実家を長男に相続させる遺言があっても、遺留分でお金を払うことになります|2019年に「物」から「金銭」に変わりました

【PR】本ページはプロモーションを含みます。

「実家は長男に相続させる」と書いた遺言がある。それでも、他の兄弟からお金を請求されます。それが遺留分です。

2019年7月1日から、この請求は金銭の請求に変わりました。それ以前は実家が兄弟の共有になっていたのが、いまは「実家は長男のもの。ただし長男が現金を払う」という形になります。遺言者の意思が守られるようになった、いい改正です。

ただし、払う現金がなければ実家を売ることになります。そして現金の代わりに実家の一部を渡すと、渡した側に譲渡所得税がかかります。この記事は、その仕組みを民法・国税庁の質疑応答事例・裁判所の手続案内だけで組み立てます。

結論だけ先に

  • ★請求できるのは「金銭」です(民法1046条1項)。実家の持分を取り戻す請求ではありません。令和元年7月1日以後に開始した相続から適用されます。
  • ★現金の代わりに土地を渡すと、渡した側に譲渡所得税がかかります。国税庁の質疑応答事例が「これは代物弁済に該当しますので、甲に対して譲渡所得課税を行うことになります」と明記しています。
  • ★その土地を受け取った側は、小規模宅地等の特例を使えません。国税庁は「丙はB宅地を相続又は遺贈により取得したわけではありませんので、小規模宅地等の特例の適用を受けることはできません」としています。
  • 期限は「知った時から1年」「相続開始から10年」(民法1048条)。しかも裁判所は「調停の申立てだけでは意思表示にならず、内容証明郵便等により意思表示を行う必要があります」と注意しています。

この記事は e-Gov法令検索の条文、裁判所の手続案内、法務省の公表資料、国税庁の質疑応答事例だけで書いています。当サイトに弁護士・税理士・司法書士はいません。金額の判断は必ず専門家に確認してください。最終確認日:2026年8月25日。

1. 2019年7月1日に、何が変わったのか

民法1046条1項です。

遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。

「金銭の支払を請求することができる」——ここが変わりました。

法務省は改正の柱を「遺留分減殺請求権から生ずる権利を金銭債権化する」ことだと説明しています。改正前は、請求すると対象財産が共有状態になりました。法務省の資料は、会社の土地建物が長男と長女の複雑な共有になり、持分割合が「極めて大きな数字」になって処分が困難になった例を挙げています。

どちらの制度が使われるかは「いつ亡くなったか」で決まります

裁判所の手続案内が、遺留分侵害額の請求調停について「令和元年7月1日より前に被相続人が亡くなった場合は本申立てができません」と明記しています。東京家庭裁判所のページはタイトル自体が「遺留分侵害額の請求調停(令和元年7月1日以降に開始した相続に限る)」です。

令和元年6月30日以前の相続 令和元年7月1日以後の相続
制度の名前 遺留分減殺請求 遺留分侵害額の請求
請求できるもの 物(財産そのもの) 金銭
実家はどうなるか 共有になる 取得した人のものになる
調停の名前 遺留分減殺による物件返還請求調停 遺留分侵害額の請求調停
民法1046条、法務省「遺留分制度の見直し」、裁判所の各手続案内から作成

2. 誰に、いくらあるのか

民法1042条1項です。

兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一

条文の書き出しが「兄弟姉妹以外の相続人は」です。兄弟姉妹に遺留分はありません。親に子がなく、実家を配偶者や第三者に遺贈した場合、兄弟姉妹は何も請求できません。

相続人が複数のときは、この割合に各自の法定相続分を掛けます(同条2項)。

相続人 全体の遺留分 1人あたりの遺留分
配偶者のみ 2分の1 配偶者 2分の1
配偶者と子2人 2分の1 配偶者 4分の1/子 各8分の1
子2人のみ 2分の1 子 各4分の1
子3人のみ 2分の1 子 各6分の1
配偶者と父母 2分の1 配偶者 3分の1/父母 各12分の1
父母のみ 3分の1 父母 各6分の1
配偶者と兄弟姉妹 2分の1 配偶者 2分の1/兄弟姉妹はゼロ
兄弟姉妹のみ ゼロ ゼロ
民法1042条1項・2項、900条・901条から算出

