親が亡くなって、実家に誰も住まなくなった。相続登記や遺品整理に追われているあいだ、たいてい後回しになるのが火災保険です。
後回しにしてしまう理由ははっきりしています。「契約者が死んだのだから、保険はもう切れているだろう」と思うか、逆に「保険料は引き落とされ続けているのだから、何もしなくても大丈夫だろう」と思うか。どちらかです。
どちらも危ない。契約は消えませんが、そのまま放っておくと、いざというときに保険金が出ないことがあります。
この記事は、e-Gov法令検索の条文と、日本損害保険協会・損害保険料率算出機構の公表資料だけで、この話を確認したものです。各社の約款は読んでいません。確認できなかったことは、最後にそのまま書いています。
最終更新:2026年8月19日
結論だけ先に
- 火災保険の契約は相続されます。民法896条は「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」と定めています。親が死んだ瞬間に保険が消えるわけではありません。
- 契約後に伝えなければならないこと(通知事項)は、火災保険では2つだけです。日本損害保険協会は「建物の構造・用法の変更」と「家財の他の場所への移転」を挙げています。所在地の変更や他社契約の情報は「契約時の告知事項」であって、通知事項には入っていません。
- 通知を怠ると、契約を解除されることがあります(保険法29条1項)。しかも解除の効力は将来に向かってしか及ばないのに、危険が増えた時点までさかのぼって保険金が支払われません(保険法31条2項2号)。「解除は将来だけだから、それまでの事故は出る」ではありません。
- 地震保険は、法律の入口で「居住の用に供する建物」に限られています(地震保険に関する法律2条2項1号)。誰も住んでいない実家がここに入るのかは、条文からは読み取れません。
- 実家から火が出て隣家が焼けても、重大な過失がなければ賠償責任を負いません(失火ノ責任ニ関スル法律)。ただしこの法律が名指ししているのは民法709条だけです。塀や屋根が落ちて人が怪我をしたときの民法717条は、条文に挙げられていません。
根拠と条番号は本文にあります。条文はすべてe-Gov法令検索で本文を確認しました。
まず、親が死んでも火災保険は消えない
民法896条は、こう書いてあります。
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
「一切の権利義務」です。不動産や預金だけではありません。火災保険の契約者としての地位も、ここに含まれます。
だから、親が亡くなった翌日に実家が火事になっても、契約が生きている限り、保険金の請求権そのものは相続人にあります。「契約者が死亡したから無効」ではありません。
ただし条文には「ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない」という但し書きがあります。火災保険が一身専属かどうかは、条文には書いてありません。ここは実務の理解として「一身専属ではない(=相続される)」とされていますが、その根拠を示す公的な文書は、今回は見つけられませんでした。
問題は「消えるかどうか」ではなく「誰の名前になっているか」
ここからが本題です。契約は消えません。でも、契約書に書いてある名前は、亡くなった親のままです。
火災保険には、立場の違う3つの名前が出てきます。
| 呼び名 | 意味 | 相続でどうなるか |
|---|---|---|
| 保険契約者 | 保険会社と契約し、保険料を払う人 | 相続人が承継する(民法896条) |
| 被保険者 | 保険の対象になる建物について、損害を受ける立場の人。ふつうは建物の所有者 | 建物の所有者が変わるので、実質的に変わる |
| 保険金受取人 | 保険金を受け取る人。火災保険では被保険者と同じことが多い | 同上 |
ここでいちばん動くのは「被保険者」です。建物の所有者が親から相続人に移るからです。
相続人が複数いると、被保険者は「全員」になる
民法898条1項は、こう定めています。
相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。
そして2項。
相続財産について共有に関する規定を適用するときは、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分をもって各相続人の共有持分とする。
遺産分割が終わるまで、実家は相続人全員の共有です。兄弟3人なら、建物は3人の共有物になります。
