投稿者: 実家じまいナビ編集部

  • 相続人がいない人の家はどうなるか|特別縁故者は、自分で申し立てて予納金を納めるところから始まります

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    叔父が亡くなった。子も親も兄弟もいない。十数年、身の回りの世話をしてきたのは自分だった。あの家はどうなるのか——。

    結論から言うと、放っておけば国のものになります。そして、「世話をしてきた人がいるから自動的にその人にいく」という仕組みではありません。

    特別縁故者への財産分与は、家庭裁判所が「相当と認めるとき」にできる、と条文に書かれています。請求できる期間は、ある公告が終わってから3か月だけ。そこを1日でも過ぎると、権利は消えます。しかもその公告は、誰かが家庭裁判所に申立てをしないと始まりません。多くの場合、その申立てをするのは「世話をしてきた本人」で、費用も自分で立て替えます。

    さらにやっかいなことに、2023年(令和5年)4月1日の改正で、この分野の条番号が丸ごとずれました。「相続財産管理人」は「相続財産清算人」に変わり、根拠条文の番号も動いています。いま検索して出てくる解説の多くは、まだ古い条番号のままです。

    この記事は、法務省が公表している改正法の本文と新旧対照条文、裁判所の手続案内、財務省の国有財産資料だけで組み立てます。

    最終更新:2026年8月25日

    結論だけ先に

    • ★条番号が変わっています。特別縁故者への財産分与は、いまは民法958条の2です(改正前は958条の3)。改正前の958条は削除され、その中身は952条2項に統合されました。「相続財産管理人」も「相続財産清算人」に変わっています。令和5年4月1日施行です。
    • 請求できるのは「952条2項の期間の満了後3か月以内」だけ(958条の2第2項)。古い解説にある「958条の期間の満了後3か月以内」は、いまの条文ではありません。
    • ★誰かが申し立てないと、手続きは1ミリも動きません。相続財産清算人の選任は収入印紙800円+官報公告料5,582円、そして予納金が必要になることがあります。裁判所は金額を公表していません。これを立て替えるのは、多くの場合「もらえるかもしれない人」自身です。
    • 分与されるかどうかは家庭裁判所の裁量です。条文は「相当と認めるとき」としか書いていません。費用と手間をかけても、もらえないことがあります。分与されず、他に引き取り手もなければ、財産は国庫に帰属します。令和5年度は226件・3.0億円が国庫に入りました。

    この記事は民法、法務省の公表する改正法本文・新旧対照条文・通達、裁判所の手続案内、財務省の国有財産資料だけで書いています。当サイトに弁護士も司法書士もいません。実際の申立てと見通しは、必ず家庭裁判所または専門家にご確認ください。確認できなかったことは記事末尾に全部並べてあります。

    1. まず、条番号が変わったことを押さえてください

    ここを間違えると、この先の話が全部ずれます。

    令和3年法律第24号(民法等の一部を改正する法律)の改め文——つまり「どの条をどう書き換えるか」を指示している部分——には、こう書かれています。

    第九百五十八条を削る。
    第九百五十八条の二中「前条」を「第九百五十二条第二項」に、「相続財産の管理人」を「相続財産の清算人」に改め、同条を第九百五十八条とする。
    第九百五十八条の三第二項中「第九百五十八条」を「第九百五十二条第二項」に改め、同条を第九百五十八条の二とする。

    整理すると、こうなります。

    改正前(〜令和5年3月31日) 現行(令和5年4月1日〜)
    958条(相続人の捜索の公告・6か月以上) 削除(内容は952条2項へ統合)
    958条の2(権利を主張する者がない場合) 958条
    958条の3(特別縁故者への財産分与) 958条の2
    相続財産管理人 相続財産清算人
    令和3年法律第24号の改め文から作成。施行日は令和5年4月1日

    「特別縁故者 民法958条の3」で検索して出てくる解説は、改正前の条文を前提にしています。内容が大きく変わったわけではありませんが、期限の起算点の書き方が変わっているので、条番号だけを頼りに条文を引くと迷子になります。

    なぜ変えたのか

    改正前は、公告を3回重ねる建て付けでした。①清算人を選任した公告 → ②2か月経ってから債権者に申し出るよう促す公告 → ③さらに6か月以上の相続人捜索の公告、という順です。

    現行では、952条2項の1回の公告(6か月以上)に相続人の捜索を統合し、957条の債権申出の公告(2か月以上)をその期間の中で終わらせる形になりました。条文を並べると、そう読めます。

    ただし「手続期間が何か月短くなった」と明言している官公庁の資料は、今回見つけられませんでした。条文の構造からそう読める、というところまでにしておきます。

    出典:法務省「民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)」法律本文および新旧対照条文/法務省民二第538号通達(令和5年3月28日・標題に「令和5年4月1日施行関係」)

    2. 相続人がいないと、法律上どうなるのか

    相続人がいるかどうか分からない状態のとき、その財産は宙に浮きます。民法はこれを「相続財産法人」という法人にして、管理する人を置く、という組み立てにしています。

    条文 内容
    951条 相続人のあることが明らかでないとき、相続財産は法人とする
    952条1項 家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の清算人を選任しなければならない
    952条2項 選任したら遅滞なく公告する。相続人があるなら権利を主張すべき期間は「六箇月」を下ることができない
    957条1項 952条2項の公告があったら、清算人は全ての相続債権者及び受遺者に「二箇月以上」の期間を定めて請求の申出を公告する
    958条 期間内に相続人としての権利を主張する者がないとき、清算人に知れなかった相続債権者・受遺者は権利を行使できない
    958条の2 特別縁故者への財産分与
    959条 残った財産は国庫に帰属する
    民法951条〜959条。952条・957条・958条の2第2項は法務省の新旧対照条文で逐語を確認。951条・953〜956条・959条は条番号と見出しのみ確認しています

    952条1項の「利害関係人又は検察官の請求によって」がすべての起点です。誰も請求しなければ、清算人は選任されず、公告も始まらず、特別縁故者の3か月も走り出しません。そして家は空き家のまま、名義は亡くなった人のまま残ります。

    3. 特別縁故者とは誰のことか

    裁判所の手続案内は、申立てができる人を3類型で示しています。これは958条の2第1項の文言そのものです。

    • 被相続人と生計を同じくしていた者——内縁の配偶者、事実上の養子、同居していた親族など
    • 被相続人の療養看護に努めた者——看護や介護を担ってきた人
    • その他被相続人と特別の縁故があった者——上の2つに当てはまらないが、特別の関係があった人

    そして裁判所のページは、家庭裁判所が「相当と認めるとき」に、清算後に残った財産の全部または一部を分与できる、と説明しています。

    「相当と認めるとき」という言い方に、この制度の性格が全部出ています。要件を満たせば必ずもらえる、という権利ではありません。裁判所が個別に判断します。全部かもしれないし、一部かもしれないし、ゼロかもしれません。

    療養看護は「無償か」が問われます

    報酬をもらって介護していた場合や、職業として関わっていた場合にどう評価されるかは、条文には書かれていません。個別の判断になります。ここは一次情報で確認できる範囲を超えるので、当サイトでは断定しません。

    4. ★3か月の起算点は、いまはこう書かれています

    958条の2第2項の現行の文言は、これです。

    前項の請求は、第九百五十二条第二項の期間の満了後三箇月以内にしなければならない。

    改正前は「第九百五十八条の期間の満了後三箇月以内」でした。指している中身は同じ(相続人捜索の公告期間)ですが、条文の書き方が変わっています。

    熊本家庭裁判所の資料は、これを実務の言葉で「特別縁故者は、相続人捜索の公告における申出期間満了の日から3か月以内に相続財産分与の申立てを家庭裁判所にすることができます」と説明しています。裁判所の全国共通ページも「相続人を捜索するための公告で定められた期間の満了後3か月以内」としています。

    この3か月は、待っていれば通知が来るものではありません。公告は官報に載ります。いつ公告が始まって、いつ満了するのかを、自分で把握しておく必要があります。

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    予納金を出す前に、その家がいくらのものか見当をつけておく

    予納金も清算人の報酬も、最後は相続財産から支払われます。つまり財産の規模が小さいほど、手続きを回すだけで残りが消えます。分与を受けたい側にとって、実家の価値は「やる価値があるか」の判断材料そのものです。相続税がかかる規模なら、分与を受けたあとの税金も別に出てきます。

    相談しても、分与されるかどうかは変わりません。決めるのは家庭裁判所です。ここで得られるのは税金面の見通しだけで、申立ての可否や見込みは弁護士・司法書士の領域です。財産の全体像がまだ分からない段階なら、先に戸籍と登記事項証明書をそろえてください。

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    5. 手続の全体像と、かかる時間

    条文に書かれている期間を、順番に並べます。

    段階 根拠 期間
    ①相続財産清算人の選任を申し立てる 952条1項 誰かが動かないと始まらない
    ②選任・公告(相続人の捜索を兼ねる) 952条2項 6か月を下れない
    ③相続債権者・受遺者への公告 957条1項 2か月以上(②の期間内に行う)
    ④特別縁故者への財産分与の申立て 958条の2第2項 ②の満了後3か月以内
    ⑤審判 958条の2第1項 家庭裁判所が「相当と認めるとき」に分与
    ⑥残余財産の国庫帰属 959条 —
    民法の条文と、裁判所(熊本家庭裁判所後見センター「相続財産の清算人の職務について」)の手続案内から作成

    ②の6か月と④の3か月を足すだけで9か月です。これに申立ての準備期間と、⑤の審判にかかる時間が乗ります。審判までどれくらいかかるかを示した一次資料は見つけられなかったので、ここでは書きません。いずれにせよ「1年仕事」だと考えておくのが現実的です。

    6. 費用は誰が出すのか

    ここが、この制度でいちばん語られない部分です。

    手続 費用
    相続財産清算人の選任 収入印紙 800円分
    連絡用の郵便切手(裁判所ごとに異なる)
    官報公告料 5,582円(家庭裁判所の指示があってから納付)
    ★予納金(必要になることがある。金額は公表されていない)
    特別縁故者への財産分与の申立て 収入印紙 800円分+連絡用の郵便切手
    裁判所「相続財産清算人の選任」「特別縁故者に対する相続財産分与」の各手続案内から作成

    裁判所の説明はこうです。

    相続財産の内容から、相続財産清算人が相続財産を管理するために必要な費用に不足が出る可能性がある場合には、相当額を予納金として納付していただくことがあります。

    金額は書かれていません。大阪家庭裁判所の手引きも、「相続財産の中に預貯金等(流動資産)が少ない場合、…管理費用及び清算人報酬の担保として、予納金の納付が必要な場合があります」とだけ書いています。

    実家しか財産がないケースは、まさにこの「流動資産が少ない場合」です。不動産は売れるまで現金になりません。その間の管理費用と清算人の報酬を、誰かが先に用意しなければ手続きが回りません。

    そしてその「誰か」は、多くの場合、分与を受けたい本人です。裁判所は申立人に予納を求めます。つまり、もらえるかどうか分からない段階で、自腹を切って手続きを起動することになります。

    これが、この制度をむやみに勧められない理由です。財産の規模と予納金の見込みを、申立ての前に家庭裁判所へ相談してください。

    7. 実家(不動産)は、具体的にどうなるのか

    清算人は、売ることも壊すこともできます

    熊本家庭裁判所の資料は、清算人の職務をこう説明しています。

    相続財産を管理するとともに、②相続人の存否を確定し、また、相続財産から弁済を受けるべき債権者・受遺者を確定し、③相続人不存在が確定した場合には相続財産を清算して残余を国庫に引継ぐ

    そして、次の行為には家庭裁判所の権限外行為許可が必要だとしています(民法953条、28条)。

    • 不動産の処分(建物の取り壊しを含む。)
    • 動産の売却、譲渡、贈与、廃棄(自動車の売却や廃車手続きを含む。)
    • ゴルフ会員権、株券などの売却

    つまり、実家は清算人によって売られることもあれば、取り壊されることもあります。債務を弁済するために換価が必要なら、そうなります。「特別縁故者として家をもらいたい」と思っているなら、清算の過程で家が現金に変わってしまう可能性を織り込む必要があります。

    分与されるのは「清算後に残ったもの」です

    958条の2は、分与の対象を清算後に残る相続財産としています。借金があれば先に返され、残った分が対象です。不動産に抵当権が付いていれば、その処理が先に来ます。

    共有だった場合(民法255条)は、断定できません

    亡くなった人が実家を誰かと共有していた場合、民法255条には、共有者の一人が死亡して相続人がないときに持分が他の共有者に帰属する旨の規定があります。この規定と、特別縁故者への分与(958条の2)のどちらが先に適用されるのかについては、最高裁の判例があるとされています。

    ただし、当サイトでは裁判所の判例ページからその判示内容を確認できませんでした。民間の解説では「特別縁故者への分与が先で、分与されなかったときに255条」という説明が一般的ですが、一次情報で裏が取れていないため、当サイトでは断定しません。実家が共有名義なら、この点は必ず専門家に確認してください。

    出典:熊本家庭裁判所後見センター「相続財産の清算人の職務について」/大阪家庭裁判所「相続財産清算人選任の手引」/裁判所「相続財産清算人の選任」「特別縁故者に対する相続財産分与」

    8. 誰にも渡らなかった財産は、いくら国庫に入っているのか

    財務省が財政制度等審議会に提出した資料に、実数が載っています。

    年度 国庫帰属件数 台帳価格
    平成28 76件 0.5億円
    平成29 107件 1.2億円
    平成30 172件 1.1億円
    令和元 189件 4.5億円
    令和2 145件 3.4億円
    令和3 187件 2.9億円
    令和4 206件 2.4億円
    令和5 226件 3.0億円
    令和6 (計数整理中) 2.5億円
    財務省 財政制度等審議会 国有財産分科会「相続土地国庫帰属制度等に係る現状と課題」(令和7年6月17日)の「相続人不存在による国庫帰属の推移」から作成

    平成28年の76件から、令和5年には226件へと3倍近くに増えています。単身世帯の増加を考えれば、この傾向は続くと見るのが自然です。

    ⚠「相続土地国庫帰属制度」とは別の制度です

    紛らわしいのですが、相続人がいて、その相続人が「いらない土地」を国に引き取ってもらう制度(相続土地国庫帰属制度)は、まったく別の仕組みです。同じ財務省資料によれば、そちらは令和6年4月〜令和7年3月で1,229件と、前年度の258件から約4倍に増えています。

    この記事で扱っているのは「相続人がいない」ケースです。「相続人はいるが手放したい」場合は相続土地国庫帰属制度のほうを読んでください。

    9. おひとりさまは、これから確実に増えます

    指標 数字
    単独世帯(2020年・国勢調査) 2,115万1千世帯=一般世帯の38.0%(最も多い世帯類型)
    単独世帯の割合(社人研の将来推計) 2020年 38.0% → 2050年 44.3%
    単独世帯数のピーク 2036年に2,453万世帯(2020年より338万世帯多い)
    65歳以上の一人暮らしの割合(令和2年) 男性 15.0%/女性 22.1%
    同(令和32年の見込み) 男性 26.1%/女性 29.3%
    総務省統計局「令和2年国勢調査 人口等基本集計結果」/国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(令和6年推計)」/内閣府「令和7年版高齢社会白書」から作成

    いちばん多い世帯の形が、すでに「一人暮らし」です。相続人がいない相続は、例外ではなく、これから当たり前になっていきます。

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    自分の家が「国庫に入る側」になる前に、値段を1つ知っておく

    おひとりさまが生前にできることの出発点は、自分の財産がいくらなのかを把握することです。遺言に「この家を◯◯に」と書くにしても、その家の価値が分からなければ、渡された側が困ります。売るかどうかを決める前でも、金額を1つ持っておく意味はあります。

    査定額は売れる価格ではありません。媒介契約を取るために高めに出す会社があります。いますぐ売る気がないなら、その旨を最初に伝えてください。営業の連絡は、宅建業法で断る意思を示せば止められます。

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    10. 生前にできること

    ここまで読めば分かるとおり、死んでからでは、手続きも費用も、残された人の負担になります。生前にできることは、大きく3つです。

    ① 遺言を書く

    いちばん確実です。相続人以外の人にも、遺贈で財産を渡せます(民法964条)。遺言があれば、特別縁故者の手続きそのものが不要になります。6か月の公告も、3か月の期限も、予納金も要りません。

    自分で書いて法務局に預ける方法もあります(自筆証書遺言書保管制度)。ただし形式は見てもらえますが、中身の有効性は誰も見てくれません。相続人がいないケースは関係者の把握が難しいので、公正証書遺言も含めて検討する価値があります。

    ② 判断能力が落ちたときの備え(任意後見)

    任意後見契約に関する法律にもとづく制度です。法務省の説明はこうです。

    本人が十分な判断能力を有する時に、あらかじめ、任意後見人となる方や将来その方に委任する事務の内容を公正証書による契約で定めておき(…)任意後見契約は、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時から効力が生じます

    裁判所によれば、監督人選任の申立ては、申立て後は家庭裁判所の許可がないと取り下げられず、手続にはおおむね1か月から2か月程度かかります。

    ③ 死後の事務をどうするか

    成年後見人については、民法873条の2に明文の規定があります(平成28年10月13日施行)。認められている死後事務は3種類です。

    • 個々の相続財産の保存に必要な行為(時効中断のための請求、建物の修繕など)
    • 弁済期が到来した債務の弁済(医療費、入院費、公共料金の支払)
    • 死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産全体の保存に必要な行為(火葬契約、動産の寄託、供給契約の解約、預貯金の払戻し)——これは家庭裁判所の許可が必要

    ①②は、成年被後見人の相続人が相続財産を管理できる状態に至っていない等の要件を満たせば、許可は不要です。

    なお、成年後見とは別に「死後事務委任契約」という私人間の契約もありますが、民法に明文の規定がなく、法務省・裁判所の一次資料を確認できませんでした。当サイトでは制度の中身に踏み込みません。

    出典:法務省「任意後見制度Q&A」/裁判所「任意後見監督人選任」/法務省「成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」

    やってはいけないこと

    • 「世話をしてきたから、そのうち連絡が来るはず」と待つ。誰かが申し立てないと手続きは始まりません。そして始まってからの3か月は、自分で官報を追う必要があります。
    • 古い条番号のまま条文を確認する。958条の3はもうありません。いまは958条の2です。
    • 予納金の見込みを聞かずに申し立てる。実家しか財産がないケースは、流動資産が少ない典型です。先に家庭裁判所へ相談してください。
    • 「相続土地国庫帰属制度」と混同する。あちらは相続人がいる人が使う制度です。
    • 共有名義の実家について、ネットの説明を鵜呑みにする。民法255条との優先関係は、当サイトでは一次情報で確認できませんでした。共有なら必ず専門家に確認してください。
    • 自分が「おひとりさま」なのに、何も残さない。遺言が1通あれば、この記事の手続きは丸ごと不要になります。

    動く順番

    1. 本当に相続人がいないのかを、戸籍で確認する。被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍(除籍・改製原戸籍)を集めます。相続人が見つからない場合の手続きとは別の話です。
    2. 財産と負債を洗い出す。不動産の登記事項証明書、預貯金の残高証明書、借入の有無。清算後に残るものがなければ、分与の対象もありません。
    3. 家庭裁判所(被相続人の最後の住所地)に相談する。予納金がいくらくらい必要になりそうかを、この段階で聞きます。
    4. 相続財産清算人の選任を申し立てる。収入印紙800円、官報公告料5,582円、郵便切手、そして予納金。
    5. 公告の開始日と満了日を記録する。ここから3か月が、特別縁故者の申立て期限です。
    6. 満了後3か月以内に、財産分与の申立てをする。収入印紙800円。1日でも過ぎると請求できません。

    よくある質問

    Q. 内縁の妻ですが、相続できますか?

    相続人にはなれませんが、特別縁故者として財産分与を受けられる可能性はあります。958条の2第1項の「被相続人と生計を同じくしていた者」に当たり得ます。ただし分与するかどうかは家庭裁判所が「相当と認めるとき」に決めるもので、当然にもらえる権利ではありません。他に相続人がいる場合は、そもそもこの手続きに進みません。

    Q. 何年も介護してきました。何もしなくても分与されますか?

    されません。誰かが家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立てないと、手続き自体が始まりません。そして特別縁故者の申立ては、952条2項の公告期間が満了してから3か月以内です。待っているだけでは、期限だけが過ぎていきます。

    Q. 費用はいくらかかりますか?

    清算人選任が収入印紙800円+官報公告料5,582円+郵便切手、財産分与の申立てが収入印紙800円+郵便切手です。これに予納金が加わることがあります。予納金の金額は裁判所が公表していません。実家しか財産がないケースでは求められる可能性が高いので、申立ての前に家庭裁判所へ確認してください。

    Q. 実家に住み続けられますか?

    保証はありません。相続財産清算人は、家庭裁判所の権限外行為許可を得て不動産を売却することも、建物を取り壊すこともできます(民法953条、28条)。債務の弁済のために換価が必要なら、そうなります。分与の対象は清算後に残った財産です。

    Q. 「相続財産管理人」と「相続財産清算人」は違うのですか?

    令和5年4月1日から名称が変わりました。令和3年法律第24号によって「相続財産の管理人」が「相続財産の清算人」に改められています。同時に条番号もずれているので、古い解説を読むときは注意してください。

    Q. 分与されなかった財産はどうなりますか?

    国庫に帰属します(民法959条)。財務省の資料によれば、相続人不存在による国庫帰属は令和5年度で226件・台帳価格3.0億円でした。平成28年度の76件から3倍近くに増えています。

    Q. 自分がおひとりさまです。何をしておけばいいですか?

    遺言が1通あれば、この記事に書いた手続きは丸ごと不要になります。相続人以外の人にも遺贈できます(民法964条)。判断能力が落ちたときの備えとして任意後見契約、亡くなったあとの事務についても、生前に取り決めておく方法があります。法務局の遺言書保管制度も選択肢のひとつです。

    まとめ

    • ★条番号が変わっています。特別縁故者への分与は民法958条の2、期限は「952条2項の期間の満了後3か月以内」です(令和5年4月1日〜)。
    • 誰かが申し立てないと、手続きは始まりません。清算人選任は収入印紙800円+官報公告料5,582円、そして予納金。立て替えるのは多くの場合、分与を受けたい本人です。
    • 分与は「相当と認めるとき」の裁量です。費用と1年近い時間をかけても、もらえないことがあります。
    • 実家は清算人によって売られることも壊されることもあります(家庭裁判所の許可が要ります)。分与の対象は清算後の残りです。
    • ★おひとりさま本人にとっての最善は、遺言を1通書いておくことです。それだけで、この記事の手続きは全部不要になります。

    この記事で確認できなかったこと

    • 民法951条・953条〜956条・959条の条文そのもの。952条・957条1項・958条の2第2項は法務省の新旧対照条文で逐語を確認しましたが、改正対象外の条は新旧対照表に載らないため、条番号と見出しまでの確認にとどまります。
    • 958条の2第1項の条文全文。3類型の文言は裁判所の手続案内で確認しましたが、「相当と認めるとき」「清算後残存すべき相続財産の全部又は一部」の部分の逐語は確認していません。
    • 民法255条の条文そのもの、および255条と958条の2の適用の優先関係。最高裁判所の判例があるとされていますが、裁判所の裁判例詳細ページを開くことができず、判示事項・裁判要旨を確認できませんでした。本文でも断定していません。
    • 「改正で手続期間が何か月短縮された」ことを明言する官公庁の資料。条文の建て付けからは読み取れますが、断定できる一次資料はありませんでした。
    • 相続財産清算人選任・特別縁故者への財産分与の年間の申立件数。令和6年の司法統計年報から読み取ろうとしましたが、質問の仕方を変えて3回読んで3回とも違う数字が返り、表の列がずれていることが確認できたため、採用しませんでした。
    • 予納金の相場。裁判所は「相当額」としか書いておらず、金額の目安を示した一次資料はありません。
    • 相続人不存在の不動産を相続財産法人名義に変更する登記の取扱い。法務省の通達に該当する記述を見つけられませんでした。
    • 65歳以上の単独世帯の実数。割合は確認できましたが、人数は概要資料に記載がありませんでした。
    • 任意後見契約が本人の死亡によって終了する旨の、法務省・裁判所ページでの記載。確認できませんでした。
    • 死後事務委任契約に関する法務省・裁判所の一次資料。民法に明文の規定がなく、確認できませんでした。

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    相続した実家を売ることになった。不動産会社から「建物状況調査(インスペクション)はどうしますか」と聞かれた——あるいは、何も聞かれなかった。

    2018年4月に宅建業法が改正されて、この制度が始まりました。ただし実施が義務化されたわけではありません。国土交通省のQ&Aは「既存住宅を売買する場合に、必ず建物状況調査を実施しなければならないものではありません」と明確に否定しています。

    そして実態はもっと静かです。国土交通省の調査によれば、一律にあっせん「無」としている宅建業者は74.1%。従業員20人以下の会社では75.9%です。売主から言い出さないかぎり、この選択肢は出てきません。

    この記事は、宅建業法・国土交通省の告示とQ&A・法務省の公表資料だけで、相続した実家でこの調査に意味があるのはどういう場合かを整理します。

    最終更新:2026年8月25日

    結論だけ先に

    • ★義務化ではありません。業者に課されているのは「あっせんの有無を媒介契約書面に書く」「実施済みなら重要事項説明で結果の概要を説明する」「当事者が確認した事項を契約書面に書く」の3つだけです。調査そのものを実施する義務はありません。
    • 一律に「あっせん無」としている宅建業者が74.1%(令和4年度・国土交通省)。売主が希望を口に出さないと、話題にすら上がりません。
    • ★空き家の3,000万円特別控除とは別の制度です。控除の要件は「耐震基準に適合すること」または「家屋を除却すること」であって、建物状況調査ではありません。調査をしても控除は使えるようになりません。
    • 調べるのは「構造耐力上主要な部分」と「雨水の浸入を防止する部分」だけで、方法は原則として非破壊です。国土交通省の手引きも「全ての瑕疵がないことを約束するものではありません」と明記しています。費用の公的な目安は「6万円程度〜」です。

    この記事は宅地建物取引業法・同施行規則・国土交通省告示と、国土交通省・法務省の公表資料だけで書いています。当サイトに建築士も宅建士もいません。個別の建物について調査すべきかどうかは、調査実施者や依頼先の宅建業者にご確認ください。確認できなかったことは記事末尾に並べてあります。

    1. 「義務化された」は誤解です

    2018年(平成30年)4月1日に施行されたのは、宅地建物取引業法の一部を改正する法律(平成28年法律第56号)のうち、建物状況調査に関する規定です。業者に課されたのは、次の3つです。

    条文 何をしなければならないか いつ
    34条の2第1項4号 「建物状況調査を実施する者のあつせんに関する事項」を書く 媒介契約書面
    35条1項6号の2 「建物状況調査を実施しているかどうか、及びこれを実施している場合におけるその結果の概要」を説明する 重要事項説明
    37条1項2号の2 「建物の構造耐力上主要な部分等の状況について当事者の双方が確認した事項」を書く 契約書面
    宅地建物取引業法の一部を改正する法律(平成28年法律第56号)の条文から作成

    並べると分かりますが、どこにも「調査を実施しなければならない」とは書いていません。「あっせんの有無を書け」「実施済みなら説明しろ」「確認した事項を残せ」の3つです。

    国土交通省のQ&A(Q1-5)はこう答えています。

    既存住宅を売買する場合に、必ず建物状況調査を実施しなければならないものではありません

    「あっせん」とは何を指すのか

    同じQ&A(Q4-1)が定義しています。

    宅建業者が、売主又は購入希望者等と調査実施者との間で建物状況調査の実施に向けた具体的なやりとり…が行われるように手配すること

    単に「そういう制度がありますよ」と情報提供するだけでは、あっせんに当たりません。業者が調査会社との橋渡しまでやって、初めてあっせんです。

    2024年4月から、「無」にする理由を書くようになりました

    令和6年4月1日施行の見直しで、標準媒介契約約款にあっせん「無」とする場合の理由記載欄が新設されました。国土交通省が示している記載例は次のとおりです。

    • 甲が、建物状況調査を実施する者のあっせんを希望しないため
    • 目的物件の所有者から、建物状況調査の実施の同意が得られないため
    • 既に建物状況調査が実施されているため

    媒介契約書に「無」と書かれていて、その理由が「甲が希望しないため」になっていたら、それは自分が希望しなかったことになっています。心当たりがなければ、その場で確認してください。

    出典:参議院「宅地建物取引業法の一部を改正する法律」/国土交通省「宅地建物取引業法における建物状況調査に関するQ&A(令和6年4月1日現在)」/同「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」新旧対照表