何に対する割合なのか(民法1043条1項)

遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。

生前に渡した財産が足し戻され、借金は引かれます。実家しか財産がなく、遺言で長男に相続させると、他の子の遺留分は実家の評価額に対して計算されます。

実際に数字を入れてみる

父が亡くなり、相続人は長男と長女の2人。財産は実家(評価額3,000万円)と預金200万円、借金はなし。遺言に「実家は長男に相続させる」とあり、預金は長女が取得したとします。

手順 計算 条文
① 算定の基礎 3,000万円+200万円−0=3,200万円 民1043①
② 長女の遺留分 3,200万円 × 2分の1 × 2分の1(法定相続分)=800万円 民1042①②
③ 実際にもらった額を引く 800万円 − 200万円(預金)=600万円 民1046②二
④ 長男が払う額 600万円(金銭) 民1046①
民法1042条・1043条・1046条から作成。実際には遺留分権利者が承継する債務の加算(1046条2項3号)など、事案ごとの調整が入ります。

実家をもらった長男は、600万円の現金を用意しなければなりません。3,000万円の家は手に入っても、そこから現金は出てきません。ここが遺留分のいちばんつらいところです。

3. 足し戻される贈与は「相続人は10年、それ以外は1年」

民法1044条です。

第1項 贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。
第3項 相続人に対する贈与についての第一項の規定の適用については、同項中「一年」とあるのは「十年」と、「価額」とあるのは「価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る。)」とする。

税金の「7年」と混同しないでください

相続税の生前贈与加算は最長7年(相続税法19条)。遺留分の算入は相続人に対する贈与で10年(民法1044条3項)。別々の制度で、期間も対象も違います。「7年より前の贈与だから関係ない」と考えると、遺留分で足し戻されます。

4. 払う現金がなければ、実家を売ることになります

民法1047条1項が、負担の限度を定めています。

受遺者又は受贈者は、次の各号の定めるところに従い、遺贈又は贈与(略)の目的の価額(略)を限度として、遺留分侵害額を負担する。

実家の価額を超える金銭債務は負いません。しかし逆に言えば、実家の価額の範囲までは払わなければなりません。

そこで用意されているのが同条5項です。

裁判所は、受遺者又は受贈者の請求により、第一項の規定により負担する債務の全部又は一部の支払につき相当の期限を許与することができる。

法務省もこの規定を「金銭を直ちには準備できない受遺者又は受贈者の利益を図るため」のものだと説明しています。

ただし、これは猶予であって免除ではありません

「相当の期限」を与えられても、債務そのものは金銭債務として残ります。期限が来ても払えなければ、一般の金銭債務と同じ扱いです。結局、実家を売って現金を作る、という流れになります。

ここは正直に書きます。「実家を売らなければならない」と定めた条文はありません。上に書いたのは、1046条1項・1047条1項・5項という条文の組み合わせから導かれる構造です。ただ、現金の当てがないまま遺言だけ用意しておくと、この構造に必ず突き当たります。

なお1047条4項は「受遺者又は受贈者の無資力によって生じた損失は、遺留分権利者の負担に帰する」と定めています。払う側が本当に無一文なら、請求した側が損をかぶるということです。

【PR】

遺言を書く前に、実家がいくらなのかを確かめる

遺留分の額は、実家の評価額で決まります(民法1043条1項)。「実家は長男に」と書くなら、他の子に払う現金がいくら必要になるのかを先に知っておかないと、遺言だけ用意して現金の当てがない状態になります。相続する側も同じで、払えなければ実家を売って現金を作ることになります(民法1047条5項の期限許与は猶予であって免除ではありません)。ラクウルは訳あり物件・空き家・共有持分などを全国で買い取っている会社で、自社買取なので仲介手数料はかかりません。