つまり火災保険の被保険者も、遺産分割が終わるまでは相続人全員だと考えることになります。1人だけが手続きをして、1人だけの名義にしてしまうと、あとで揉めます。
共有の実家をどう扱うかは、実家が兄弟の共有になっているで、同意が要る場面と要らない場面を条文で整理しています。
火災保険で「あとから伝えること」は2つしかない
ここが、この記事でいちばん大事なところです。
日本損害保険協会の損害保険Q&A(すまいの保険・問59)は、火災保険の告知事項と通知事項を、次のように整理しています。
| いつ | 中身 | |
|---|---|---|
| 告知事項 | 契約するとき | ①建物の構造・用法 ②建物の所在地 ③他の火災保険契約等(重複保険契約)の情報 |
| 通知事項 | 契約したあと | ①建物の構造・用法の変更 ②家財の他の場所への移転 |
通知事項は2つだけです。そして、そのうちの1つが「建物の構造・用法の変更」です。
協会が挙げている例は、「住宅専用の建物を改築して店舗併用の建物に変更するなど」。
——ここで正直に書きます。「人が住まなくなった」ことが、この『用法の変更』にあたるかどうかは、協会の説明にも、保険法の条文にも、書かれていません。
書かれているのは「用法の変更は通知事項である」という一般則だけです。あなたの実家がそれに当たるかどうかを判断するのは、あなたでも私でもなく、保険会社です。
だから、この記事の結論は最初から1つしかありません。「誰も住まなくなりました」と保険会社に電話してください。それだけです。
告知事項と通知事項を混ぜないこと
ここを混同している解説をよく見ます。「所在地が変わったら通知が必要」は誤りです。所在地は契約時の告知事項であって、通知事項の2項目には入っていません(建物の所在地が後から変わることは、そもそも普通ありません)。
逆に「他社の火災保険にも入った」は告知事項です。相続で、親の契約と自分がかけた契約が二重になっているケースは実際にあります。これは新しく契約するときに申告するものであって、既存契約の通知事項ではありません。
入り直すときは「告知義務」のほうが働く
ここまでは、親の契約を引き継ぐ話でした。いったん解約して、自分の名前で入り直す場合はどうなるか。
そのときに働くのは通知義務ではなく、契約するときの告知義務です。保険法4条は、こう定めています。
保険契約者又は被保険者になる者は、損害保険契約の締結に際し、損害保険契約によりてん補することとされる損害の発生の可能性(以下この章において「危険」という。)に関する重要な事項のうち保険者になる者が告知を求めたもの(第二十八条第一項及び第二十九条第一項において「告知事項」という。)について、事実の告知をしなければならない。
読み落としやすいのは「保険者になる者が告知を求めたもの」という限定です。日本の保険法は、契約者が思いつくことを何でも自発的に申告する仕組み(自発的申告義務)ではありません。保険会社が申込書で聞いたことに、正確に答える。それが告知義務です。
だから、申込書に「現在お住まいですか」「空き家ですか」という欄があれば、そこに正直に書く。欄がなければ、条文上は告知義務の対象ではありません。ただし、欄がないからといって言わなくていいという意味ではありません。言わずに入った契約は、いざというときに使えない契約になりかねません。
そして、いま入っている契約を解約して入り直す場合、解約と新契約のあいだに1日でも空白があると、その日の事故は誰も補償しません。順番を必ず確認してください。
伝えなかったときに、実際に何が起きるか
「言わなくてもバレないだろう」で済まないのは、保険法の作りがそうなっているからです。
保険法29条——危険増加による解除
保険法29条1項は、こう書いてあります(括弧書きを含めて引用します)。
損害保険契約の締結後に危険増加(告知事項についての危険が高くなり、損害保険契約で定められている保険料が当該危険を計算の基礎として算出される保険料に不足する状態になることをいう。以下この条において同じ。)が生じた場合において、保険料を当該危険増加に対応した額に変更するとしたならば当該損害保険契約を継続することができるときであっても、保険者は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合には、当該損害保険契約を解除することができる。
一 当該危険増加に係る告知事項について、その内容に変更が生じたときは保険契約者又は被保険者が保険者に遅滞なくその旨の通知をすべき旨が当該損害保険契約で定められていること。
二 保険契約者又は被保険者が故意又は重大な過失により遅滞なく前号の通知をしなかったこと。
読みどころは3つあります。