    2. 数字で見ると、ほとんど動いていません

    調査 数字
    一律にあっせん「無」としている宅建業者 74.1%(従業員0〜20人 75.9%/21〜100人 67.6%/101〜500人 41.7%/500人以上 0%)
    あっせん「有」と示した割合 中古戸建(売主側)約30%/(買主側)約27%/中古マンション 約19%
    あっせん「有」でも実施されなかった割合 15.7%
    建物状況調査の実施率(戸建) 37.5%(売却経験者44.6%/購入経験者30.6%)
    制度の認知度 「詳しく知っている」+「ある程度わかっていた」=38.3%
    実施した人の満足度 「とても満足」+「満足」=78.5%
    国土交通省「改正宅地建物取引業法の施行状況及び今後の見直しの方向性について」(令和5年3月)の令和3・4年度アンケートから作成

    読み方は2つあります。ひとつは「小さい会社ほど一律で無にしている」ということ。従業員500人以上の会社は0%、つまり全社が案件ごとに判断しています。地元の不動産会社に頼む場合、こちらから言わなければ出てこない可能性が高いと考えたほうが現実的です。

    もうひとつは「実施した人の78.5%は満足している」ということです。使った人の評価は悪くありません。問題は、選択肢として提示されていないことのほうです。

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    6万円が見合うかどうかは、売れる価格が分からないと決まりません

    調査費用の公的な目安は6万円程度〜です。1,000万円で売れる家なら0.6%、300万円なら2%。同じ6万円でも意味がまったく違います。調べるかどうかを決める前に、売れる価格の幅を知っておいてください。

    査定額は売れる価格ではありません。媒介契約を取るために高めに出す会社があります。ここで欲しいのは正確な1点ではなく「幅」なので、複数社の差そのものを見てください。申込後に電話が来ます。

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    3. 何を調べて、何を調べないのか

    ここを誤解すると「調査したのに雨漏りした」という話になります。

    調べるのは2種類の部位だけ

    • 構造耐力上主要な部分——基礎、柱、梁、床版、屋根版など、自重・積載荷重・地震等の振動を支える部分
    • 雨水の浸入を防止する部分——屋根、外壁、開口部の建具、屋根や外壁の内部にあって屋内に及ぶ排水管

    給排水設備の性能、シロアリ、設備機器の動作、越境や境界——これらは対象外です。「家全体を診てもらえる」ものではありません。

    方法は原則として非破壊、目視等が中心です

    既存住宅状況調査方法基準は、調査を「原則として非破壊で行う」とし、「歩行その他の通常の手段により移動できる位置において」実施するものと定めています。足場を組む必要はありません。

    国土交通省の一般向け手引きの表現はこうです。

    構造耐力上主要な部分と雨水の浸入を防止する部分について目視や計測、非破壊検査を行います。
    ※全ての瑕疵がないことを約束するものではありません。

    「調査できなかった」と「調査対象外」は違います

    家具で隠れている、点検口がない——といった理由で物理的にアクセスできない部位は「調査できなかった」と報告されます。そもそもその住宅に存在しない部位は「調査対象外」です。

    相続した実家に家財が残ったままだと、「調査できなかった」だらけの報告書になります。片付けの前後どちらでやるかは、この一点で決まります。片付けの手順と合わせて計画してください。

    出典:国土交通省「既存住宅状況調査方法基準の解説」(平成29年国土交通省告示第82号)/同「建物状況調査(インスペクション)活用の手引き」(令和6年4月)/同「既存住宅インスペクション・ガイドライン」

    4. 誰が調べるのか

    調査ができるのは既存住宅状況調査技術者です。建築士であって、国土交通大臣の登録を受けた講習を修了した者と、宅地建物取引業法施行規則15条の8が定めています。根拠となる告示は既存住宅状況調査技術者講習登録規程(平成29年国土交通省告示第81号)と既存住宅状況調査方法基準(同第82号)です。

    人数は令和5年度末時点で約14,000人(国土交通省)。建築士の資格区分によって調査できる建物の範囲が分かれています。

    探し方としては、国土交通省が案内している技術者の検索サイトがあります。不動産会社があっせんしてくれない場合でも、売主が自分で直接依頼できます。

    5. 重要事項説明に使えるのは「1年以内」です

    見落としやすいのがここです。宅建業法35条1項6号の2は「実施後国土交通省令で定める期間を経過していないものに限る」と書いていて、その期間は施行規則16条の2の2で定められています。

    建物の種類 重要事項説明に使える期間
    木造戸建て住宅 調査実施から1年以内
    鉄筋コンクリート造等の共同住宅等 調査実施から2年以内
    国土交通省「宅地建物取引業法における建物状況調査に関するQ&A(令和6年4月1日現在)」Q1-13から作成

    相続した実家は木造戸建てであることが多く、その場合は1年です。「とりあえず調べておこう」と早くやりすぎると、売却時には使えなくなっています。売却活動を始める時期から逆算してください。

    6. ★空き家の3,000万円控除とは、別の制度です

    ここが、この記事でいちばん誤解されているところです。

    相続した実家を売るときに使える空き家の譲渡所得3,000万円特別控除(租税特別措置法35条3項)があります。国土交通省が公表している主な要件はこうです。

    • 家屋は昭和56年5月31日以前に建築されたものに限る
    • 相続開始の日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡
    • 相続時から譲渡時まで事業用・貸付用・居住用に供されていないこと
    • 譲渡対価が1億円以下
    • ★耐震基準に適合すること、または家屋を除却して土地を譲渡すること
    • 控除額3,000万円。ただし家屋および敷地を相続した相続人が3人以上の場合は2,000万円
    • 適用期限は令和9年(2027年)12月31日

    要件は「耐震基準への適合」または「除却」です。建物状況調査ではありません。

    建物状況調査は、劣化事象の有無を目視等で確認するものです。耐震基準に適合していることの証明(耐震診断と、必要なら耐震改修、そして耐震基準適合証明書)とは、目的も方法も別のものです。調査をしても、控除が使えるようにはなりません。

    なお令和6年1月1日以降の譲渡については、譲渡の時からその翌年の2月15日までに家屋を取り壊した場合も対象になります(耐震改修も同様)。買主側で工事する段取りでも間に合うようになりました。手続には市区町村が発行する被相続人居住用家屋等確認書が要ります。

    詳しくは空き家の3,000万円特別控除で要件を1つずつ確認してください。

    出典:国土交通省「空き家の発生を抑制するための特例措置」および同制度概要・詳細資料

    7. 相続した実家では、どう効くのか

    「契約の内容に適合しない」の中身を、先に決めておける

    2020年施行の改正民法で、売主の責任は「隠れた瑕疵」から「契約の内容に適合しない」という基準に変わりました。法務省の解説は、買主に履行の追完の請求(562条)と代金減額請求権(563条)を認め、損害賠償・解除は債務不履行の一般則に従う(564条)と整理しています。

    期間制限(566条)も変わりました。法務省の説明では、改正のポイントは「権利行使」から「通知」への変更で、「買主は、契約に適合しないことを知ってから1年以内にその旨の通知が必要」とされています。

    基準が「契約の内容」になったということは、契約時に建物の状態をどこまで前提にしていたかが争点になる、ということです。調査報告書を契約前に買主と共有し、宅建業法37条1項2号の2の「当事者の双方が確認した事項」に反映させておけば、その前提が書面に残ります。

    相続した実家では、これが特に効きます。売主である相続人は、その家に住んでいなかったことが多く、そもそも告知できる情報を持っていません。「知らなかった」で押し通すのではなく、「調べた結果こうだった」を書面にするほうが、後の紛争は起きにくくなります。

    既存住宅売買瑕疵保険を使うなら、検査は別に要ります

    買主に安心を渡す手段として、既存住宅売買瑕疵保険があります。ただし加入には「専門の建築士による検査に合格すること」が必要で、これは保険法人の検査基準にもとづく別の検査です。国土交通省の手引きも、建物状況調査と「併せて実施することができます」という書き方をしています。

    「建物状況調査に通れば自動的に保険に入れる」わけではありません。保険まで考えるなら、最初から保険法人の登録検査事業者に相談してください。保険期間は個人間売買で1年・2年・5年、保険金額は500万円・1,000万円などです。

    出典:法務省「売主の瑕疵担保責任に関する見直し」/国土交通省「既存住宅売買瑕疵保険」および「既存住宅状況調査、既存住宅瑕疵保険関係資料」

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    調査より先に、壊す場合の金額も1つ持っておく

    昭和56年5月31日以前の家なら、3,000万円控除に必要なのは耐震基準への適合か除却です。建物状況調査ではありません。直して売るのか、壊して土地で売るのか——比べるには解体費の見当が要ります。

    解体費は同じ家でも会社によって幅が出ます。アスベストの有無、前面道路の広さ、残置物の量で変わるので、現地を見ないまま出た金額は当てになりません。また更地にすると固定資産税の住宅用地特例が外れます。壊す前に必ず確認してください。

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    当サイトは見積額の妥当性を保証しません。

    8. いくらかかるのか

    公的な資料で確認できる費用の目安は1つだけです。国土交通省の手引き(令和6年4月)にこう書かれています。

    調査費用は、物件の規模の加えて、調査実施者によっても異なりますが、6万円程度~が目安となります。

    (原文のままです。)これ以外に、国や自治体が示している金額の根拠は確認できませんでした。民間サイトにはいろいろな相場が載っていますが、当サイトでは一次情報にないものは書きません。

    判断材料としては、売却価格に対して6万円が何%かで考えるのが実用的です。1,000万円の物件なら0.6%、300万円なら2%です。安い物件ほど、相対的な負担は重くなります。

    やってはいけないこと

    • 「調査したから瑕疵はない」と買主に説明する。国土交通省自身が「全ての瑕疵がないことを約束するものではありません」と書いています。言い方を間違えると、かえって責任の材料になります。
    • インスペクションをすれば3,000万円控除が使えると思う。要件は耐震基準への適合か除却です。別の制度です。
    • 売却の1年以上前に調べてしまう。木造戸建てなら、重要事項説明に使えるのは調査から1年以内です。
    • 家財が残ったまま調査を入れる。「調査できなかった」が並んだ報告書になります。片付けとの順番を決めてください。
    • 媒介契約書の「あっせん無」を読み飛ばす。2024年4月から理由の記載欄があります。「甲が希望しないため」と書かれていたら、それは自分が希望しなかったことになっています。
    • 建物状況調査と瑕疵保険の検査を同じものだと考える。基準も実施者の要件も別です。

    動く順番

    1. まず売れる価格の幅を知る。6万円が見合うかどうかは、売却価格が分からないと判断できません。
    2. 昭和56年5月31日以前の建物かどうかを確認する。そうなら、3,000万円控除のために必要なのは耐震診断か除却です。インスペクションではありません。
    3. 家財を片付ける。「調査できなかった」を減らすためです。
    4. 売却活動の開始時期を決める。木造戸建てなら、そこから逆算して1年以内に調査を入れます。
    5. 媒介契約のときに、あっせんを希望すると口に出す。74.1%の業者は一律で「無」にしています。
    6. 報告書は契約前に買主と共有し、37条書面に反映させる。ここまでやって初めて、紛争予防として機能します。

    よくある質問

    Q. インスペクションは義務ですか?

    義務ではありません。国土交通省のQ&Aが「既存住宅を売買する場合に、必ず建物状況調査を実施しなければならないものではありません」と明記しています。業者に課されているのは、あっせんの有無を書面に記載すること、実施済みなら重要事項説明で結果の概要を説明すること、当事者が確認した事項を契約書面に記載することの3つです。

    Q. インスペクションをすれば、空き家の3,000万円控除は使えますか?

    使えるようにはなりません。控除の要件は「耐震基準に適合すること」または「家屋を除却して土地を譲渡すること」です。建物状況調査は劣化事象を目視等で確認するもので、耐震基準適合の証明とは別物です。国土交通省の資料でも、両制度が接続しているという記述は見当たりませんでした。

    Q. 費用はいくらですか?

    国土交通省の手引きが「6万円程度~が目安」としています。公的な資料で確認できるのはこの1つだけです。建物の規模と調査実施者によって変わります。

    Q. 何を調べてもらえますか?

    構造耐力上主要な部分(基礎・柱・梁・床版・屋根版など)と雨水の浸入を防止する部分(屋根・外壁・開口部の建具など)です。原則として非破壊で、歩いて移動できる位置から行います。シロアリ、給排水設備の性能、設備機器の動作などは対象外です。

    Q. 不動産会社に何も聞かれませんでした

    珍しくありません。国土交通省の調査では、一律にあっせん「無」としている宅建業者が74.1%(従業員20人以下では75.9%)です。希望するなら、媒介契約のときに自分から言ってください。2024年4月からは「無」とする理由を媒介契約書に書くことになっています。

    Q. 調査から時間が経っていても使えますか?

    木造戸建てなら1年、鉄筋コンクリート造等の共同住宅なら2年です。これを過ぎると重要事項説明の対象になりません。媒介契約を結ぶ時期から逆算して計画してください。

    まとめ

    • 義務化ではありません。業者に課されているのは書面記載と説明の3つだけです。
    • 一律あっせん「無」が74.1%。売主が言わないと出てきません。
    • 調べるのは構造と雨水だけ、原則非破壊。「全ての瑕疵がないことを約束するものではありません」。
    • ★3,000万円控除の要件は耐震基準適合か除却です。インスペクションでは代わりになりません。
    • 木造戸建てなら、重要事項説明に使えるのは1年以内。費用の公的な目安は6万円程度〜です。

    この記事で確認できなかったこと

    • 民法562条・563条・564条・566条の条文そのもの。法務省の解説資料で趣旨と「知ってから1年以内の通知」までは確認しましたが、条文の逐語は確認していません。本文でも条番号と趣旨だけを書いています。
    • 租税特別措置法35条3項の条文そのもの。要件は国土交通省の公表資料で確認しましたが、条文本文は確認していません。
    • 宅地建物取引業法施行規則16条の2の2の、令和6年改正後の条文本文。「木造戸建て1年・鉄筋コンクリート造等の共同住宅2年」という内容は国土交通省のQ&Aと解釈・運用の考え方で確認しています。
    • 既存住宅状況調査技術者の令和6年度末以降の人数。確認できた最新は令和5年度末の約14,000人です。なお国土交通省の別のアンケートには「調査対象32,590人」という数字があり、両者の食い違いの理由は分かりませんでした。本文では約14,000人を採りました。
    • 既存住宅売買瑕疵保険の付保件数。国土交通省の資料内に見つけられませんでした。
    • 「住宅市場動向調査」令和6年度のインスペクション実施率・認知度。報告書に該当項目があることは確認しましたが、数値を取り出せませんでした。本文では令和3・4年度の別アンケートの数字を使っています。
    • 費用について「6万円程度〜」以外の公的な根拠。内訳や上限を示す資料は確認できませんでした。

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  • 法務局の遺言書保管制度|3,900円で買えるのは「形式」だけです。中身の有効性は誰も見てくれません

    【PR】本ページはプロモーションを含みます。

    「実家は長男に」と紙に書いて、法務局に3,900円で預けた。これで安心だ——その安心は、半分は正しくて、半分は誤解です。

    自筆証書遺言書保管制度で法務局がやってくれるのは、民法968条の「書き方」に合っているかどうかの外形的な確認だけです。法務省は同じページに「本制度は、保管された遺言書の有効性を保証するものではありません」とはっきり書いています。別のページでは「遺言書の内容に関するご質問・ご相談には一切応じられません」とまで書いてあります。

    それでも、この制度には確実に買える価値があります。家庭裁判所の検認が要らなくなること、紛失・改ざん・隠匿を防げること、そして死亡を起点に相続人へ通知が飛ぶ仕組みがあることです。この記事は、法務省・法務局・裁判所の公表資料だけで、何が買えて何が買えないのかを分けます。

    最終更新:2026年8月25日

    結論だけ先に

    • ★3,900円で買えるのは「形式」だけです。見てもらえるのは民法968条の方式に適合するかどうかの外形的な確認で、中身が有効かどうか、実現できるかどうか、争いにならないかどうかは一切審査されません。
    • 検認は要らなくなります。根拠は遺言書保管法11条で、「民法第千四条第一項の規定は、遺言書保管所に保管されている遺言書については、適用しない。」と書いてあります。検認は令和6年に全国で11,534件ありました。
    • ★本人が法務局の窓口に行かないと預けられません。代理人による申請も郵送も不可です。子が親のために手続きを進めることはできません。2通目以降は、最初に申請した保管所にしか出せません。
    • 通知は2種類あって、性格が違います。関係遺言書保管通知は「誰か1人が動いたあと」に他の相続人へ広がる事後的なもの。指定者通知(最大3名)は、死亡そのものを起点に、生前に指名した人へ届く能動的なものです。後者を設定しないと、誰も気づかないまま眠る可能性があります。

    この記事は、法務局における遺言書の保管等に関する法律、民法、不動産登記法と、法務省・法務局・裁判所の公表資料だけで書いています。当サイトに弁護士も司法書士もいません。遺言の中身については、必ず専門家にご相談ください。条文の逐語が取れなかったものは記事末尾に並べてあります。

    1. この制度で、何が変わるのか

    自筆証書遺言書保管制度は、法務局における遺言書の保管等に関する法律(平成30年法律第73号)にもとづく制度で、2020年(令和2年)7月10日に始まりました。法務省の広報誌が「本年7月10日から…『自筆証書遺言書保管制度』が始まります」と書いています。

    検認が要らなくなる

    いちばん大きい効果はここです。遺言書保管法11条の条文はこうです。

    (遺言書の検認の適用除外)
    第十一条 民法第千四条第一項の規定は、遺言書保管所に保管されている遺言書については、適用しない。

    検認は、家庭裁判所に相続人を呼び出して遺言書を開封し、その時点の状態を記録する手続です。遺言の有効・無効を決める手続ではありませんが、相続人全員の戸籍を集めて申立てる必要があり、日数がかかります。令和6年の司法統計では、遺言書の検認は全国で11,534件が新たに申し立てられています。

    紛失・改ざん・隠匿を防げる

    法務省は制度の利点として「遺言書の紛失・亡失のおそれがありません」「相続人等の利害関係者による遺言書の破棄、隠匿、改ざん等を防ぐことができます」を挙げています。データでも管理されるため、全国どこの法務局でも遺言書情報証明書の交付が受けられます。

    保管期間は原本が遺言者の死亡後50年間、画像データは150年間です。自宅の仏壇や貸金庫と比べると、この点は明確に強いところです。

    出典:法務省「自筆証書遺言書保管制度」各ページ/法務省広報誌/最高裁判所「令和6年司法統計年報 3家事編」第2表

    2. ★3,900円で買えるのは「形式」だけです

    ここがこの記事でいちばん伝えたいところです。

    見てもらえるのは、民法968条の方式に合っているかどうか

    法務省の説明は「民法の定める自筆証書遺言の形式に適合するかについて、遺言書保管官の外形的なチェックが受けられます」です。パンフレットも「法務局職員が、民法の定める自筆証書遺言の方式について外形的な確認を行います」としています。

    つまり、日付が書いてあるか、署名があるか、押印があるか、財産目録の各ページに署名押印があるか——といった目で見て分かる形式のことです。

    「有効性を保証するものではありません」

    同じ法務省のページに、こう書いてあります。

    本制度は、保管された遺言書の有効性を保証するものではありません。

    さらに別のページでは、こうです。

    遺言書保管所では、遺言書の内容に関するご質問・ご相談には一切応じられません(遺言書はご自身で作成いただく必要があります)

    「実家は長男に」と書いたとして、その一文が特定財産承継遺言として有効に働くのか、遺留分でいくら請求されるのか、他の財産とのバランスが取れているのか——法務局は何も見てくれません。形式が整った無効な遺言も、形式が整った「もめる遺言」も、そのまま預かられます。

    それでも預ける価値はあります

    誤解を解いた上で言うと、形式不備で無効になる自筆証書遺言は現実に多いので、外形的な確認だけでも意味はあります。日付が「令和7年8月吉日」になっている、押印を忘れている、財産目録に署名がない——こうした失敗はここで止まります。

    買えるのは「形式の保険」と「保管の確実性」と「検認の省略」。買えないのは「中身の妥当性」。この線引きを理解した上で使えば、3,900円は安い制度です。

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    形式は法務局が見てくれます。中身を見てくれる人は、別に要ります

    法務局が確認するのは民法968条の方式だけです。遺留分でいくら請求されるか、他の財産とのバランスが取れているかは、誰も教えてくれません。相続税がかかる規模なら、実家の遺し方によって納税額そのものが変わります。

    相談すれば、もめない遺言になるわけではありません。税理士は税の専門家で、遺言の有効性そのものは弁護士や司法書士の領域です。そもそも相続税がかかるかどうかが分からない段階なら、まず基礎控除の判定からで十分です。

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    3. 手数料の一覧

    手続 手数料 単位
    遺言書の保管の申請 3,900円 遺言書1通につき
    遺言書の閲覧(モニター) 1,400円 1回につき
    遺言書の閲覧(原本) 1,700円 1回につき
    遺言書情報証明書の交付 1,400円 1通につき
    遺言書保管事実証明書の交付 800円 1通につき
    申請書等・撤回書等の閲覧 1,700円 1件につき
    保管の撤回/住所等の変更の届出 無料 —
    法務省「手数料一覧」から作成。納付は収入印紙で、手続を行う法務局で購入できます

    気をつけたいのは撤回が無料だという点です。気が変わったら取り下げられますし、書き直して預け直すこともできます。「一度預けたら変えられない」というものではありません。

    4. 本人が行かないと、預けられません

    実務でいちばん引っかかるのがここです。法務省の記述をそのまま引きます。

    遺言書の保管の申請ができるのは、遺言者本人のみです。※代理人による申請や郵送による申請はできません。

    子が親の代わりに窓口へ行くことはできません。親が高齢で外出が難しい、遠方に住んでいる、というケースでは、この一点で制度が使えないことがあります。実家をどう遺すかを子の側から進めようとしている場合、ここが最初の壁になります。

    どこの法務局に出せるか

    次の3つのいずれかを管轄する遺言書保管所から、自分にとって便利なところを選べます。

    • 遺言者の住所地を管轄する遺言書保管所
    • 遺言者の本籍地を管轄する遺言書保管所
    • 遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する遺言書保管所

    実家が遠方にある場合、実家の所在地を管轄する法務局でも預けられるのは覚えておく価値があります。

    2通目以降は、最初の保管所にしか出せません

    法務省は「2通目以降、追加で保管の申請をする場合は、最初に保管の申請をした遺言書保管所に対してしか行うことができません」としています。1通目をどこに出すかは、あとから効いてきます。将来また出す可能性があるなら、通いやすい場所を選んでください。

    出典:法務省「自筆証書遺言書保管制度」の各案内ページおよび手数料一覧

    5. 様式が細かく決まっています

    預けられる遺言書には、通常の自筆証書遺言にはない様式のルールがあります。スキャナで読み取ってデータ化するためです。

    項目 要件
    用紙 A4サイズ限定
    余白 上5mm以上/下10mm以上/左20mm以上/右5mm以上
    記載面 片面のみ(財産目録も同じ)
    ページ番号 複数ページなら各ページに必須。「1/2、2/2」の形式で総ページ数まで書く。余白の中に書く。1枚なら不要
    綴じ方 ホチキス等で綴じない
    封筒 不要
    筆記具 ボールペン・万年筆など消えにくいもの。消えるインクは不可
    用紙の状態 汚れ・曲がり・濡れ・破損・変色等がないこと
    法務省「遺言書の様式等についての注意事項」および法務局の記載例から作成

    左の余白が20mm以上と、他より広く取られています。ここを守っていないと預かってもらえません。市販の便箋ではなく、A4のコピー用紙に書くのが確実です。

    6. 財産目録だけは、手書きでなくていい

    実家を遺す人にとって、地味に効くのがこれです。民法968条2項の条文を引きます。

    前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(…)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。

    この規定は平成31年(2019年)1月13日から施行されています。法務省は具体例として「土地について登記事項証明書を財産目録として添付することや、預貯金について通帳の写しを添付することもできます」と説明しています。

    不動産の地番・家屋番号を手書きで正確に写すのは、ミスの温床です。「〇〇市〇〇町1-2-3」という住居表示と、登記上の地番は違います。登記事項証明書をそのまま目録として添付できるなら、そのほうが確実です。ただし本文——誰に何を相続させるか——は全文を自分で書く必要があります。

    なお、968条1項は「遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない」、3項は加除訂正の方法を定めています。訂正の仕方を間違えると効力が生じないので、書き損じたら新しい紙に書き直すほうが安全です。

    出典:法務省「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」新旧対照条文および同解説ページ

    7. 死んだあと、誰にどう伝わるのか

    預けただけでは、誰も気づきません。通知の仕組みは2種類あり、性格がまったく違います。

    関係遺言書保管通知 指定者通知(死亡時通知)
    きっかけ 関係相続人等のうちいずれか1人が閲覧等をしたことで、遺言者の死亡が確認できたとき 戸籍担当部局との連携により遺言者の死亡が確認されたとき、または各証明書を交付したとき
    通知先 その他すべての関係相続人等(推定相続人・受遺者・遺言執行者等) あらかじめ遺言者が指定した人
    人数 指定できない(自動的に全員) 最大3名
    通知される内容 ①遺言者の氏名 ②出生の年月日 ③保管されている遺言書保管所の名称 ④保管番号
    法務省「通知について」から作成

    関係遺言書保管通知は「誰かが動いたあと」に広がる事後的な通知です。逆に言えば、誰も制度の存在を知らなければ、いつまでも誰も動きません。

    だから指定者通知の設定が要ります。これは死亡そのものを起点に、生前に指名した最大3名へ届きます。実家を継がせたい人、遺言執行者、信頼できる親族——このあたりを指定しておけば、遺言書が眠ったまま遺産分割が進んでしまう事態を避けられます。

    預けたこと自体を、生前に誰かに伝えておくのがいちばん確実です。制度に頼りきらないでください。

    8. 実家を遺すとき、遺言だけでは足りないこと

    ここからは、実家という不動産に固有の話です。

    登記しないと、第三者に対抗できません

    民法899条の2の条文はこうです。

    相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。

    「実家は長男に相続させる」という遺言があっても、法定相続分を超える部分は、登記を備えていないと第三者に負けます。たとえば他の相続人の債権者が、法定相続分で差押えをかけてきた場合です。遺言書を預けただけでは足りず、相続が起きたら速やかに登記まで進める必要があります。

    相続登記には、そもそも義務があります

    令和6年(2024年)4月1日から、相続登記の申請が義務化されました。

    • 根拠は不動産登記法76条の2第1項(基本的義務)ほか。「相続(遺言を含む。)により不動産の所有権を取得した相続人は」申請義務を負います。
    • 期限は「自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内」。
    • 正当な理由なく怠ると10万円以下の過料(同法164条1項)。
    • 相続人申告登記で果たせるのは基本的義務だけです。遺産分割が成立した場合の追加的義務は、相続人申告登記では果たせません。

    遺言があると「所有権を取得したことを知った日」がむしろ明確になり、3年のカウントが始まりやすくなります。対抗要件(登記しないと負ける)と義務化(登記しないと過料)は別々の理由ですが、どちらも「早く登記せよ」を指しています。

    遺留分からは逃げられません

    遺言で実家を1人に集中させても、民法1046条により、他の相続人は遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求できます。実家が主要な財産である家庭ほど、この請求は起きやすい構造になっています。

    金銭で払えなければ、期限の許与を裁判所に求めることになり、それでも払えなければ実家を売って払うことになりかねません。遺留分でお金を払うことになりますで仕組みを整理しています。遺言を書く前に、実家がいくらなのかを知っておく必要があるのはこのためです。

    出典:法務省「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」新旧対照条文/法務省「相続登記の申請義務化」案内ページ

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    遺言を書く前に、実家がいくらかを1つ知っておく

    遺留分の金額も、他の相続人に何を渡せば釣り合うかも、実家の値段が分からないと計算できません。「実家は長男に」と書くのなら、その実家がいくらなのかを先に知っておく必要があります。

    査定額は売れる価格ではありません。媒介契約を取るために高めに出す会社があります。遺言のために使うなら、複数社の幅を見て「だいたいこのくらい」を掴むまでで十分です。売る前提で話が進みそうなら、その旨を先に伝えてください。

    更地のまま売った場合の金額を聞く(無料)

    当サイトは査定額の正確性を保証しません。

    やってはいけないこと

    • 預けたことを誰にも言わない。指定者通知を設定していなければ、誰も動かないまま遺産分割が終わる可能性があります。最大3名の指定は必ずやってください。
    • 「法務局が見てくれたから中身も大丈夫」と考える。見てもらえるのは形式だけです。法務省自身が有効性を保証しないと明記しています。
    • 子が代わりに手続きしようとする。本人以外は申請できません。親が動けないなら、公正証書遺言など別の方法を検討することになります。
    • 市販の便箋や罫線入りノートに書く。A4・片面・余白(上5/下10/左20/右5mm)の要件を満たさないと預かってもらえません。
    • 書き損じを修正液や二重線で直す。968条3項の方法を外れると訂正の効力が生じません。新しい紙に書き直してください。
    • 遺言を書いただけで相続登記を忘れる。3年の期限と10万円以下の過料があります。

