【PR】本ページには広告(PR)を含みます。当サイトはこのリンク経由の申込で広告料を受け取りますが、記事の内容や紹介する順番がそれによって変わることはありません。条文はe-Gov法令検索で全文を開いて確認し、手続きは裁判所の公式ページ、件数は最高裁判所の司法統計年報に当たりました(いずれも2026年8月19日確認)。
最終更新:2026年8月19日
結論だけ先に
- 相続開始から10年を過ぎると、特別受益と寄与分は主張できなくなります(民法904条の3)。「親の金で家を建てた」「自分だけが介護した」は、10年で言えなくなります。
- 止める方法は1つだけ。10年経過前に家庭裁判所へ遺産分割の請求をすることです。兄弟に手紙を出しても、内容証明を送っても止まりません。
- 調停が決裂しても終わりではありません。遺産分割の調停が不成立になると、申立ての時にさかのぼって審判の申立てがあったものとみなされ、自動的に審判へ移ります(家事事件手続法272条4項)。改めて申し立てる必要はありません。
- 調停の費用は被相続人1人につき収入印紙1,200円分と連絡用の郵便切手。弁護士がいなくても申し立てられます。
- 介護したのが子の配偶者(嫁・婿)なら、寄与分ではなく特別寄与料です。ただし相続開始と相続人を知った時から6か月、相続開始から1年で請求できなくなります(民法1050条)。
根拠と出典は本文にあります。条文番号はすべてe-Gov法令検索で全文を確認したものです。
揉めているのはあなたの家だけではない、けれど多数派でもありません
最初に、事実だけを置きます。最高裁判所の司法統計年報(令和7年・家事編)の第2表「家事審判・調停事件の事件別新受件数―全家庭裁判所」によると、「遺産の分割に関する処分など」で新しく家庭裁判所に持ち込まれた件数は4,454件でした。
同じ資料の系統で、相続放棄の申述受理は令和6年に308,753件あります。母集団も年も違うので単純な比較はできませんが、桁が2つ違います。実家の相続で家庭裁判所まで行く人は、相続そのものの件数から見ればごく一部です。
| 手続き | 件数 | 出典 |
|---|---|---|
| 遺産の分割に関する処分など(新受) | 4,454件 | 最高裁判所 司法統計年報 令和7年 家事編 第2表 |
| 相続放棄の申述受理 | 308,753件 | 最高裁判所 司法統計(令和6年) |
この数字を出したのは、安心してもらうためではありません。「揉めるのはうちだけ」と思って抱え込む必要はないが、「みんな揉めている」わけでもないということです。多くの家は、揉める前に決まっています。決まっている家との違いは、性格でも仲の良さでもなく、数字と期限を先に共有したかどうかであることが多い、というのがこの記事の立場です。
いちばん先に知るべきは「10年」です
民法904条の3が、実家の相続の話し合いを根本から変えました。近年の改正で新設された条文です。当サイトは施行日そのものを附則まで当たって確認していないので、日付は書きません。条文はこうです。
第九百四条の三 前三条の規定は、相続開始の時から十年を経過した後にする遺産の分割については、適用しない。ただし、次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。
一 相続開始の時から十年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。
二 相続開始の時から始まる十年の期間の満了前六箇月以内の間に、遺産の分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から六箇月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。出典:e-Gov法令検索「民法」(2026年8月19日確認)
「前三条」とは、903条(特別受益)、904条(贈与の評価)、904条の2(寄与分)です。この3つが、10年を過ぎると使えなくなります。
| 10年を過ぎると言えなくなること | 条文 | ありがちな主張 |
|---|---|---|
| 特別受益 | 903条 | 「兄は家を建てるとき親から1,000万円もらった。その分を差し引くべきだ」 |
| 贈与の評価 | 904条 | 「もらった土地を売って使ってしまっても、もらった時の価値で計算すべきだ」 |
| 寄与分 | 904条の2 | 「10年間、私だけが親を介護した。その分を上乗せしてほしい」 |
止める方法は、条文に1つしか書かれていません。10年を経過する前に、家庭裁判所に遺産の分割の請求をすることです。兄弟に手紙を出しても、内容証明を送っても、話し合いの記録を残しても止まりません。裁判所に対して請求をする必要があります。
