相続した実家を売ったあと、雨漏りが見つかったら|住んでいなかった人が負う「契約不適合責任」の範囲

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実家を売った。半年後、買主から連絡が来る。「2階の天井から雨漏りしています」

あなたはその家に住んでいませんでした。雨漏りがあることも知りませんでした。それでも責任を負うのでしょうか。

負います。2020年4月1日に施行された民法では、売主に落ち度がなくても、買主は修補や代金の減額を請求できます。「知らなかった」は、原則として理由になりません。

そして、中古の戸建てで買主からいちばん多く相談が来る不具合が、まさに雨漏りです。国が指定した相談窓口の集計で28.4%。ひび割れやはがれを大きく引き離しています。

最終更新:2026年8月28日

結論だけ先に

  • ★契約不適合責任は、売主が知らなくても負います。買主は修補・代金減額・損害賠償・解除を請求できます。
  • 買主は「知った時から1年以内に通知」すればよく、訴える必要はありません。通知は「不適合の種類とおおよその範囲」を知らせれば足ります。
  • ★既存(中古)住宅の戸建てで、相談のいちばん多い不具合は雨漏り28.4%。新築戸建てはひび割れ19.2%が最多で、中身がはっきり違います。
  • 免責特約は結べます。ただし「知りながら告げなかった事実」は、特約があっても免れません(民法572条)。
  • 相続人がいちばん困るのは、告知書に何を書けばいいか分からないことです。住んでいないので、知らない。その「知らない」を、そのまま書くのが正しい。

この記事は、法務省・国土交通省の公表資料と、公益財団法人 住宅リフォーム・紛争処理支援センターの「住宅相談統計年報2025」だけを根拠にしています。当サイトに弁護士はいません。実際に請求を受けた場合の対応は、契約書の文言と個別の事情で変わります。金額が大きい場合は弁護士に相談してください。

1. 中古の戸建てで、いちばん多いのは雨漏りです

国土交通大臣が指定した住宅相談の窓口である住宅リフォーム・紛争処理支援センターが、毎年の相談を集計して公表しています。2024年度の新規相談は30,812件、このうち既存(中古)住宅に関する相談は1,664件で、前年より2.4%増えました。

既存住宅と新築住宅で、相談される不具合が違う 相談された不具合(戸建て) 住宅相談統計年報2025・2024年度 既存(中古)住宅 n=462 雨漏り 28.4% ひび割れ 17.7% はがれ 13.2% 新築住宅(戸建て) ひび割れ 19.2% 雨漏り 15.5% 中古は雨漏りが突出。新築とは中身が違う
公益財団法人 住宅リフォーム・紛争処理支援センター「住宅相談統計年報2025」(2024年度)から作成
2024年度の住宅相談 数字
新規相談 30,812件
うち既存(中古)住宅の相談 1,664件(前年比+2.4%)
既存相談の住宅の種類 戸建60.1%/共同住宅等39.9%
既存・戸建の不具合1位 雨漏り 28.4%(n=462)
新築・戸建の不具合1位 ひび割れ 19.2%
「住宅相談統計年報2025」から抜粋。nは不具合事象を回答した件数

中古の戸建ては、雨漏りが突出しています。そして雨漏りは、住んでいない人にはいちばん気づきにくい不具合です。天井のしみは、雨の日に家にいないと分かりません。

出典:公益財団法人 住宅リフォーム・紛争処理支援センター「住宅相談統計年報2025 −2024年度の住宅相談と紛争処理の集計・分析−」

2. ★「知らなかった」では、免れません

2020年4月1日から、売買のルールが変わりました。法務省のパンフレットはこう説明しています。

売主が引き渡した目的物が種類や品質の点で契約内容と異なっていたり、数量が不足していた場合(契約内容に適合していなかった場合)

ここで大事なのは、「隠れた瑕疵」という言い方がなくなったことです。以前は「買主が知らなかった、気づけなかった欠陥」が対象でした。いまは「契約の内容に合っているか」で判断します。

そして、売主に落ち度がなくても買主は請求できます。法務省のパンフレットは、売主に帰責事由がない場合でも「修補や代替物の引渡しなど完全な履行を請求することや、代金の減額を請求する」ことができる、としています。