    動く順番

    1. 実家がいくらなのかを先に知る。遺留分の金額も、他の相続人とのバランスも、ここが決まらないと計算できません。
    2. 誰に何を遺すかを決めて、本文を全文自書する。不動産の表示は登記事項証明書のとおりに。
    3. 財産目録は登記事項証明書や通帳の写しで作る。各ページに署名押印(968条2項)。
    4. 様式を確認する。A4・片面・余白・ページ番号・ホチキス止めなし・封筒なし。
    5. 本人が法務局に予約して行く。住所地・本籍地・所有不動産の所在地のいずれかを管轄する保管所。手数料3,900円は収入印紙で。
    6. 指定者通知(最大3名)を設定する。ここを飛ばさない。
    7. 預けたことを、信頼できる人に伝えておく。

    よくある質問

    Q. 法務局に預ければ、遺言が無効になることはありませんか?

    あります。法務省は「本制度は、保管された遺言書の有効性を保証するものではありません」と明記しています。確認されるのは民法968条の方式に適合するかどうかという外形だけで、内容の有効性や実現可能性は審査されません。中身については専門家に相談してください。

    Q. 子が親の代わりに預けに行けますか?

    できません。「遺言書の保管の申請ができるのは、遺言者本人のみです。代理人による申請や郵送による申請はできません」と法務省が明記しています。親が窓口に行けない状況なら、公証人に出張してもらえる公正証書遺言など、別の方法を検討することになります。

    Q. いくらかかりますか?

    保管の申請は遺言書1通につき3,900円です。閲覧はモニターで1,400円、原本で1,700円、遺言書情報証明書の交付は1通1,400円、遺言書保管事実証明書は1通800円。保管の撤回と住所等の変更の届出は無料です。納付は収入印紙で行います。

    Q. 検認は本当に要らなくなりますか?

    要りません。遺言書保管法11条が「民法第千四条第一項の規定は、遺言書保管所に保管されている遺言書については、適用しない」と定めています。ただし相続登記などの手続には、遺言書情報証明書(1通1,400円)の交付を受ける必要があります。

    Q. 預けたあとで気が変わったら?

    撤回できます。手数料も無料です。書き直して預け直すこともできます。ただし2通目以降の申請は、最初に申請した遺言書保管所にしか出せません。

    Q. 遺言があれば、兄弟でもめませんか?

    もめないとは言えません。遺言で実家を1人に集中させても、他の相続人は遺留分侵害額請求ができます。これは金銭の請求なので、実家しか財産がない場合、受け取った側が現金を用意する必要が出ます。遺言を書く段階で、その金額を計算しておくことが実質的な対策になります。

    まとめ

    • 3,900円で買えるのは「形式の確認」「保管の確実性」「検認の省略」です。中身の有効性は買えません。法務省がそう明記しています。
    • 本人が窓口に行かないと預けられません。代理も郵送も不可。子の側から進められない制度です。
    • 指定者通知(最大3名)を必ず設定してください。設定しないと、誰かが動くまで通知は飛びません。
    • 財産目録は登記事項証明書や通帳の写しでよい(民法968条2項)。本文は全文自書です。
    • ★遺言を預けても、相続登記の義務も遺留分もなくなりません。登記は3年以内、過料は10万円以下です。

    この記事で確認できなかったこと

    • 遺言書保管法11条が民法1004条の「第3項」も適用除外にしているかどうか。条文を2回確認しましたが、いずれも「第千四条第一項」のみで、第3項への言及は確認できませんでした。本文でも1項だけを書いています。1004条3項は封印のある遺言書の開封に関する規定で、この制度は封筒が不要なため実務上は問題にならないと考えられますが、その理解を裏づける一次資料は確認していません。
    • 保管申請件数の年別内訳。法務省が公表している累計(令和8年7月分まで127,253件)は確認しましたが、年ごとの数字は読み取りが安定せず、採用しませんでした。
    • 公正証書遺言の作成件数。日本公証人連合会のページを取得できず、自筆証書遺言との件数比較はできませんでした。
    • 民法1014条2項(特定財産承継遺言の定義)の条文そのもの。条番号のみの確認です。
    • 施行期日を定めた政令の番号。施行日が2020年7月10日であることは法務省の公表資料で確認しましたが、政令そのものは確認していません。
    • 保管申請時の必要書類の詳細(本人確認書類の種類、住民票の要否など)。法務局の案内ページに記載がありますが、この記事の範囲外として深追いしていません。予約時に必ず確認してください。

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  • 実家の土地が生産緑地だったら|親の死亡なら、30年を待たずに買取り申出ができます

    【PR】本ページはプロモーションを含みます。

    相続した実家の敷地に、畑が付いていた。登記を見たら地目が「田」で、市役所に聞いたら「生産緑地地区です」と言われた。

    ここで多くの人が「30年経たないと何もできない」と説明されます。それは半分だけ正しい説明です。生産緑地法10条1項は、買取りの申出ができる場合を2つ書いています。ひとつは告示から30年の経過。もうひとつが「主たる従事者の死亡」です。つまり親が亡くなったこと自体が、30年を待たずに動かせる理由になります。

    ただし、動かせば失うものもあります。固定資産税は農地課税から宅地並み課税に変わり、相続税の納税猶予は次の代で受けられなくなります。この記事は、生産緑地法・租税特別措置法・地方税法と、国土交通省・農林水産省・財務省・自治体の公表資料だけで、その損得を組み立てます。

    最終更新:2026年8月25日

    結論だけ先に

    • ★主たる従事者が亡くなったなら、30年を待たずに買取り申出ができます。生産緑地法10条1項の事由は「告示から30年経過」だけではありません。特定生産緑地に指定済みでも同じです(国土交通省「特定生産緑地指定の手引き」)。
    • 申出を出しても、市町村はまず買いません。1か月以内に買うか買わないかの通知、2か月のあっせん、そして申出から3か月以内に所有権の移転が成立しなければ、行為制限が外れます(生産緑地法14条)。ここから宅地として使えます。
    • ★特定生産緑地の指定は、申出基準日までしかできません。1日でも過ぎたら二度と指定できません(生産緑地法10条の2第2項)。全国では面積ベースで89.0%が指定済み、1,060haが指定しない選択をしています。
    • 指定しなかった場合、いま受けている納税猶予は続きます。ただし次の相続人は納税猶予を受けられません。国土交通省の手引きにそう書いてあります。損得が出るのは自分の代ではなく、子の代です。

    この記事は生産緑地法・地方税法・租税特別措置法と、国土交通省・農林水産省・財務省・都県市の公表資料だけで書いています。当サイトに税理士も行政書士もいません。実際の可否と税額は、必ず市町村の都市計画担当課・農業委員会・税理士にご確認ください。条文の逐語が取れなかったものは、記事末尾に全部並べてあります。

    1. 生産緑地とは、何を差し出して何をもらう仕組みか

    生産緑地は、市街化区域の中にある農地を、農地のまま残すための都市計画です。根拠は生産緑地法(昭和四十九年法律第六十八号)で、平成3年に全面的に改められ、平成29年の改正で「特定生産緑地」が加わりました。

    市街化区域は本来「おおむね10年以内に市街化を図る区域」です。そこに農地を残すのだから、所有者には制限がかかり、代わりに税制上の扱いが変わります。制限と見返りがセットになった仕組みだ、と理解すると全体が読めます。

    生産緑地 生産緑地でない市街化区域内農地
    建物を建てる 原則できない(市町村長の許可が要る) できる
    管理の義務 農地等として管理する義務がある なし
    固定資産税 農地評価・農地課税 宅地並評価
    相続税の納税猶予 使える(終身営農が条件) 三大都市圏特定市では使えない
    国土交通省「生産緑地制度について」および農林水産省「農地の保有に対する税金(固定資産税)」から作成

    指定の要件は500㎡。条例で300㎡まで下げられます

    国土交通省が内閣府に提出した資料は、指定要件を条番号つきで「公共施設等の敷地として適する・500㎡以上・農林漁業の継続が可能 等」(法第3条第1項)、「土地所有者等の同意が必要」(法第3条第2項)と説明しています。

    平成29年の改正で、この面積要件は条例で300㎡まで引き下げられるようになりました。実際にどれだけ使われているかというと、令和7年12月末現在、生産緑地を持つ240都市のうち147都市(6割)が引下げ条例を制定し、制定した都市はすべて300㎡まで下げています。

    出典:国土交通省「生産緑地制度の概要」/「生産緑地法等の改正について」/「生産緑地地区の面積要件引下げ条例制定状況」

    課される義務——農地として管理し、勝手に建てられない

    同じ資料が、法第7条を「農地等としての管理」(管理の義務)、法第8条第1項を「建築等の行為制限」、法第8条第2項を「許可できる施設の範囲」と整理しています。

    平成29年の改正では、この8条関係の制限が緩められ、農産物の加工施設・直売所・農家レストランの設置が可能になりました。ただしこれは「農業を続ける前提での緩和」であって、住宅やアパートを建てられるようになったわけではありません。

    もらえるもの——農地課税と、相続税の納税猶予

    見返りは2つです。国土交通省の資料は「固定資産税が農地課税(生産緑地以外は宅地並み課税)」「相続税の納税猶予制度が適用」と書いています。農林水産省の資料も「農地評価・農地課税」「終身営農を条件に納税猶予の適用」と同じ整理です。

    この2つが、生産緑地を持ち続ける理由のほぼすべてです。逆に言えば、この2つを手放してよいなら、生産緑地を続ける理由はありません。

    出典:国土交通省「生産緑地制度について」/農林水産省「都市農地に係る土地利用計画制度について」

    2. 相続が起きたら、30年を待たずに買取り申出ができます

    ここがこの記事の核心です。

    生産緑地法10条は、買取りの申出ができる場合を定めています。船橋市が条文を引用している部分はこうです。

    生産緑地所有者は、当該生産緑地に係る生産緑地地区に関する都市計画についての都市計画法第20条第1項の規定による告示の日から起算して30年を経過する日以後において

    この「30年」が、いわゆる2022年問題の正体です。平成4年(1992年)に指定が集中したため、その30年後にあたる2022年に一斉に申出可能時期が来ました。国土交通省によれば、平成4年に定められた生産緑地は全生産緑地面積の約8割、9,273haに相当します。

    もうひとつの事由——主たる従事者の死亡・故障

    ところが10条1項の事由は30年経過だけではありません。船橋市の同じ資料は条文の引用に続けて「また死亡や故障の場合も申出可能です」と書いています。岸和田市の資料はもっと踏み込んでいて、特定生産緑地に指定した場合の買取り申出事由を「主たる従事者の死亡又は農林漁業に従事することを不可能にさせる故障に至った場合のみです」としています。

    国土交通省の「特定生産緑地指定の手引き」も、「相続の発生等により、特定生産緑地指定中であってもいつでも買取り申出が可能」としています。

    つまり、親が主たる従事者だったなら、その死亡そのものが買取り申出の理由になります。指定から30年経っているかどうかも、特定生産緑地に指定済みかどうかも関係ありません。

    「主たる従事者」は農業委員会が証明します

    誰が主たる従事者だったかは、自己申告では決まりません。京都市の処理基準は、根拠を生産緑地法第10条および生産緑地法施行規則第2条とし、「農地基本台帳に登載されている従事者及びその従事日数等を参考に、農業の主たる従事者等に該当するか否かについて判断するもの」と定めています。窓口は市町村の農業委員会です。

    親が高齢で、実際には別の家族が耕していた場合、親が「主たる従事者」と認められないことがあります。ここは市町村ごとの運用差が出るところなので、亡くなった直後に農業委員会へ確認してください。

    「故障」とは何か

    死亡していなくても、農業を続けられない状態になれば申出ができます。横浜市は「故障」を「農業を続けられないような重度の障害や1年以上の期間を要する入院など」と説明しています。ただし、これは横浜市の運用上の説明であって、法令上の定義ではありません。親が施設に入った、というだけで当てはまるとは限りません。

    出典:船橋市「生産緑地の行為制限の解除について」/岸和田市/横浜市/京都市/国土交通省報道発表

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    解除したあと、その土地に何ができるかを先に見ておく

    買取り申出をすると、3か月後には行為制限が外れます。外れた時点から固定資産税は宅地並みです。先に「何をいくらで作れるか」を数字で持っていないと、税金だけが先に来ます。複数社の提案を並べると、同じ土地でも前提の置き方で金額が変わることが見えます。

    提案書の数字は、その会社が「そう置いた前提」です。空室率・稼働率・修繕費の置き方は会社ごとに違います。生産緑地は解除しないと建てられないので、解除を決める前に取り寄せて比べるのが順番です。申込後に電話が来ます。

    複数社にまとめて土地活用プランを請求する(無料)

    当サイトは提案内容の妥当性を保証しません。数字の前提は必ずご自身で確認してください。

    3. 買取り申出を出すと、何が起きるか

    「買取りの申出」という名前ですが、実際に市町村が買うことはほとんどありません。手続の実態は「3か月かけて行為制限を外す手続」です。

    時期 何が起きるか
    申出 市町村長に買取りの申出をする(農業委員会の証明が必要)
    1か月以内 市町村が買い取るか買い取らないかを通知する
    2か月 買い取らない場合、農林漁業を希望する人へのあっせんが行われる
    申出から3か月 所有権の移転が成立しなければ、行為制限が外れる
    国土交通省資料およびさいたま市・京都市・横浜市の公表フローから作成

    3か月で外れる、と条文に書いてあります

    生産緑地法14条の文言はこうです。

    申出があつた場合において、その申出の日から起算して3月以内に当該生産緑地の所有権の移転が行われなかつたときは(行為の制限の規定は適用されない)

    さいたま市はこの流れを「買取申出日から1ヶ月以内に市で買取るか否かを買取申出者あてに回答」「農業委員会にて2ヶ月間のあっせん」「3ヶ月後(市1ヶ月間、農業委員会2ヶ月間)、生産緑地の行為制限解除」と説明しています。京都市・横浜市も「申出日から3か月以内」にあっせんが不成立なら「開発行為の制限が解除され転用可能」としています。

    3か月というのは、行政手続としてはかなり短い部類です。相続税の申告期限が10か月であることを考えると、申告の前に結論が出せる長さです。

    出典:さいたま市/船橋市(前掲)/横浜市(前掲)

    4. 行為制限が外れると、固定資産税はこう変わります

    ここが、この判断でいちばん大きい金額です。

    農林水産省の資料によれば、市街化区域内の農地は課税上3つに分かれます。生産緑地は「一般農地と同様の農地評価」、それ以外の三大都市圏特定市の農地は「宅地並評価+宅地の負担調整」です。行為制限が外れると、後者に移ります。

    移った直後にいきなり満額になるわけではなく、初年度0.2・2年度0.4・3年度0.6・4年度0.8という軽減率が掛かり、5年目から本則になります。

    奈良市の公式試算で見ると

    奈良市が同じ条件で並べた試算を公表しています。前提は、面積500㎡・一般農地評価100円/㎡・固定資産税路線価50,000円/㎡・造成費6,200円/㎡・固定資産税1.4%・都市計画税0.25%、形状補正なし・負担水準を考慮せず本則で算出したものです。

    ケース 年税額(固定資産税+都市計画税)
    特定生産緑地のまま 825円
    指定されなかった場合 初年度(0.2) 27,740円
    2年目(0.4) 55,480円
    3年目(0.6) 83,220円
    4年目(0.8) 110,960円
    5年目以降(本則) 138,700円
    奈良市「農地課税と宅地並み課税との違いについて(令和3年度版)」の試算例。上記の前提条件つきの数字です

    この条件では年825円が5年目に138,700円になります。ただしこれは奈良市が示した特定の前提での試算であって、全国一律の倍率ではありません。路線価が違えば金額は変わりますし、面積が違えば当然変わります。ご自身の土地で知りたいときは、固定資産税の課税明細書に載っている「価格」と、市町村の窓口で聞ける近傍宅地の路線価を使って計算してください。

    出典:奈良市/農林水産省「農地の保有に対する税金(固定資産税)」/静岡市

    5. 特定生産緑地——申出基準日を過ぎたら、二度と指定できません

    解除ではなく「続ける」を選ぶ場合の話です。

    申出基準日とは、生産緑地地区の都市計画決定の告示の日から30年が経過する日のことです。1992年4月1日に告示された地区なら、申出基準日は2022年4月1日になります。

    10条の2第2項の文言

    国土交通省「特定生産緑地指定の手引き(令和8年4月版)」が引用している条文はこうです。

    指定は、申出基準日までに行うものとし、その指定の期限は、当該申出基準日から起算して十年を経過する日とする。

    同じ手引きの17ページには「申出基準日以後は特定生産緑地として指定できない」と明記されています。1日でも過ぎたら、その土地は二度と特定生産緑地になれません。期限の延長も、後からの申請もありません。

    指定できれば、10条の3により10年ごとに繰り返し延長できます。所有者側から指定を提案する制度(10条の4)もあります。

    全国では89.0%が指定済み。1,060haが「しない」を選んだ

    時点 対象面積 指定済み 指定率 未指定
    令和4年12月末
    (平成4年決定分)
    9,273ha 8,282ha 89.3% 991ha
    令和7年12月末
    (平成4〜7年決定分・累計)
    9,617ha 8,557ha 89.0% 1,060ha
    国土交通省「特定生産緑地指定状況(累計)」ほか。面積ベースの数字です

    9割が指定した、という事実は「みんな続けている」とも読めますが、1割は続けないことを選んだとも読めます。続けるか続けないかは、農業を続ける人がいるかどうかで決まります。相続で継ぐ人が農業をしないなら、指定しても終身営農の条件を満たせません。

    参考までに、令和7年12月31日現在の生産緑地地区は全国52,955地区・10,612.77haです。都府県別では東京10,158地区・2,676.21ha、大阪8,576地区・1,661.08ha、埼玉6,084地区・1,397.09ha、愛知6,219地区・758.06haと続きます。

    ★指定しないと、次の相続人は納税猶予を受けられません

    ここが、この記事でいちばん大事なところです。国土交通省の手引きの記述をそのまま並べます。

    特定生産緑地に指定する 指定しない
    買取り申出 10年後まで先送り(死亡・故障ならいつでも可) いつでも可能
    固定資産税 農地課税のまま 宅地並み課税(4年間の激変緩和あり)
    相続税の納税猶予 終身営農で免除。次世代も適用対象 現在受けている者に限り継続。次の相続人は適用されない
    国土交通省「特定生産緑地指定の手引き(令和8年4月版)」および岸和田市の資料から作成

    いま納税猶予を受けている人は、指定しなくても猶予が消えるわけではありません。手引きは「現在納税猶予の適用を受けている者に限り猶予が継続されますが、次の相続人については納税猶予が適用されません」と書いています。

    つまり損をするのは自分ではなく、子です。いま指定しない判断をすると、その効果は次の相続まで表に出ません。子が農業を継ぐ可能性が少しでもあるなら、指定しておくほうが選択肢は広く残ります。指定しても、死亡・故障ならいつでも買取り申出ができるからです。

    出典:国土交通省「特定生産緑地指定の手引き(令和8年4月版)」/「特定生産緑地指定状況(累計)」/「生産緑地地区の都市計画決定状況(R7.12.31現在)」/岸和田市(前掲)

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    「使う」の前に、更地としての値段を1つ知っておく

    活用するか売るかは、更地の値段が分からないと比べられません。解除後は宅地並み課税になるので、持ち続けるコストも同時に増えます。売った場合の金額を1つ持っておくと、活用案が割に合うかどうかを判定できます。

    査定額は売れる価格ではありません。媒介契約を取るために高めに出す会社があります。また生産緑地は、買取り申出をして行為制限が外れるまで宅地として売れません。順番を間違えないでください。

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    当サイトは査定額の正確性を保証しません。

    6. 相続税の納税猶予は、生産緑地では「終身営農」です

    農地の相続税の納税猶予は、租税特別措置法70条の6が根拠です。財務省の資料で、免除される場合と打ち切られる場合を確認できます。

    • 免除——相続人の死亡時、または相続税の申告期限から20年を経過した場合等。ただし20年での免除は「生産緑地を除く」三大都市圏特定市の市街化区域内農地が対象です。生産緑地は終身営農が原則になります。
    • 打ち切り——20%を超える農地を譲渡等した場合、または農業経営を廃止した場合。このとき猶予税額の全額と利子税を納付することになります。
    • 例外——農地中間管理事業のための一定の貸付け、認定都市農地貸付け等は打ち切りの対象外です。

    貸しても猶予が続く道がある

    「自分では耕せないが、猶予は続けたい」という場合、都市農地の貸借の円滑化に関する法律(平成30年9月1日施行)があります。農林水産省の資料は「農地の相続税納税猶予の適用を受けている都市農地について、本法律により認定を受けた事業計画に基づく貸付けを行っても納税猶予が継続する」としています。

    ここでいう「都市農地」は「生産緑地法第3条第1項の規定により定められた生産緑地地区の区域内の農地」と定義されています。つまり生産緑地であることが、この制度を使う条件です。解除してしまうと、この道も閉じます。

    出典:財務省「農地に係る相続税の納税猶予の特例の概要」/農林水産省「都市農地の貸借の円滑化に関する法律の概要」

    7. やってはいけないこと

    • 申出基準日を確かめないまま放置する。過ぎたら特定生産緑地には二度と指定できません。告示日は市町村の都市計画担当課で確認できます。相続が起きたら最初にここへ行ってください。
    • 「相続したから自動で解除された」と思い込む。相続は買取り申出ができる理由になるだけで、申出をしなければ生産緑地のままです。行為制限も管理義務も続きます。
    • 納税猶予を受けたまま、20%を超える面積を売る。猶予税額の全額と利子税が来ます。売る前に必ず税理士に確認してください。
    • 解除してから使い道を考える。行為制限が外れた時点で宅地並み課税のカウントが始まります。使い道を決めてから申出を出す順番にしてください。
    • 親が主たる従事者だったと決めつける。認定するのは農業委員会です。実際に耕していたのが別の家族なら、認められないことがあります。

    8. 動く順番

    1. 市町村の都市計画担当課で、告示日と申出基準日を確認する。特定生産緑地に指定済みかどうかも同時に聞きます。
    2. 農業委員会で、亡くなった人が「主たる従事者」に当たるかを確認する。買取り申出には証明が要ります。
    3. 納税猶予を受けているかどうかを、申告書と納税通知で確認する。受けているなら、動かす前に税理士へ。
    4. 続けるなら、申出基準日までに特定生産緑地の指定を受ける。ここに期限があります。
    5. やめるなら、使い道を決めてから買取り申出を出す。3か月後に行為制限が外れ、その時点から宅地並み課税です。

    よくある質問

    Q. 相続してすぐ売りたいのですが、生産緑地のまま売れますか?

    農地として売ることはできますが、宅地としては売れません。行為制限が外れていない土地は建物が建てられないので、買い手は農業をする人に限られます。宅地として売るなら、買取り申出をして3か月待ち、行為制限が外れてからになります(生産緑地法14条)。農地の売買には農業委員会の許可が別に必要な点にも注意してください。

    Q. 30年経っていないので何もできない、と言われました

    主たる従事者が亡くなっているなら、それは正確ではありません。生産緑地法10条1項は「告示から30年経過」と「主たる従事者の死亡・故障」の両方を買取り申出の事由にしています。国土交通省の手引きも「相続の発生等により、特定生産緑地指定中であってもいつでも買取り申出が可能」としています。窓口でこの点を確認してください。

    Q. 特定生産緑地に指定しないと、すぐ税金が上がりますか?

    すぐ満額にはなりません。初年度0.2、2年度0.4、3年度0.6、4年度0.8の軽減率が掛かり、5年目から本則になります。ただし上がること自体は避けられません。奈良市の試算例では、その条件で年825円が5年目に138,700円でした。

    Q. 指定しなければ、いま受けている納税猶予も打ち切られますか?

    打ち切られません。国土交通省の手引きは「現在納税猶予の適用を受けている者に限り猶予が継続されます」としています。影響が出るのは次の相続からです。次の相続人は納税猶予を受けられません。

    Q. 申出を出したら、市町村は買ってくれますか?

    実際に買い取られる例は多くありません。手続としては1か月以内に買うか買わないかの通知が来て、買わない場合は2か月のあっせんに進みます。国が引き取る制度とも別の仕組みです。買われることを前提に計画を立てないでください。

    Q. 相続税の申告期限までに間に合いますか?

    手続の長さだけを見れば間に合います。買取り申出から行為制限の解除まで3か月、相続税の申告期限は10か月です。ただし納税猶予を受けるかどうかの判断と、申出を出すかどうかの判断は連動します。そもそも相続税がかかるのかを先に確かめてから、順番を決めてください。

    まとめ

    • 主たる従事者の死亡は、30年を待たずに買取り申出ができる理由です(生産緑地法10条1項)。特定生産緑地に指定済みでも同じです。
    • 申出から3か月で行為制限が外れます(同法14条)。市町村が買うことはほとんどありません。
    • 外れた時点から宅地並み課税です。4年間の軽減率のあと本則になります。奈良市の試算例では825円→138,700円でした(前提条件つき)。
    • 特定生産緑地の指定は申出基準日まで。過ぎたら二度と指定できません(同法10条の2第2項)。
    • ★指定しない判断の代償を払うのは、自分ではなく子です。次の相続人は納税猶予を受けられなくなります。

    この記事で確認できなかったこと

    • 生産緑地法2条・3条・7条・8条の条文そのもの。国土交通省の資料が条番号つきで内容を示しているところまでは確認しました。逐語は確認していません。e-Gov法令検索は本文の取得に失敗し、衆議院の制定法律ページは文字化けして読めませんでした。
    • 買取り申出の可否通知が11条、あっせんが13条であることの根拠。「1か月以内の通知」「2か月のあっせん」という期間は複数の自治体資料で一致しましたが、条番号を明記した一次資料は見つかりませんでした。本文では条番号を書かず、期間だけを書いています。
    • 面積要件を条例で300㎡まで下げられる根拠条項。国土交通省の資料は「政令で規定」までしか書いていません。法3条2項なのか施行令3条なのかは特定できませんでした。
    • 「主たる従事者」の従事日数の具体的な基準。京都市の処理基準が生産緑地法施行規則2条を根拠に挙げていますが、何割以上といった数値は確認できませんでした。
    • 「故障」の法令上の定義。横浜市の運用説明(重度の障害、1年以上の入院等)は確認できましたが、法令・省令上の定義規定は見つかりませんでした。
    • 宅地並み課税の激変緩和措置(0.2→0.8)の地方税法上の条番号。軽減率の内容は農林水産省・国土交通省・自治体の資料で一致していますが、附則の条番号は特定できませんでした。
    • 租税特別措置法70条の6の条文そのもの、および打ち切り時の利子税の税率。財務省の資料で「猶予税額全額と利子税を納付」までは確認しましたが、税率は確認していません。
    • 特定生産緑地の指定率の地区数ベースの数字と、都道府県別の内訳。公表されているのは面積ベースのみでした。

    あわせて読みたい

  • 相続した実家に住宅ローンが残っていたら|団信で消えるのは借金だけ。抵当権の登記は自分で消します

    【PR】本ページはプロモーションを含みます。

    実家の登記事項証明書を取ったら、乙区に抵当権が残っていた。親は10年前に亡くなっている。団信で借金は消えたはずなのに、なぜ登記が残っているのか。

    答えは単純です。団体信用生命保険で消えるのは「借金」であって、「抵当権の登記」ではありません。登記は自動では消えません。自分で法務局に申請して消します。

    この記事は、実家に住宅ローンが残っていたときに何を確かめ、どの順番で手続きするのかを、民法・不動産登記法・登録免許税法・法務局の公表資料・国税庁の資料だけで組み立てます。相続税の債務控除で最も間違いやすい論点も含みます。

    結論だけ先に

    • ★団信で完済されても、抵当権の登記は残ります。抹消は共同申請(不動産登記法60条)で、金融機関から書類を受け取って自分で申請します。登録免許税は不動産1個につき1,000円(登録免許税法別表第一・一(十五))。
    • ★団信で消える住宅ローンは、相続税の債務控除にできません。国税庁の「誤りやすい事例」が、「被相続人の死亡により支払われる保険金によって補てんされることが確実であって、相続人が支払う必要のない債務ですので、相続税の課税価格の計算上、債務として差し引くことはできません」と明記しています。
    • 根抵当権は6か月が期限です(民法398条の8第4項)。相続開始後6か月以内に合意の登記をしないと、元本は相続開始の時に確定したものとみなされます。事業をしていた親の家は必ず確認してください。
    • ローンだけを放棄することはできません。民法896条が「一切の権利義務を承継する」と定め、939条が放棄した者は「初めから相続人とならなかったものとみなす」としています。放棄すれば実家も手に入りません。