①買取価格は、仲介で売れる価格より低くなります。査定額は、売れる価格ではありません。
②匿名のAI査定では成果になりません。同社は個人情報の入力が不要な匿名査定も出していますが、実際の金額を知るには連絡先を入れて申し込み、電話かメールでのヒアリングを受ける必要があります。「桁を確かめるだけ」なら匿名査定で足ります。
③1世帯で2回以上の申込は無効になります。ご家族が先に申し込んでいないか確認してください。
④売却を目的としない問い合わせは対象外です。相場を知りたいだけ、という使い方は想定されていません。
⑤運営は株式会社ネクサスプロパティマネジメント(宅地建物取引業免許 国土交通大臣(1)第10311号)。必ず他社の査定と並べて見比べてください。
⑥このリンク経由の申込で当サイトは広告収入を受け取りますが、それによってあなたの査定額が下がることはありません。

ラクウルで、実家の買取価格を出してもらう(無料・全国)

査定を受けても売る義務はありません。遺留分の設計に必要な「実際に現金化できる金額」を、先に押さえるための一手です。

5. 現金の代わりに実家を渡すと、渡した側に譲渡所得税がかかります

ここが、この記事でいちばん知られていない部分です。国税庁の質疑応答事例が、そのままの設例で答えています。

【照会要旨】民法第1046条第1項の規定による遺留分侵害額に相当する金銭の支払請求を受けた甲は、金銭の支払に代えて、甲の所有する土地の所有権を乙へ移転させることで、遺留分侵害額1,500万円を消滅させました。(略)
【回答要旨】甲は、遺留分侵害額の請求に基づく金銭の支払に代えて、所有している土地を乙に移転しています。これは代物弁済に該当しますので、甲に対して譲渡所得課税を行うことになります。

「現金がないから土地で払う」は、税務上は「土地を1,500万円で売った」ことになります。

関係法令通達として所得税法33条・所得税基本通達33-1の6・民法1046条が挙げられています。

払い方 払う側 受け取る側
現金で払う 譲渡所得課税なし 金銭を取得したものとして相続税
不動産で払う(代物弁済) 譲渡所得課税あり 小規模宅地等の特例は使えない
国税庁 質疑応答事例(譲渡所得/相続税・贈与税)から作成。いずれも令和7年8月1日現在の法令等に基づく回答とされています。

6. 受け取った側は、小規模宅地等の特例を使えません

もうひとつの質疑応答事例です。長男が遺贈で取得した宅地を、遺留分侵害額の代わりに長女へ移転した設例について、国税庁はこう答えています。

照会の場合、遺留分侵害額の請求を受けて乙はB宅地の所有権を丙に移転していますが、これは、乙が遺留分侵害額に相当する金銭を支払うために丙に対し遺贈により取得したB宅地を譲渡(代物弁済)したものと考えられ、丙はB宅地を相続又は遺贈により取得したわけではありませんので、小規模宅地等の特例の適用を受けることはできません。なお、丙は、遺留分侵害額に相当する金銭を取得したものとして、相続税の修正申告をすることになります。

そして注記が、払った側については逆のことを述べています。

(注) 乙がB宅地を遺贈により取得した事実に異動は生じず、また、乙がB宅地を保有しなくなったのは相続税の申告期限後であることから、遺留分侵害額の請求を受けてB宅地の所有権を丙に移転させたとしても、乙はB宅地についての小規模宅地等の特例の適用を受けることができなくなるということはありません。なお、乙は、遺留分侵害額の請求に基づき支払うべき金銭の額が確定したことにより、これが生じたことを知った日の翌日から4月以内に、更正の請求をすることができます。