逆に言うと、10年が近づいているのに話し合いが動かないなら、調停を申し立てること自体が「権利を守る手続き」になります。ここは「揉めたくないから我慢する」が、そのまま権利を手放すことになる場面です。
税のほうにも、別の3年が走っています。申告期限から3年で小規模宅地等の特例が消え、その直後の2か月に出す書類があります。遺産分割がまとまらないときの期限一覧にまとめました。調停を申し立てていること自体が、その申請の添付書類になります。
なお、10年の起算点は「相続開始の時」=親が亡くなった日です。あなたが相続を知った日ではありません。相続放棄の3か月(民法915条1項)が「自己のために相続の開始があったことを知った時から」であるのとは、起算点の考え方が違います。混同しないでください。放棄の期限については実家が負動産だったら相続放棄すべきかにまとめてあります。
「特別受益」と「寄与分」は、条文の書き方がまったく違います
この2つは並べて語られますが、条文を読むと性格が違います。
特別受益(903条1項)は、対象が限定列挙です。「遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者」。つまり、結婚のための資金、養子縁組のための資金、そして生活の元手になるような贈与です。小遣いや誕生日のプレゼントは入りません。
計算は、贈与の額を相続財産に足し戻して(持戻し)、その人の相続分から差し引く方式です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 亡くなった時点の遺産(実家3,000万円+預金1,000万円) | 4,000万円 |
| 兄が家の建築資金として受けた贈与(特別受益) | +1,000万円 |
| みなし相続財産 | 5,000万円 |
| 兄弟2人の法定相続分(各2分の1/900条1号・4号) | 各2,500万円 |
| 兄の取り分(2,500万円 − 贈与1,000万円) | 1,500万円 |
| 弟の取り分 | 2,500万円 |
この計算には例外が2つ、条文に書いてあります。
- 903条3項——「被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う」。親が「これは持ち戻さなくてよい」と表示していれば、足し戻しません(持戻し免除の意思表示)。
- 903条4項——婚姻期間が20年以上の夫婦の一方が、他方に居住用の建物又はその敷地を遺贈・贈与したときは、持戻し免除の意思表示があったものと推定されます。父が母に実家を生前贈与していたケースがこれに当たります。
一方の寄与分(904条の2第1項)は、対象が限定列挙ではありません。「被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者」。
読みどころは「財産の維持又は増加について」です。気持ちの重さではなく、財産にいくら効いたかで測る建て付けになっています。介護でヘルパー代が浮いた、実家の修繕費を出した、という形で財産に跳ね返ったものが対象になります。そして「特別の」寄与なので、親子として通常期待される程度を超えている必要がある、という建て付けです。
上限も条文にあります。904条の2第3項——「寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない」。遺産の総額を超える寄与分は認められません。
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分ける前に、更地にしたときの数字も出しておく
寄与分も特別受益も、遺産の総額が決まらないと計算できません。建物付きのままか、壊して更地にするかで、その総額は変わります。両方の数字を持って話し合いに臨むほうが、結局は早く終わります。
①同社サイトには「ご利用は無料。ご成約後の請求も一切ございません」と書かれています。
②同社は「契約まで、業者からご連絡がいくことはございません」と説明しています。
③申し込みには物件の情報と写真が要ります。遠方の実家で写真が手元にないなら、次に帰ったときに外観と傷んでいる箇所を撮っておいてください。
④解体する予定がないなら申し込まないでください。重複した申込や、連絡先が実在しない申込は無効と明記されています。
⑤1社の見積りだけで決めないでください。地元の解体業者にも自分で1社あたって、金額の桁が合っているかを確かめてください。
⑥解体補助金を使う予定があるなら、契約・着工の前に自治体へ申請してください。着工後の申請は原則として通りません。
見積書のどこを見るかは、この記事の見積書の章に戻って確認してください。お住まいの自治体の制度を先に調べておくと、受付期間に間に合うかどうかも一緒に分かります。