    この記事は e-Gov法令検索の条文、法務局・法務省の公表資料、住宅金融支援機構(フラット35)の公式ページ、国税庁の資料、総務省統計局の家計調査だけで書いています。当サイトに司法書士・税理士・弁護士はいません。金融商品の助言もしません。最終確認日:2026年8月25日。

    1. 最初に確かめる3つ

    確かめること どこで 見るところ
    抵当権が付いているか 法務局(登記事項証明書) 乙区。抵当権者・債権額・登記の日付
    抵当権か、根抵当権か 同上 「抵当権設定」か「根抵当権設定」か。根抵当権なら6か月の期限があります
    団信に入っていたか 金融機関 借入時の契約書類、返済用口座の引落し履歴
    不動産登記法、民法398条の8から整理

    乙区に何も書かれていなければ、抵当権はもう抹消されています。「抵当権設定」の記載が残っていて下線が引かれていない場合は、まだ生きている登記です。

    2. 団信で完済されたら、残るのは登記だけ

    団信は「保険金で債務を弁済する」仕組みです。住宅金融支援機構の場合、独立行政法人住宅金融支援機構法13条1項12号が根拠で、「その者が死亡した場合に支払われる生命保険の保険金(略)を当該貸付けに係る債務の弁済に充当すること」と定めています。

    債務は弁済で消えます。しかし登記は残ります。法務局は次のように案内しています。

    抵当権の登記の抹消に必要な書類を金融機関等から受け取られた際には、紛失・汚損等しないようにして、できるだけ速やかに法務局(登記所)に登記申請されることをおすすめします。

    10年放置すると、手続きが重くなります

    金融機関から送られてくる書類(登記識別情報または登記済証、解除証書・弁済証書、委任状)を紛失していると、再発行の依頼から始まります。さらにその金融機関が合併・商号変更していれば、変更の経過が分かる登記事項証明書(履歴事項証明書・閉鎖事項証明書・閉鎖謄本等)が必要になります。放置している年数だけ、手間が増えます。

    3. 団信で消えるローンは、相続税の債務控除にできません

    ここが最も間違いやすい論点です。国税庁の「相続税の申告書作成時の誤りやすい事例集」に、そのままの事例が載っています。

    内容
    誤った例 団体信用生命保険契約により返済が免除される住宅ローン残高800万円を、第13表の債務の明細に記入した
    正しい取扱い 第13表には記入しない
    理由 「団体信用生命保険契約に基づき返済が免除される住宅ローンは、被相続人の死亡により支払われる保険金によって補てんされることが確実であって、相続人が支払う必要のない債務ですので、相続税の課税価格の計算上、債務として差し引くことはできません」
    出典:国税庁「相続税の申告書作成時の誤りやすい事例(申告書第13表関係)」

    条文の側から見ても筋は通っています。相続税法13条1項1号が控除できる債務を「被相続人の債務で相続開始の際現に存するもの」とし、14条1項が「前条の規定によりその金額を控除すべき債務は、確実と認められるものに限る」としています。団信で消えることが確実な債務は、相続人が負担する債務ではありません。

    東京国税局の文書回答事例も、団信で債務が免除される場合について「相続税の課税上は相続人によって承継される債務がないものとし、被保険者である顧客及びその相続人について所得税の課税関係は生じない」としています(※こちらは住宅の請負・売買代金債務に付保範囲を拡大した事例についての回答です)。

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    団信つきの実家を相続したときの申告を確認する

    団信で消える住宅ローンを債務控除に入れると、相続税を過少に申告することになります。国税庁が「誤りやすい事例」として第13表関係に挙げているほど、間違いが多い論点です。逆に、団信に入っていなかった場合は、その残債は債務控除の対象になり得ます。どちらなのかで課税価格が数百万円動くので、契約書類を持って確認してもらってください。ここは相続税を扱う税理士を紹介してもらう窓口で、紹介自体は無料です。

    ①申し込むと、30日以内に電話またはメールで確認の連絡が来ます。知らない番号でも出てください。ここで内容が確認できないと、税理士の紹介そのものが進みません。
    ②「税理士を紹介してほしい」と伝えるためのサービスです。税務相談そのものに答える窓口ではありません。
    ③過去1年以内にこのサービスを使ったことがある方は対象外です。ご家族が先に申し込んでいないか、確認してから使ってください。
    お住まいの地域の税理士会や、相続税を扱う近所の事務所にも1件あたって見比べてください。
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    相続税の申告期限は「知った日の翌日から10か月」です。抵当権抹消の書類を金融機関から取り寄せる時間も要るので、早めに動いてください。

    4. 団信に入っていなかった場合

    団信は必ず入るものではありません。フラット35の公式ページは、はっきりこう書いています。

    健康上の理由その他の事情で団体信用生命保険に加入されない場合も、【フラット35】をご利用いただけます。

    項目 新機構団信
    加入 任意(未加入でもフラット35は利用可能)
    申込可能年齢 告知日現在、満15歳以上満70歳未満
    加入要件 上記年齢+幹事生命保険会社の加入承諾があること
    金利 「加入する団体信用生命保険に応じて、【フラット35】の借入金利は異なります」
    プラン 新機構団信/新3大疾病付機構団信/ペア連生団信
    出典:住宅金融支援機構「新機構団信の加入要件・保障内容|【フラット35】」

    団信がなければ、ローンは相続されます

    民法の条文で言えるのはここまでです。

    • 民法896条「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。」
    • 民法899条「各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。」
    • 民法920条「相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。」

    ここは正直に書きます。「金銭債務は遺産分割の対象にならず、相続開始と同時に法定相続分どおりに当然分割される」という説明をよく見ますが、これを定めた明文の条文は見つけられませんでした。判例によるものと思われますが、当サイトでは一次情報を確認できていません。金融機関との交渉が必要になる場面なので、必ず専門家に相談してください。

    5. 抵当権抹消登記の実務

    不動産登記法60条です。

    権利に関する登記の申請は、法令に別段の定めがある場合を除き、登記権利者及び登記義務者が共同してしなければならない。

    抵当権抹消の場合、権利者=現在の所有者、義務者=抵当権者(金融機関等)です。金融機関が書類を出してくれないと申請できません。

    集める書類(すべて金融機関から送られてきます)

    書類 法務局の説明
    登記識別情報 または 登記済証 抵当権設定契約書に「登記済」の押印がされたもの。債務の完済後、抵当権者である金融機関等から送付されます
    登記原因証明情報 「解除証書」や「弁済証書」といった内容。日付や不動産の表示等の記載漏れがないか確認してください
    会社法人等番号 登記申請書の義務者欄に金融機関名と併せて記載。作成後3か月以内の登記事項証明書を添付する場合は記載不要
    代理権限証明情報(委任状) 債務の完済後、金融機関等から送付されます。日付等の記載漏れの確認を
    出典:法務局「抵当権の抹消の登記の申請に必要な書類とその入手先等」。作成する書類は登記申請書と委任状(代理人を立てる場合)です。

    登録免許税は不動産1個につき1,000円

    登録免許税法の別表第一・一(十五)です。

    登記事項 課税標準 税率
    登記の抹消(土地又は建物の表題部の登記の抹消を除く。) 不動産の個数 一個につき千円(同一の申請書により二十個を超える不動産について登記の抹消を受ける場合には、申請件数一件につき二万円)
    登録免許税法 別表第一・一(十五)。法務局の記載例解説は「20個以上の不動産について同一の申請書により抹消の登記をするときは、20,000円」と説明しています(ちょうど20個なら20個×1,000円で同額になります)。

    土地1筆と建物1棟なら2,000円です。司法書士に頼まず自分で申請することもできます。法務局は「抵当権抹消登記申請書」(様式3-1)と記載例を公表しています。

    金融機関が合併・商号変更しているとき

    法務局の記載例解説はこう説明しています。

    この記載が登記記録(登記事項証明書)に記録(記載)された内容と一致していない場合は、登記記録(登記事項証明書)上の住所及び名称から現在のものまでの変更の経過が分かる当該金融機関等の登記事項証明書(履歴事項証明書、閉鎖事項証明書、閉鎖謄本等)を添付します。

    6. 抵当権者が見つからない・解散しているとき

    明治・大正の抵当権が残っている実家もあります。不動産登記法70条・70条の2が、単独で抹消できる場合を定めています。

    状況 できること 条文
    抵当権者の所在が知れない 公示催告の申立て → 除権決定があれば単独で抹消申請 不登70条1項・3項
    被担保債権が消滅したことを証する情報がある 単独で抹消申請 不登70条4項前段
    弁済期から20年経過+全額を供託 単独で抹消申請 不登70条4項後段
    抵当権者が解散した法人で、清算人の所在が判明しない 弁済期から30年かつ解散から30年経過で単独で抹消申請 不登70条の2
    不動産登記法70条・70条の2

    7. 根抵当権は6か月が期限です

    事業をしていた親の家には、抵当権ではなく根抵当権が付いていることがあります。これは別物です。

    民法398条の8です。

    第2項 元本の確定前にその債務者について相続が開始したときは、根抵当権は、相続開始の時に存する債務のほか、根抵当権者と根抵当権設定者との合意により定めた相続人が相続の開始後に負担する債務を担保する。
    第4項 第一項及び第二項の合意について相続の開始後六箇月以内に登記をしないときは、担保すべき元本は、相続開始の時に確定したものとみなす。

    6か月を過ぎると、さかのぼって確定します

    「6か月経過時に確定する」ではありません。「相続開始の時に確定したものとみなす」です。事業を引き継いで融資枠を使い続けたいなら、相続開始後6か月以内に合意の登記まで済ませる必要があります。逆に、事業をたたむのであれば、放っておけば確定します。

    なお、民法398条の20が定める元本の確定事由の列挙に「相続」は入っていません。相続による確定は398条の8第4項の「みなし確定」によるものです。

    根抵当権を抹消する場合の申請書は、法務局が「根抵当権抹消登記申請書」(様式3-2)として別に公表しています。

    8. 売るとき

    抵当権が付いたままでも所有権は移せます。ただ、買う人がいません

    民法は「抵当不動産の第三取得者」を前提にした制度をわざわざ置いています。代価弁済(378条)と抵当権消滅請求(379条)です。つまり、抵当権が残ったまま所有権が移ることは法律上あり得ます。

    ただし買主は、その抵当権が実行されれば家を失います。実務では、決済の場で残債を返済して同時に抵当権を抹消する形になります。

    残債のほうが売却価格より大きいとき

    抵当権抹消は共同申請です(不動産登記法60条)。金融機関が登記原因証明情報と委任状を出さない限り、登記は消せません。法務局の資料もこれらの書類を「債務の完済後、抵当権者である金融機関等から送付されます」と説明しています。

    完済に届かない金額で抹消してもらうには、抵当権者の同意が要ります。単独で申請できるのは不動産登記法70条・70条の2の場合に限られます。

    9. ローンだけを放棄することはできません

    条文 内容
    民法896条 相続人は「被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」
    民法920条 単純承認をすると「無限に被相続人の権利義務を承継する」
    民法939条 相続の放棄をした者は「初めから相続人とならなかったものとみなす」
    民法915条1項 承認・放棄の期限は「自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内」
    民法896条・915条・920条・939条

    承継の単位は「一切の権利義務」です。個別の債務だけを切り離して放棄する規定は、民法にありません。放棄すれば実家も手に入りません。

    債務が財産を上回るかどうか分からないときの選択肢が限定承認ですが、こちらは相続人全員の同意と、含み益のある実家に発生するみなし譲渡所得税という壁があります。

    10. 数字で見る——高齢期の住宅ローン

    世帯主の年齢 負債現在高 うち住宅・土地のための負債 負債保有世帯の割合
    60〜69歳 270万円 227万円 29.2%
    70歳以上 56万円 44万円 10.6%
    出典:総務省統計局「家計調査報告(貯蓄・負債編)2024年(令和6年)平均結果(二人以上の世帯)」表Ⅲ-1-1

    60代の世帯の約3割が負債を抱えており、その大半が住宅・土地のためのものです。

    そして住宅金融支援機構の「2024年度フラット35利用者調査」によると、利用者の平均年齢は44.5歳で、2017年度以降上昇傾向が続いています。返済が終わる前に相続が起きるケースは、これから増えます。

    残債と売却価格を、先に並べる

    団信がなかった場合、判断に必要なのは2つの数字だけです。

    1. 残債の額——金融機関に残高証明書を出してもらいます
    2. 実家がいくらで売れるか——これが残債を上回れば、売って完済するという選択肢が残ります

    熟慮期間は3か月です(民法915条1項)。この2つの数字が出るまでは、承認するか放棄するかを決められません。

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    残債と突き合わせるために、実家の価格を出す

    団信がなかった場合、判断に必要なのは「残債の額」と「実家がいくらで売れるか」の2つだけです。売却価格が残債を上回れば、売って完済するという道が残ります。下回るなら、抵当権の抹消に債権者の同意が要ります(不動産登記法60条)。そして熟慮期間は3か月です(民法915条1項)。ラクウルは訳あり物件・空き家・共有持分などを全国で買い取っている会社で、自社買取なので仲介手数料はかかりません。

    ①買取価格は、仲介で売れる価格より低くなります。査定額は、売れる価格ではありません。
    ②匿名のAI査定では成果になりません。同社は個人情報の入力が不要な匿名査定も出していますが、実際の金額を知るには連絡先を入れて申し込み、電話かメールでのヒアリングを受ける必要があります。「桁を確かめるだけ」なら匿名査定で足ります。
    ③1世帯で2回以上の申込は無効になります。ご家族が先に申し込んでいないか確認してください。
    ④売却を目的としない問い合わせは対象外です。相場を知りたいだけ、という使い方は想定されていません。
    ⑤運営は株式会社ネクサスプロパティマネジメント(宅地建物取引業免許 国土交通大臣(1)第10311号)。必ず他社の査定と並べて見比べてください。
    ⑥このリンク経由の申込で当サイトは広告収入を受け取りますが、それによってあなたの査定額が下がることはありません。

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    よくある質問

    Q. 団信で完済されたのに、なぜ抵当権が残っているのですか?

    登記は自動では消えないからです。抵当権抹消は共同申請(不動産登記法60条)で、所有者が金融機関から書類を受け取って法務局に申請します。法務局も「必要な書類を金融機関等から受け取られた際には、できるだけ速やかに登記申請されることをおすすめします」と案内しています。

    Q. 抵当権抹消の登録免許税はいくらですか?

    不動産1個につき1,000円です(登録免許税法別表第一・一(十五))。土地1筆と建物1棟なら2,000円。同一の申請書で20個を超える不動産について抹消を受ける場合は、申請件数1件につき2万円が上限になります。

    Q. 団信で消えた住宅ローンを、相続税の債務控除にできますか?

    できません。国税庁の「誤りやすい事例」が、「被相続人の死亡により支払われる保険金によって補てんされることが確実であって、相続人が支払う必要のない債務ですので、相続税の課税価格の計算上、債務として差し引くことはできません」と明記しています。相続税法14条1項も、控除できる債務を「確実と認められるものに限る」としています。

    Q. 団信に入っていない住宅ローンはどうなりますか?

    相続人が承継します。民法896条が「一切の権利義務を承継する」、899条が「その相続分に応じて」承継すると定めています。ただし「金銭債務は当然に法定相続分どおり分割される」という説明の明文の根拠は、当サイトでは確認できませんでした。金融機関との交渉が必要になるので、専門家に相談してください。

    Q. フラット35は団信への加入が必須ですか?

    任意です。住宅金融支援機構は「健康上の理由その他の事情で団体信用生命保険に加入されない場合も、【フラット35】をご利用いただけます」と明記しています。申込可能年齢は告知日現在で満15歳以上満70歳未満、加入には幹事生命保険会社の承諾が必要です。

    Q. 抵当権者の金融機関が合併しています。

    変更の経過が分かる登記事項証明書を添付します。法務局は「登記記録上の住所及び名称から現在のものまでの変更の経過が分かる当該金融機関等の登記事項証明書(履歴事項証明書、閉鎖事項証明書、閉鎖謄本等)を添付します」と説明しています。放置期間が長いほど、たどる回数が増えます。

    Q. 明治時代の抵当権が残っています。抵当権者はもういません。

    単独で抹消できる場合があります。不動産登記法70条は、①所在不明なら公示催告と除権決定を経て単独申請、②被担保債権の消滅を証する情報があれば単独申請、③弁済期から20年経過し全額を供託すれば単独申請、と定めています。抵当権者が解散した法人で清算人の所在が判明しない場合は、弁済期から30年かつ解散から30年で単独申請できます。(不動産登記法70条の2)

    Q. 根抵当権と抵当権は何が違いますか?

    期限の有無が決定的に違います。民法398条の8第4項が、相続開始後の債務も担保させるための合意について「相続の開始後六箇月以内に登記をしないときは、担保すべき元本は、相続開始の時に確定したものとみなす」と定めています。「6か月経過時」ではなく「相続開始の時に」さかのぼって確定します。事業をしていた親の家では必ず確認してください。

    Q. 抵当権が付いたままでも売れますか?

    法律上は所有権を移せます。民法378条(代価弁済)・379条(抵当権消滅請求)が「抵当不動産の第三取得者」を前提にした制度を置いていることが、その証拠です。ただし買主は抵当権が実行されれば家を失うので、実務では決済時に残債を返済して同時に抹消します。

    Q. 残債のほうが売却価格より大きいときは?

    抵当権者の同意が必要になります。抹消は共同申請(不動産登記法60条)で、法務局の資料も登記原因証明情報や委任状を「債務の完済後、抵当権者である金融機関等から送付されます」としています。単独で申請できるのは不動産登記法70条・70条の2の場合に限られます。

    Q. 実家はいらないので、ローンだけ放棄できますか?

    できません。民法896条が「一切の権利義務を承継する」と定め、939条が放棄した者を「初めから相続人とならなかったものとみなす」としています。個別の債務だけを切り離す規定は民法にありません。放棄すれば実家も手に入りません。期限は知った時から3か月です(915条1項)。

    この記事で確認できなかったこと

    • 「金銭債務は遺産分割の対象にならず、相続開始と同時に法定相続分に応じて当然分割承継される」ことの明文の根拠。民法896条・899条・427条からは「相続分に応じた承継」までしか読めませんでした。判例によるものと思われますが、一次情報を確認していません。
    • 遺産分割協議で債務の負担者を決めても債権者に対抗できない、という明文規定。確認できませんでした。
    • 担保物権の付従性(債務が消えれば抵当権も消える)を定めた民法の一般規定。396条・397条は消滅時効の規定で、付従性そのものの明文ではありません。
    • 所有権の登記名義人が被相続人のままでも抵当権抹消登記ができるかどうか。法務局・法務省の公表資料に明示を確認できませんでした。不動産登記法62条が「相続その他の一般承継があったときは、相続人その他の一般承継人は、当該権利に関する登記を申請することができる」と定めているのが手がかりです。順番は法務局の登記手続案内(無料・予約制)か司法書士に確認してください。
    • 団信に加入しない場合のフラット35の金利の引下げ幅。公式ページは「加入する団体信用生命保険に応じて借入金利は異なります」としか書いていません。
    • 抵当権抹消登記の年間件数。法務省の登記統計に「登記の抹消」という分類があることまでは確認しましたが、抵当権に限った内訳と数値は取れませんでした。
    • 抵当権者に「合併」があった場合の取扱いを、その語で明示した資料。確認できたのは「住所及び名称の変更の経過が分かる登記事項証明書」の要求までです。

    まとめ

    1. ★団信で消えるのは借金であって、抵当権の登記ではありません。抹消は共同申請(不動産登記法60条)で、自分で法務局に申請します。
    2. 登録免許税は不動産1個につき1,000円(登録免許税法別表第一・一(十五))。土地1筆と建物1棟なら2,000円です。
    3. ★団信で消える住宅ローンは相続税の債務控除にできません。国税庁が「相続人が支払う必要のない債務ですので、債務として差し引くことはできません」と明記しています。
    4. 団信は任意です。住宅金融支援機構は「健康上の理由その他の事情で加入されない場合も【フラット35】をご利用いただけます」としています。
    5. 団信がなければ、ローンは相続人が承継します(民法896条・899条・920条)。ただし当然分割の明文の根拠は確認できませんでした。
    6. 金融機関が合併・商号変更していれば、変更の経過が分かる登記事項証明書が要ります。放置年数だけ手間が増えます。
    7. 抵当権者が見つからないときは、不動産登記法70条・70条の2で単独申請できる場合があります(弁済期から20年+供託/解散法人なら30年)。
    8. ★根抵当権は相続開始後6か月です(民法398条の8第4項)。「6か月経過時」ではなく「相続開始の時に」さかのぼって元本が確定します。
    9. 抵当権が付いたままでも所有権は移せますが(民法378条・379条)、実務では決済時に完済して同時に抹消します。残債が売却価格を上回るときは抵当権者の同意が必要です。
    10. ローンだけの放棄はできません(民法896条・939条)。3か月の熟慮期間のうちに、残債と実家の価格という2つの数字を揃えてください。

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  • 実家を生前贈与すると、税金は減るどころか増えることがあります|登録免許税5倍・不動産取得税・2024年の7年ルール

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    「相続でもめる前に、実家は生前に渡しておこう」。その判断で、税金が減るどころか確実に増えることがあります。

    理由は単純で、生前贈与にだけかかる税金が2つあるからです。登録免許税は相続の5倍、不動産取得税は相続なら非課税なのに贈与だと課税されます。評価額2,500万円の実家なら、この2つだけで約95万円。相続なら約10万円です。

    そのうえ2024年(令和6年)1月1日から、暦年課税の生前贈与加算が3年から7年に延びました。この記事は、実家という「不動産」を生前に渡すべきかどうかを、条文と国税庁の公表資料だけで組み立てます。

    結論だけ先に

    • ★まず相続税がかかるかどうかを確かめてください。基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人の数(相続税法15条1項)。ここに届かないなら、減らす相続税がそもそもありません。それでも贈与すれば登録免許税と不動産取得税は確実に発生します。
    • ★登録免許税は相続0.4%、贈与2%=5倍。不動産取得税は相続なら非課税(地方税法73条の7第1号)ですが、贈与は課税されます。
    • 暦年課税の加算は7年になりました(相続税法19条)。ただし完全に7年になるのは令和13年1月1日以後に開始する相続からです(国税庁タックスアンサーNo.4161の表)。延長された4年分は合計100万円が控除されます。
    • ★相続時精算課税で贈与した土地には、小規模宅地等の特例が使えません。租税特別措置法69条の4第1項の対象が「個人が相続又は遺贈により取得した財産」だからです。330㎡・80%減額を失う影響は、贈与税の節税額より大きくなることがあります。

    この記事は e-Gov法令検索の条文、国税庁のタックスアンサー、財務省・国土交通省・法務局の公表資料だけで書いています。当サイトに税理士はいません。実際の税額は必ず税理士に確認してください。最終確認日:2026年8月25日。

    1. その実家、そもそも相続税がかかりますか

    相続税法15条1項です。

    相続税の総額を計算する場合においては、(略)相続税の課税価格の合計額から、三千万円と六百万円に当該被相続人の相続人の数を乗じて算出した金額との合計額(以下「遺産に係る基礎控除額」という。)を控除する。

    法定相続人の数 基礎控除額
    1人 3,600万円
    2人 4,200万円
    3人 4,800万円
    4人 5,400万円
    相続税法15条1項から算出

    ここを飛ばさないでください

    遺産の総額が基礎控除以下なら、相続税は1円もかかりません。それでも生前贈与をすれば、登録免許税と不動産取得税だけが確実に発生します。「相続税対策」として実家を贈与する前に、そもそも相続税がかかる規模なのかを確かめてください。これは実家の評価額が分からないと判断できません。

    まず、相続税がかかるか確かめます 法定相続人 1人 3,600万円 法定相続人 2人 4,200万円 法定相続人 3人 4,800万円 法定相続人 4人 5,400万円 3,000万円+600万円×法定相続人の数

    2. 生前贈与にだけかかる2つの税

    ① 登録免許税は5倍になります

    登録免許税法の別表第一・一(不動産の登記)です。

    所有権の移転の登記 課税標準 税率
    相続又は法人の合併による移転 不動産の価額 1000分の4
    その他の原因による移転(贈与を含む) 不動産の価額 1000分の20
    登録免許税法 別表第一・一。法務局「登録免許税の計算」も「相続は1000分の4」「贈与や財産分与などその他の原因は1000分の20」としています。課税標準は固定資産課税台帳の価格です。

    ② 不動産取得税は、相続なら非課税です

    地方税法73条の7です。

    道府県は、次に掲げる不動産の取得に対しては、不動産取得税を課することができない。
    一 相続(包括遺贈及び被相続人から相続人に対してなされた遺贈を含む。)による不動産の取得

    この列挙に「贈与」は入っていません。不動産取得税は「不動産の取得」に対して課される税なので(同法73条の2第1項)、贈与も課税されます。標準税率は100分の4(同法73条の15)ですが、住宅と土地には3%の特例があり、宅地には課税標準を価格の2分の1にする特例があります(地方税法附則。国土交通省は特例の期限を令和9年3月31日までとしています)。

    実際にいくら違うのか

    固定資産税評価額が土地2,000万円・家屋500万円の実家を、子に渡す場合で並べます。

    項目 相続で渡す 生前贈与で渡す
    登録免許税 2,500万円 × 0.4%=10万円 2,500万円 × 2%=50万円
    不動産取得税(土地) 非課税 2,000万円 × 2分の1 × 3%=30万円
    不動産取得税(家屋) 非課税 500万円 × 3%=15万円
    合計 10万円 95万円
    登録免許税法別表第一、地方税法73条の7・73条の15・附則、国土交通省「土地の取得に係る税制の概要」から単純計算。中古住宅の課税標準控除など個別の軽減は考慮していません。実額は都道府県税事務所に確認してください。

    贈与税がゼロでも、この85万円の差は必ず出ます。相続税の節税額がこれを上回らなければ、生前贈与は損です。

    生前贈与にだけ、85万円かかります 85万円 税額の差 相続で渡す 10万円 生前贈与で渡す 95万円 土地2,000万円・家屋500万円の実家の場合

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    この判断は、①相続税がかかる規模か ②小規模宅地等の特例が使えるか ③登録免許税と不動産取得税がいくらか、の3つを同時に出さないと決まりません。特に②は影響が大きく、330㎡・80%減額を贈与で失うと、贈与税の節税額を上回ることがあります。そして相続時精算課税は撤回できません(相続税法21条の9第6項)。やり直しがきかない選択なので、届出書を出す前に試算してもらってください。ここは相続税を扱う税理士を紹介してもらう窓口で、紹介自体は無料です。

    ①申し込むと、30日以内に電話またはメールで確認の連絡が来ます。知らない番号でも出てください。ここで内容が確認できないと、税理士の紹介そのものが進みません。
    ②「税理士を紹介してほしい」と伝えるためのサービスです。税務相談そのものに答える窓口ではありません。
    ③過去1年以内にこのサービスを使ったことがある方は対象外です。ご家族が先に申し込んでいないか、確認してから使ってください。
    お住まいの地域の税理士会や、相続税を扱う近所の事務所にも1件あたって見比べてください。
    それによって紹介料や税理士報酬が変わることはありません(紹介自体は無料です)。

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    婚姻20年以上の配偶者への居住用不動産の贈与(2,000万円の配偶者控除)が使えるかどうかも、同時に確認してください。7年加算の対象外になる数少ないケースです。

    3. 2024年改正① 暦年課税の加算が7年になりました

    相続税法19条1項の見出しが「相続開始前七年以内に贈与があつた場合の相続税額」に変わりました。

    相続又は遺贈により財産を取得した者が当該相続の開始前七年以内に当該相続に係る被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合においては、(略)加算対象贈与財産(加算対象贈与財産のうち当該相続の開始前三年以内に取得した財産以外の財産にあつては、当該財産の価額の合計額から百万円を控除した残額)を相続税の課税価格に加算した価額を相続税の課税価格とみなし(略)

    ただし、いきなり7年になるわけではありません。国税庁のタックスアンサーNo.4161に、相続開始日ごとの表が載っています。

    被相続人の相続開始日 加算対象期間
    〜令和8年12月31日 相続開始前3年以内
    令和9年1月1日〜令和12年12月31日 令和6年1月1日から死亡の日までの間
    令和13年1月1日〜 相続開始前7年以内
    出典:国税庁タックスアンサー No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)[令和7年4月1日現在法令等]。根拠法令等に「令5改正法附則19」と明記されています。
    7年になるのは、令和13年からです 〜令和8年12月31日 相続開始前3年以内 令和9年〜令和12年 令和6年1月1日から死亡の日まで 令和13年1月1日〜 相続開始前7年以内

    100万円の控除にも条件があります。国税庁は「相続開始の日が令和9年1月2日以後の場合には、加算対象期間内に取得した財産のうち相続開始前3年以内に取得した財産以外の財産については、その財産の贈与時の価額の合計額から総額100万円までは相続税の課税価格に加算されません」としています。

