にしていた親族が住み続ける 使える 施行令40条の2第3項カッコ書きで除外されない
    第三者に賃貸する 使えない 被相続人等以外の者の居住の用
    店舗・事務所に貸す/自分で事業に使う 使えない 事業の用
    解体して更地にする 使えない 建物又は構築物の敷地でなくなる
    親族が無償で住む(生計別・入所後に転入) 条文だけでは判定できない 「被相続人等」に当たるかの判断が要る

    空き家にしておくほうが有利、という結論が出てしまう制度です。これは空き家対策の方向と逆を向いていますが、条文はそう書いてあります。

    ただし、空き家のまま置くことにも費用とリスクがあります。維持費は空き家の維持費は年間いくらかに、放置して行政から指導が入る流れは特定空家に指定されるとどうなるかに、売る・貸す・持ち続けるの比較は相続した実家は売る・貸す・持ち続ける?にまとめています。「貸すと特例が消える」という事実を、その比較表に足して考えてください。

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    特例が使えるかを詰める前に、売った場合の手取りを見ておく

    小規模宅地等の特例は、要件を1つ外すと一気に効かなくなります。減額が効かなかったときに手元にいくら残るのかを先に知っておくと、申告期限まで持ち続けるかどうかを落ち着いて選べます。

    先に断っておきます。買取は、仲介で売れた場合より手取りが下がります。それでも見る価値があるのは、比較対象の数字が手に入るからです。運営は株式会社ネクサスプロパティマネジメント(宅地建物取引業免許:国土交通大臣(1)第10311号)。同社は「個人情報の入力は不要、匿名のまま利用でき、営業電話もありません」という匿名のAI査定も公開しています(入力3項目・最短30秒/2026年6月20日 同社発表)。まだ売ると決めていない段階なら、まず匿名のほうで桁だけ確かめてください。ただし匿名で出るのは機械的な概算です。実際の金額を知るには、連絡先を入れて査定を申し込む必要があります(申し込めば担当者から連絡が来ます)。

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    売ると決めてから調べるものではありません。決めるために調べるものです。年間の維持費は空き家の維持費を実額で積み上げた記事にまとめました。

    誰が相続するかで、使えるかどうかが変わります

    土地の条件だけでは決まりません。取得する人ごとに要件があります。実家(特定居住用宅地等)の場合、道は3本です。

    取得する人 要件 申告期限まで
    配偶者 要件なし 売っても住まなくてもよい
    同居していた親族 相続開始の直前から同居 住み続ける+持ち続ける
    それ以外の親族(いわゆる家なき子) 下の6要件をすべて満たす 持ち続ける(住む必要はない)

    出典:租税特別措置法第69条の4第3項第2号/国税庁タックスアンサーNo.4124

    配偶者だけが別格です。取得者ごとの要件がありません。母が父の家を相続して、そのまま売っても特例は使えます。「誰が相続するか」を決める前に、この差を知っておいてください。

    取得する人によって、要件が違います 配偶者 要件はありません。売っても可 別格です 同居していた親族 相続開始の直前から同居 住む+持つ それ以外の親族 いわゆる家なき子。6要件すべて 持ち続ける 家なき子は住まなくてよい。ただし10か月売れません

    そして、家なき子は「住まなくていい」代わりに「持ち続けろ」です。申告期限(相続開始を知った日の翌日から10か月)まで売れません。ここが後半の話につながります。

    「家なき子」は、名前ほどゆるくありません

    実家を出て持ち家に住んでいない子が使える、というのが通称の由来です。ただし条文の要件は6つあり、抜け道を塞ぐために細かく書かれています。

    要件 つまずきやすい点
    (1) 居住制限納税義務者・非居住制限納税義務者のうち日本国籍を有しない者ではないこと 海外在住のケース
    (2) 被相続人に配偶者がいないこと 母が健在なら、子はこの道を使えません
    (3) 相続開始の直前に被相続人の居住家屋に住んでいた被相続人の相続人がいないこと(相続放棄があった場合は、なかったものとする) 同居の兄弟がいると使えません。放棄しても消えません
    (4) 相続開始前3年以内に、日本国内にある自分・配偶者・三親等内の親族・自分と特別の関係がある法人が所有する家屋に居住したことがないこと 親戚の持ち家や自分の会社名義の社宅に住んでいると外れます
    (5) 相続開始時に住んでいる家屋を、過去のいずれの時にも所有していたことがないこと 自宅を売って買主から借りて住み続ける形は塞がれています
    (6) その宅地等を相続開始時から申告期限まで保有していること 10か月は売れません