寄与分は、単独では主張できません
ここは見落とされがちな条文です。
第九百四条の二 4 第二項の請求は、第九百七条第二項の規定による請求があった場合又は第九百十条に規定する場合にすることができる。
出典:e-Gov法令検索「民法」(2026年8月19日確認)
907条2項の請求とは、遺産分割を家庭裁判所に請求することです。つまり「寄与分だけを裁判所に決めてもらう」ことはできません。遺産分割の調停や審判が動いているという土台があって、はじめて寄与分を定める請求ができます。
実務上の意味は単純です。「介護の分を認めてほしい」と言い続けても、遺産分割の手続きを起こさなければ、裁判所は取り合いようがありません。そして10年が過ぎれば、その主張自体ができなくなります(904条の3)。寄与分を本気で主張するつもりなら、遺産分割の申立てから逃げられないという構造です。
介護したのが「嫁」だったときは、別の条文です
寄与分(904条の2)の主語は「共同相続人中に」です。相続人でない人は使えません。長男の妻が義父母を介護しても、彼女は相続人ではないので寄与分を主張できません。
民法1050条(特別の寄与)が、この穴を埋めました。
第千五十条 被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族(相続人、相続の放棄をした者及び第八百九十一条の規定に該当し又は廃除によってその相続権を失った者を除く。…)は、相続の開始後、相続人に対し、特別寄与者の寄与に応じた額の金銭…の支払を請求することができる。
出典:e-Gov法令検索「民法」(2026年8月19日確認)
| 寄与分(904条の2) | 特別寄与料(1050条) | |
|---|---|---|
| 使える人 | 共同相続人 | 被相続人の親族(相続人・放棄した者・欠格・廃除を除く) |
| 対象になる行為 | 事業の労務提供/財産上の給付/療養看護その他 | 無償の療養看護その他の労務の提供 |
| 請求する相手 | 遺産分割の手続きの中 | 相続人に対して直接 |
| 期限 | 10年(904条の3) | 相続開始及び相続人を知った時から6か月/相続開始から1年 |
| 上限 | 遺産の価額から遺贈を控除した残額 | 同左(1050条4項) |
| 相続人が複数のとき | — | 各相続人が相続分に応じて負担(1050条5項) |
期限の短さが決定的です。6か月です。四十九日を終え、遺品整理をして、ようやく実家をどうするかという話が始まる頃には、もう半分が過ぎています。介護をしたのが相続人でない家族なら、他の何よりも先にこの話をしてください。
また、条文は「無償で」と書いています。生活費をもらっていた、お礼として現金を受け取っていた、という事情があると、そこが争点になります。逆に、無償で介護していたなら、介護日誌・領収書・通院の付き添い記録が、そのまま証拠になります。捨てないでください。
話し合いの前に、数字を1枚にする
兄弟の話し合いが止まる原因は、感情だけとはかぎりません。よくあるのは「実家がいくらなのか、誰も知らないこと」です。金額が分からないまま「兄さんが住めばいい」「私は現金がほしい」と言い合っても、どちらが得なのか誰にも判定できません。
先に用意する数字は4つです。全部、無料か数百円で分かります。
| 調べるもの | やり方 | 費用と時間 |
|---|---|---|
| 実家の売却相場 | 固定資産税の課税明細書、路線価、成約事例から自分で出す | 0円/30分。実家の売却相場を自分で調べる3つの方法 |
| 年間の維持費 | 固定資産税・火災保険・水道光熱の基本料金・管理の交通費を足す | 0円/15分。空き家の維持費は年間いくらか |
| 解体した場合の費用 | 構造と坪数から概算し、補助金の有無を自治体で確認 | 0円/10分。解体費用シミュレーターと全国501自治体の解体補助金データベース |
| 売ったときの税金 | 取得費・譲渡費用・特例の可否を確認する | 0円/20分。譲渡所得税と空き家の3,000万円特別控除 |
相続税の申告が必要な家では、小規模宅地等の特例と取得費加算の特例も一緒に確認してください。誰が実家を取るかによって、相続税も譲渡所得税も変わります。取り分の話をする前に、税額がいくら動くのかを知っておかないと、あとで「そんな話は聞いていない」になります。
葬儀費用や当面の生活費は、話がまとまる前でも預金から出せます
「口座が凍結されて、葬儀代も出せない」という話をよく聞きます。民法909条の2で、この状況は変わりました。
第九百九条の二 各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の三分の一に第九百条及び第九百一条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(…預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。