    基礎控除110万円以下でも加算されます

    国税庁は「加算対象期間内に贈与されたものであれば贈与税がかかったかどうかに関係なく加算します。したがって、基礎控除額110万円以下の贈与財産や死亡した年に贈与されている財産の価額も加算することになります」としています。

    加算されない贈与もあります

    国税庁が挙げているのは次の4つです。

    • 贈与税の配偶者控除の適用を受けている(受けようとする)財産のうち、その配偶者控除額に相当する金額
    • 直系尊属から贈与を受けた住宅取得等資金のうち、非課税の適用を受けた金額
    • 直系尊属から一括贈与を受けた教育資金のうち、非課税の適用を受けた金額
    • 直系尊属から一括贈与を受けた結婚・子育て資金のうち、非課税の適用を受けた金額

    実家という不動産そのものに使えるのは、このうち「贈与税の配偶者控除」だけです。

    4. 2024年改正② 相続時精算課税に年110万円の基礎控除

    ここは条文の建て付けが二段になっているので、正確に書きます。

    相続税法21条の11の2第1項は、こう定めています。

    相続時精算課税適用者がその年中において特定贈与者からの贈与により取得した財産に係るその年分の贈与税については、贈与税の課税価格から六十万円を控除する。

    相続税法本体は「六十万円」です。110万円にしているのは租税特別措置法70条の3の2です。

    令和六年一月一日以後に相続税法第二十一条の九第五項に規定する相続時精算課税適用者が(略)取得した財産に係るその年分の贈与税については、同法第二十一条の十一の二第一項の規定にかかわらず、贈与税の課税価格から百十万円を控除する。

    この110万円は相続財産に加算されません

    相続税法21条の15第1項が、加算する額を「価額から第二十一条の十一の二第一項の規定による控除をした残額」としています。21条の16第3項2号も同じ書き方です。

    暦年課税の110万円 相続時精算課税の110万円
    根拠 相続税法21条の5+租税特別措置法70条の2の4 相続税法21条の11の2+租税特別措置法70条の3の2
    いつから 従来から 令和6年1月1日以後の贈与
    相続財産への加算 加算される(加算対象期間内なら110万円以下でも) 加算されない(21条の15①・21条の16③二)
    相続税法19条・21条の11の2・21条の15・21条の16、租税特別措置法70条の3の2、国税庁タックスアンサーNo.4161から作成

    同じ「110万円」でも、扱いが正反対です。

    5. 相続時精算課税の落とし穴

    ① 一度選ぶと撤回できません

    相続税法21条の9第6項は「相続時精算課税適用者は、第二項の届出書を撤回することができない」と定めています。その贈与者からの贈与は、以後ずっと相続時精算課税になります。暦年課税に戻せません。

    ② 対象者の条文は2本立てです

    誰から誰へ 根拠条文 年齢要件
    推定相続人である直系卑属(子など)へ 相続税法21条の9第1項 贈与者60歳以上/受贈者18歳以上(いずれもその年1月1日)
    孫へ 租税特別措置法70条の2の6 同上
    相続税法21条の9、租税特別措置法70条の2の6。「相続税法21条の9で孫も対象」と書くと不正確です。

    ③ 2,500万円の特別控除は期限内申告が要件です

    相続税法21条の12第1項が特別控除2,500万円(累積枠)を定め、同条2項が「前項の規定は、期限内申告書に(略)記載がある場合に限り、適用する」としています。控除の順番は①110万円の基礎控除 → ②2,500万円の特別控除です。

    ④ 小規模宅地等の特例が使えなくなります

    租税特別措置法69条の4第1項の書き出しはこうです。

    個人が相続又は遺贈により取得した財産のうちに、当該相続の開始の直前において(略)

    対象は「相続又は遺贈により取得した財産」。贈与で取得した財産は、条文の文言に入っていません。

    相続時精算課税で贈与した宅地は、相続税の課税価格には加算されます(21条の15・21条の16)が、それは「相続又は遺贈により取得した財産」だからではありません。したがって特定居住用宅地等の330㎡・80%減額は使えません。

    ここで逆転することがあります

    評価額3,000万円・面積200㎡の実家に小規模宅地等の特例が使えるなら、相続税の課税価格は600万円まで下がります。相続時精算課税で先に贈与すると、3,000万円がそのまま加算されます。差は2,400万円。贈与税を先送りしただけで、相続税の課税価格が増えることになります。特例が使えるかどうかは、同居していたか・持ち家がないかなどの要件で決まります。贈与を決める前に必ず確認してください。

    精算課税は、戻せません 一度選ぶと 暦年課税には戻せません 取り消せない 2,500万円の特別控除 期限内申告書への記載が要件 申告が条件 小規模宅地等の特例 「相続又は遺贈により取得」でない 使えません 年110万円の基礎控除 措法70条の3の2。加算されません 効きます 特例を失う影響が、節税額を上回ることがあります

    6. 例外的に効くケース——婚姻20年以上の配偶者へ

    相続税法21条の6(贈与税の配偶者控除)です。

    項目 内容
    控除額 2,000万円
    贈与者 婚姻期間が20年以上である配偶者
    対象 専ら居住の用に供する土地・土地の上に存する権利・家屋、または金銭
    居住要件 取得の日の属する年の翌年3月15日までに居住の用に供し、その後も引き続き居住する見込みであること
    回数 同一の配偶者からは一生に一度
    手続 申告書等に記載と書類の添付があること(同条2項)
    相続税法21条の6

    これが効く理由は2つあります。

    • 7年加算の対象外です。相続税法19条2項が、配偶者控除の適用を受けた部分を「特定贈与財産」として加算対象から外しています。亡くなる直前の贈与でも足し戻されません。
    • 民法903条4項が、持戻し免除の意思表示を推定します。「婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第一項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する」。遺産分割で「もうもらっているでしょう」と言われずに済みます。

    ただし、登録免許税2%と不動産取得税は、この場合もかかります。

    7. 「住宅取得等資金の非課税」は実家には使えません

    混同されやすいので明示しておきます。租税特別措置法70条の2の見出しは「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税」です。

    令和六年一月一日から令和八年十二月三十一日までの間にその直系尊属からの贈与により住宅取得等資金の取得をした特定受贈者が、次に掲げる場合に該当するときは、当該贈与により取得をした住宅取得等資金のうち住宅資金非課税限度額までの金額については、贈与税の課税価格に算入しない。

    対象は「住宅取得等資金」=お金です。実家という建物・土地そのものの贈与には使えません。非課税限度額は、一定の要件を満たす住宅用家屋で1,000万円、その他の住宅用家屋で500万円です。

    8. 遺留分・特別受益は、税とは別の時計で動きます

    制度 期間 対象 条文
    相続税の生前贈与加算 最長7年 暦年課税の贈与すべて(110万円以下も) 相続税法19条
    遺留分の算定 相続人への贈与は10年 婚姻・養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与に限る 民法1044条3項
    特別受益の持戻し(遺産分割) 条文上の期間制限なし 同上 民法903条1項
    10年経過後の遺産分割 相続開始から10年で特別受益・寄与分を主張できなくなる — 民法904条の3
    相続税法19条、民法903条・904条の3・1044条から作成

    「7年より前だから相続税に関係ない」贈与でも、遺留分では10年分が足し戻されます。実家の生前贈与は、典型的に「生計の資本としての贈与」に当たりうるものです。税だけを見て決めると、あとで兄弟から遺留分侵害額を請求されます。

    9. 贈与税の税率

    基礎控除後の課税価格 一般税率(相続税法21条の7) 特例税率(措置法70条の2の5)
    200万円以下 10% 10%
    300万円以下 15% 15%
    400万円以下 20% 15%
    600万円以下 30% 20%
    1,000万円以下 40% 30%
    1,500万円以下 45% 40%
    3,000万円以下 50% 45%
    4,500万円以下 55% 50%
    4,500万円超 55% 55%
    相続税法21条の7、租税特別措置法70条の2の5。特例税率は直系尊属からの贈与で、受贈者がその年1月1日において18歳以上の場合に使えます。配偶者間の贈与や受贈者が18歳未満の場合は一般税率です。

    実家を丸ごと暦年課税で贈与すれば、たいてい最高税率の帯に届きます。2,000万円の土地を子に贈与すると、特例税率でも課税価格1,890万円に対して45%の帯に入ります。ここを避けるために相続時精算課税を選ぶと、今度は小規模宅地等の特例を失います。

    10. 結局、どう判断するのか

    順番はこうなります。

    1. 遺産の総額を出し、基礎控除(3,000万円+600万円×人数)と比べる。届かないなら、生前贈与で減らす相続税は存在しません。
    2. 実家に小規模宅地等の特例が使えるかを確かめる。使えるなら、贈与でその枠を捨てる損のほうが大きくなりがちです。
    3. 登録免許税2%と不動産取得税を、節税額と比べる。評価額2,500万円なら差は約85万円です。
    4. 婚姻20年以上の配偶者へなら、2,000万円の配偶者控除が効きます(7年加算の対象外)。
    5. 遺留分の10年も見る。税で有利でも、兄弟から請求されれば結局お金を払います。

    1と2と3は、実家の評価額が分からないと計算できません。固定資産税の課税明細書にある「価格(評価額)」と、路線価による相続税評価額と、実際に売れる価格は、それぞれ別の数字です。

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    固定資産税の課税明細書に載っている「価格」、路線価による相続税評価額、実際に売れる金額は、それぞれ別の数字です。登録免許税と不動産取得税は固定資産税評価額で計算しますが、「基礎控除に届く規模なのか」を考えるときに要るのは相続税評価額と実勢価格です。まず実際にいくらで動く物件なのかを押さえると、贈与すべきかどうかの見当がつきます。ラクウルは訳あり物件・空き家・共有持分などを全国で買い取っている会社で、自社買取なので仲介手数料はかかりません。

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    よくある質問

    Q. 実家を生前贈与すれば相続税は減りますか?

    減るとは限りません。暦年課税なら加算対象期間内の贈与は相続税の課税価格に足し戻されます(相続税法19条)。相続時精算課税なら贈与時の価額がそのまま加算されます(21条の15)。そのうえ登録免許税2%と不動産取得税が確実に発生します。まず基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)に届く規模かどうかを確かめてください。

    Q. 登録免許税はどれくらい違いますか?

    相続が1000分の4、贈与が1000分の20で、5倍です(登録免許税法別表第一・一)。課税標準は固定資産課税台帳の価格なので、評価額2,500万円なら10万円と50万円の差になります。

    Q. 不動産取得税は相続でもかかりますか?

    相続はかかりません。地方税法73条の7第1号が「相続(包括遺贈及び被相続人から相続人に対してなされた遺贈を含む。)による不動産の取得」を非課税と定めています。この列挙に贈与は入っていないので、贈与は課税されます。標準税率は4%ですが、住宅・土地には3%の特例、宅地には課税標準2分の1の特例があります(国土交通省は令和9年3月31日までとしています)。

    Q. 生前贈与加算はいつから7年になりますか?

    相続開始日で決まります。国税庁のタックスアンサーNo.4161によると、令和8年12月31日までの相続は3年以内、令和9年1月1日〜令和12年12月31日の相続は令和6年1月1日から死亡の日までの間、令和13年1月1日以後の相続で相続開始前7年以内になります。延長された分は総額100万円が控除されます(相続開始が令和9年1月2日以後の場合)。

    Q. 年110万円以下の贈与なら相続税に関係ありませんか?

    暦年課税なら関係あります。国税庁は「加算対象期間内に贈与されたものであれば贈与税がかかったかどうかに関係なく加算します。したがって、基礎控除額110万円以下の贈与財産や死亡した年に贈与されている財産の価額も加算することになります」としています。一方、相続時精算課税の110万円は加算されません(相続税法21条の15第1項・21条の16第3項2号)。

    Q. 相続時精算課税の110万円は何が根拠ですか?

    相続税法21条の11の2は「六十万円」です。110万円にしているのは租税特別措置法70条の3の2(令和6年1月1日以後の贈与について「百十万円を控除する」)。同条2項が「相続税法第二十一条の十一の二第一項の規定により控除されたものとみなす」としているので、加算されない扱いもそのまま乗ります。

    Q. 相続時精算課税は途中でやめられますか?

    やめられません。相続税法21条の9第6項が「相続時精算課税適用者は、第二項の届出書を撤回することができない」と定めています。その贈与者からの贈与は、以後ずっと相続時精算課税になります。

    Q. 相続時精算課税で贈与した実家に、小規模宅地等の特例は使えますか?

    使えません。租税特別措置法69条の4第1項の対象は「個人が相続又は遺贈により取得した財産」で、贈与により取得した財産は文言に含まれていません。特定居住用宅地等の330㎡・80%減額を失う影響は、贈与税の節税額を上回ることがあります。贈与を決める前に、特例の要件を満たすかどうかを必ず確認してください。

    Q. 妻に自宅を贈与したいのですが。

    婚姻期間20年以上なら、贈与税の配偶者控除が2,000万円あります(相続税法21条の6)。しかもこの控除を受けた部分は「特定贈与財産」として7年加算の対象外です(同法19条2項)。民法903条4項も、婚姻20年以上の夫婦間の居住用不動産の贈与について持戻し免除の意思表示を推定します。ただし登録免許税2%と不動産取得税はかかります。同一の配偶者からは一生に一度です。

    Q. 「住宅取得等資金の非課税」で実家をもらえますか?

    使えません。租税特別措置法70条の2の対象は「住宅取得等資金」=お金です。親が現金を出して子が家を買うケースの制度で、実家という不動産そのものの贈与には使えません。非課税限度額は一定の要件を満たす住宅用家屋で1,000万円、その他で500万円、期間は令和6年1月1日から令和8年12月31日までです。

    Q. 生前贈与しておけば、兄弟から文句を言われませんか?

    言われます。民法1044条3項により、相続人に対する贈与は相続開始前10年間のもの(婚姻・養子縁組のため又は生計の資本として受けたものに限る)が遺留分算定の基礎に足し戻されます。実家の贈与は典型的にこれに当たりえます。相続税の7年とは別の時計です。

    この記事で確認できなかったこと

    • 改正法(令和5年法律第3号)附則19条の条文そのもの。国税庁のタックスアンサーNo.4161が根拠法令等に「令5改正法附則19」と明記し、相続開始日ごとの加算対象期間の表を掲げているところまでは確認しました。附則の逐語は確認していません。
    • 不動産取得税の3%特例(住宅・土地)の条番号と条文本文。地方税法附則に「住宅の取得及び土地の取得に対する不動産取得税の税率の特例」という見出しの条が存在することは確認しましたが、条番号と「百分の三」の文言は取れませんでした。3%と令和9年3月31日という内容は国土交通省の公表資料で確認しています。
    • 租税特別措置法69条の4の減額割合(80%・50%)を定める項番号の特定。第1項の「相続又は遺贈により取得した財産」という限定と限度面積330㎡は条文で確認しました。
    • 暦年課税の基礎控除110万円の根拠条文(租税特別措置法70条の2の4)の本文。相続税法21条の5が「六十万円」で、110万円は措置法によるという二本立ての構造は相続時精算課税と同じですが、条文本文は未確認です。
    • 相続時精算課税の選択件数・暦年課税の申告人員などの統計。国税庁統計年報から数値を取れませんでした。
    • 中古住宅の課税標準控除など、不動産取得税の個別の軽減措置。本文の試算には織り込んでいません。実額は都道府県税事務所に確認してください。

    まとめ

    1. ★まず基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)に届くかを確かめてください(相続税法15条1項)。届かないなら、減らす相続税は存在しません。
    2. ★生前贈与にだけかかる税が2つあります。登録免許税は相続0.4%に対し贈与2%で5倍、不動産取得税は相続なら非課税(地方税法73条の7第1号)。評価額2,500万円で差は約85万円です。
    3. 暦年課税の加算は7年に延びました(相続税法19条)。ただし完全に7年になるのは令和13年1月1日以後に開始する相続からです。延長分は総額100万円控除。
    4. 110万円以下の贈与も加算されます。国税庁が「贈与税がかかったかどうかに関係なく加算します」と明記しています。
    5. 相続時精算課税の年110万円は、相続税法21条の11の2(60万円)ではなく租税特別措置法70条の3の2が根拠です。こちらは相続財産に加算されません(21条の15①・21条の16③二)。
    6. 相続時精算課税は撤回できません(21条の9第6項)。孫への適用は措置法70条の2の6、2,500万円の特別控除は期限内申告が要件です(21条の12第2項)。
    7. ★相続時精算課税で贈与した宅地には小規模宅地等の特例が使えません。措置法69条の4第1項の対象が「相続又は遺贈により取得した財産」だからです。
    8. 婚姻20年以上の配偶者への居住用不動産の贈与は例外的に効きます。2,000万円の配偶者控除(21条の6)+7年加算の対象外(19条2項)+民法903条4項の持戻し免除の推定。
    9. 「住宅取得等資金の非課税」は現金の制度です(措置法70条の2)。実家そのものの贈与には使えません。
    10. 遺留分は10年、税は7年。別の時計です(民法1044条3項/相続税法19条)。税だけを見て決めると、あとで兄弟から遺留分侵害額を請求されます。

    あわせて読みたい

  • 実家を長男に相続させる遺言があっても、遺留分でお金を払うことになります|2019年に「物」から「金銭」に変わりました

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    「実家は長男に相続させる」と書いた遺言がある。それでも、他の兄弟からお金を請求されます。それが遺留分です。

    2019年7月1日から、この請求は金銭の請求に変わりました。それ以前は実家が兄弟の共有になっていたのが、いまは「実家は長男のもの。ただし長男が現金を払う」という形になります。遺言者の意思が守られるようになった、いい改正です。

    ただし、払う現金がなければ実家を売ることになります。そして現金の代わりに実家の一部を渡すと、渡した側に譲渡所得税がかかります。この記事は、その仕組みを民法・国税庁の質疑応答事例・裁判所の手続案内だけで組み立てます。

    結論だけ先に

    • ★請求できるのは「金銭」です(民法1046条1項)。実家の持分を取り戻す請求ではありません。令和元年7月1日以後に開始した相続から適用されます。
    • ★現金の代わりに土地を渡すと、渡した側に譲渡所得税がかかります。国税庁の質疑応答事例が「これは代物弁済に該当しますので、甲に対して譲渡所得課税を行うことになります」と明記しています。
    • ★その土地を受け取った側は、小規模宅地等の特例を使えません。国税庁は「丙はB宅地を相続又は遺贈により取得したわけではありませんので、小規模宅地等の特例の適用を受けることはできません」としています。
    • 期限は「知った時から1年」「相続開始から10年」(民法1048条)。しかも裁判所は「調停の申立てだけでは意思表示にならず、内容証明郵便等により意思表示を行う必要があります」と注意しています。

    この記事は e-Gov法令検索の条文、裁判所の手続案内、法務省の公表資料、国税庁の質疑応答事例だけで書いています。当サイトに弁護士・税理士・司法書士はいません。金額の判断は必ず専門家に確認してください。最終確認日:2026年8月25日。

    1. 2019年7月1日に、何が変わったのか

    民法1046条1項です。

    遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。

    「金銭の支払を請求することができる」——ここが変わりました。

    法務省は改正の柱を「遺留分減殺請求権から生ずる権利を金銭債権化する」ことだと説明しています。改正前は、請求すると対象財産が共有状態になりました。法務省の資料は、会社の土地建物が長男と長女の複雑な共有になり、持分割合が「極めて大きな数字」になって処分が困難になった例を挙げています。

    どちらの制度が使われるかは「いつ亡くなったか」で決まります

    裁判所の手続案内が、遺留分侵害額の請求調停について「令和元年7月1日より前に被相続人が亡くなった場合は本申立てができません」と明記しています。東京家庭裁判所のページはタイトル自体が「遺留分侵害額の請求調停(令和元年7月1日以降に開始した相続に限る)」です。

    令和元年6月30日以前の相続 令和元年7月1日以後の相続
    制度の名前 遺留分減殺請求 遺留分侵害額の請求
    請求できるもの 物(財産そのもの) 金銭
    実家はどうなるか 共有になる 取得した人のものになる
    調停の名前 遺留分減殺による物件返還請求調停 遺留分侵害額の請求調停
    民法1046条、法務省「遺留分制度の見直し」、裁判所の各手続案内から作成

    2. 誰に、いくらあるのか

    民法1042条1項です。

    兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
    一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
    二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一

    条文の書き出しが「兄弟姉妹以外の相続人は」です。兄弟姉妹に遺留分はありません。親に子がなく、実家を配偶者や第三者に遺贈した場合、兄弟姉妹は何も請求できません。

    相続人が複数のときは、この割合に各自の法定相続分を掛けます(同条2項)。

    相続人 全体の遺留分 1人あたりの遺留分
    配偶者のみ 2分の1 配偶者 2分の1
    配偶者と子2人 2分の1 配偶者 4分の1/子 各8分の1
    子2人のみ 2分の1 子 各4分の1
    子3人のみ 2分の1 子 各6分の1
    配偶者と父母 2分の1 配偶者 3分の1/父母 各12分の1
    父母のみ 3分の1 父母 各6分の1
    配偶者と兄弟姉妹 2分の1 配偶者 2分の1/兄弟姉妹はゼロ
    兄弟姉妹のみ ゼロ ゼロ
    民法1042条1項・2項、900条・901条から算出

    何に対する割合なのか(民法1043条1項)

    遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。

    生前に渡した財産が足し戻され、借金は引かれます。実家しか財産がなく、遺言で長男に相続させると、他の子の遺留分は実家の評価額に対して計算されます。

    実際に数字を入れてみる

    父が亡くなり、相続人は長男と長女の2人。財産は実家(評価額3,000万円)と預金200万円、借金はなし。遺言に「実家は長男に相続させる」とあり、預金は長女が取得したとします。

    手順 計算 条文
    ① 算定の基礎 3,000万円+200万円−0=3,200万円 民1043①
    ② 長女の遺留分 3,200万円 × 2分の1 × 2分の1(法定相続分)=800万円 民1042①②
    ③ 実際にもらった額を引く 800万円 − 200万円(預金)=600万円 民1046②二
    ④ 長男が払う額 600万円(金銭) 民1046①
    民法1042条・1043条・1046条から作成。実際には遺留分権利者が承継する債務の加算(1046条2項3号)など、事案ごとの調整が入ります。

    実家をもらった長男は、600万円の現金を用意しなければなりません。3,000万円の家は手に入っても、そこから現金は出てきません。ここが遺留分のいちばんつらいところです。

    3. 足し戻される贈与は「相続人は10年、それ以外は1年」

    民法1044条です。

    第1項 贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。
    第3項 相続人に対する贈与についての第一項の規定の適用については、同項中「一年」とあるのは「十年」と、「価額」とあるのは「価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る。)」とする。

    税金の「7年」と混同しないでください

    相続税の生前贈与加算は最長7年(相続税法19条)。遺留分の算入は相続人に対する贈与で10年(民法1044条3項)。別々の制度で、期間も対象も違います。「7年より前の贈与だから関係ない」と考えると、遺留分で足し戻されます。

    4. 払う現金がなければ、実家を売ることになります

    民法1047条1項が、負担の限度を定めています。

    受遺者又は受贈者は、次の各号の定めるところに従い、遺贈又は贈与(略)の目的の価額(略)を限度として、遺留分侵害額を負担する。

    実家の価額を超える金銭債務は負いません。しかし逆に言えば、実家の価額の範囲までは払わなければなりません。

    そこで用意されているのが同条5項です。

    裁判所は、受遺者又は受贈者の請求により、第一項の規定により負担する債務の全部又は一部の支払につき相当の期限を許与することができる。

    法務省もこの規定を「金銭を直ちには準備できない受遺者又は受贈者の利益を図るため」のものだと説明しています。

    ただし、これは猶予であって免除ではありません

    「相当の期限」を与えられても、債務そのものは金銭債務として残ります。期限が来ても払えなければ、一般の金銭債務と同じ扱いです。結局、実家を売って現金を作る、という流れになります。

    ここは正直に書きます。「実家を売らなければならない」と定めた条文はありません。上に書いたのは、1046条1項・1047条1項・5項という条文の組み合わせから導かれる構造です。ただ、現金の当てがないまま遺言だけ用意しておくと、この構造に必ず突き当たります。

    なお1047条4項は「受遺者又は受贈者の無資力によって生じた損失は、遺留分権利者の負担に帰する」と定めています。払う側が本当に無一文なら、請求した側が損をかぶるということです。

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    遺言を書く前に、実家がいくらなのかを確かめる

    遺留分の額は、実家の評価額で決まります(民法1043条1項)。「実家は長男に」と書くなら、他の子に払う現金がいくら必要になるのかを先に知っておかないと、遺言だけ用意して現金の当てがない状態になります。相続する側も同じで、払えなければ実家を売って現金を作ることになります(民法1047条5項の期限許与は猶予であって免除ではありません)。ラクウルは訳あり物件・空き家・共有持分などを全国で買い取っている会社で、自社買取なので仲介手数料はかかりません。

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    査定を受けても売る義務はありません。遺留分の設計に必要な「実際に現金化できる金額」を、先に押さえるための一手です。

    5. 現金の代わりに実家を渡すと、渡した側に譲渡所得税がかかります

    ここが、この記事でいちばん知られていない部分です。国税庁の質疑応答事例が、そのままの設例で答えています。

    【照会要旨】民法第1046条第1項の規定による遺留分侵害額に相当する金銭の支払請求を受けた甲は、金銭の支払に代えて、甲の所有する土地の所有権を乙へ移転させることで、遺留分侵害額1,500万円を消滅させました。(略)
    【回答要旨】甲は、遺留分侵害額の請求に基づく金銭の支払に代えて、所有している土地を乙に移転しています。これは代物弁済に該当しますので、甲に対して譲渡所得課税を行うことになります。

    「現金がないから土地で払う」は、税務上は「土地を1,500万円で売った」ことになります。

    関係法令通達として所得税法33条・所得税基本通達33-1の6・民法1046条が挙げられています。

    払い方 払う側 受け取る側
    現金で払う 譲渡所得課税なし 金銭を取得したものとして相続税
    不動産で払う(代物弁済) 譲渡所得課税あり 小規模宅地等の特例は使えない
    国税庁 質疑応答事例(譲渡所得/相続税・贈与税)から作成。いずれも令和7年8月1日現在の法令等に基づく回答とされています。

    6. 受け取った側は、小規模宅地等の特例を使えません

    もうひとつの質疑応答事例です。長男が遺贈で取得した宅地を、遺留分侵害額の代わりに長女へ移転した設例について、国税庁はこう答えています。

    照会の場合、遺留分侵害額の請求を受けて乙はB宅地の所有権を丙に移転していますが、これは、乙が遺留分侵害額に相当する金銭を支払うために丙に対し遺贈により取得したB宅地を譲渡(代物弁済)したものと考えられ、丙はB宅地を相続又は遺贈により取得したわけではありませんので、小規模宅地等の特例の適用を受けることはできません。なお、丙は、遺留分侵害額に相当する金銭を取得したものとして、相続税の修正申告をすることになります。

    そして注記が、払った側については逆のことを述べています。

    (注) 乙がB宅地を遺贈により取得した事実に異動は生じず、また、乙がB宅地を保有しなくなったのは相続税の申告期限後であることから、遺留分侵害額の請求を受けてB宅地の所有権を丙に移転させたとしても、乙はB宅地についての小規模宅地等の特例の適用を受けることができなくなるということはありません。なお、乙は、遺留分侵害額の請求に基づき支払うべき金銭の額が確定したことにより、これが生じたことを知った日の翌日から4月以内に、更正の請求をすることができます。

    払った側は4か月以内に更正の請求。受け取った側は修正申告。相続税法32条1項3号が「遺留分侵害額の請求に基づき支払うべき金銭の額が確定したこと」を更正の請求の事由として挙げており、期限は「当該各号に規定する事由が生じたことを知つた日の翌日から四月以内」です。

    受け取った側については、税務署長が職権で更正または決定をします(相続税法35条3項)。放っておけば済む話ではありません。

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    払った側は「知った日の翌日から4か月以内」に更正の請求(相続税法32条1項3号)、受け取った側は修正申告。現金の代わりに土地を渡せば、渡した側に譲渡所得課税が生じます(国税庁 質疑応答事例・所得税法33条)。受け取った土地には小規模宅地等の特例が使えません。この3つが同時に走るので、遺留分の金額が決まった時点で税理士を確保しておくほうが安全です。ここは相続税を扱う税理士を紹介してもらう窓口で、紹介自体は無料です。

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    7. 期限は1年。しかも調停を申し立てるだけでは足りません

    民法1048条です。

    遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。

    そして裁判所の手続案内に、次の注意書きがあります。

    調停の申立てだけでは意思表示にならず、内容証明郵便等により意思表示を行う必要があります。

    いちばん多い取りこぼし

    「家庭裁判所に調停を申し立てたから大丈夫」——足りません。裁判所自身が、内容証明郵便等で相手方に意思表示をする必要があると案内しています。調停は日程が入るまで時間がかかります。1年の期限が近いなら、先に意思表示だけ済ませてください。