1つめ。「保険料を上げれば契約を続けられるときであっても」解除できる、と書いてあります。「差額を払えば済む」ではありません。
2つめ。解除には1号と2号の両方が必要です。1号は「約款に通知義務が書いてあること」。2号は「故意または重大な過失で通知しなかったこと」。うっかり忘れた(軽過失)だけでは、条文上は解除できません。
3つめ。「危険増加」の意味が括弧の中に定義されています。「告知事項についての危険が高くなり、保険料が不足する状態になること」。つまり、保険料が足りなくなるかどうかが基準です。
保険法31条——ここが本当に怖いところ
31条1項は、あっさりしています。
損害保険契約の解除は、将来に向かってのみその効力を生ずる。
これだけ読むと「解除されても、それまでの事故は保険金が出るのか」と思います。思いますが、2項があります。
31条2項は「保険者は、次の各号に掲げる規定により損害保険契約の解除をした場合には、当該各号に定める損害をてん補する責任を負わない」として、29条1項(危険増加による解除)については、「解除に係る危険増加が生じた時から解除がされた時までに発生した保険事故による損害」を挙げています。
解除は将来に向かってしか効きません。それなのに、保険金は危険が増えた時点までさかのぼって支払われません。
具体的に言えば、こうなります。
| 時点 | 起きたこと |
|---|---|
| 2026年3月 | 親が亡くなり、実家が空き家になった(=危険増加が生じた時、と保険会社が判断したとする) |
| 2026年3月〜9月 | 相続人は何も通知していない。保険料は引き落とされ続けている |
| 2026年9月 | 実家が全焼 |
| 2026年10月 | 保険会社が事実を知り、契約を解除 |
この場合、9月の火災は「危険増加が生じた時から解除がされた時までに発生した保険事故」です。31条2項2号にそのまま当てはまります。
ただし同じ号には、ただし書きがあります。「当該危険増加をもたらした事由に基づかずに発生した保険事故による損害については、この限りでない」。空き家であることと無関係に起きた損害なら、支払われます。
これは告知義務違反の側でも同じ考え方です。協会の問59は、木造の建物をコンクリート造と偽って告知した場合でも、木造でもコンクリート造でも同じように床上浸水したのであれば、告知義務違反と損害との間に因果関係がないので保険金は支払われる、という例を挙げています。
「嘘をついたから一律に全部払わない」ではありません。そこは条文も協会の説明も、はっきり線を引いています。
告知義務違反のほうには、期限がある
契約するときの告知義務違反(保険法28条1項)については、解除権に期限があります。28条4項です。
第一項の規定による解除権は、保険者が同項の規定による解除の原因があることを知った時から一箇月間行使しないときは、消滅する。損害保険契約の締結の時から五年を経過したときも、同様とする。
知ってから1か月、契約から5年。この2つの期間を過ぎれば、告知義務違反を理由に解除することはできなくなります。
そして29条2項は、この28条4項を危険増加による解除にも準用しています。ただし「損害保険契約の締結の時」を「危険増加が生じた時」と読み替える、と書いてあります。起算点が契約時ではなく、危険が増えた時になるということです。
また、28条2項は解除できない場合も定めています。①保険会社が契約時にその事実を知っていた、または過失で知らなかったとき ②保険を仲介した人(代理店など)が告知を妨げたとき ③仲介した人が「言わないほうがいい」と勧めたとき。②③は、それがなくても告知しなかっただろうと認められる場合には適用されません(28条3項)。
「住宅物件」と「一般物件」——空き家はどちらなのか
ここは、ネット上でいちばん断定されていて、いちばん根拠が薄いところです。
損害保険料率算出機構は、火災保険参考純率のページで、建物を4つに分けています。機構が書いている定義は、次のとおりです。
| 区分 | 機構の定義(原文) |
|---|---|
| 住宅物件 | 住居としてのみ使用する建物です。 |
| 一般物件 | オフィスビルや学校など、住宅物件・工場物件・倉庫物件のいずれにも該当しないものです。 |
| 工場物件 | 食料品製造工場や化学工場など、動力や電力を大量に使用し製品の製造・加工などを主として行う建物です。 |
| 倉庫物件 | 倉庫業者が顧客から預かった物品を保管するための建物です。 |
このページに、空き家がどれに当たるかは書かれていません。今回確認した範囲では、「空き家」という語自体が出てきません。