出典:e-Gov法令検索「民法」(2026年8月19日確認)
法務省令で定める額は150万円です(民法第九百九条の二に規定する法務省令で定める額を定める省令・平成30年法務省令第29号・令和元年7月1日施行)。
| 前提 | 計算 | 単独で払い戻せる額 |
|---|---|---|
| A銀行に600万円/相続人は子2人(各2分の1) | 600万 × 1/3 × 1/2 = 100万 | 100万円 |
| A銀行に1,200万円/相続人は子2人(各2分の1) | 1,200万 × 1/3 × 1/2 = 200万 → 上限150万 | 150万円 |
| A銀行900万円・B銀行900万円/子2人 | 各行 900万 × 1/3 × 1/2 = 150万 | 合計300万円(上限は金融機関ごと) |
ただし条文の後段に重要な但し書きがあります。「当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす」。もらい得ではありません。あとの遺産分割で、その分は取り分から差し引かれます。使ったら、必ず記録と領収書を残してください。
「とりあえず共有名義」がいちばん危ない
結論が出ないまま「では法定相続分どおり、兄弟で2分の1ずつの共有にしておこう」で登記してしまう。これは、あとで身動きが取れなくなる着地です。
民法898条1項は「相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する」と定めています。分割前は当然に共有ですが、共有のまま登記を確定させると、遺産分割の問題から共有物の問題へ移ってしまいます。そして共有物のルールは、こうなっています。
| やりたいこと | 必要な同意 | 条文 |
|---|---|---|
| 売る・建て替える・取り壊す(変更) | 共有者全員 | 民法251条1項 |
| 人に貸す(管理・建物は3年以内) | 持分の価格の過半数 | 民法252条1項・4項 |
| 修繕する(保存行為) | 単独でできる | 民法252条5項 |
| 自分の持分だけを売る | 単独でできる | —(持分は自分の財産) |
2分の1と2分の1は、過半数ではありません。兄弟2人の共有では、売ることも貸すこともできない状態が固定されます。そして持分だけは単独で売れるので、関係がこじれた側が業者に持分を売り、見知らぬ会社が共有者として現れる、という展開があり得ます。
もう1つ、住んでいる相続人がいる場合に効く条文があります。民法249条2項——「共有物を使用する共有者は、別段の合意がある場合を除き、他の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負う」。実家に兄が1人で住み続けているなら、持分を超える分の対価を請求できます。詳しくは実家が兄弟の共有になっている場合にまとめました。
共有は「決められないことを先送りする方法」に見えて、実際は「決められない状態を固定する方法」です。先送りするなら、登記をせずに遺産分割未了のまま置くほうがまだ選択肢が残ります。ただしその場合も、相続登記の申請義務(相続登記の義務化)と904条の3の10年は別に走っていることを忘れないでください。
分け方を決める前に、いくらで売れるのかを1つ出しておいてください。金額がないまま話し合うと、どうしても感情の議論になります。第三者が出した数字が1枚あるだけで、話し合いの土台が変わります。査定は無料で、売らなくても費用はかかりません。
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金額が出たら、遺産分割協議書か調停調書に「売って分ける」と書いてください。口約束のままだと、あとで1人が翻意した時点で全部止まります。売り方の選択は仲介と買取の違い、手取りの計算は譲渡所得税にまとめてあります。
遺産分割調停は、思っているより軽い手続きです
「裁判所」と聞くと身構えますが、遺産分割の調停は裁判ではありません。調停委員が間に入って話を整理する手続きで、相手と直接顔を合わせない運用が一般的です。裁判所の公式ページには「当事者双方から事情を聴いたり、必要に応じて資料等を提出してもらったり…解決案を提示したり、解決のために必要な助言をし、合意を目指し話合いが進められます」と書かれています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申立先 | 相手方のうちの一人の住所地の家庭裁判所、又は当事者が合意で定める家庭裁判所 |