    8. 生前に遺留分を放棄してもらうことはできます

    民法1049条です。

    第1項 相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。
    第2項 共同相続人の一人のした遺留分の放棄は、他の各共同相続人の遺留分に影響を及ぼさない。

    当事者どうしの念書では効力がありません。家庭裁判所の許可が要ります。

    項目 内容
    申立てできる時期 相続開始前(被相続人の生存中)のみ。相続開始後は申立てできません
    申立人 遺留分を有する相続人
    申立先 被相続人の住所地の家庭裁判所
    費用 収入印紙800円+連絡用の郵便切手(裁判所により異なる)
    必要書類 申立書、被相続人の戸籍謄本、申立人の戸籍謄本
    出典:裁判所「遺留分放棄の許可」。相続放棄が「相続開始後」なのと逆で、遺留分放棄は「相続開始前」だけです。

    2項に注意してください。長女が遺留分を放棄しても、次女の遺留分が増えることはありません。放棄した人の分だけが消えます。

    9. 調停の手続と費用

    項目 遺留分侵害額の請求調停
    対象 令和元年7月1日以後に開始した相続に限る
    申立人 遺留分を侵害された者(兄弟姉妹以外の相続人)/その承継人
    申立先 相手方の住所地の家庭裁判所、または当事者が合意で定める家庭裁判所
    費用 収入印紙1,200円+連絡用の郵便切手(裁判所により異なる)
    必要書類 申立書とその写し(相手方の数分)/被相続人の出生から死亡までの全戸籍謄本/相続人全員の戸籍謄本/被相続人の子で死亡している者がいればその全戸籍謄本/遺言書写しまたは検認調書謄本の写し/遺産に関する証明書(不動産登記事項証明書、固定資産評価証明書、預貯金残高証明書など)
    先にやること 内容証明郵便等による意思表示
    出典:裁判所「遺留分侵害額の請求調停」。令和元年6月30日以前の相続は「遺留分減殺による物件返還請求調停」(印紙1,200円)になります。

    10. 遺言を書く側が、先にやっておくこと

    遺留分は遺言では消せません。「実家は長男に。他の子には遺留分を請求しないでほしい」と付言事項に書いても、法的な効力はありません。

    できることは3つです。

    1. 遺留分に相当する現金を用意しておく。生命保険を使う方法も語られますが、当サイトは保険商品の助言をしません。金額の設計は専門家に相談してください
    2. 家庭裁判所の許可を得て、生前に遺留分を放棄してもらう(民法1049条1項)
    3. 実家がいくらなのかを先に確かめる。遺留分の額は実家の評価額で決まります。金額を知らないまま遺言を書くと、いくら用意すれば足りるのかが分かりません

    よくある質問

    Q. 遺言があれば遺留分は関係ありませんか?

    関係あります。民法1046条1項は、特定財産承継遺言(「実家は長男に相続させる」型)で財産を承継した相続人も請求の相手方に含めています。遺言で遺留分をゼロにすることはできません。付言事項で「請求しないでほしい」と書いても法的な効力はありません。

    Q. 実家の持分をもらえるのですか、それともお金ですか?

    お金です。民法1046条1項が「遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる」と定めています。令和元年6月30日以前に開始した相続は改正前の遺留分減殺請求で、こちらは財産そのものが対象でした。どちらになるかは被相続人が亡くなった日で決まります。

    Q. 兄弟姉妹にも遺留分はありますか?

    ありません。民法1042条1項の書き出しが「兄弟姉妹以外の相続人は」です。子も親もいない人が、実家を配偶者や第三者に遺贈した場合、兄弟姉妹は何も請求できません。

    Q. 20年前に兄が家を建ててもらっています。足し戻せますか?

    原則として足し戻せません。民法1044条3項は、相続人に対する贈与について「相続開始前10年間」かつ「婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与」に限って算入すると定めています。ただし1項後段により、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与したときは、10年より前のものも算入されます。

    Q. 相続税の「7年」と遺留分の「10年」は同じものですか?

    別の制度です。相続税の生前贈与加算は相続税法19条で最長7年、遺留分の算入は民法1044条3項で相続人に対する贈与が10年。対象になる贈与の範囲も違います(遺留分は「婚姻・養子縁組のため又は生計の資本として」に限られます)。混同すると計算が合いません。

    Q. 払うお金がありません。どうなりますか?

    裁判所に期限を延ばしてもらえる場合があります(民法1047条5項。受遺者・受贈者の請求により、裁判所が支払につき相当の期限を許与できる)。ただしこれは猶予であって免除ではありません。期限が来ても払えなければ、実家を売って現金を作ることになります。なお1047条4項により、払う側が無資力なら、その損失は請求した側の負担になります。

    Q. 現金の代わりに土地を渡してもいいですか?

    できますが、渡した側に譲渡所得税がかかります。国税庁の質疑応答事例が「これは代物弁済に該当しますので、甲に対して譲渡所得課税を行うことになります」と明記しています(所得税法33条、所得税基本通達33-1の6)。「現金がないから土地で」は、税務上は「土地を売った」のと同じ扱いです。

    Q. 土地で受け取ると、小規模宅地等の特例は使えますか?

    使えません。国税庁は「相続又は遺贈により取得したわけではありませんので、小規模宅地等の特例の適用を受けることはできません」としています。受け取った側は「遺留分侵害額に相当する金銭を取得したもの」として相続税の修正申告をすることになります。一方、払った側は特例を失いません(同事例の注記)。

    Q. 遺留分を払ったら、相続税は戻ってきますか?

    更正の請求ができます。相続税法32条1項3号が「遺留分侵害額の請求に基づき支払うべき金銭の額が確定したこと」を事由として挙げており、「事由が生じたことを知つた日の翌日から四月以内」という期限がついています。受け取った側については、税務署長が職権で更正または決定をします(同法35条3項)。

    Q. 期限はいつまでですか?

    知った時から1年、相続開始から10年です(民法1048条)。そして裁判所は「調停の申立てだけでは意思表示にならず、内容証明郵便等により意思表示を行う必要があります」と注意しています。調停は日程が入るまで時間がかかるので、期限が近いなら先に意思表示だけ済ませてください。

    Q. 生前に「遺留分は請求しない」と一筆もらえば大丈夫ですか?

    それだけでは効力がありません。民法1049条1項が「相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる」と定めています。申立先は被相続人の住所地の家庭裁判所、収入印紙800円です。なお1人が放棄しても、他の相続人の遺留分は増えません(同条2項)。

    この記事で確認できなかったこと

    • 遺留分侵害額の請求調停が年間に何件あるか。司法統計年報のPDFから数値を読み取ろうとしましたが、読み取るたびに値が変わり(表の列がずれる)、信頼できる数字を取れませんでした。数字を引用するときは原典に当たってください。
    • 遺留分算定における不動産の評価時点。民法1043条1項は「被相続人が相続開始の時において有した財産」と定めていますが、その価額をいつの時点で評価するのかを明示した条文は、1043条から1047条の範囲で見つけられませんでした。裁判所・法務省の公表資料にも明示を確認できませんでした。
    • 婚姻20年以上の夫婦間で居住用不動産を贈与した場合(民法903条4項の持戻し免除の推定)、その贈与が遺留分算定の基礎財産から外れるかどうか。903条4項が「第一項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する」と定めているのは遺産分割の場面で、遺留分算定について同じ扱いをする明文は見つけられませんでした。
    • 配偶者居住権を遺贈した場合に、それが遺留分算定の基礎財産にどう組み込まれるか。法務省の配偶者居住権の解説資料に遺留分への言及はありませんでした。
    • 連絡用の郵便切手の実額。裁判所の案内は「裁判所ごとに異なる」としか書いていません。
    • 「払えなければ実家を売ることになる」ことを定めた条文。ありません。本文で書いたのは、民法1046条1項・1047条1項・5項の組み合わせから導かれる構造です。

    まとめ

    1. ★遺留分は「金銭」の請求になりました(民法1046条1項)。令和元年7月1日以後に開始した相続から。それ以前の相続は改正前の遺留分減殺請求で、実家が共有になります。
    2. 兄弟姉妹に遺留分はありません(民法1042条1項の書き出し)。子2人だけなら1人あたり4分の1です。
    3. 算定の基礎は「相続開始時の財産+贈与−債務の全額」(民法1043条1項)。相続人への贈与は10年分が足し戻されます(1044条3項)。
    4. 相続税の7年と遺留分の10年は別物です。期間も対象も違います。
    5. ★払う現金がなければ、実家を売ることになります。裁判所が期限を延ばせますが(1047条5項)、それは猶予であって免除ではありません。
    6. ★現金の代わりに土地を渡すと、渡した側に譲渡所得税がかかります。国税庁が「代物弁済に該当する」と明記しています。
    7. その土地を受け取った側は、小規模宅地等の特例を使えません。「相続又は遺贈により取得したわけではない」からです。
    8. 払った側は4か月以内に更正の請求ができます(相続税法32条1項3号)。受け取った側は税務署長の職権で更正・決定されます(35条3項)。
    9. 期限は知った時から1年、相続開始から10年(民法1048条)。調停の申立てだけでは足りず、内容証明郵便等での意思表示が必要です。
    10. 生前の遺留分放棄には家庭裁判所の許可が要ります(民法1049条1項・印紙800円)。1人が放棄しても、他の相続人の遺留分は増えません。

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  • 祖父名義のままの実家|相続登記の期限は2027年3月31日。何代分の登記と費用がかかるか

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    実家の登記事項証明書を取ったら、所有者の欄に祖父の名前が入っていた。祖父が亡くなったのは30年前。父も5年前に亡くなっている。誰も相続登記をしないまま、名義だけが昭和で止まっている。

    この状態を数次相続といいます。そして2024年4月1日から、相続登記は義務になりました。祖父の代の相続にも遡って適用されます。

    期限は2027年(令和9年)3月31日です。この記事は、何代分の登記が必要になるのか、相続人が何人まで増えるのか、費用はいくらか、間に合わないときに何ができるのかを、法務省・法務局・裁判所・e-Gov法令検索の公表資料だけで組み立てます。

    結論だけ先に

    • ★施行日前に開始した相続にも適用されます。改正法の附則5条6項が、不動産登記法76条の2の「知った日」を「知った日又は第二号施行日のいずれか遅い日」と読み替えています。法務省は「令和9年3月31日まで」と案内しています。正当な理由なく怠れば10万円以下の過料(不動産登記法164条1項)。
    • ★間に合わないなら「相続人申告登記」があります(不動産登記法76条の3)。申し出るだけで申請義務を履行したものとみなされ、登録免許税もかかりません。ただし持分は登記されず、権利関係を公示するものではないので、売却や抵当権設定には別途相続登記が要ります。
    • 登録免許税には免税措置があります(租税特別措置法84条の2の3)。①相続で土地を取得した人が登記前に亡くなった場合=まさに数次相続 ②不動産の価額が100万円以下の土地。どちらも令和9年3月31日まで、対象は土地だけです。
    • 遺産分割にも期限ができました。相続開始から10年を過ぎると、原則として特別受益・寄与分を主張できず法定相続分で分けることになります(民法904条の3)。すでに10年を過ぎている古い相続については、施行時から5年を経過する時まで、という経過措置が置かれています。(改正法附則3条)

    この記事は e-Gov法令検索の条文、法務省・法務局・裁判所・国土交通省の公表資料、国税庁のタックスアンサーだけで書いています。当サイトに司法書士・税理士・弁護士はいません。登記の可否と手順は、法務局の登記手続案内(無料・予約制)か司法書士に確認してください。最終確認日:2026年8月25日。

    1. 期限は2027年3月31日です

    不動産登記法76条の2第1項が、相続登記の申請義務を定めています。

    所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。

    問題は、これが施行日より前の相続にも適用されることです。改正法(民法等の一部を改正する法律)の附則5条6項が、こう読み替えます。

    ……同条第一項中「知った日」とあるのは「知った日又は第二号施行日のいずれか遅い日」と……

    第二号施行日=令和6年4月1日。そこから3年で、令和9年(2027年)3月31日です。

    いつ相続が起きたか 期限
    令和6年3月31日以前(祖父・曽祖父の代を含む) 令和9年3月31日
    令和6年4月1日以後 取得を知った日から3年以内
    遺産分割で法定相続分を超えて取得した場合 遺産分割の日から3年以内(施行日前の分割は、分割の日か施行日の遅いほうから3年)
    不動産登記法76条の2、民法等の一部を改正する法律 附則5条6項、法務省「相続登記の申請義務化について」から作成

    過料は10万円以下です(不動産登記法164条1項)。法務省は運用について、①登記官が催告書を送る ②期限内に登記されなければ登記官が裁判所へ通知する ③裁判所が要件を判断して過料の裁判をする、という流れを説明しています。

    2026年4月1日からは、住所変更登記も義務になります

    不動産登記法76条の5が、氏名・名称・住所の変更から2年以内の変更登記を義務づけます。施行日は令和8年4月1日、過料は5万円以下(同法164条2項)。施行日前に住所を変えていて未登記のものは、令和10年3月31日までとされています。

    祖父の代の相続も、2027年3月31日まで 令和6年4月1日 相続登記が義務に。過去の相続も 令和8年4月1日 住所変更登記も義務に。5万円以下 令和9年3月31日 施行日前の相続はここまで 令和10年3月31日 施行日前の住所変更はここまで

    2. 何が起きているのか——所有者不明土地20.1%

    国土交通省が平成28年度の地籍調査で、約62万筆を対象に調べています。

    項目 数値
    登記簿上で所有者の所在が確認できない土地 20.1%
     うち 相続による所有権移転の未登記 66.7%
     うち 住所変更の未登記 32.4%
     うち 売買・交換等による移転の未登記 1.0%
    追跡調査の結果、最終的に所在不明だった土地 0.41%
    出典:国土交通省「所有者不明土地の実態把握の状況について」(平成28年度地籍調査・1,130地区/558市区町村/約62万筆)
    所有者不明の土地の3分の2は、相続の未登記 相続による移転の未登記 66.7% 住所変更の未登記 32.4% 売買・交換等の未登記 1.0% 所在が確認できない土地は20.1%。その内訳です

    所有者不明土地問題研究会(座長・増田寛也)は、面積と損失を次のように推計しています。

    項目 推計値
    2016年時点の所有者不明土地の面積 約410万ha
    2040年の推計面積 約720万ha(北海道本島は約780万ha)
    経済的損失(2016年・単年) 約1,800億円
    経済的損失(2017〜2040年の累積) 約6兆円
    出典:所有者不明土地問題研究会「最終報告 概要」(平成30年1月19日・所有者不明土地等対策の推進のための関係閣僚会議 資料1-2)

    義務化はこの数字への対応です。「うちだけ放置している」わけではなく、5筆に1筆がこの状態でした。

    3. 相続人は何人まで増えるのか

    数次相続でいちばん怖いのは、費用でも過料でもなく当事者の人数です。民法の条文が、増え方を決めています。

    条文 内容 増え方
    民法887条2項 子が先に亡くなっていれば、その子(孫)が代襲する 孫の人数だけ増える
    民法887条3項 前項を代襲者が亡くなった場合に準用(再代襲) 直系卑属は世代の制限なく続く
    民法889条1項 子や孫がいなければ、直系尊属 → 兄弟姉妹の順 叔父・叔母まで広がる
    民法889条2項 兄弟姉妹には887条2項だけを準用(3項は準用しない) 兄弟姉妹の代襲は甥・姪まで(1代限り)
    民法901条 代襲相続人の相続分は、その直系尊属が受けるはずだった分 1人あたりの持分が細かくなる
    民法887条・889条・901条から作成

    直系卑属の再代襲には制限がありません(887条3項)。曽祖父名義のまま3代放置すれば、ひ孫の代まで当事者になります。

    一方、兄弟姉妹の代襲は甥・姪までで止まります。889条2項が887条2項だけを準用し、3項を準用していないからです。条文を2行読むだけで、当事者の範囲が確定します。

    遺産分割協議は相続人全員の合意が要ります。会ったこともない従兄弟の子に連絡を取り、実印と印鑑証明を出してもらう——数次相続の実務は、ほとんどこの作業です。

    4. 何代分の登記が必要か

    ここは正直に書きます。「中間の相続が単独相続なら中間の登記を省略して最終の相続人へ直接移転できる」という取扱いは実務で広く語られていますが、当サイトは法務省・法務局の公表資料でその要件を確認できませんでした。

    確認できたのはここまでです。

    • 法務局は「所有権移転登記申請書(相続・遺産分割)(数次相続)」という様式を公表しています。数次相続を1件の申請で扱う場面が想定されているということです
    • その様式の原因欄には、相続の日付を書く欄が2つ用意されています
    • 登記の目的は「所有権移転」、添付書類は「登記原因証明情報」「住所証明情報」「代理権限証明情報」

    結論として、何件の登記になるか(=登録免許税が何回かかるか)は、相続の経過によって変わります。これは費用が数倍変わる論点なので、推測で書きません。法務局の登記手続案内(無料・予約制)か司法書士に、戸籍を持って確認してください。

    登録免許税は不動産の価額の0.4%

    相続による所有権移転の登録免許税は1000分の4です。課税標準は固定資産課税台帳の価格で、1,000円未満は切捨て(1,000円未満なら1,000円)、税額の100円未満は切捨て(1,000円未満なら1,000円)と法務局が案内しています。

    固定資産評価額 登録免許税(1件あたり・0.4%)
    500万円 20,000円
    1,000万円 40,000円
    2,000万円 80,000円
    3,000万円 120,000円
    法務局「登録免許税の計算」から算出。土地と建物の評価額を合算して計算します。代ごとに登記が必要な場合は、この額が代の数だけかかります。

    5. 免税措置——数次相続のためにある条文があります

    租税特別措置法84条の2の3です。2つの免税があり、1項がまさに数次相続を想定しています。

    第1項 個人が相続により土地の所有権を取得した場合において、当該個人が当該相続による当該土地の所有権の移転の登記を受ける前に死亡したときは、平成三十年四月一日から令和九年三月三十一日までの間に当該個人を当該土地の所有権の登記名義人とするために受ける登記については、登録免許税を課さない。

    第2項 ……土地について所有権の保存の登記……又は相続による所有権の移転の登記を受ける場合において、これらの登記に係る……課税標準たる不動産の価額が百万円以下であるときは、これらの登記については、登録免許税を課さない。

    1項 2項
    対象 相続で土地を取得した人が、登記を受ける前に死亡した場合の中間の登記 価額100万円以下の土地の相続登記・表題部所有者の相続人による保存登記
    期間 平成30年4月1日〜令和9年3月31日 移転登記は平成30年11月15日〜、保存登記は令和3年4月1日〜、いずれも令和9年3月31日まで
    対象は土地だけ 建物は対象外 建物は対象外
    申請書への記載 「租税特別措置法第84条の2の3第1項により非課税」 「租税特別措置法第84条の2の3第2項により非課税」
    租税特別措置法84条の2の3、法務局「相続登記の登録免許税の免税措置について」から作成

    申請書に「非課税」と書かなければ適用されません。法務局は「登記申請書に法令の条項を記載しなければ、免税措置の適用を受けることはできません」と案内しています。

    なお、法務局や法務省の資料の中には、期限を「令和7年3月31日まで」、条番号を「84条の2の2」と書いた古いものが残っています。現行の条文は84条の2の3、期限は令和9年3月31日です。

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    売るにしても、相続登記は先に済ませる必要があります(相続人申告登記だけでは売却できません・不動産登記法76条の3)。金額を知ったうえで順番を決めてください。

    6. 間に合わないときの「相続人申告登記」

    令和6年4月1日から始まった新しい制度です。不動産登記法76条の3。

    第1項 前条第一項の規定により所有権の移転の登記を申請する義務を負う者は、……登記官に対し、所有権の登記名義人について相続が開始した旨及び自らが当該所有権の登記名義人の相続人である旨を申し出ることができる。
    第2項 前条第一項に規定する期間内に前項の規定による申出をした者は、……登記を申請する義務を履行したものとみなす。

    相続人申告登記 相続登記
    誰がするか 相続人が1人でできる 遺産分割の合意が要る(法定相続分での登記を除く)
    登録免許税 不要 不動産の価額の0.4%
    登記されるもの 申出人の氏名・住所を職権で付記する 所有権の移転
    持分 登記されない 登記される
    売却・抵当権設定 できない(別途相続登記が必要) できる
    遺産分割が成立したら その日から3年以内に相続登記が必要(不登76条の3第4項) —
    不動産登記法76条の3、法務省「相続人申告登記について」、法務省民二第535号通達(令和6年3月15日)から作成

    相続人申告登記は「過料を止める」ための制度で、「実家を動かせるようにする」制度ではありません。法務省も「相続した不動産を売却したり、抵当権の設定をしたりするような場合には、別途、相続登記の申請をする必要があります」と明記しています。

    とはいえ、相続人が20人に膨れていて2027年3月31日までに協議がまとまらない、という状況では、これが唯一の現実的な手段です。1人で、無料でできます。

    申告登記では、実家は売れません 相続人申告登記 1人でできる 登録免許税は不要 持分は登記されない 売れません 相続登記 分割の合意が要る 価額の0.4% 所有権が移転する 売れます 申告登記は、過料を止めるための制度です

    7. 遺産分割にも期限ができました

    民法904条の3(令和5年4月1日施行)。

    前三条の規定は、相続開始の時から十年を経過した後にする遺産の分割については、適用しない。ただし、次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。
    一 相続開始の時から十年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。……

    「前三条」は特別受益(903条)・904条・寄与分(904条の2)です。10年を過ぎると、これらを主張できず、法定相続分で分けることになります。

    祖父の相続は、とっくに10年を過ぎています。そこで経過措置です。改正法附則3条は、「相続開始の時から十年を経過する時又は……施行の時から五年を経過する時のいずれか遅い時まで」と読み替えると定めています。

    条文どおりに読めば、すでに10年を過ぎている古い相続でも、施行時(令和5年4月1日)から5年を経過する時までに家庭裁判所へ遺産分割の請求をすれば、なお特別受益・寄与分を主張できます。法務省が「令和◯年◯月◯日まで」という形で示している資料は確認できませんでした。日付が効いてくるなら、必ず専門家に確認してください。

    8. 戸籍を集める——広域交付でできること・できないこと

    数次相続の実務量の大半は戸籍集めです。令和6年3月1日から広域交付が始まり、本籍地以外の市区町村でも戸籍が取れるようになりました。

    広域交付
    どこで取れるか 本籍地以外の市区町村の窓口でも取れる
    誰が請求できるか 本人・配偶者・直系尊属(父母・祖父母)・直系卑属(子・孫)
    兄弟姉妹の戸籍 取れない(戸籍法10条1項の請求に限られるため)
    コンピュータ化されていない戸籍・除籍 取れない(対象は「磁気ディスクをもつて調製されている」ものだけ・戸籍法120条の2)
    郵送請求 できない
    代理人による請求 できない
    本人確認 顔写真付きの身分証明書の提示が必要
    一部事項証明書・個人事項証明書 対象外
    戸籍法10条・120条の2、法務省「戸籍法の一部を改正する法律について(令和6年3月1日施行)」から作成

    祖父・曽祖父の代の手書きの改製原戸籍は、コンピュータ化されていないことが多く、結局その市区町村に請求することになります。兄弟姉妹の戸籍も広域交付では取れません。数次相続でいちばん手間がかかるのが、まさにこの2つです。

    広域交付でも、取れないものがあります 本籍地以外の窓口で取る 令和6年3月1日から 取れます 直系尊属・直系卑属の戸籍 本人・配偶者・父母・子や孫 取れます 兄弟姉妹の戸籍 戸籍法10条1項の請求に限られる 取れません 手書きの改製原戸籍 磁気ディスクのものだけが対象 取れません 郵送・代理人による請求 窓口で本人が。顔写真つき身分証 できません 祖父の代の戸籍は、結局その市区町村に請求します
    証明書 手数料
    戸籍の謄本・抄本 1通450円
    除かれた戸籍の謄本・抄本 1通750円
    地方公共団体の手数料の標準に関する政令1条8号

    法定相続情報一覧図を作っておく

    不動産登記規則247条の制度です。登記所に戸籍一式を出すと、相続関係を証明する一覧図の写しを交付してもらえます。申出先は被相続人の本籍地・最後の住所地・申出人の住所地・不動産の所在地のいずれかを管轄する登記所から選べます(同条1項)。

    そして同条6項により、提出した戸籍の原本は返却されます。写しは無料で必要枚数を交付してもらえるので、登記・金融機関・税務署の手続を並行して進められます。

    9. 相続税——10年以内に相続が重なったら控除があります

    数次相続では、相続税がすでに一度かかっていることがあります。そのための制度が相次相続控除(相続税法20条)です。

    項目 内容
    対象 今回の相続開始前10年以内に、被相続人が相続等で財産を取得し相続税が課されていた場合
    控除の考え方 前回の相続税額のうち、1年につき10%の割合で逓減した後の金額を今回の相続税額から控除
    受けられない人 相続を放棄した人・相続権を失った人(遺贈で財産を取得しても適用されません)
    出典:国税庁タックスアンサー No.4168 相次相続控除(令和7年4月1日現在法令等)。根拠法令等は相法20、相基通20-1・20-3

    祖父の相続で相続税を払っていて、その10年以内に父が亡くなっているなら、確認する価値があります。

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    相次相続控除まで見てもらう

    祖父の相続で相続税を払っていて、その10年以内に父が亡くなっているなら、相次相続控除が使えます(相続税法20条・タックスアンサーNo.4168)。前回の相続税額のうち、1年につき10%の割合で逓減した後の金額を、今回の相続税額から控除します。ただし相続を放棄した人には適用されません。数次相続では被相続人が複数になるので、どの相続に何がかかるのかの整理そのものが仕事になります。ここは相続税を扱う税理士を紹介してもらう窓口で、紹介自体は無料です。

    ①申し込むと、30日以内に電話またはメールで確認の連絡が来ます。知らない番号でも出てください。ここで内容が確認できないと、税理士の紹介そのものが進みません。
    ②「税理士を紹介してほしい」と伝えるためのサービスです。税務相談そのものに答える窓口ではありません。
    ③過去1年以内にこのサービスを使ったことがある方は対象外です。ご家族が先に申し込んでいないか、確認してから使ってください。
    お住まいの地域の税理士会や、相続税を扱う近所の事務所にも1件あたって見比べてください。
    それによって紹介料や税理士報酬が変わることはありません(紹介自体は無料です)。

    相次相続控除まで見てくれる税理士を探してもらう(無料・全国)

    相続税の申告期限は「知った日の翌日から10か月」です。数次相続では期限が被相続人ごとに別々に走るので、早めに整理してもらってください。

    10. 相続人が見つからない・出てこないとき

    状況 制度 申立先 費用(申立て時)
    所在が分からない相続人がいる 不在者財産管理人(民法25条) 不在者の従来の住所地・居所地の家庭裁判所 収入印紙800円+郵便切手。予納金を求められることがある
    生死が7年間不明 失踪宣告(民法30条・31条) 同上 収入印紙800円+郵便切手+官報公告料5,298円
    そもそも所有者が分からない土地・建物 所有者不明土地・建物管理命令(民法264条の2〜264条の8) 不動産の所在地の地方裁判所(家裁ではない) 不動産1個につき1,000円+予納郵券6,150円+予納金
    土地を手放したい 相続土地国庫帰属制度 法務局 審査手数料 土地一筆14,000円+負担金(原則20万円)
    裁判所の各手続案内(不在者財産管理人・失踪宣告)、大阪地方裁判所「所有者不明土地・建物管理命令申立てについてのQ&A」、法務省「相続土地国庫帰属制度」から作成。予納金の額は事案ごとに裁判所が判断します。

    国庫帰属は「何十年前の相続でも申請できる」

    法務省は「数十年前に相続した土地についても、本制度の対象となります」「令和5年4月27日以前に相続した土地も対象になります」と明記しています。祖父名義のままの土地でも、相続で取得したものであれば申請の入口には立てます。

    ただし2つの壁があります。ひとつは却下要件の「建物の存する土地」(同法2条3項1号)——実家が建っている限り申請できません。先に解体が必要です。もうひとつは、共有の場合は共有者全員で共同して申請する必要があること(同法2条2項)。相続人が膨れた数次相続では、これが相続登記と同じ壁になります。

    2027年3月31日までに、最低限これだけは

    ①登記事項証明書を取って、名義が誰で止まっているかを確定させる。②被相続人ごとに戸籍を集めて、相続人が何人いるかを数える。③人数が多くて協議がまとまりそうにないなら、相続人申告登記を1人で申し出て、過料だけ止める(不動産登記法76条の3)。④そのうえで、実家をどうするかを決める。③は無料で、1人でできます。

    よくある質問

    Q. 祖父名義のままの実家も、相続登記の義務の対象ですか?

    対象です。改正法附則5条6項が、不動産登記法76条の2を施行日前に開始した相続にも適用すると定め、起算点を「知った日又は第二号施行日のいずれか遅い日」に読み替えています。法務省は「令和9年3月31日まで」と案内しています。