買主が使える4つの手段

手段 中身 売主にとって
履行の追完の請求 直してくれ、と求める 修補費用を負担する
代金の減額の請求 その分だけ代金を返してくれ 受け取った代金の一部を返す
損害賠償の請求 被った損害を賠償してくれ 売主に帰責事由がある場合
契約の解除 契約そのものをなかったことに 代金を全額返し、家を戻す
法務省民事局参事官室「売買、消費貸借、定型約款などの契約に関する民法のルールが変わります」(平成31年2月)から作成

★相続した実家でいちばん現実的なのは、上の2つです。解除まで進む例は多くありませんが、修補費用や代金の一部返還は普通に起こります。売却代金を兄弟で分けたあとに請求が来ると、もう手元にお金がありません。

3. ★1年以内に「通知」すればいい。訴える必要はありません

ここは誤解されやすいところです。「1年以内に訴えなければ買主は権利を失う」わけではありません。

国土交通省住宅局の資料はこう書いています。

契約に適合していないことを知ってから、1年以内に通知をすれば足りる

そして「通知」の中身についても、こう説明しています。

売主が対応を検討できる程度に不適合の種類やおおよその範囲を知らせるもの

つまり「2階の天井に雨漏りがある」と伝えれば、それで通知は済んでいます。金額の見積りも、修理の完了も要りません。「まだ請求書が来ていないから大丈夫」ではないということです。

契約不適合責任の1年は、いつから数えるか 1年は「引渡し」から数えません 民法の通知期間・国土交通省住宅局の説明から 誤解 引渡しから1年で消える 実際 何年でも続く 買主が不具合に気づいた時点から 1年以内に通知 通知は種類とおおよその範囲を伝えれば足ります
民法の担保責任の通知期間と、国土交通省住宅局「住宅業界に関連する民法改正の主要ポイント」から作成

起算点は「引渡し」ではなく「知った時」です

1年の数え方は、買主が不適合を知った時からです。引渡しからではありません。売ってから3年後に雨漏りに気づけば、そこから1年です。

だから「もう何年も経ったから安心」とは言えません。期間を区切りたいなら、契約でそう決めておくしかありません。

出典:法務省民事局参事官室のパンフレット(平成31年2月)/国土交通省住宅局「住宅業界に関連する民法改正の主要ポイント」

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請求が来る前に、この家がいくらのものかを知っておく

契約不適合責任で求められるお金は、売った代金の中から払うことになります。いくらで売れるのかを先に知っておくほど、免責特約を入れるかどうかも含めて、判断できる幅が広がります。複数社の査定額を一度に取り寄せられます。

入力後は各社から個別に連絡が来ます。査定額は各社の見立てであって、実際の成約価格とは別物です。売却の意思が固まっていない段階では、連絡が負担になることがあります。

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査定額が出たら、免責特約を入れるかどうかを、媒介契約の前に相談できます。

4. 免責特約は結べます。ただし1つだけ効きません

個人が売主の場合、「契約不適合責任を負わない」という特約を結ぶことができます。相続した実家のように、売主が建物の状態を把握していない取引では、実際によく使われます。

ただし、条文に例外があります。民法572条です。担保責任を負わない特約をしたときであっても、こう定められています。

担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実については、その責任を免れることができない

★つまり、知っていて黙っていた不具合は、免責特約を書いても守ってくれません。

売主の状況 免責特約は効くか
本当に知らなかった 効く(特約の文言による)
知っていたが、言わなかった 効かない(民法572条)
親から聞いていたが、忘れていた 「知っていた」と評価される可能性がある
特約を結んでいない そもそも免責されない
民法572条にもとづく整理。実際の判断は個別の事情によります

ここが、相続した実家でいちばん危ないところです。親が生前に「雨漏りしたことがある」と言っていた。修理した記憶がある。それを思い出さずに「知りません」と書いてしまうと、あとで「知っていたのに告げなかった」と言われかねません。