払った側は4か月以内に更正の請求。受け取った側は修正申告。相続税法32条1項3号が「遺留分侵害額の請求に基づき支払うべき金銭の額が確定したこと」を更正の請求の事由として挙げており、期限は「当該各号に規定する事由が生じたことを知つた日の翌日から四月以内」です。

受け取った側については、税務署長が職権で更正または決定をします(相続税法35条3項)。放っておけば済む話ではありません。

【PR】

払ったあと・受け取ったあとの申告を、任せられる人を確保する

払った側は「知った日の翌日から4か月以内」に更正の請求(相続税法32条1項3号)、受け取った側は修正申告。現金の代わりに土地を渡せば、渡した側に譲渡所得課税が生じます(国税庁 質疑応答事例・所得税法33条)。受け取った土地には小規模宅地等の特例が使えません。この3つが同時に走るので、遺留分の金額が決まった時点で税理士を確保しておくほうが安全です。ここは相続税を扱う税理士を紹介してもらう窓口で、紹介自体は無料です。

①申し込むと、30日以内に電話またはメールで確認の連絡が来ます。知らない番号でも出てください。ここで内容が確認できないと、税理士の紹介そのものが進みません。
②「税理士を紹介してほしい」と伝えるためのサービスです。税務相談そのものに答える窓口ではありません。
③過去1年以内にこのサービスを使ったことがある方は対象外です。ご家族が先に申し込んでいないか、確認してから使ってください。
お住まいの地域の税理士会や、相続税を扱う近所の事務所にも1件あたって見比べてください。
それによって紹介料や税理士報酬が変わることはありません(紹介自体は無料です)。

遺留分を払ったあとの更正の請求まで見てくれる税理士を探してもらう(無料・全国)

4か月は「支払うべき金銭の額が確定したことを知った日の翌日から」です。調停が成立してから探し始めると間に合わないことがあります。

7. 期限は1年。しかも調停を申し立てるだけでは足りません

民法1048条です。

遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。

そして裁判所の手続案内に、次の注意書きがあります。

調停の申立てだけでは意思表示にならず、内容証明郵便等により意思表示を行う必要があります。

いちばん多い取りこぼし

「家庭裁判所に調停を申し立てたから大丈夫」——足りません。裁判所自身が、内容証明郵便等で相手方に意思表示をする必要があると案内しています。調停は日程が入るまで時間がかかります。1年の期限が近いなら、先に意思表示だけ済ませてください。

8. 生前に遺留分を放棄してもらうことはできます

民法1049条です。

第1項 相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。
第2項 共同相続人の一人のした遺留分の放棄は、他の各共同相続人の遺留分に影響を及ぼさない。

当事者どうしの念書では効力がありません。家庭裁判所の許可が要ります。

項目 内容
申立てできる時期 相続開始前(被相続人の生存中)のみ。相続開始後は申立てできません
申立人 遺留分を有する相続人
申立先 被相続人の住所地の家庭裁判所
費用 収入印紙800円+連絡用の郵便切手(裁判所により異なる)
必要書類 申立書、被相続人の戸籍謄本、申立人の戸籍謄本
出典:裁判所「遺留分放棄の許可」。相続放棄が「相続開始後」なのと逆で、遺留分放棄は「相続開始前」だけです。

2項に注意してください。長女が遺留分を放棄しても、次女の遺留分が増えることはありません。放棄した人の分だけが消えます。

9. 調停の手続と費用

項目 遺留分侵害額の請求調停
対象 令和元年7月1日以後に開始した相続に限る
申立人 遺留分を侵害された者(兄弟姉妹以外の相続人)/その承継人
申立先 相手方の住所地の家庭裁判所、または当事者が合意で定める家庭裁判所
費用 収入印紙1,200円+連絡用の郵便切手(裁判所により異なる)
必要書類 申立書とその写し(相手方の数分)/被相続人の出生から死亡までの全戸籍謄本/相続人全員の戸籍謄本/被相続人の子で死亡している者がいればその全戸籍謄本/遺言書写しまたは検認調書謄本の写し/遺産に関する証明書(不動産登記事項証明書、固定資産評価証明書、預貯金残高証明書など)
先にやること 内容証明郵便等による意思表示
出典:裁判所「遺留分侵害額の請求調停」。令和元年6月30日以前の相続は「遺留分減殺による物件返還請求調停」(印紙1,200円)になります。