    Q. 登記しないと本当に過料が来ますか?

    「正当な理由がないのに」怠った場合に10万円以下の過料です(不動産登記法164条1項)。法務省は運用について、登記官が催告書を送り、それでも登記されなければ裁判所へ通知し、裁判所が要件を判断して過料の裁判をすると説明しています。いきなり請求書が届く仕組みではありません。

    Q. 相続人が20人います。どうすればいいですか?

    まず相続人申告登記で過料を止めてください(不動産登記法76条の3)。相続人が1人で申し出ることができ、登録免許税もかかりません。これで申請義務を履行したものとみなされます。ただし持分は登記されず、売却や抵当権設定はできません。遺産分割が成立したら、その日から3年以内に相続登記が必要です(同条4項)。

    Q. 相続人申告登記をすれば、実家を売れますか?

    売れません。法務省は「不動産についての権利関係を公示するものではないため、相続した不動産を売却したり、抵当権の設定をしたりするような場合には、別途、相続登記の申請をする必要があります」と明記しています。申告登記は過料を止めるための制度です。

    Q. 何代分の登記が必要ですか?費用は何倍になりますか?

    当サイトでは断定できませんでした。法務局は「数次相続」用の申請書様式を公表しており、原因欄には相続の日付を書く欄が2つ用意されています。ただし「中間の相続が単独相続なら中間の登記を省略できる」という要件そのものを示した法務省・法務局の公表資料を確認できませんでした。費用が数倍変わる論点なので、法務局の登記手続案内(無料・予約制)か司法書士に戸籍を持って確認してください。

    Q. 登録免許税はいくらですか?

    不動産の価額の1000分の4(0.4%)です。課税標準は固定資産課税台帳の価格で、1,000円未満は切捨て(1,000円未満なら1,000円)、税額の100円未満も切捨て(1,000円未満なら1,000円)です。評価額1,000万円なら40,000円です。

    Q. 登録免許税が免除される場合があると聞きました。

    租税特別措置法84条の2の3に2つの免税があります。①相続で土地を取得した人が登記を受ける前に亡くなった場合の、その中間の登記(1項)。②不動産の価額が100万円以下の土地の相続登記・保存登記(2項)。どちらも令和9年3月31日まで、対象は土地だけで建物は入りません。申請書に「租税特別措置法第84条の2の3第○項により非課税」と書かないと適用されません。

    Q. 遺産分割に期限があるというのは本当ですか?

    本当です。民法904条の3が、相続開始から10年を過ぎた後の遺産分割には特別受益(903条)・904条・寄与分(904条の2)を適用しないと定めています(令和5年4月1日施行)。すでに10年を過ぎている古い相続については、改正法附則3条が「相続開始から十年を経過する時又は施行の時から五年を経過する時のいずれか遅い時まで」と読み替えています。日付が効いてくるなら専門家に確認してください。

    Q. 戸籍は広域交付で全部取れますか?

    取れません。広域交付の対象は「磁気ディスクをもつて調製されている」戸籍・除籍だけです(戸籍法120条の2)。祖父・曽祖父の代の手書きの改製原戸籍は対象外で、その市区町村に請求することになります。また請求できるのは本人・配偶者・直系尊属・直系卑属に限られるので、兄弟姉妹の戸籍は取れません。郵送も代理人もできず、窓口に本人が行く必要があります。

    Q. 相続人が行方不明です。

    不在者財産管理人の選任を家庭裁判所に申し立てます(民法25条)。申立先は不在者の従来の住所地・居所地の家庭裁判所で、収入印紙800円と郵便切手のほか、管理費用が不足するおそれがある場合は予納金を求められます。生死が7年間不明なら失踪宣告(民法30条)という選択肢もあり、こちらは官報公告料5,298円がかかります。

    Q. 土地を国に引き取ってもらえますか?

    何十年前の相続で取得した土地でも申請できます。法務省は「数十年前に相続した土地についても、本制度の対象となります」と明記しています。ただし「建物の存する土地」は却下されるので、実家が建っている限り申請できません(同法2条3項1号)。共有の場合は共有者全員での申請が必要です(同条2項)。審査手数料は土地一筆14,000円、負担金は原則20万円です。

    この記事で確認できなかったこと

    • 中間省略登記の要件そのもの。「中間の相続が単独相続であるときは中間の登記を省略できる」という取扱いを明示した法務省・法務局の公表資料、通達、先例の本文を確認できませんでした。遺産分割・相続放棄・特別受益証明の結果として中間が1人になった場合が含まれるかどうかも同様です。
    • 民法904条の3の経過措置について、法務省が「令和◯年◯月◯日まで」と示している公表文言。改正法附則3条の条文(「施行の時から五年を経過する時」)は確認しましたが、法務省側の日付の明示は見つけられませんでした。
    • 平成29年度(22.2%)より新しい年度の、所有者不明土地の割合。国土交通省のサイトで令和年度の数値を確認できませんでした。
    • 改製原戸籍の手数料750円の条文上の根拠。地方公共団体の手数料の標準に関する政令1条8号は「戸籍の謄本・抄本450円」「除かれた戸籍の謄本・抄本750円」までしか定めておらず、改製原戸籍がどちらに含まれるかの文言は確認できませんでした。
    • 相続土地国庫帰属制度の負担金の、面積による算定式の具体的な数値。原則20万円までは確認しました。
    • 法定相続情報一覧図を被相続人ごとに作成するのかどうか。不動産登記規則247条の条文構造からの読み取りにとどまり、法務局の明示的な記載は確認していません。

    まとめ

    1. ★祖父名義のままの実家も相続登記の義務の対象で、期限は2027年3月31日です。改正法附則5条6項が施行日前の相続にも適用すると定めています。過料は10万円以下(不動産登記法164条1項)。
    2. 2026年4月1日からは住所変更登記も義務になります(不動産登記法76条の5・2年以内・過料5万円以下)。
    3. 登記簿上で所有者の所在が確認できない土地は20.1%、その66.7%が相続登記の未了です(国土交通省・平成28年度地籍調査)。
    4. 直系卑属の代襲相続には世代の制限がありません(民法887条3項)。兄弟姉妹の代襲は甥・姪までで止まります(889条2項が887条3項を準用していないため)。
    5. 登録免許税は不動産の価額の0.4%。何件の登記になるかで総額が変わりますが、中間省略の要件は当サイトでは確認できませんでした。法務局の登記手続案内か司法書士に確認してください。
    6. ★数次相続のための免税措置があります(租税特別措置法84条の2の3第1項)。令和9年3月31日まで、土地のみ。申請書に条項を書かないと適用されません。
    7. 間に合わないなら相続人申告登記です(不動産登記法76条の3)。1人で、無料でできて、申請義務を果たしたものとみなされます。ただし持分は登記されず、売却はできません。
    8. 遺産分割にも10年の期限ができました(民法904条の3)。古い相続には、施行時から5年という経過措置が置かれています(改正法附則3条)。
    9. 広域交付では、コンピュータ化されていない戸籍と兄弟姉妹の戸籍が取れません(戸籍法120条の2・10条1項)。数次相続でいちばん手間がかかるのが、まさにこの2つです。
    10. 国庫帰属は何十年前の相続でも申請できますが、建物が建っていると却下されます(同法2条3項1号)。共有なら全員での申請が必要です。

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  • 配偶者居住権を設定すると、実家は売れなくなります|評価の出し方と、消すときの贈与税

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    父が亡くなった。実家には母が住み続ける。建物と土地の名義は子にして、母には「住み続ける権利」だけを渡す。そうすれば母の相続財産が減るから、母が亡くなったときの相続税も軽くなる——。

    令和2年4月1日から使えるようになった配偶者居住権は、たいていこう説明されます。その説明は間違っていません。ただ、同じ制度のもう半分がほとんど語られません。

    配偶者居住権を設定した実家は、実質的に売れなくなります。母が施設に入っても、権利は自動では消えません。消すには母の合意が要り、対価を払わずに消すと、建物と土地を持っている子に贈与税がかかります。この記事は、その仕組みを民法・相続税法・国税庁の通達だけで組み立てます。

    結論だけ先に

    • ★配偶者居住権は譲渡できません(民法1032条2項)。登記を備えていれば買主にも対抗できます(民法1031条2項が準用する605条)。つまり、負担のない状態で売るには配偶者に消してもらうしかありません。
    • ★対価を払わずに消すと、建物等の所有者に贈与税がかかります。相続税法基本通達9-13の2が、合意・放棄・所有者の消滅請求による消滅について、「対価を支払わなかったとき、又は著しく低い価額の対価を支払ったとき」は贈与により取得したものとして取り扱うと定めています。
    • 配偶者が亡くなって消滅した場合は、この取扱いはありません。同通達の注が、民法1036条が準用する597条1項・3項と616条の2による消滅(=期間満了・配偶者の死亡・建物の全部滅失)には「上記の取り扱いはないことに留意する」と明記しています。これが「二次相続で課税されない」の根拠です。
    • 登記されるのは建物だけです。不動産登記法3条9号が登記できる権利として挙げているのは「配偶者居住権」で、民法1028条1項はこれを「居住建物」についての権利と定義しています。土地の登記事項証明書を見ても、配偶者居住権の存在は分かりません。

    この記事は e-Gov法令検索の条文、国税庁の法令解釈通達とタックスアンサー、法務省の公表資料だけで書いています。当サイトに税理士・弁護士・司法書士はいません。設定するかどうかの判断は必ず専門家に確認してください。最終確認日:2026年8月25日。

    1. 配偶者居住権とは何か

    民法1028条1項です。

    被相続人の配偶者は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、その居住していた建物(以下「居住建物」という。)の全部について無償で使用及び収益をする権利(以下「配偶者居住権」という。)を取得する。ただし、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっては、この限りでない。
    一 遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき。
    二 配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき。

    項目 内容 条文
    誰が 被相続人の配偶者(法律婚) 民1028①
    何を 建物の全部を無償で使用・収益する権利。一部だけの設定はできない 民1028①
    条件 相続開始の時にその建物に居住していたこと 民1028①
    使えない場合 被相続人が相続開始時に、配偶者以外の者と建物を共有していたとき 民1028①ただし書
    取得の方法 ①遺産分割 ②遺贈 ③家庭裁判所の審判 民1028①・1029
    存続期間 原則は配偶者の終身。協議・遺言・審判で別段の定めができる 民1030
    登記 できる。建物所有者に登記を備えさせる義務がある 民1031①、不登3⑨
    譲渡 できない 民1032②
    増改築・賃貸 建物所有者の承諾が必要 民1032③
    民法1028条〜1032条、不動産登記法3条9号から作成

    「被相続人が配偶者以外の者と共有していた場合は成立しない」は見落とされやすい要件です。二世帯住宅を父と子の共有名義にしていたら、その建物には配偶者居住権を設定できません。

    2. なぜ売れなくなるのか

    3つの条文が積み重なっています。

    ① 配偶者は売れない(民法1032条2項)

    配偶者居住権は、譲渡することができない。

    ② 所有者が売っても、買主は明渡しを求められない(民法1031条2項)

    民法1031条2項が605条を準用しています。605条は「不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その不動産について物権を取得した者その他の第三者に対抗することができる」という条文です。

    つまり、配偶者居住権の登記があれば、建物を買った人に対しても権利を主張できます。買主は、母が住んでいる家を買うことになります。当然、そんな建物を買う人はまずいません。

    ③ 所有者から一方的には消せない

    建物所有者の側から消滅させられるのは、配偶者が用法違反をして、相当の期間を定めた是正の催告に応じなかった場合だけです(民法1032条4項)。普通に住んでいるだけの配偶者に対しては、所有者は何もできません。

    結果として、負担のない状態で売るには配偶者に合意解除か放棄をしてもらうしかありません。そしてそこで税金が出てきます。

    3. 消すときに贈与税がかかる

    相続税法基本通達9-13の2です。長いですが、この記事のいちばん大事なところなので条文どおりに読みます。

    配偶者居住権が、被相続人から配偶者居住権を取得した配偶者と当該配偶者居住権の目的となっている建物の所有者との間の合意若しくは当該配偶者による配偶者居住権の放棄により消滅した場合又は民法第1032条第4項の規定により消滅した場合において、当該建物の所有者又は当該建物の敷地の用に供される土地の所有者が、対価を支払わなかったとき、又は著しく低い価額の対価を支払ったときは、原則として、当該建物等所有者が、その消滅直前に、当該配偶者が有していた当該配偶者居住権の価額に相当する利益又は当該土地を当該配偶者居住権に基づき使用する権利の価額に相当する利益に相当する金額(対価の支払があった場合には、その価額を控除した金額)を、当該配偶者から贈与によって取得したものとして取り扱うものとする。

    母に「もう住まないから権利を放棄してほしい」と頼んで、無償で放棄してもらうと、その分の価値を子が母から贈与されたことになります。

    消滅のしかた 建物等所有者への贈与税 根拠
    配偶者と所有者の合意 対価がなければ課税 相基通9-13の2
    配偶者による放棄 対価がなければ課税 相基通9-13の2
    用法違反による所有者の消滅請求(民1032④) 対価がなければ課税 相基通9-13の2
    配偶者の死亡(民1036→597③) 取扱いなし=課税されない 同通達(注)
    存続期間の満了(民1036→597①) 取扱いなし=課税されない 同通達(注)
    建物の全部滅失等(民1036→616の2) 取扱いなし=課税されない 同通達(注)
    相続税法基本通達9-13の2およびその(注)から作成

    逆に言えば、対価を払えば贈与税は出ません。ただし今度は、対価を受け取った配偶者の側で所得税の問題が起きます。この点について当サイトは一次情報を確認できませんでした。専門家に確認してください。

    4. 施設に入っても、権利は自動では消えません

    民法が定める消滅事由は、次の5つだけです。

    • 配偶者の死亡(民法1036条が準用する597条3項「使用貸借は、借主の死亡によって終了する」)
    • 存続期間の満了(民法1030条、1036条が準用する597条1項)
    • 居住建物の全部滅失等(民法1036条が準用する616条の2)
    • 用法違反等に対する所有者の消滅請求(民法1032条4項)
    • 配偶者が建物の完全な所有権を取得したとき(民法1028条2項の反対解釈)

    この中に「配偶者が住まなくなったこと」はありません。民法1032条1項は「従前の用法に従い」使用収益すべきことを定めていますが、住み続ける義務は課していません。むしろ同条3項は、所有者の承諾があれば第三者に賃貸できることを前提にしています。

    いちばん多い誤解

    「母が施設に入ったら配偶者居住権は消えるから、そのとき売ればいい」——消えません。母が存命である限り権利は残り続け、建物は売れないままです。消したければ合意か放棄が必要で、対価を払わなければ子に贈与税がかかります(相基通9-13の2)。施設の入居一時金のために実家を売る、という将来設計は、配偶者居住権を設定した時点で難しくなります。

    5. 登記されるのは建物だけです

    不動産登記法3条は、登記できる権利を限定列挙しています。所有権・地上権・永小作権・地役権・先取特権・質権・抵当権・賃借権・配偶者居住権・採石権の10種類です。

    そして民法1028条1項は、配偶者居住権を「居住建物」についての権利と定義しています。不動産登記法81条の2が定める登記事項も、居住建物を前提にしています。

    土地について配偶者居住権を登記する規定は、不動産登記法にありません。土地の全部事項証明書だけを見ても、配偶者居住権の存在は分かりません。

    もうひとつ。登記義務は建物所有者にあります(民法1031条1項)が、登記されないまま所有者が第三者に売却してしまうと、配偶者は買主に対抗できません。遺産分割が成立したら、速やかに登記してください。

    6. 相続税評価はどう出すのか

    相続税法23条の2が、4つの価額を定めています。建物と土地が、それぞれ「配偶者の権利」と「所有者の取り分」に割れます。

    評価するもの 計算の考え方 条文
    配偶者居住権 建物の相続税評価額 −(建物の評価額 ×(耐用年数 − 経過年数 − 存続年数)÷(耐用年数 − 経過年数)× 複利現価率) 相法23の2①
    居住建物(所有権部分) 建物の相続税評価額 − 配偶者居住権の価額 相法23の2②
    敷地利用権 土地の相続税評価額 −(土地の評価額 × 複利現価率) 相法23の2③
    居住建物の敷地(所有権部分) 土地の相続税評価額 − 敷地利用権の価額 相法23の2④
    相続税法23条の2。土地の側には耐用年数の要素が入りません。

    耐用年数・経過年数・存続年数・複利現価率

    • 耐用年数:所得税法施行令129条の耐用年数のうち居住建物に係るものを1.5倍した年数(相続税法施行令5条の7第2項)。木造住宅なら22年×1.5=33年です。
    • 経過年数:建築後の経過年数。6か月以上の端数は1年、6か月未満は切捨て
    • 存続年数:終身の場合は配偶者の平均余命(相続税法施行令5条の7第3項1号)。平均余命は厚生労働省の完全生命表によります(相続税法施行規則12条の3)。国税庁のタックスアンサーNo.4666の具体例は「第23回生命表に基づく平均余命12.25年」を使っています。
    • 複利現価率:存続年数に応じた法定利率による複利現価率(相続税法23条の2第1項3号)。法定利率は年3%で、3年ごとに見直されます(民法404条2項・3項)。法務省は、令和8年4月1日から令和11年3月31日までの期の基準割合を年0.4%と告示しており、直近変動期との差が1%未満のため法定利率は3%のまま変わりません。

    国税庁のタックスアンサーNo.4666には具体的な計算例が載っています。耐用年数33年(22年×1.5)、経過年数10年、存続年数12年、複利現価率0.701(端数処理前0.7014)という前提です。計算式そのものは画像で示されているため、実際に数字を当てるときは国税庁の「配偶者居住権等の評価明細書」を使ってください。

    小規模宅地等の特例は敷地利用権にも使えます

    租税特別措置法69条の4第1項が対象とする「宅地等」は「土地又は土地の上に存する権利」と定義されているので、敷地利用権も含まれます。ただし限度面積(特定居住用宅地等なら330㎡)の判定は、敷地の所有権部分と敷地利用権とで、価額の比によって面積を按分します(租税特別措置法施行令40条の2第6項)。

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    一次相続と二次相続を通算して、設定する意味があるか出してもらう

    配偶者居住権の評価は耐用年数・経過年数・平均余命・複利現価率の4つで動きます(相続税法23条の2)。建物が新しいほど、配偶者が若いほど、配偶者居住権の価額は大きくなります。そして本当に見るべきは一次相続と二次相続を通算した税額です。配偶者の税額軽減と小規模宅地等の特例をどう組み合わせるかで結論が変わるので、設定する前に、設定した場合としなかった場合の両方を出してもらってください。ここは相続税を扱う税理士を紹介してもらう窓口で、紹介自体は無料です。

    ①申し込むと、30日以内に電話またはメールで確認の連絡が来ます。知らない番号でも出てください。ここで内容が確認できないと、税理士の紹介そのものが進みません。
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    敷地利用権に小規模宅地等の特例を使う場合、限度面積は価額の比で按分されます(租税特別措置法施行令40条の2第6項)。この点も必ず確認してください。

    7. 二次相続で課税されない、というメリットの正体

    ここが配偶者居住権の最大の利点です。そしてその根拠は、意外にも通達の(注)にあります。

    (注)民法第1036条において準用する同法第597条第1項及び第3項並びに第616条の2の規定により配偶者居住権が消滅した場合には、上記の取り扱いはないことに留意する。

    597条3項は「使用貸借は、借主の死亡によって終了する」です。つまり配偶者が亡くなって配偶者居住権が消滅したときには、9-13の2の贈与課税の取扱いは適用されません。

    そして配偶者居住権は譲渡できず(民法1032条2項)、配偶者の死亡で当然に消滅するので、配偶者の相続財産にもなりません。相続税法にこれを課税対象とみなす規定も置かれていません。

    一次相続(父が死亡) 二次相続(母が死亡)
    母が建物と土地を相続した場合 建物と土地の全額が母の取得財産(配偶者の税額軽減あり) 建物と土地の全額が課税対象
    母が配偶者居住権を取得した場合 母は配偶者居住権+敷地利用権、子は所有権部分 配偶者居住権は消滅し、課税されない
    相続税法基本通達9-13の2およびその(注)、民法1032条2項・1036条から整理。実際の税額は財産構成と基礎控除で変わります。

    これは本物のメリットです。ただし、その代償が「売れない実家」です。相続税の総額と、実家を売れないまま母の存命中ずっと持ち続けるコストを、両方並べて比べてください。

    8. 修繕費と固定資産税は誰が払うのか

    費目 負担する人 条文
    通常の必要費 配偶者 民1034①
    通常の必要費以外の費用 所有者への償還の問題になる 民1034②(583②準用)
    使用収益に必要な修繕 配偶者が「することができる」。しないときは所有者ができる 民1033①②
    修繕が必要になったときの通知 配偶者に通知義務がある 民1033③
    固定資産税の納税義務者 所有者(配偶者居住権者ではない) 地方税法343条
    民法1033条・1034条、地方税法343条から作成

    固定資産税の納税通知は所有者である子に届きます。それが民法1034条1項の「通常の必要費」に当たって最終的に母の負担になるのかどうかは、条文に明記がなく、当サイトでは確認できませんでした。設定する前に、誰がいくら払うのかを家族で決めて書面にしておいてください。

    9. 配偶者短期居住権との違い

    名前が似ていますが、別の制度です。配偶者短期居住権は、遺産分割がまとまるまでのつなぎです。

    配偶者居住権 配偶者短期居住権
    権利の中身 建物全部の使用及び収益 居住していた部分の使用のみ
    範囲 建物の全部 無償で使用していた部分でよい
    期間 原則は終身 遺産分割の確定日か相続開始から6か月の遅いほう
    どうやって発生するか 遺産分割・遺贈・審判 法律上当然に発生する
    登記 できる できない
    相続税の評価 相続税法23条の2で評価する 評価の対象ではない
    譲渡 できない できない
    民法1028条〜1041条、不動産登記法3条9号、相続税法23条の2から作成

    短期のほうは登記できないので、遺産分割の最中に建物が第三者に売られると立場が弱くなります。民法1037条2項は「居住建物取得者は、第三者に対する居住建物の譲渡その他の方法により配偶者の居住建物の使用を妨げてはならない」と定めていますが、譲渡そのものを禁じてはいません。

    10. 設定する前に、実家がいくらなのかを知っておく

    配偶者居住権を設定するかどうかは、次の比較で決まります。

    1. 設定した場合に減る相続税——一次相続と二次相続を通算して出す
    2. 設定しなかった場合に売れる金額——設定した後は事実上売れなくなるので、これが失う選択肢
    3. 母が存命の間、実家を持ち続けるコスト——固定資産税、火災保険、修繕、管理

    ①は税理士に、③は積算すれば出ます。②だけは、設定してしまうと確かめられなくなります。順番として、先に②を押さえてください。

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    設定する前に、いまの実家の金額だけ確かめる

    配偶者居住権を設定すると、実家は実質的に売れなくなります。配偶者は譲渡できず(民法1032条2項)、登記があれば買主にも対抗できるからです(1031条2項→605条)。つまり「売った場合いくらだったのか」は、設定した後では確かめる意味がなくなります。節税額と比べるべき相手はこの金額です。ラクウルは訳あり物件・空き家・共有持分などを全国で買い取っている会社で、自社買取なので仲介手数料はかかりません。

    ①買取価格は、仲介で売れる価格より低くなります。査定額は、売れる価格ではありません。
    ②匿名のAI査定では成果になりません。同社は個人情報の入力が不要な匿名査定も出していますが、実際の金額を知るには連絡先を入れて申し込み、電話かメールでのヒアリングを受ける必要があります。「桁を確かめるだけ」なら匿名査定で足ります。
    ③1世帯で2回以上の申込は無効になります。ご家族が先に申し込んでいないか確認してください。
    ④売却を目的としない問い合わせは対象外です。相場を知りたいだけ、という使い方は想定されていません。
    ⑤運営は株式会社ネクサスプロパティマネジメント(宅地建物取引業免許 国土交通大臣(1)第10311号)。必ず他社の査定と並べて見比べてください。
    ⑥このリンク経由の申込で当サイトは広告収入を受け取りますが、それによってあなたの査定額が下がることはありません。

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    査定を受けたからといって売る義務はありません。配偶者居住権を設定するかどうかを決めるための材料として、金額だけ先に押さえてください。

    よくある質問

    Q. 配偶者居住権を設定した実家は売れますか?

    実質的に売れません。配偶者は譲渡できず(民法1032条2項)、所有者が売っても登記のある配偶者居住権には対抗できません(民法1031条2項が準用する605条)。負担のない状態で売るには、配偶者に合意解除か放棄をしてもらう必要があります。そして対価を払わなければ、所有者に贈与税がかかります(相基通9-13の2)。

    Q. 母が施設に入ったら配偶者居住権は消えますか?

    消えません。民法が定める消滅事由は、配偶者の死亡・存続期間の満了・建物の全部滅失等・用法違反に対する消滅請求・配偶者が完全所有権を取得したとき、の5つです。「住まなくなったこと」は入っていません。むしろ民法1032条3項は、所有者の承諾があれば第三者に賃貸できることを前提にしています。

    Q. 配偶者が亡くなったとき、相続税や贈与税はかかりますか?

    かかりません。相続税法基本通達9-13の2の(注)が、民法1036条が準用する597条3項(借主の死亡による終了)などによって消滅した場合には「上記の取り扱いはないことに留意する」と明記しています。配偶者居住権は譲渡できず、配偶者の死亡で当然に消滅するので、配偶者の相続財産にもなりません。

    Q. 登記しないとどうなりますか?

    第三者に対抗できません。民法1031条1項は建物所有者に登記を備えさせる義務を課していますが、登記がないまま所有者が建物を第三者に売却すると、配偶者は買主に権利を主張できません。遺産分割が成立したら速やかに登記してください。

    Q. 土地にも配偶者居住権は登記されますか?

    されません。不動産登記法3条は登記できる権利を限定列挙しており、土地について配偶者居住権や敷地利用権を登記する規定はありません。民法1028条1項も、配偶者居住権を「居住建物」についての権利と定義しています。土地の登記事項証明書からは、配偶者居住権の存在を読み取れません。

    Q. 建物が父と子の共有名義でも設定できますか?

    できません。民法1028条1項ただし書が「被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっては、この限りでない」と定めています。二世帯住宅を親子の共有名義にしているケースは、この要件で落ちます。

    Q. 建物の一部だけに設定できますか?

    できません。民法1028条1項は「その居住していた建物の全部について」と定めています。1階だけ、居住部分だけ、という設定はできません。

    Q. 配偶者居住権の評価はどうやって出しますか?

    相続税法23条の2で、建物と土地がそれぞれ2つに割れます。配偶者居住権の価額は、建物の相続税評価額から「建物の評価額×(耐用年数−経過年数−存続年数)÷(耐用年数−経過年数)×複利現価率」を引いた額です。耐用年数は法定耐用年数の1.5倍(木造なら22年×1.5=33年)、存続年数は終身なら平均余命、複利現価率は法定利率3%で計算します。国税庁の「配偶者居住権等の評価明細書」を使ってください。

    Q. 小規模宅地等の特例は使えますか?

    敷地利用権にも使えます。租税特別措置法69条の4第1項の「宅地等」は「土地又は土地の上に存する権利」と定義されているからです。ただし限度面積は、敷地の所有権部分と敷地利用権とで価額の比により按分して判定します(租税特別措置法施行令40条の2第6項)。

    Q. 修繕費や固定資産税は誰が払いますか?

    通常の必要費は配偶者の負担です(民法1034条1項)。固定資産税の納税義務者は所有者なので(地方税法343条)、納税通知は所有者に届きます。それが「通常の必要費」として最終的に配偶者の負担になるのかどうかは、条文に明記がなく当サイトでは確認できませんでした。設定前に家族で取り決めて書面にしておいてください。

    Q. 配偶者短期居住権とは何が違いますか?

    短期のほうは、遺産分割がまとまるまでのつなぎです。法律上当然に発生し、期間は遺産分割の確定日か相続開始から6か月の遅いほうまで。権利の中身は「使用」だけで収益権はなく、登記もできません(不動産登記法3条は配偶者短期居住権を挙げていません)。相続税法23条の2の評価対象でもありません。