    出典:租税特別措置法第69条の4第3項第2号ロ/国税庁タックスアンサーNo.4124

    (4)の「三親等内の親族」と「特別の関係がある法人」に注目してください

    ここが条文に書き込まれているということは、「親戚の家に住民票を移して持ち家なしにする」「自分の会社に自宅を買わせてそこに住む」という形が、かつて存在したということです。いまは、どちらも要件から外れます。

    相続の直前に住まいを動かして特例に当てはめにいく、という発想は捨ててください。3年遡って見られます。

    (3)の「相続放棄があった場合には、その放棄がなかったものとした場合の相続人」という書き方も重要です。同居している兄弟が相続放棄しても、家なき子の道は開きません。相続放棄そのものの効果と期限は相続放棄は3か月以内にまとめています。

    330㎡を超える土地は、どうなるか

    超えた分がダメになるだけで、全部がダメになるわけではありません。400㎡の敷地なら、330㎡分が8割引き、残り70㎡は通常評価です。

    ただし「どの330㎡を選ぶか」は選択できます。路線価が高い側を選べば、減額される金額は大きくなります。ここは税理士が計算する領域です。

    また、居住用の宅地が2か所以上ある場合、「主としてその居住の用に供していた一の宅地等に限る」と国税庁は書いています。別荘やセカンドハウスは対象になりません。

    ★ アパートを混ぜると、実家の枠が縮みます

    親が実家のほかにアパートや駐車場を持っていた場合、ここを間違えると損をします。

    条文の限度面積要件は、こう書かれています。

    三 貸付事業用宅地等である選択特例対象宅地等 次のイ、ロ及びハの規定により計算した面積の合計が二百平方メートル以下であること。
    イ 特定事業用等宅地等である選択特例対象宅地等がある場合の当該選択特例対象宅地等の面積を合計した面積に四百分の二百を乗じて得た面積
    ロ 特定居住用宅地等である選択特例対象宅地等がある場合の当該選択特例対象宅地等の面積を合計した面積に三百三十分の二百を乗じて得た面積
    ハ 貸付事業用宅地等である選択特例対象宅地等の面積を合計した面積

    出典:租税特別措置法第69条の4第2項第3号

    選ぶもの 限度面積の判定
    貸付事業用を選ばない(実家+店舗など) 特定事業用等 400㎡ と 特定居住用 330㎡ をそれぞれ満額。合計730㎡
    貸付事業用を1㎡でも選ぶ 全部が200㎡ベースの按分計算に落ちます

    出典:国税庁タックスアンサーNo.4124の限度面積判定表

    数字で見ます

    実家の敷地200㎡(特定居住用)と、アパートの敷地100㎡(貸付事業用)がある場合。

    ①実家だけを選ぶ:200㎡ ≦ 330㎡ なので全部が8割引き。

    ②両方を選ぶ:200 ×(200 ÷ 330)+ 100 = 121.2 + 100 = 221.2㎡。200㎡を超えるので、この組み合わせは要件を満たしません。どちらかを減らして選び直すことになります。

    「両方使えばお得」ではありません。実家の8割引きと、アパートの5割引き。1㎡あたりいくら減るかを両方計算して、大きいほうから枠を埋めます。これは税理士の計算です。ここでは「選択を間違えると損をする」ことだけ覚えて帰ってください。

    アパートを混ぜると、実家の枠が縮みます 貸付事業用を選ばない 特定事業用 400㎡ 特定居住用 330㎡ それぞれ満額 合計 730㎡ 1㎡でも選ぶ 全部が200㎡ベース の按分計算に 落ちます 実家の枠が縮む 「両方使えばお得」ではありません

    親のアパートや駐車場をどうするかは、土地活用プラン一括請求サービス徹底比較と相続した土地を活用するか売るかにまとめています。相続税の申告が終わるまでは、貸付をやめる・始めるの判断を急がないでください。貸付事業用宅地等には「相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等は除く」という制限もあります(3年を超えて特定貸付事業を行っていた場合を除く)。

    ★ 相続税がゼロでも、申告しないと使えません

    これが一番もったいない事故です。

    第一項の規定は、…相続税法第二十七条又は第二十九条の規定による申告書…に第一項の規定の適用を受けようとする旨を記載し、同項の規定による計算に関する明細書その他の財務省令で定める書類の添付がある場合に限り、適用する。