| 費用 | 被相続人1人につき収入印紙1,200円分+連絡用の郵便切手(額は裁判所ごとに異なる) |
| 主な書類 | 申立書、事情説明書、進行に関する照会回答書、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本類、相続人全員の戸籍謄本、住民票または戸籍附票、不動産登記事項証明書、固定資産評価証明書 など |
| 戸籍が揃わないとき | 「申立前に入手できない戸籍等がある場合は、その戸籍等は申立後に追加提出することでも差し支えありません」 |
| 戸籍の代わり | 「法定相続情報一覧図の写し」を提出できる場合があります |
| 弁護士 | 必須ではありません。本人だけで申し立てられます |
戸籍を集めるところでつまずく人が多いので、2つだけ実務の話をします。令和6年3月1日から戸籍の広域交付が始まり、本籍地以外の市区町村の窓口でも、まとめて請求できるようになりました。ただし郵送請求と代理人による請求は対象外で、コンピュータ化されていない古い戸籍も対象外です。法定相続情報一覧図は法務局に申し出て作ってもらう一覧図で、申出は本籍地・最後の住所地・申出人の住所地・不動産の所在地のいずれかの法務局から選べます。作っておくと、裁判所にも銀行にも同じ1枚で足ります。
ここで、条文の話を1つ。「遺産分割は調停前置だ」と書いている解説を見かけますが、条文はそう読めません。家事事件手続法257条1項は「第二百四十四条の規定により調停を行うことができる事件について訴えを提起しようとする者は、まず家庭裁判所に家事調停の申立てをしなければならない」と定めています。主語は「訴えを提起しようとする者」です。遺産分割は訴訟ではなく別表第二の審判事項なので、いきなり審判を申し立てることもできます。ただし裁判所は同法274条1項により職権で調停に付すことができるので、結果として調停から始まることが多い、というのが実際です。
調停が決裂しても、そこで終わりではありません
ここが、この記事でいちばん伝えたいことです。
第二百七十二条 4 第一項の規定により別表第二に掲げる事項についての調停事件が終了した場合には、家事調停の申立ての時に、当該事項についての家事審判の申立てがあったものとみなす。
出典:e-Gov法令検索「家事事件手続法」(2026年8月19日確認)
遺産分割は別表第二の事項です。したがって調停が不成立になった瞬間、自動的に審判へ移ります。しかも「家事調停の申立ての時に」申立てがあったものとみなされるので、時間が巻き戻ります。裁判所の公式ページも「話合いがまとまらず調停が不成立になった場合には自動的に審判手続が開始され、裁判官が、遺産に属する物又は権利の種類及び性質その他一切の事情を考慮して、審判をすることになります」と説明しています。
審判では、裁判官が民法906条の基準で決めます。
第九百六条 遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。
出典:e-Gov法令検索「民法」(2026年8月19日確認)
つまり「話し合いが決裂したら、実家は永遠に宙に浮く」わけではありません。最後は裁判所が決めます。この事実を知っているかどうかで、交渉の姿勢は変わります。「折れなければ相手も動けない」という膠着は、遺産分割については成立しません。
そしてもう1つ。調停で合意ができた場合、その調書は確定した審判と同一の効力を持ちます(家事事件手続法268条1項)。口約束や私製の覚書とは強さがまったく違います。代償金の支払いが約束どおり行われないときも、調書があれば強制執行に進めます。
10年を過ぎると、調停をやめるのにも相手の同意が要ります
あまり知られていない条文です。
第二百七十三条 2 前項の規定にかかわらず、遺産の分割の調停の申立ての取下げは、相続開始の時から十年を経過した後にあっては、相手方の同意を得なければ、その効力を生じない。
出典:e-Gov法令検索「家事事件手続法」(2026年8月19日確認)
民法904条の3の裏返しです。10年経過前に申し立てれば特別受益・寄与分の主張が守られますが、10年を過ぎたあとに一方的に取り下げて、その保護を消してしまうことはできないという設計になっています。
実務的な意味は2つあります。第一に、10年が近い家では「とりあえず申し立てておく」判断に合理性があります。第二に、申し立てたあとは自分の都合だけでは引き返せなくなる場面があるということです。軽い気持ちで出すものではありませんが、期限が迫っているなら、出さないほうがリスクが大きくなります。
やってはいけないこと
| やってはいけないこと | なぜか |
|---|---|
| 「とりあえず共有名義」で登記する | 2分の1ずつでは売ることも貸すこともできなくなります(251条1項・252条1項) |