10. 遺言を書く側が、先にやっておくこと

遺留分は遺言では消せません。「実家は長男に。他の子には遺留分を請求しないでほしい」と付言事項に書いても、法的な効力はありません。

できることは3つです。

  1. 遺留分に相当する現金を用意しておく。生命保険を使う方法も語られますが、当サイトは保険商品の助言をしません。金額の設計は専門家に相談してください
  2. 家庭裁判所の許可を得て、生前に遺留分を放棄してもらう(民法1049条1項)
  3. 実家がいくらなのかを先に確かめる。遺留分の額は実家の評価額で決まります。金額を知らないまま遺言を書くと、いくら用意すれば足りるのかが分かりません

よくある質問

Q. 遺言があれば遺留分は関係ありませんか?

関係あります。民法1046条1項は、特定財産承継遺言(「実家は長男に相続させる」型)で財産を承継した相続人も請求の相手方に含めています。遺言で遺留分をゼロにすることはできません。付言事項で「請求しないでほしい」と書いても法的な効力はありません。

Q. 実家の持分をもらえるのですか、それともお金ですか?

お金です。民法1046条1項が「遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる」と定めています。令和元年6月30日以前に開始した相続は改正前の遺留分減殺請求で、こちらは財産そのものが対象でした。どちらになるかは被相続人が亡くなった日で決まります。

Q. 兄弟姉妹にも遺留分はありますか?

ありません。民法1042条1項の書き出しが「兄弟姉妹以外の相続人は」です。子も親もいない人が、実家を配偶者や第三者に遺贈した場合、兄弟姉妹は何も請求できません。

Q. 20年前に兄が家を建ててもらっています。足し戻せますか?

原則として足し戻せません。民法1044条3項は、相続人に対する贈与について「相続開始前10年間」かつ「婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与」に限って算入すると定めています。ただし1項後段により、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与したときは、10年より前のものも算入されます。

Q. 相続税の「7年」と遺留分の「10年」は同じものですか?

別の制度です。相続税の生前贈与加算は相続税法19条で最長7年、遺留分の算入は民法1044条3項で相続人に対する贈与が10年。対象になる贈与の範囲も違います(遺留分は「婚姻・養子縁組のため又は生計の資本として」に限られます)。混同すると計算が合いません。

Q. 払うお金がありません。どうなりますか?

裁判所に期限を延ばしてもらえる場合があります(民法1047条5項。受遺者・受贈者の請求により、裁判所が支払につき相当の期限を許与できる)。ただしこれは猶予であって免除ではありません。期限が来ても払えなければ、実家を売って現金を作ることになります。なお1047条4項により、払う側が無資力なら、その損失は請求した側の負担になります。

Q. 現金の代わりに土地を渡してもいいですか?

できますが、渡した側に譲渡所得税がかかります。国税庁の質疑応答事例が「これは代物弁済に該当しますので、甲に対して譲渡所得課税を行うことになります」と明記しています(所得税法33条、所得税基本通達33-1の6)。「現金がないから土地で」は、税務上は「土地を売った」のと同じ扱いです。

Q. 土地で受け取ると、小規模宅地等の特例は使えますか?

使えません。国税庁は「相続又は遺贈により取得したわけではありませんので、小規模宅地等の特例の適用を受けることはできません」としています。受け取った側は「遺留分侵害額に相当する金銭を取得したもの」として相続税の修正申告をすることになります。一方、払った側は特例を失いません(同事例の注記)。