    出典:租税特別措置法第69条の4第7項

    「適用を受けようとする旨を記載し」「添付がある場合に限り」。つまり特例を使った結果として相続税がゼロになる場合でも、申告書を出さなければ特例は適用されません。適用されなければ、評価額は8割引きになりません。ゼロだったはずの税額が発生します。

    国税庁も手続きとして、申告書への記載・小規模宅地等に係る計算の明細書・遺産分割協議書の写しなどが必要だと書いています。

    救済規定はあります。ただし「やむを得ない事情」が要ります

    第8項に、申告書の提出や記載がなかった場合でも「やむを得ない事情があると認めるとき」は、書類の提出があれば適用できるという規定があります。

    知らなかった、が「やむを得ない事情」に当たるとは条文に書いていません。当てにしないでください。

    遺産分割が終わっていないと、使えません

    兄弟でもめている場合の話です。条文は、はっきり適用しないと書いています。

    第一項の規定は、…申告書の提出期限…までに共同相続人又は包括受遺者によつて分割されていない特例対象宅地等については、適用しない。ただし、その分割されていない特例対象宅地等が申告期限から三年以内…に分割された場合…には、その分割された当該特例対象宅地等については、この限りでない。

    出典:租税特別措置法第69条の4第4項

    状況 扱い
    申告期限(10か月)までに分割できた そのまま適用
    申告期限までに分割できない いったん特例なしで申告して納税。申告期限から3年以内に分割できれば、あとから適用を受けられます
    訴訟などのやむを得ない事情がある 税務署長の承認を受ければ、分割できることとなった日の翌日から4か月以内まで延びます

    いったん払う現金が要る、というのが実務上の痛点です。8割引きが効かない状態の相続税を、期限までに納めなければなりません。

    そしてもうひとつ。国税庁は手続きの説明で、宅地等を取得した相続人等が2人以上いる場合、どの宅地を選ぶかについて「その全員が同意」していることが必要だと書いています。選択そのものに全員の合意が要ります。共有で相続した場合の扱いは共有名義の実家に、名義変更の期限は相続登記の義務化にまとめています。

    いつ売るか——3つの期限が、逆を向いています

    実家じまいで「いつ売るか」を決めるとき、期限が3つあります。そして、方向がそろっていません。

    制度 期限 売却への圧力
    小規模宅地等の特例(同居親族・家なき子) 申告期限(10か月)まで保有 売るな
    小規模宅地等の特例(配偶者が取得) 保有継続要件なし どちらでもよい
    空き家の3,000万円特別控除 相続から3年を経過する日の属する年の12月31日まで 3年以内に売れ
    取得費加算の特例 相続税の申告期限の翌日から3年以内 3年10か月以内に売れ

    10か月は持ち、そのあと3年以内に売る。これが、期限だけを見たときの形です。

    10か月は持つ。それから売る 相続開始の時点 建物があること。更地では対象外 10か月 申告期限 申告しないと使えません。売らない 10か月を過ぎたら 保有継続の縛りは終わります 申告期限から3年 未分割なら、ここまでに分割すれば可

    ただし空き家の3,000万円特別控除には、小規模宅地の特例とは別の要件(昭和56年5月31日以前の建築、区分所有建物でないこと、相続直前に被相続人が一人で住んでいたことなど)があります。空き家の3,000万円特別控除と適用できるか判定するツールを用意しています。

    売ったときの税金そのものは実家を売ったときの譲渡所得税に、取得費が分からない場合は取得費が分からないときにまとめています。売却価格の見当をつけるところから始めるなら実家の売却相場を自分で調べる3つの方法を先に読んでください。

    相続税がかからない人には、関係のない話です

    相続税の基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。相続財産の総額がこれを下回るなら、そもそも相続税の申告は要りません。小規模宅地の特例を気にする必要もありません。

    ただし、この特例を使った結果として基礎控除を下回る場合は、申告が必要です。「特例を使う前の金額」で判定してください。ここを取り違えると、前の見出しの事故が起きます。

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    使えるかどうかは、申告書と登記簿を見ないと決まりません