5. ★相続人がいちばん困るのは、告知書です

実家を売るとき、売主は物件状況等報告書(告知書)を書きます。雨漏り・シロアリ・給排水の不具合・過去の修繕歴などを、知っている範囲で申告する書面です。

住んでいた人なら書けます。相続人は、書けません。

「知らない」を、そのまま書くのが正しい

相続した実家で正しい書き方は、分からないことを「不明」と書き、なぜ分からないのかを添えることです。

やること 理由
「居住したことがないため不明」と書く 知らないことを知らないと書くのは、隠したことにならない
親から聞いた話も書く 「知りながら告げなかった」を避けるため
修繕の書類を探して添える 過去に直した箇所は、聞いていなくても紙で分かる
空欄にしない 空欄は「無し」と読まれることがある
当サイトの整理。書式と運用は不動産会社によって異なります

「不明」と書くことを、悪いことだと思わないでください。買主にとっても「売主は把握していない」という情報そのものが判断材料になります。むしろ、知らないのに「無し」と書くほうが危険です。

重要事項説明書にも、専用の欄があります

宅地建物取引業法35条にもとづく重要事項説明書(売買・交換)の様式には、次の欄が用意されています。

欄 記入内容
担保責任の履行に関する措置 措置を「講ずる・講じない」を選び、講ずる場合はその内容
建物状況調査の実施の有無 「有・無」を選び、有なら結果の概要
石綿使用調査結果の記録の有無 「有・無」を選び、有なら調査の内容
国土交通省の重要事項説明書(売買・交換)の様式(宅地建物取引業法35条)から作成

★「担保責任の履行に関する措置」を『講ずる』にする方法が、既存住宅売買瑕疵保険です。買主が安心する代わりに、保険を使うには検査に通る必要があります。詳しくは実家を売る前にインスペクションは必要かに書きました。

6. 代金を分けたあとに請求が来ると、戻せません

ここが、相続した実家に特有の危なさです。

実家を売って現金にし、兄弟で分ける。換価分割という、いちばん多いやり方です。問題は、請求が来るのが引渡しの「あと」だということです。

時点 起きること
引渡し 代金を受け取る
その直後 兄弟で分けて、各自の口座に移す
数か月〜数年後 買主が不具合に気づく
そこから1年以内 通知が届く。修補費用や減額を求められる
このとき 手元にお金がない。誰がいくら出すかで、もう一度もめる
当サイトの整理。責任の負担割合は相続分や遺産分割協議の内容によります

対策は単純です。売却代金の一部を、一定期間そのまま置いておく。いくらをいつまで置くかを、分ける前に兄弟で決めておく。それだけで、あとの揉め方がまったく違います。

免責特約を入れた場合でも同じです。特約は「知りながら告げなかった事実」には効かないので、ゼロにはなりません。

7. 動く順番

  1. 親から聞いた話を、思い出せるだけ書き出す。雨漏り・シロアリ・水回り・地盤・境界。これが「知りながら告げなかった」を避ける唯一の方法です。
  2. 実家の書類を探す。修繕の見積書・領収書・工事写真。捨ててはいけない書類に一覧があります。
  3. 雨の日に一度、実家を見る。中古戸建の相談1位が雨漏りです。晴れた日の内見では分かりません。
  4. 免責特約を入れるかどうかを、媒介契約の前に不動産会社と決める。
  5. 買主が住宅ローンを使うなら、検査や保険を求められることがある。先に確認する。
  6. 売却代金をすぐ分けない。請求が来るのは引渡しのあとです。

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2社目の査定が出たら、告知書に何を書くかを、媒介契約を結ぶ前に不動産会社と詰めてください。

やってはいけないこと

  • 告知書を空欄で出す。空欄は「不具合なし」と読まれることがあります。「不明」と書いてください。
  • 親から聞いた不具合を「もう直したから」と書かない。直したこと自体を書けば足ります。黙ると民法572条に当たります。
  • 免責特約があるから何も言わなくていい、と考える。特約は「知りながら告げなかった事実」には効きません。
  • 引渡しの翌月に売却代金を全額分けてしまう。請求は引渡しのあとに来ます。
  • 「1年経ったからもう大丈夫」と考える。1年は買主が知った時からです。
  • 晴れた日の内見だけで「問題なし」と判断する。中古戸建の相談1位は雨漏りです。