    この記事で確認できなかったこと

    • 配偶者居住権の設定登記が、実際に年間何件されているか。法務省の登記統計に「配偶者居住権の設定」という区分があることまでは分かりましたが、e-Statの統計表を開けず、件数の実数を確認できませんでした。
    • 死因贈与によって配偶者居住権を取得できるかどうか。民法1028条1項が挙げる取得原因は「遺産の分割」と「遺贈」だけで、1029条の審判を加えても3つです。死因贈与の可否について、一次情報を確認できませんでした。
    • 対価を受け取って配偶者居住権を消滅させた場合の、配偶者側の所得課税。譲渡所得になるのかどうかを示す一次情報を確認できませんでした。
    • 固定資産税が民法1034条1項の「通常の必要費」に含まれるかどうか。納税義務者が所有者であること(地方税法343条)までは確認しましたが、配偶者が最終的に負担すべきかを定めた規定は見当たりませんでした。
    • 相続税法23条の2の適用開始時期(改正法附則)。民法側の施行日が令和2年4月1日であることは法務省の公表資料で確認しましたが、相続税法側の附則の文言は確認していません。
    • タックスアンサーNo.4666に掲載されている計算式の画像の中身。数式が画像で提供されているため、本記事では条文(相続税法23条の2)からの読み取りで説明しています。実際の計算には国税庁の評価明細書を使ってください。

    まとめ

    1. 配偶者居住権は、建物の全部を無償で使用・収益する権利です(民法1028条1項)。被相続人が配偶者以外の者と建物を共有していた場合は成立しません。
    2. ★設定すると実家は実質的に売れなくなります。配偶者は譲渡できず(1032条2項)、登記があれば買主にも対抗できます(1031条2項→605条)。
    3. 消せるのは、合意・放棄・用法違反の消滅請求だけです。そして対価を払わずに消すと、建物等の所有者に贈与税がかかります(相基通9-13の2)。
    4. 母が施設に入っても権利は消えません。民法の消滅事由5つに「住まなくなったこと」は入っていません。
    5. 登記されるのは建物だけです。土地の登記事項証明書には現れません(不動産登記法3条・81条の2)。登記しないと第三者に対抗できません。
    6. 評価は相続税法23条の2で4つに割れます。耐用年数は法定耐用年数の1.5倍、存続年数は平均余命(第23回生命表)、複利現価率は法定利率3%です。
    7. 小規模宅地等の特例は敷地利用権にも使えます。限度面積は価額の比で按分します(措置法施行令40条の2第6項)。
    8. ★配偶者の死亡による消滅には課税されません。これが二次相続対策と言われる理由で、根拠は相基通9-13の2の(注)です。
    9. 通常の必要費は配偶者が負担します(民法1034条1項)。固定資産税の納税義務者は所有者です(地方税法343条)。
    10. 設定する前に、実家がいくらで売れるのかを確かめてください。設定した後は、それを確かめる意味がなくなります。

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  • 限定承認は年637件しか使われていません|相続放棄32万件との差を生む3つの壁

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    親が亡くなった。実家は残っている。ただ、借金がどれだけあるのか分からない。連帯保証をしていたという話も出てきた。相続放棄をすれば借金は引き継がずに済むけれど、実家も手放すことになる。

    そこで出てくるのが限定承認です。「相続で得た財産の限度でだけ借金を払う」という制度で、プラスが残ればそれは相続できる。理屈のうえでは、これ以上ない答えに見えます。

    ところが実際には、限定承認は年間637件しか使われていません。同じ年の相続放棄は323,524件です。この記事は、その差がどこから生まれるのかを、民法・所得税法・司法統計だけで組み立てます。結論から言うと、いちばん効いているのは「知られていないから」ではなく、税金と、相続人全員の同意という2つの壁です。

    結論だけ先に

    • ★限定承認の申述受理は令和7年で637件、相続放棄は323,524件。およそ508件に1件です(司法統計年報 家事編・第2表)。20年前の平成17年は995件で、件数はむしろ減っています。
    • ★最大の落とし穴は税金です。限定承認をすると、被相続人が「相続開始時の時価で譲渡した」ものとみなされます(所得税法59条1項1号)。昔から持っている実家の土地のように含み益があると、亡くなった人に譲渡所得税が発生します。
    • 相続人が複数いるときは、全員が共同でなければ限定承認できません(民法923条)。1人でも反対すれば成立しません。相続放棄が1人でできるのと決定的に違うところです。
    • 期限は「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3か月(民法915条1項)。しかも申述だけでは足りず、その3か月のうちに財産目録を作って家庭裁判所に提出しなければなりません。(民法924条)

    この記事は e-Gov法令検索の条文、裁判所の手続案内と司法統計年報、国税庁の法令解釈通達だけで書いています。当サイトに税理士・弁護士・司法書士はいません。金額の判断は必ず専門家に確認してください。最終確認日:2026年8月25日。

    1. まず数字を見る——限定承認は「使われていない制度」です

    最高裁判所事務総局の司法統計年報(家事編)に、家庭裁判所が1年間に新しく受け付けた事件の数が事件別に載っています。相続の承認・放棄まわりを並べると、こうなります。

    事件(令和7年・全家庭裁判所) 新受件数
    相続の放棄の申述の受理 323,524
    遺産の分割に関する処分 28,029
    相続の承認又は放棄の期間の伸長 1,631
    相続の限定承認の申述の受理 637
    出典:最高裁判所事務総局「令和7年 司法統計年報 3 家事編」第2表(家事審判・調停事件の事件別新受件数―全家庭裁判所)

    相続放棄1件に対して、限定承認は約0.2%。500件に1件です。

    限定承認は、508件に1件です 508件に1件 令和7年 相続放棄 323,524件 限定承認 637件 相続放棄1件に対して、限定承認は約0.2%

    しかも、限定承認は増えていません

    相続放棄は年々増え続けています。ところが限定承認はほぼ横ばい、長い目で見ればむしろ減っています。

    年 限定承認 相続放棄
    平成17年(2005) 995 149,375
    平成30年(2018) 709 215,320
    令和6年(2024) 690 308,753
    令和7年(2025) 637 323,524
    出典:司法統計年報 家事編(各年)。令和6年以前の数値は年報のPDFから読み取ったものです。令和7年の2件は複数回の読み取りで一致を確認しています。

    相続放棄が20年で2.2倍になる一方で、限定承認は3分の2に減りました。「知られていないから使われない」のなら、これだけ相続の話題が増えた20年で少しは増えるはずです。減っているということは、使いにくい理由が制度の中にあるということになります。

    限定承認は、20年で3分の2に減りました 平成17年(2005) 995件 平成30年(2018) 709件 令和6年(2024) 690件 令和7年(2025) 637件 同じ20年で、相続放棄は2.2倍になりました

    2. 限定承認とは何か——条文はたった一文です

    民法922条にこう書いてあります。

    相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができる。

    「承認」です。放棄ではありません。相続人の地位はそのまま残ります。ここが相続放棄との根本的な違いで、実務上は大きな意味を持ちます。

    単純承認 限定承認 相続放棄
    借金の負担 全額 相続財産の限度 なし
    プラスが残ったら もらえる もらえる もらえない
    実家を残せるか 残せる 先買権で残せる場合あり 残せない
    1人でできるか — できない(全員共同) できる
    次順位の相続人へ移るか 移らない 移らない 移る
    家庭裁判所への申述 不要 必要 必要
    財産目録の提出 不要 必要 不要
    官報公告 不要 必要 不要
    みなし譲渡所得税 なし あり なし
    民法915条・921条〜937条、939条、所得税法59条1項1号から作成
    実家を残せるかが、いちばんの違いです 限定承認 財産の限度で払う プラスは残る 全員で共同のみ 目録と官報公告 相続放棄 借金の負担なし プラスも残らない 1人でできる 次順位へ移る 実家を残せるのは限定承認。ただし自己資金が要る

    「次順位に移らない」は、実は大きい

    相続放棄をすると、その人は「初めから相続人とならなかったものとみなされます」(民法939条)。子が全員放棄すれば相続権は親へ、親もいなければ兄弟姉妹へ移ります(民法889条1項)。つまり、自分が放棄したせいで、疎遠だった叔父や叔母のところへ借金の話が飛んでいきます。

    限定承認は「承認」なので、相続人の地位が動きません。親族に迷惑をかけずに済ませたいという場面では、これが選ぶ理由になります。

    3. 壁① 相続人全員でなければできない

    民法923条です。

    相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができる。

    1人でも「面倒だからやらない」と言えば、限定承認は成立しません。相続放棄は各自が単独でできるのと正反対です。

    なお、裁判所の手続案内では申述人を「相続人全員(ただし、相続放棄をした人を除く)」と説明しています。先に放棄した人がいる場合、その人は初めから相続人でなかったことになるので(民法939条)、残りの全員でできることになります。

    連絡が取れない相続人が1人でもいると、その時点で限定承認は事実上使えません。3か月という期限のなかで、所在の分からない相続人について不在者財産管理人の選任まで進めるのは現実的ではないからです。

    4. 壁② 3か月以内に「財産目録」まで作って出す

    民法915条1項が期限を定めています。

    相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。

    起算点は死亡した日ではなく「自己のために相続の開始があったことを知った時」です。そして民法924条が、その3か月で何をするのかを定めています。

    相続人は、限定承認をしようとするときは、第九百十五条第一項の期間内に、相続財産の目録を作成して家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨を申述しなければならない。

    「財産目録を作成して提出し」が3か月の中に入っています。申述書を出すだけでは足りません。裁判所の書式ページには、土地・建物・現金預貯金株式等の遺産目録の様式が用意されています。

    不動産の登記事項証明書、固定資産の評価証明、預貯金の残高証明、借入の残高、保証債務——これを四十九日と葬儀の後始末をしながら3か月で揃えることになります。

    間に合わなければ「単純承認したもの」とみなされる

    民法921条2号は、「相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき」を法定単純承認事由として挙げています。黙って3か月が過ぎれば、借金を全額引き継いだことになります。

    間に合いそうにないときは、期間の伸長を家庭裁判所に申し立てられます(民法915条1項ただし書)。令和7年の新受件数は1,631件でした。

    5. 壁③ 実家に含み益があると、亡くなった人に譲渡所得税がかかる

    ここがこの制度のいちばん高い壁です。所得税法59条1項1号を読みます。

    次に掲げる事由により居住者の有する山林(事業所得の基因となるものを除く。)又は譲渡所得の基因となる資産の移転があつた場合には、その者の山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その事由が生じた時に、その時における価額に相当する金額により、これらの資産の譲渡があつたものとみなす。
    一 贈与(…)又は相続(限定承認に係るものに限る。)若しくは遺贈(…及び個人に対する包括遺贈のうち限定承認に係るものに限る。)

    「相続(限定承認に係るものに限る)」——限定承認をした瞬間に、被相続人がその時の時価で全部売ったものとみなされます。

    誰の所得になるかも条文に書いてあります。「その者の……譲渡所得の金額……の計算については」の「その者」は、資産を持っていた人=被相続人です。つまり亡くなった人の所得税として計算し、準確定申告で申告することになります。

    なぜ実家で問題になるのか

    譲渡所得は「売った金額 − 取得費 − 譲渡費用」で計算します。昭和の時代に買った土地は、取得費が今の時価よりはるかに低いのが普通です。買ったときの契約書が残っていなければ、収入金額の5%を取得費とみなす扱い(概算取得費)になり、差額=ほぼ全額が譲渡所得になります。

    状況 限定承認をしたときのみなし譲渡
    実家が預貯金だけ 譲渡所得の基因となる資産がないので、問題は起きにくい
    実家の土地を昭和に取得・書類あり 時価と取得費の差額が譲渡所得に
    実家の土地を昭和に取得・契約書なし 概算取得費5%になり、時価のほぼ95%が譲渡所得に
    実家を最近買っていて含み損 譲渡益が出ないので、この論点は生じない
    所得税法59条1項1号の構造から整理。個別の税額は必ず税理士に確認してください。

    ただし、その税金も「相続財産の限度」です

    ここは正確に書きます。国税通則法5条1項の後段です。

    この場合において、相続人が限定承認をしたときは、その相続人は、相続によつて得た財産の限度においてのみその国税を納付する責めに任ずる。

    みなし譲渡所得税は被相続人に課される国税なので、限定承認をした相続人は相続財産の限度でしか払う責任を負いません。自分の貯金から持ち出しになるわけではありません。

    ただし——相続財産から先に持っていかれます。債権者に配る前に税金が引かれるので、「プラスが残るはずだったのに、みなし譲渡所得税で消えた」という結果はふつうに起こります。限定承認を検討するときに、いちばん最初に試算すべき数字です。

    限定承認には、3つの壁があります 壁① 相続人全員が共同 民法923条。1人でも反対すれば 1人でできない 壁② 3か月で財産目録 民法915条1項・924条 申述だけでは不可 壁③ みなし譲渡所得税 所得税法59条1項1号 亡くなった人に 間に合わなければ、単純承認したものとみなされます

    相続人の取得費は「相続時の時価」になる

    被相続人の側で含み益を清算した以上、相続人が同じ含み益を二重に課税されることはありません。所得税法60条1項1号が「相続(限定承認に係るものを除く。)」と明記して通常の取得費引継ぎから外し、代わりに同条4項が置かれています。

    居住者が前条第一項第一号に掲げる贈与、相続又は遺贈により取得した資産を譲渡した場合における……譲渡所得の金額……の計算については、その者が当該資産をその取得の時における価額に相当する金額により取得したものとみなす。

    つまり、後で実家を売るときの取得費は「相続開始時の時価」になります。そこから値上がりしなければ、相続人側の譲渡所得は出ません。限定承認の数少ない有利な点です。

    準確定申告の期限は4か月

    所得税法125条1項が、「その相続の開始があつたことを知つた日の翌日から四月を経過した日の前日」までの申告を義務づけています。

    ここで日程が衝突します。限定承認の申述は3か月以内、官報公告は限定承認後5日以内で期間は2か月以上、そして準確定申告は4か月以内。公告の2か月が明ける前に、準確定申告の期限が来ます。財産の全体像が確定しないまま税額を出すことになるので、税理士の関与なしに走り切るのは相当に厳しい設計です。

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    限定承認をした瞬間に、被相続人がその時の時価で譲渡したものとみなされます(所得税法59条1項1号)。昭和に取得した土地で契約書が残っていなければ、概算取得費5%になり、時価のほぼ全額が譲渡所得になります。そのうえ準確定申告の期限は4か月(所得税法125条1項)で、官報公告の2か月が明ける前に来ます。3か月の熟慮期間のうちに、この数字を出せる人を確保しておく必要があります。ここは相続税を扱う税理士を紹介してもらう窓口で、紹介自体は無料です。

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    3,000万円特別控除が使えるかどうかも、当サイトでは判断できませんでした。措置法35条2項1号が配偶者・直系血族等への譲渡を除外しているためです。そこも含めて聞いてください。

    6. 手続の流れと日程

    時期 やること 条文
    知った時から3か月以内 財産目録を作成し、家庭裁判所に提出して申述 民915①・924
    受理後 相続人が複数なら、家裁が相続人の中から相続財産清算人を選任 民936①
    限定承認後5日以内
    (清算人がいる場合は選任後10日以内)
    すべての相続債権者・受遺者に対して官報で公告。期間は2か月を下れない 民927①④・936③
    同時期 知れている債権者には、別に個別の催告をする 民927③
    知った日の翌日から4か月以内 被相続人の準確定申告(みなし譲渡所得を含む) 所法125①
    公告期間中 弁済を拒める(先に払ってはいけない) 民928
    公告期間の満了後 債権額の割合に応じて弁済。優先権のある債権者を害さない 民929
    債権者への弁済後 受遺者に弁済 民931
    換価が必要なとき 競売に付す。ただし鑑定人の評価額を弁済すれば競売を止められる 民932
    民法915条〜937条、所得税法125条1項から作成

    公告は「官報に掲載してする」と条文に書かれています(民法927条4項)。ウェブサイトや新聞広告では代えられません。

    さらに、公告だけでは足りません。民法927条3項が「知れている相続債権者及び受遺者には、各別にその申出の催告をしなければならない」と定めています。把握している金融機関やカード会社には、公告とは別に個別に通知が要ります。

    7. それでも限定承認を選ぶ理由——実家を残せる「先買権」

    限定承認で相続財産を換価するときは、原則として競売です。ただし民法932条にただし書があります。

    前三条の規定に従って弁済をするにつき相続財産を売却する必要があるときは、限定承認者は、これを競売に付さなければならない。ただし、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従い相続財産の全部又は一部の価額を弁済して、その競売を止めることができる。

    条文に「先買権」という言葉はありませんが、実務でそう呼ばれているのがこれです。鑑定人が付けた評価額を自分のお金で払えば、実家を競売にかけずに手元に残せます。

    この鑑定人の選任は、限定承認の申述を受理した家庭裁判所に申し立てます(家事事件手続法201条2項)。

    ただし、自己資金が要ります

    先買権は「無償で残せる制度」ではありません。鑑定人の評価額を、相続財産ではなく自分の財布から払う必要があります。そのお金がなければ、実家は競売に流れます。

    そして、債権者や受遺者は自己の費用で競売または鑑定に参加できます(民法933条)。評価が一方的に安くなることを防ぐ仕組みですが、逆に言えば、鑑定額が想定より高く出れば手が届かなくなるということでもあります。

    順番として、先に「いくらなのか」を知っておく

    限定承認を選ぶかどうかは、次の3つの数字が揃わないと決められません。

    1. 実家の時価——みなし譲渡所得の計算の起点であり、先買権で払う額の目安でもある
    2. 債務の総額——限定承認をする意味があるかどうかの分岐点
    3. 取得費——契約書が残っているかどうかで、譲渡所得が桁で変わる

    ①だけは、3か月の期限が来る前に、誰にも相談せず自分で確かめられます。

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    限定承認を選ぶかどうかは、実家の時価・債務の総額・取得費の3つが揃わないと決められません。このうち実家の時価だけは、3か月の期限が来る前に自分で確かめられます。みなし譲渡所得の起点であり、先買権(民法932条ただし書)で競売を止めるときに払う額の目安にもなります。ラクウルは訳あり物件・空き家・共有持分などを全国で買い取っている会社で、自社買取なので仲介手数料はかかりません。

    ①買取価格は、仲介で売れる価格より低くなります。査定額は、売れる価格ではありません。
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    ③1世帯で2回以上の申込は無効になります。ご家族が先に申し込んでいないか確認してください。
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    査定を受けることは相続財産の「処分」ではありません。ただし、実際に売る契約をすれば法定単純承認(民法921条1号)に当たり得ます。限定承認を検討している間は、金額を知るところで止めてください。

    8. 手続を間違えると、自分の財産で払うことになる

    限定承認は「申述が受理されたら安全」という制度ではありません。受理された後にも、単純承認扱いに戻る事由と、損害賠償の規定が置かれています。

    ① 財産を処分すると単純承認とみなされる(民法921条1号)

    相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。

    相続財産の預金を解約して葬儀費用や生活費に充てる、実家の家財を売る、車を名義変更して乗る——このあたりは「処分」に当たりうる行為です。限定承認や相続放棄を検討している間は、相続財産に手をつけないでください。

    ② 限定承認の後でも、隠せば単純承認(民法921条3号)

    相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。

    財産目録にわざと書かなかった財産があれば、限定承認の効力は失われます。

    共同相続人の1人がこれをやった場合は民法937条が適用され、その人だけが、弁済しきれなかった債権額について相続分に応じて責任を負います。他の相続人まで巻き込まれるわけではありませんが、身内の1人が隠したことで自分が責任を負う立場になり得るということです。

    ③ 公告を怠る・順番を間違えると損害賠償(民法934条1項)

    限定承認者は、第九百二十七条の公告若しくは催告をすることを怠り、又は同条第一項の期間内に相続債権者若しくは受遺者に弁済をしたことによって他の相続債権者若しくは受遺者に弁済をすることができなくなったときは、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

    この賠償責任には「相続財産の限度」という制限がありません。手続を誤ると、限定承認をしたのに自分の財産から払うことになります。専門家に頼まずに完走するのが難しい最大の理由がここです。

    9. 費用

    項目 金額 備考
    収入印紙 800円 裁判所の案内に「1人につき」の記載はなく、被相続人1人につき800円と説明する家裁の資料があります。相続放棄が「申述人1人につき800円」なのと違います
    連絡用の郵便切手 裁判所により異なる 相続人の人数に連動して枚数が決まる運用
    戸籍等の取得費 1通450円/除籍・原戸籍750円 被相続人の出生から死亡までの全戸籍が必要
    官報公告の掲載料 当サイトでは実額を確認できませんでした 官報販売所の一般料金は行公告3,589円/行(税別)、枠公告37,166円/枠(税別)。限定承認の公告が何行・何枠になるかは不明
    鑑定人の報酬 個別 先買権(民932ただし書)を使う場合。予納が必要
    専門家への依頼 個別 手続の性質上、依頼するのが一般的とされます
    裁判所「相続の限定承認の申述」、地方公共団体の手数料の標準に関する政令1条8号、官報販売所の公表料金表から作成。実額は必ず申述先の家庭裁判所に確認してください。

    10. 限定承認を選ぶ前に、確かめること

    限定承認が合理的なのは、次の3つが揃っているときです。

    • 債務の総額が分からない。特に保証債務や、廃業した事業の負債。後から出てきた債権者に対しては、公告期間内に申出をせず限定承認者に知れなかった場合、残余財産についてのみ権利行使できるという遮断効があります(民法935条)
    • どうしても残したい実家がある。先買権(民法932条ただし書)で競売を止められる可能性があります
    • 相続放棄をすると、疎遠な親族に相続権が移ってしまう。限定承認なら次順位に移りません

    逆に、債務が明らかに財産を上回っていて、実家にも未練がないのであれば、相続放棄のほうが速くて安く、失敗しにくい選択です。年32万件という数字は、多くの人にとってそれが正解だったということでもあります。

    3か月しかありません。順番を間違えないでください

    ①相続財産に手をつけない(民法921条1号)。②債務の洗い出しを最優先。③実家に含み益があるなら、まず税理士にみなし譲渡所得を試算してもらう。④間に合わないと判断したら、3か月が来る前に期間伸長を申し立てる(民法915条1項ただし書)。黙って3か月が過ぎると、法定単純承認で借金を全額引き継ぎます。

    よくある質問

    Q. 限定承認は1人でもできますか?

    相続人が1人しかいないならできます。複数いるなら、全員が共同でなければできません(民法923条)。1人でも反対すれば成立しません。ただし、すでに相続放棄をした人は「初めから相続人とならなかったもの」とみなされる(民法939条)ので、残りの全員でできます。

    Q. 期限の3か月はいつから数えますか?

    「自己のために相続の開始があったことを知った時」からです(民法915条1項)。死亡日ではありません。先順位の相続人が全員放棄したために自分が相続人になった場合など、知った時期が後ろにずれることがあります。間に合わないときは家庭裁判所に期間伸長を申し立てられます(令和7年の新受件数1,631件)。

    Q. 3か月以内に申述書を出せば、財産目録は後からでもいいですか?

    いけません。民法924条は「第九百十五条第一項の期間内に、相続財産の目録を作成して家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨を申述しなければならない」と定めています。財産目録の提出も3か月の中です。裁判所の書式ページに土地・建物・現金預貯金株式等の遺産目録の様式があります。

    Q. 限定承認をすると本当に税金がかかるのですか?

    含み益のある資産があればかかります。所得税法59条1項1号が「相続(限定承認に係るものに限る)」による資産の移転を、その時の時価で譲渡があったものとみなすと定めています。課税されるのは被相続人で、準確定申告で申告します。預貯金だけなら譲渡所得の基因となる資産がないので、この問題は起きにくいです。

    Q. そのみなし譲渡所得税は、自分の貯金から払うのですか?

    いいえ。相続によって得た財産の限度でだけ払う責任を負います(国税通則法5条1項後段)。ただし相続財産から先に引かれるので、「プラスが残るはずだったのに税金で消えた」ということは起こります。限定承認を決める前に試算しておくべき数字です。

    Q. 居住用財産の3,000万円特別控除は使えますか?

    当サイトでは判断できませんでした。租税特別措置法35条2項1号は、「配偶者その他政令で定める特別の関係がある者」に対する譲渡を適用対象から外しており、その中身は配偶者と直系血族等です(措置法施行令23条2項・20条の3第1項1号)。限定承認によるみなし譲渡が誰への譲渡と評価されるのかを明示した通達・質疑応答は、国税庁のサイトで見つけられませんでした。税理士に確認してください。

    Q. 相続人が後で実家を売ったら、また税金がかかりますか?

    取得費が相続開始時の時価になるので、そこから値上がりしていなければ譲渡所得は出ません。所得税法60条1項1号が限定承認を通常の取得費引継ぎから外し、同条4項が「その取得の時における価額に相当する金額により取得したものとみなす」と定めています。被相続人の側で一度清算しているので、二重にはなりません。

    Q. 官報公告は必ず要りますか?

    要ります。民法927条1項が「限定承認をした後五日以内」の公告を義務づけ、同条4項が「前項の規定による公告は、官報に掲載してする」と定めています。期間は2か月を下れません。相続人が複数で相続財産清算人が選任された場合は、「選任があった後十日以内」に読み替えられます。(民法936条3項)知れている債権者には、公告とは別に個別の催告も必要です(民法927条3項)。

    Q. 実家を競売にかけずに残せますか?

    民法932条ただし書の先買権を使えば残せる場合があります。家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って価額を弁済すれば、競売を止められます。その弁済は自己資金です。鑑定人の選任は、限定承認の申述を受理した家庭裁判所に申し立てます(家事事件手続法201条2項)。

    Q. 手続を間違えると何が起きますか?

    自分の財産から払うことになります。公告・催告を怠ったり、公告期間内に一部の債権者に払ってしまって他の債権者に払えなくなったりすると、損害賠償責任を負います(民法934条1項)。この責任に「相続財産の限度」という制限はありません。財産を隠したり目録に悪意で書かなかったりすれば、限定承認そのものが単純承認扱いになります(民法921条3号)。

    Q. 結局、相続放棄と限定承認のどちらを選べばいいですか?

    債務が明らかに財産を上回り、実家にも未練がないなら相続放棄です。速く、安く、1人で完結します。限定承認が生きるのは「債務の総額が分からない」「どうしても残したい実家がある」「放棄すると疎遠な親族に相続権が移る」のいずれかに当てはまるときです。そのうえで、相続人全員の同意と、みなし譲渡所得税の試算という2つの関門を越えられるかで決まります。

    この記事で確認できなかったこと

    • 居住用財産の3,000万円特別控除(措置法35条)が、限定承認によるみなし譲渡に適用できるかどうか。措置法35条2項1号が配偶者・直系血族等への譲渡を除外していることは条文で確認しましたが、限定承認のみなし譲渡における「譲渡の相手方」の評価を示した通達・質疑応答は、国税庁のサイトで見つけられませんでした。
    • みなし譲渡所得税が相続税の債務控除の対象になるかどうかを、直接示した資料。相続税法13条1項1号と14条2項が「被相続人に係る所得税」を控除対象の公租公課に含めていることまでは確認しました。
    • 限定承認の官報公告の掲載料の実額。内閣府と官報の公式サイトで料金表を確認できませんでした。官報販売所が公表している一般料金(行公告3,589円/行・税別、枠公告37,166円/枠・税別)までしか分かっていません。実際の公告が何行・何枠になるかも不明です。
    • 連絡用の郵便切手の現行の実額。裁判所の案内は「裁判所ごとに異なる」としか書いていません。
    • 限定承認の申述が却下される割合と、受理までの審理期間。司法統計の該当表を確認していません。
    • 司法統計の令和6年以前の数値の末尾の桁。年報PDFからの読み取りのため、令和7年(限定承認637/相続放棄323,524)以外は誤差の可能性があります。数字を引用するときは原典に当たってください。

    まとめ

    1. 限定承認は令和7年で637件、相続放棄は323,524件。約508件に1件です。20年前は995件で、件数は減っています(司法統計年報 家事編・第2表)。
    2. 限定承認は「承認」であって放棄ではありません(民法922条)。相続人の地位が残るので、放棄と違って次順位の親族に相続権が移りません。
    3. 相続人が複数なら、全員が共同でなければできません(民法923条)。連絡の取れない相続人が1人でもいると、3か月では実質的に無理です。
    4. 3か月の中に財産目録の作成と提出が入ります(民法915条1項・924条)。黙って過ぎれば法定単純承認で借金を全額引き継ぎます(921条2号)。
    5. ★最大の壁は税金です。限定承認をすると被相続人がその時の時価で譲渡したものとみなされ(所得税法59条1項1号)、含み益のある実家があると譲渡所得税が発生します。準確定申告は4か月以内(所得税法125条1項)で、官報公告の2か月が明ける前に期限が来ます。
    6. その税金は相続財産の限度でしか負担しません(国税通則法5条1項後段)。ただし相続財産から先に引かれます。
    7. 相続人のその後の取得費は「相続開始時の時価」になります(所得税法60条4項)。ここは限定承認の有利な点です。
    8. 実家は先買権で残せる場合があります(民法932条ただし書)。鑑定人の評価額を自己資金で払うことが条件です。
    9. 手続を誤ると、限定承認をしたのに自分の財産で賠償することになります(民法934条1項)。この責任に相続財産の限度はありません。
    10. 迷ったら、まず「相続財産に手をつけない」こと。処分は法定単純承認事由です(民法921条1号)。そのうえで実家の時価と債務総額を先に押さえてください。

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