Q. 遺留分を払ったら、相続税は戻ってきますか?

更正の請求ができます。相続税法32条1項3号が「遺留分侵害額の請求に基づき支払うべき金銭の額が確定したこと」を事由として挙げており、「事由が生じたことを知つた日の翌日から四月以内」という期限がついています。受け取った側については、税務署長が職権で更正または決定をします(同法35条3項)。

Q. 期限はいつまでですか?

知った時から1年、相続開始から10年です(民法1048条)。そして裁判所は「調停の申立てだけでは意思表示にならず、内容証明郵便等により意思表示を行う必要があります」と注意しています。調停は日程が入るまで時間がかかるので、期限が近いなら先に意思表示だけ済ませてください。

Q. 生前に「遺留分は請求しない」と一筆もらえば大丈夫ですか?

それだけでは効力がありません。民法1049条1項が「相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる」と定めています。申立先は被相続人の住所地の家庭裁判所、収入印紙800円です。なお1人が放棄しても、他の相続人の遺留分は増えません(同条2項)。

この記事で確認できなかったこと

  • 遺留分侵害額の請求調停が年間に何件あるか。司法統計年報のPDFから数値を読み取ろうとしましたが、読み取るたびに値が変わり(表の列がずれる)、信頼できる数字を取れませんでした。数字を引用するときは原典に当たってください。
  • 遺留分算定における不動産の評価時点。民法1043条1項は「被相続人が相続開始の時において有した財産」と定めていますが、その価額をいつの時点で評価するのかを明示した条文は、1043条から1047条の範囲で見つけられませんでした。裁判所・法務省の公表資料にも明示を確認できませんでした。
  • 婚姻20年以上の夫婦間で居住用不動産を贈与した場合(民法903条4項の持戻し免除の推定)、その贈与が遺留分算定の基礎財産から外れるかどうか。903条4項が「第一項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する」と定めているのは遺産分割の場面で、遺留分算定について同じ扱いをする明文は見つけられませんでした。
  • 配偶者居住権を遺贈した場合に、それが遺留分算定の基礎財産にどう組み込まれるか。法務省の配偶者居住権の解説資料に遺留分への言及はありませんでした。
  • 連絡用の郵便切手の実額。裁判所の案内は「裁判所ごとに異なる」としか書いていません。
  • 「払えなければ実家を売ることになる」ことを定めた条文。ありません。本文で書いたのは、民法1046条1項・1047条1項・5項の組み合わせから導かれる構造です。

まとめ

  1. ★遺留分は「金銭」の請求になりました(民法1046条1項)。令和元年7月1日以後に開始した相続から。それ以前の相続は改正前の遺留分減殺請求で、実家が共有になります。
  2. 兄弟姉妹に遺留分はありません(民法1042条1項の書き出し)。子2人だけなら1人あたり4分の1です。
  3. 算定の基礎は「相続開始時の財産+贈与−債務の全額」(民法1043条1項)。相続人への贈与は10年分が足し戻されます(1044条3項)。
  4. 相続税の7年と遺留分の10年は別物です。期間も対象も違います。
  5. ★払う現金がなければ、実家を売ることになります。裁判所が期限を延ばせますが(1047条5項)、それは猶予であって免除ではありません。
  6. ★現金の代わりに土地を渡すと、渡した側に譲渡所得税がかかります。国税庁が「代物弁済に該当する」と明記しています。
  7. その土地を受け取った側は、小規模宅地等の特例を使えません。「相続又は遺贈により取得したわけではない」からです。
  8. 払った側は4か月以内に更正の請求ができます(相続税法32条1項3号)。受け取った側は税務署長の職権で更正・決定されます(35条3項)。
  9. 期限は知った時から1年、相続開始から10年(民法1048条)。調停の申立てだけでは足りず、内容証明郵便等での意思表示が必要です。
  10. 生前の遺留分放棄には家庭裁判所の許可が要ります(民法1049条1項・印紙800円)。1人が放棄しても、他の相続人の遺留分は増えません。

あわせて読みたい

お住まいの自治体で調べる