いっぽう、空家等対策の推進に関する特別措置法2条1項は、「空家等」をこう定義しています。
建築物又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの及びその敷地(国又は地方公共団体が所有し、又は管理するものを除く。)
片方は「住居としてのみ使用する建物」。もう片方は「居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの」。
この2つの文を並べると、誰も住んでいない家を「住居として使用する建物」と呼べるのかという論点が浮かびます。浮かびますが、これは条文と定義を並べた結果そう見えるというだけで、「だから空き家は一般物件になる」と書いてある公的な文書は、今回は見つけられませんでした。
実務では、保険会社ごとに扱いが違います。ここを断定している解説は、根拠を確かめたほうがいいと思います。私たちは断定しません。あなたの契約がどうなるかは、証券番号を伝えて保険会社に聞くのが唯一の確実な方法です。
なぜ区分が変わると困るのか
区分が変わると、保険料が変わります。それだけならお金の問題です。問題は、住宅物件向けの商品にしか付いていない補償があることです。
たとえば個人賠償責任の特約や、家財の補償。こうした「住まいであること」を前提にした特約は、一般物件の商品には用意されていないことがあります。ただし、どの特約がどう扱われるかは各社の商品ごとの話で、今回は約款を読んでいません。
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保険料が上がり、特約も付かない家を、いつまで持つか
空き家は一般物件として扱われ、保険料が上がるか、引き受け自体を断られることがあります。守りきれない家を持ち続けるコストと、いま手放したときの金額は、並べて比べるものです。
先に断っておきます。買取は、仲介で売れた場合より手取りが下がります。それでも見る価値があるのは、比較対象の数字が手に入るからです。運営は株式会社ネクサスプロパティマネジメント(宅地建物取引業免許:国土交通大臣(1)第10311号)。同社は「個人情報の入力は不要、匿名のまま利用でき、営業電話もありません」という匿名のAI査定も公開しています(入力3項目・最短30秒/2026年6月20日 同社発表)。まだ売ると決めていない段階なら、まず匿名のほうで桁だけ確かめてください。ただし匿名で出るのは機械的な概算です。実際の金額を知るには、連絡先を入れて査定を申し込む必要があります(申し込めば担当者から連絡が来ます)。
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地震保険は、法律の入口で「居住の用に供する建物」に限られている
火災保険よりはっきりしているのが地震保険です。これは条文に書いてあります。
地震保険に関する法律2条2項は、「地震保険契約」の要件を4つ挙げています。その1号がこれです。
居住の用に供する建物又は生活用動産のみを保険の目的とすること。
「居住の用に供する建物」または「生活用動産」だけ。これが地震保険の入口です。
残りの3つも押さえておく価値があります。
- 2号——地震・噴火・津波を直接または間接の原因とする火災、損壊、埋没、流失による損害を、政令で定める金額でてん補すること
- 3号——特定の損害保険契約に附帯して締結されること。つまり地震保険は単独では入れません。火災保険とセットです
- 4号——附帯する損害保険契約の保険金額の30%以上50%以下に相当する金額を保険金額とすること(政令で定める上限あり)
4号は意外と知られていません。地震保険は、火災保険と同額はかけられません。上限は火災保険金額の半分です。
そして1号に戻ります。誰も住んでいない実家が「居住の用に供する建物」に当たるのかどうか。条文には書いてありません。財務省と損害保険料率算出機構のページも確認しましたが、空き家についての記載は見つけられませんでした。
ここも保険会社に聞く以外にありません。ただ、火災保険の物件区分より、地震保険のほうが条文の縛りがはっきりしている分、断られる可能性は高いと考えておくほうが安全です。
火災保険では守れないもの:隣の家に燃え移ったとき
ここは、火災保険の話と混ざりやすいので分けて書きます。
実家から火が出て、隣の家が焼けた。このとき、あなたは隣家に賠償しなければならないのか。
日本には、明治32年から続く1条だけの法律があります。失火ノ責任ニ関スル法律です。全文はこれだけです。
民法第七百九条ノ規定ハ失火ノ場合ニハ之ヲ適用セス但シ失火者ニ重大ナル過失アリタルトキハ此ノ限ニ在ラス