    この記事では、条文と政令から「何をすると使えなくなるか」までを整理しました。ただし、実際に使えるかどうかの判定はできません。家なき子の6要件に当てはまるか、施設入所後に貸していた期間があるか、申告期限まで保有できるか——どれも書類を見ないと答えが出ないものです。そしてこの特例は、申告しなければ適用されません(措置法69条の4第7項)。
    税理士ドットコムは弁護士ドットコム株式会社が運営する税理士紹介サービスです。全国対応で、相談も紹介も無料。「実家を相続したので、小規模宅地等の特例が使えるか見てほしい」と条件を伝えて、相続税申告に対応できる税理士を探してもらう形になります。

    ①申し込むと、30日以内に電話またはメールで確認の連絡が来ます。知らない番号でも出てください。ここで内容が確認できないと、税理士の紹介そのものが進みません。
    ②「税理士を紹介してほしい」と伝えるためのサービスです。税務相談そのものに答える窓口ではありません。相続税申告をお願いしたい、という前提で申し込んでください。
    ③過去1年以内にこのサービスを使ったことがある方は対象外です。ご家族が先に申し込んでいないか、確認してから使ってください。
    お住まいの地域の税理士会や、相続税を扱う近所の事務所にも1件あたって見比べてください。
    それによって紹介料や税理士報酬が変わることはありません(紹介自体は無料です)。

    相続税申告での信頼できる税理士選び

    期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月です。この特例を使うには、その日までに申告書を出す必要があります。そして同居親族・家なき子で取得した場合は、その日まで売れません。売却を先に進めてしまうと、あとから取り返せません。
    売ったあとの税金については取得費加算の特例と空き家の3,000万円特別控除にまとめました。この2つは選択制です。相談するときは、まとめて聞いてしまうほうが早く進みます。

    よくある質問

    Q. 実家の土地が330㎡ちょうどでした。全部8割引きですか。

    A. 面積の要件は満たしています。ただし面積は入口のひとつで、取得者の要件(配偶者・同居親族・家なき子のどれか)と、申告の要件を別に満たす必要があります。

    また、その土地に建物または構築物が建っていることも条件です。相続開始の時点で更地なら、面積にかかわらず対象外です。

    Q. 母が施設に入っています。実家を貸したら、いくら損しますか。

    A. 金額は土地の評価額で決まるので、当サイトでは計算できません。ただし構造はこうです。貸すと特定居住用宅地等ではなくなり、8割引きが消えます。

    代わりに貸付事業用宅地等として5割引きになる可能性はありますが、限度面積は200㎡に下がり、しかも「相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等」は除外されます(3年を超えて特定貸付事業を行っていた被相続人等の場合を除く)。施設入所後に貸し始めて3年以内に相続が起きると、5割引きも使えない可能性があります。

    賃料収入とのどちらが大きいかは、土地の評価額と賃料の両方が要ります。税理士に土地の評価額を出してもらってください。

    Q. 相続してすぐ売りたいのですが、待たないといけませんか。

    A. 誰が相続したかで違います。

    配偶者が取得した場合、保有継続要件はありません。売っても特例は使えます。同居親族と家なき子は、申告期限(10か月)まで保有が要件です。その前に売ると使えません。

    そして相続税がかからない人には、そもそもこの制限がありません。基礎控除以下なら、いつ売っても構いません。まず基礎控除を超えるかどうかを確かめてください。

    Q. 兄が実家に住んでいます。私は家なき子になれますか。

    A. なれません。要件(3)が「相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋に居住していた被相続人の相続人がいないこと」だからです。

    兄が相続放棄をしても変わりません。条文は「相続の放棄があった場合には、その放棄がなかったものとした場合の相続人」と書いています。この場合は、兄が同居親族として特例を使う道を検討することになります。

    Q. 亡くなる直前に、私が実家に住民票を移せば同居親族になりますか。

    A. 住民票の話ではありません。条文が求めているのは「相続開始の直前において当該宅地等の上に存する当該被相続人の居住の用に供されていた一棟の建物に居住していた者」であることです。

    しかも相続開始時から申告期限まで、引き続きその建物に居住し、かつ宅地等を保有していることが要件です。形だけ移して10か月住まない、という形は成り立ちません。

    Q. 相続税を払わなくていいなら、申告もしなくていいですか。

    A. 「特例を使う前の金額」で判定してください。

    特例を使う前は基礎控除を超えていて、特例を使った結果ゼロになる場合は、申告が必要です。第7項が「申告書に適用を受けようとする旨を記載し、明細書等の添付がある場合に限り適用する」と定めているためです。申告しなければ特例は適用されず、税額はゼロになりません。