| 10年を意識せずに放置する | 特別受益も寄与分も主張できなくなります(904条の3) |
| 介護をした義理の家族の話を後回しにする | 特別寄与料は6か月/1年で請求できなくなります(1050条2項) |
| 遺産分割の前に、遺産の不動産や車を勝手に処分する | 906条の2は、他の相続人全員の同意で「遺産にあるものとみなす」ことができ、処分した本人の同意は不要と定めています(同条2項)。処分しても計算からは逃げられません |
| 相続分を第三者に譲り渡す | 他の共同相続人が価額と費用を償還して取り戻せます(905条1項)。ただし行使は1か月以内(同2項) |
| 感情の記録だけを積む | 寄与分は「財産の維持又は増加について」の寄与です。日誌に書くべきは気持ちではなく、払った金額と、浮いた費用と、費やした時間です |
弁護士に頼むかどうかの判断
調停は本人だけで申し立てられます。それでも依頼を検討したほうがよい場面は、条件で切り分けられます。
| 状況 | 目安 |
|---|---|
| 相続人が2〜3人、遺産は実家と預金だけ、争点は「誰が実家を取るか」 | まず自分で申立て。書式は裁判所のサイトにあります |
| 相続開始から10年が近い | 期限が最優先。間に合わせるために、まず申立て |
| 特別受益や寄与分の金額が数百万円以上動く | 相談だけでもしたほうがよい場面です |
| 相続人に行方不明者・認知症の方がいる | 不在者財産管理人や成年後見の手続きが先に必要になります。認知症の親の家を参照 |
| 相手方に弁護士が付いた | こちらも付けたほうが対等になります |
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よくある質問
Q. 親が亡くなってから何年も経っています。もう手遅れですか。
A. 10年を過ぎているかどうかで答えが変わります。
10年以内なら、まだ間に合います。特別受益(903条)も寄与分(904条の2)も主張できます。ただし止めるには家庭裁判所への遺産分割の請求が必要です(904条の3第1号)。話し合いを続けているだけでは止まりません。
10年を過ぎている場合でも、遺産分割そのものはできます。期限が切れるのは特別受益と寄与分の主張であって、分割の権利ではありません。原則として法定相続分(民法900条)で分けることになります。兄弟2人なら2分の1ずつです。
まずやることは3つです。①親が亡くなった日を確認する(除籍謄本で分かります)。②10年までの残りを数える。③残りが1年を切っていて、話し合いが動いていないなら、調停の申立てを準備する。申立ての費用は収入印紙1,200円分と郵便切手だけです。
相続登記の期限は別に走っています。相続登記の義務化を確認してください。
Q. 兄が実家に住み続けています。家賃を請求できますか。
A. 請求できる場合があります。民法249条2項に「共有物を使用する共有者は、別段の合意がある場合を除き、他の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負う」と書かれています。
ポイントは「別段の合意がある場合を除き」です。親が生前「長男に住まわせる」と決めていた、相続人の間で当面住むことを了解していた、という事情があると、そこが争点になります。
手順としては、①持分割合を確定する(遺産分割が済んでいなければ法定相続分)②近隣の賃料相場を調べる(不動産ポータルで同じ広さ・築年数の賃貸を見れば目安は出ます)③持分を超える分を計算する、という順です。金額を出したうえで、遺産分割の話し合いの中で調整するのが現実的です。使用対価だけを切り離して請求すると、話が余計にこじれます。
詳しくは実家が兄弟の共有になっている場合にまとめました。
Q. 実家は兄が取り、私は現金がほしい。そんな分け方はできますか。
A. できます。代償分割と呼ばれる方法で、実家を取る人が他の相続人に金銭(代償金)を支払います。
実家に住み続けたい相続人がいる家では、よく選ばれる形です。ただし代償金を用意できるかどうかがすべてで、ここで詰まる家が多くあります。
詰まったときの選択肢は3つです。①換価分割——売って現金で分ける。取り分が金額で確定するので、争点が減ります。②現物分割——土地が広ければ分筆する。ただし接道や建ぺい率の制約があるので、先に市区町村の建築指導課で確認してください。③共有——おすすめしません。理由は本文の「とりあえず共有名義がいちばん危ない」に書きました。
換価分割を選ぶ場合は、売却価格が全員の取り分に直結します。一括査定サイトの比較と仲介と買取の違いを先に読んでおくと、金額の妥当性を自分で判断できます。手取りで比べるために譲渡所得税も確認してください。
Q. 調停には必ず出席しないといけませんか。相手と顔を合わせたくありません。