民法709条は、こう書いてあります。
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
つまり、火事については709条を使わない。ただし重大な過失があったときは別。これが失火責任法です。
だから「隣に燃え移っても、重過失がなければ賠償しなくていい」というのは、条文どおりです。
ただし、この法律が名指ししているのは709条だけ
もう一度、条文を見てください。「民法第七百九条ノ規定ハ」としか書いていません。
民法には、もう1つ、建物の所有者に関わる条文があります。717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)です。
土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
この条文の恐ろしさは「ただし」以降にあります。占有者が必要な注意をしていたときは、所有者が賠償しなければならないと書いてあります。所有者には「注意していました」という逃げ道が用意されていません。
空き家の場合、占有者も所有者もあなたです。屋根瓦が落ちて通行人が怪我をした、ブロック塀が倒れて隣の車を壊した、外壁が剥がれて隣家を傷つけた。これらは火事ではないので、そもそも失火責任法の出番がありません。
では、火事なら717条も免れるのか。失火責任法の条文は717条を挙げていません。ここから「工作物責任には失火責任法が及ばない」という読み方が実務では取られていますが、その根拠になる判例の本文は、今回は確認していません。条文に書いてあるのは「709条には適用しない」ということだけです。
放置した空き家がどこまで危険になるかは、空き家を放置するとどうなるかで、行政の措置と実際の費用を整理しています。
解体するとき、保険はどうなるか
実家を解体すると決めたときも、火災保険には手続きが要ります。
保険の対象になっている建物が無くなるからです。建物が無くなれば、その建物にかけた保険は目的を失います。長期契約で保険料を前払いしている場合、残りの期間に対応する保険料が返ってくることがあります。
——ただし、ここも正直に書きます。解体したときの解約返戻金の計算方法は、各社の約款によります。今回は確認していません。「必ず返ってくる」とは書けません。
言えるのは1つだけです。解体業者と契約する前に、保険会社に「いつ解体するか」を伝えておくこと。解体してから連絡すると、その間の保険料が無駄になります。
解体費そのものについては、実家の解体費用はいくらかと全国の解体補助金一覧で、構造・坪数別の相場と、自治体ごとの補助制度を1件ずつ確認しています。補助金はほぼすべての自治体で「契約前の申請」が条件です。保険の連絡と一緒に、順番を間違えないようにしてください。
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保険の連絡より前に、解体費の見当を付けておく
解体を保険会社に伝えるタイミングも、補助金の申請も、解体をいつやるかが決まっていないと順番を組めません。費用の見当が付けば、その順番が決まります。
①同社サイトには「ご利用は無料。ご成約後の請求も一切ございません」と書かれています。
②同社は「契約まで、業者からご連絡がいくことはございません」と説明しています。
③申し込みには物件の情報と写真が要ります。遠方の実家で写真が手元にないなら、次に帰ったときに外観と傷んでいる箇所を撮っておいてください。
④解体する予定がないなら申し込まないでください。重複した申込や、連絡先が実在しない申込は無効と明記されています。
⑤1社の見積りだけで決めないでください。地元の解体業者にも自分で1社あたって、金額の桁が合っているかを確かめてください。
⑥解体補助金を使う予定があるなら、契約・着工の前に自治体へ申請してください。着工後の申請は原則として通りません。
見積書のどこを見るかは、この記事の見積書の章に戻って確認してください。お住まいの自治体の制度を先に調べておくと、受付期間に間に合うかどうかも一緒に分かります。
相続放棄をしても、実家の管理義務が残ることがある
「保険の名義変更が面倒だから、相続放棄すればいい」——そう考える人がいます。放棄すれば火災保険の契約も承継しません。民法896条の「一切の権利義務を承継する」の裏返しです。
ただし、建物そのものから完全に手が離れるとは限りません。民法940条1項は、こう定めています。
相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。