    Q. 遺産分割がまとまりません。特例は諦めるしかないですか。

    A. 諦める必要はありませんが、いったん現金が要ります。

    申告期限までに特例なしで申告・納税し、申告期限から3年以内に分割できれば、あとから適用を受けられます(第4項ただし書)。訴訟などのやむを得ない事情がある場合は、税務署長の承認を受けて分割できることとなった日の翌日から4か月以内まで延びます。

    この「いったん払う」ぶんの現金を、どこから出すかは早めに考えてください。

    Q. 実家とアパート、どちらに特例を使うべきですか。

    A. 1㎡あたりいくら減るかを両方計算して、大きいほうから枠を埋めます。

    実家は8割引きで330㎡、アパートは5割引きで200㎡。ただしアパートを選んだ瞬間に、全体が200㎡ベースの按分計算に落ちます。実家の路線価が高ければ実家だけを選ぶほうが有利、という結論になることが多いはずです。

    ただし「多いはず」で決めないでください。土地ごとに答えが違います。この計算のために税理士に払う報酬は、動く税額に比べれば小さいことがほとんどです。

    Q. 実家を壊してから相続が起きました。もう手遅れですか。

    A. 小規模宅地等の特例については、対象外です。相続開始の時点で建物または構築物の敷地でなければ、この特例は使えません。

    ただし、更地にしたことで有利になる制度もあります。売却時の空き家の3,000万円特別控除は、一定の要件のもとで取壊し後の敷地の譲渡も対象にしています。相続税で不利になり、譲渡所得税で有利になる、という交差が起きます。どちらの金額が大きいかは、土地の評価額と売却価格の両方を並べないと出ません。

    Q. この記事を読んで、まず何をすればいいですか。

    A. 順番はこうです。

    ①相続財産の総額が「3,000万円+600万円×法定相続人の数」を超えるかを概算する。超えないなら、この記事の話は基本的に関係ありません。
    ②超えそうなら、実家を「壊さない・貸さない・売らない」で止める。3つとも、あとから取り返せません。
    ③税理士に土地の評価額を出してもらう。選択の判断は、そこからです。

    当サイトは税理士ではありません。ここで書けるのは条文の中身までで、あなたの土地にいくら効くかは計算できません。全体の段取りは実家じまい完全ガイドにまとめています。

    確認できなかったこと

    この記事で書けなかったことを、正直に置いておきます。

    • 要介護認定の申請中に亡くなった場合の扱い。条文は「認定を受けていた被相続人」と書いており、申請中の扱いは文言からは読み取れませんでした
    • 入所後に生計別の親族が無償で住んだ場合。施行令40条の2第3項のカッコ書きは「入居又は入所の直前において生計を一にし、かつ、引き続き居住している親族」を含むと書いており、入所後に転入した親族の扱いは条文だけでは判定できませんでした
    • 選択の有利判定の具体的な計算。路線価と地積が要るため、記事では扱えません
    • 配偶者居住権が設定されている場合の面積のみなし計算。国税庁の注記に算式がありますが、当サイトでは検証していません
    • 「やむを得ない事情」(第8項)の実際の認定範囲。条文には基準が書かれていません

    まとめ

    1. 実家の土地は330㎡まで、課税価格が20%になります(=8割引き)。条文は「百分の二十を乗じる」と書いています
    2. ★ 相続前に建物を壊すと使えません。「建物又は構築物の敷地」であることが条件です
    3. 親が施設に入っていても使えます。ただし要介護認定または要支援認定を受けていたことが要件です
    4. ★★ 施設入所後に貸すと消えます。空き家のままなら維持されます(施行令40条の2第3項)
    5. 配偶者が取得した場合は、保有継続要件がありません。同居親族と家なき子は申告期限まで保有が必要です
    6. 家なき子は6要件。三親等内の親族の家、自分の会社名義の家に住んでいると外れます
    7. アパートを1㎡でも選ぶと、全体が200㎡ベースの按分計算に落ちます
    8. ★ 税額ゼロでも申告しないと適用されません(第7項)
    9. 未分割だと使えません。申告期限から3年以内に分割すれば取り戻せます(第4項ただし書)
    10. 相続財産が基礎控除以下なら、この記事の話は関係ありません。まずそこから確かめてください

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