A. 相手と同席する運用にはなっていません。調停は調停委員が当事者から交互に事情を聴く形で進みます。待合室も分けられているのが通常です。
遠方に住んでいて出頭が難しい場合には、家事事件手続法270条1項の「調停条項案の書面による受諾」という制度があります。「当事者が遠隔の地に居住していることその他の事由により出頭することが困難であると認められる場合」に、あらかじめ提示された調停条項案を受諾する旨の書面を出せば、合意が成立したものとみなされます。
また同法268条3項の書きぶりから、映像と音声の送受信による方法(ウェブ会議)が制度上想定されていることが読み取れます。ただし各家庭裁判所で実際にどこまで運用されているかは、当サイトでは確認していません。申立てを予定している家庭裁判所に直接聞いてください。管轄は相手方のうち一人の住所地の家庭裁判所です。
Q. 兄弟の1人が話し合いに応じません。連絡も取れません。
A. 応じない相手がいることは、調停を申し立てられない理由になりません。むしろ「協議をすることができないとき」として、家庭裁判所に請求できる場面です(民法907条2項)。
連絡先が分からない場合は、まず戸籍の附票を取ってください。住民票の異動が記録されているので、現住所をたどれます。相続人であることを示せば取得できます。
それでも所在が分からない場合は、不在者財産管理人(民法25条)の選任を家庭裁判所に申し立てる方法があります。管理人が本人に代わって遺産分割に参加します。生死不明が長期にわたるときは失踪宣告という手続きもあります。
いずれも時間がかかるので、10年の期限がある家では早く動いてください。手続きの詳細と費用は、申立先の家庭裁判所の手続案内で確認できます。
Q. 葬儀費用を立て替えました。遺産から返してもらえますか。
A. 葬儀費用の負担者について、民法に定めはありません。当サイトが確認した範囲では、条文に「葬儀費用は相続財産から支出する」といった規定は見つかりませんでした。実務では遺産分割の話し合いの中で調整されることが多い項目です。
ただし、支払いの原資を作る制度はあります。民法909条の2の預貯金の払戻しです。相続開始時の残高の3分の1に自分の相続分を掛けた額まで、金融機関ごとに150万円を上限として、単独で払い戻せます。条文の考慮要素にも「平均的な葬式の費用の額」が挙げられています。
やることは2つです。①領収書と明細を全部残す。香典の額も記録してください。②払い戻した分は遺産の一部分割で取得したものとみなされる(909条の2後段)ので、あとで取り分から差し引かれることを最初に全員へ伝えておく。ここを黙っていると、あとで「勝手に引き出した」という話になります。
Q. 生前に親から住宅資金をもらった兄がいます。証拠がありません。
A. 特別受益(民法903条1項)の主張には、贈与があったことを示す資料が要ります。記憶や伝聞だけでは動きません。
探せるものを挙げます。①親の預金通帳と取引履歴——金融機関に相続人として開示請求できます。大きな出金の時期が分かれば、住宅の登記の時期と突き合わせられます。②兄の家の登記事項証明書——法務局で誰でも取得できます。取得の時期と、抵当権の設定額が分かります。借入額が少なければ、その差額の出どころが問題になります。③贈与税の申告の有無——本人以外は確認できませんが、調停の中で開示を求めることはできます。
そして期限です。10年を過ぎると、この主張自体ができなくなります(904条の3)。資料を完璧に揃えてから申し立てようとすると、間に合わないことがあります。資料が不完全でも、まず期限内に申し立ててください。資料は手続きの中でも集められます。
Q. 母の介護を10年しました。兄は何もしていません。取り分は増えますか。
A. 寄与分(民法904条の2)の対象になり得ますが、認められるハードルは条文が想定しているより高いと考えておいてください。条文は「被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与」と書いています。大変だったかどうかではなく、財産にいくら効いたかで測る建て付けです。
したがって記録すべきは、①あなたが払った金額(医療費・おむつ代・住宅改修費の領収書)②浮いた費用(介護保険サービスを使わなかった分。ケアプランや要介護認定の記録が残っていれば、必要だったサービス量が分かります)③費やした時間(介護日誌、通院の付き添い記録)です。
手続きの注意が1つあります。寄与分だけを裁判所に決めてもらうことはできません。904条の2第4項が、寄与分の請求は遺産分割の請求(907条2項)があった場合にできると定めているからです。遺産分割の調停か審判を申し立てるところから始まります。
そして10年(904条の3)。介護が長かった家ほど、相続開始からの年数も経ちがちです。先に日付を数えてください。