よくある質問

Q. 住んでいなかったのに、本当に責任を負うのですか?

負います。2020年4月1日施行の民法では、売主に落ち度がなくても、買主は修補や代金の減額を請求できます。「知らなかった」は原則として理由になりません。だからこそ、免責特約を結ぶかどうかを契約前に決めておく必要があります。

Q. 免責特約を入れれば、もう安心ですか?

「知りながら告げなかった事実」については免れません(民法572条)。親から聞いていた不具合を書かなかった場合が、これに当たり得ます。聞いた話は全部、告知書に書いてください。

Q. 何年経てば安心ですか?

年数では決まりません。1年の起算点は「買主が不適合を知った時」だからです。期間を区切りたいなら、契約でそう決めるしかありません。不動産会社に、契約書の該当条項を見せてもらってください。

Q. 買主から連絡が来ました。すぐ払うべきですか?

先に、契約書の契約不適合責任の条項と告知書の控えを確認してください。免責特約の有無、期間の定め、あなたが何を書いたか。金額が大きい場合は、支払う前に弁護士に相談してください。当サイトに弁護士はいません。

Q. 更地にして売れば、この問題はなくなりますか?

建物の不具合はなくなりますが、土地の問題は残ります。地中埋設物や土壌汚染が「契約の内容に適合しない」とされることがあります。解体中に地中から何か出てきたと古家付き土地として売るか、更地にして売るかを読んでください。

Q. 買取なら、この責任は負いませんか?

買主が宅地建物取引業者の場合、契約不適合責任を免責とする条件が付くことが一般的です。ただし買取価格は仲介より低くなります。当サイトは最大手の決算から、販売価格の73.5%が売上原価であることを確認しました。仲介と買取どちらで売るべきかで比較しています。

Q. インスペクションを受ければ責任がなくなりますか?

なくなりません。ただし「契約の内容」を先に具体化できるので、あとから揉める余地が小さくなります。既存住宅売買瑕疵保険を使うなら検査は別に必要です。インスペクションの記事に整理しました。

まとめ

  • ★契約不適合責任は、売主が知らなくても負います。買主は修補・代金減額・損害賠償・解除を請求できます。
  • 買主は「知った時から1年以内に通知」すればよく、訴える必要はありません。通知は不適合の種類とおおよその範囲で足ります。
  • ★既存の戸建てで相談1位は雨漏り28.4%。新築戸建て(ひび割れ19.2%)とは中身が違います。雨漏りは、住んでいない人がいちばん気づけない不具合です。
  • 免責特約は結べます。ただし「知りながら告げなかった事実」には効きません(民法572条)。
  • 告知書は「不明」と書いていい。むしろ、知らないのに「無し」と書くほうが危険です。
  • 売却代金は、すぐに分けない。請求は引渡しのあとに来ます。

この記事で確認できなかったこと

  • 改正後の民法572条の条文全文を、一次情報から確認できませんでした。法務省の新旧対照条文は債権総則までで、売買の節を含んでいません。本文で引用したのは、改正前の572条と、国土交通省が資料で引用している旧640条に共通する文言部分だけです。条文の全文は、必ず現行法の条文でご確認ください。
  • 宅地建物取引業法40条(売主が宅建業者の場合の特約の制限)の条文を、一次情報から取得できませんでした。そのため本記事では触れていません。相続人が売主になる取引には、この条文は適用されません。
  • 「相続した実家の売却でどれだけ紛争が起きているか」の統計はありません。住宅相談統計年報は既存住宅全体の集計で、相続物件かどうかの区分はありません。
  • 不具合事象の割合は「相談された件数の割合」であって、実際に不具合が起きた割合ではありません。相談に至らなかったものは数えられていません。
  • 免責特約がどこまで有効かを判断した裁判例は、本記事では調べていません。特約の文言と事情によって結論が変わります。
  • 既存住宅売買瑕疵保険の保険料と検査基準は、本記事では扱っていません。

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