条件は「その放棄の時に……現に占有しているとき」です。実家に住んでいた、鍵を持って出入りしていた、荷物を置いていた。そういう状態で放棄した場合、次の相続人か相続財産清算人に引き渡すまで、保存義務が残ります。
「自己の財産におけるのと同一の注意」という水準です。自分の物と同じ程度に扱えばよい、という意味で、善良な管理者の注意(善管注意義務)より軽い水準とされています。ただし、何もしなくていいという意味ではありません。
この状態で建物が崩れて他人に損害を与えたら、先ほどの民法717条が問題になります。そして、保険はもう自分のものではありません。
相続放棄そのものの判断は、実家が「負動産」だったら相続放棄すべきかで、3か月の期限と、放棄しても残るものを条文で整理しています。
やることの順番
ここまでを、手を動かす順に並べ直します。
1.保険証券を探す
親の家の書類箱、仏壇の引き出し、通帳と一緒の封筒。証券が見つからなくても諦めないでください。預金通帳の引き落とし履歴に保険会社名が出ていれば、そこから照会できます。
2.保険会社に「相続が起きたこと」と「誰も住んでいないこと」を伝える
この2つはセットで伝えてください。名義の話だけして、居住状況を言わないと、いちばん大事な部分が抜けます。
聞くことは、次の4つです。
- この契約は、空き家のままで継続できますか
- 継続できる場合、物件の区分(住宅物件かどうか)は変わりますか
- 地震保険は付けたままにできますか
- 被保険者を相続人全員にする手続きには、何が必要ですか
3.遺産分割が決まったら、もう一度連絡する
遺産分割協議が終わって、実家の名義が1人に決まったら、被保険者をその人に変える手続きが要ります。民法898条の共有状態が解けるからです。
4.解体・売却が決まったら、その前に連絡する
建物が無くなる日、あるいは所有者が他人に移る日を、事前に伝えます。
やってはいけないこと
- 「保険料が引き落とされているから大丈夫」で放置する。保険料が落ちていることと、保険金が出ることは別の話です
- 自分で「これは用法の変更ではない」と判断する。判断するのは保険会社です
- 相続人が1人だけで名義を自分に変えてしまう。遺産分割が終わるまで、建物は全員の共有です
- 解体してから保険会社に連絡する。順番が逆です
この記事で確認できなかったこと
この記事は、e-Gov法令検索の条文と、日本損害保険協会・損害保険料率算出機構の公表資料だけで書いています。次の点は確認できませんでした。
- 「人が住まなくなったこと」が、通知事項である「建物の用法の変更」に当たるかどうか。協会の説明が挙げている例は「住宅専用の建物を改築して店舗併用の建物に変更するなど」までで、空き家についての記述はありません
- 空き家が住宅物件から一般物件に変わるかどうか。損害保険料率算出機構の火災保険参考純率のページには、空き家についての記載がありません
- 誰も住んでいない建物が、地震保険に関する法律2条2項1号の「居住の用に供する建物」に当たるかどうか。条文にも、財務省・機構のページにも書かれていません
- 各保険会社の約款。空き家に関する条項、通知義務の具体的な文言、解約返戻金の計算方法は、いずれも各社の約款によります。今回は1社も読んでいません
- 火災保険が「一身専属」でないことを示す公的な文書。民法896条の但し書きに当たらないという理解は実務上のものです
- 失火責任法が民法717条に及ばないとする判例の本文。失火責任法の条文が709条だけを挙げていることは確認しましたが、判例そのものは取得していません
- 空き家の火災保険料が、住んでいる家と比べてどれくらい上がるか。公表されている数値を見つけられませんでした
- 被保険者の変更に必要な書類。戸籍謄本や遺産分割協議書が要るかどうかは、保険会社ごとに違います
- 民法940条1項の「現に占有している」の具体的な判断基準。鍵を持っているだけで占有にあたるのかは、条文からは読み取れません
- 地震保険の政令で定める金額(2条2項2号・4号)の具体的な水準。地震保険に関する法律施行令は今回開いていません
当サイトには監修者がいません。ここに書いたのは条文と公表資料の内容であって、あなたの契約に当てはめた判断ではありません。証券番号を用意して、保険会社に電話してください。それが唯一の確実な方法です。
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空き家の瓦が落ちて人にあたったら、賠償するのは所有者です——民法717条には「知らなかった」という逃げ道がありません。庭木も対象です。