Q. 私は長男の妻です。義父の介護をしました。相続人ではありませんが、何かもらえますか。
A. 特別寄与料(民法1050条)を、相続人に対して直接請求できます。相続人でなくても、被相続人の親族であれば対象になります。
ただし期限が非常に短いので、これを最初に読んでください。1050条2項——「特別寄与者が相続開始及び相続人を知った時から六箇月を経過したとき、又は相続開始の時から一年を経過したときは、この限りでない」。協議が調わない場合に家庭裁判所へ処分を請求できる期間が、6か月/1年で終わります。
要件でとくに注意すべきは「無償で」です。生活費を受け取っていた、お礼として現金をもらっていた、という事情があると争点になります。逆に、無償で介護していたなら、介護日誌・領収書・通院の付き添い記録がそのまま証拠になります。
請求する相手は相続人です。相続人が複数いる場合、各相続人は相続分に応じた額を負担します(1050条5項)。義兄弟が2人なら、それぞれに2分の1ずつ請求する形になります。四十九日が済んだら、すぐに動いてください。
Q. 話し合いで決まったことを、口約束のままにしていて大丈夫ですか。
A. やめてください。遺産分割協議が成立したら、必ず遺産分割協議書を作って、相続人全員が署名し、実印を押して印鑑証明書を添えてください。
理由は3つあります。①相続登記に必要です。法定相続分と違う分け方をするなら、協議書がないと登記できません。②金融機関の手続きに必要です。③言った・言わないを防げます。とくに代償金を分割払いにする場合は、金額・支払期日・振込先を明記してください。
もし調停で決めたなら、調停調書がその役割を果たします。調停調書は、別表第二の事項について確定した審判と同一の効力を持ちます(家事事件手続法268条1項)。代償金が約束どおり支払われないとき、私製の協議書だと訴訟から始めることになりますが、調停調書ならそのまま強制執行に進めます。金額が大きいときや、相手の支払能力に不安があるときは、調停で決めておく価値があります。
まとめ
- 相続開始から10年で、特別受益と寄与分は主張できなくなります(民法904条の3)。止められるのは家庭裁判所への遺産分割の請求だけです。
- 寄与分だけを単独で請求することはできません(904条の2第4項)。遺産分割の手続きが土台になります。
- 介護したのが相続人でない家族なら、期限は6か月/1年です(1050条2項)。最優先で話してください。
- 葬儀費用と当面の資金は、金融機関ごと150万円まで単独で払い戻せます(909条の2+平成30年法務省令第29号)。ただしあとで取り分から差し引かれます。
- 「とりあえず共有名義」は、決められない状態を固定します。2分の1ずつでは貸すことすらできません(251条1項・252条1項)。
- 調停の費用は収入印紙1,200円分と郵便切手。弁護士は必須ではありません。
- 調停が決裂しても自動的に審判に移ります(家事事件手続法272条4項)。最後は裁判所が決めるので、膠着は続きません。
- 10年を過ぎると、調停の取下げにも相手方の同意が必要になります(同273条2項)。
この記事で確認できなかったこと
- 遺産分割事件の遺産価額別の分布。司法統計の第52表(遺産分割事件のうち認容・調停成立件数)の個票PDFは閲覧できましたが、そのファイルに年の表記がなく、何年の統計か特定できませんでした。裁判所のサイトには「年報の詳細検索は令和2年までの年報が対象」とあるため、当該PDFは令和2年以前のものである可能性があります。年が確定できない数字は本文に載せていません。
- 遺産分割事件の平均審理期間。令和7年司法統計年報の目次に第45表(遺産分割事件数 終局区分別審理期間及び実施期日回数別)があることは確認しましたが、本文の数値まで読み取れませんでした。
- 寄与分・特別寄与料が実際に認められた件数と金額の水準。公表統計から抽出できませんでした。「認められにくい」と書いている解説は多くありますが、その根拠となる一次データを当サイトでは確認していません。
- 法テラスの民事法律扶助の資力基準(令和8年時点の具体的な金額)。確認していないため、数値を書いていません。
- 各家庭裁判所でウェブ会議による調停がどこまで運用されているか。条文上の根拠は確認しましたが、運用の実態は確認していません。
- 葬儀費用を誰が負担するかについての民法の規定。探した範囲では見つかりませんでした。「見つからなかった」であって「存在しない」と断定はしていません。
- 民法904条の3・1050条の施行日と経過措置。条文の本文はe-Gov法令検索で確認しましたが、いつの相続から適用されるのかを附則まで当たって確認していません。10年の起算日が微妙な方は、家庭裁判所か弁護士に確認してください。
- 「特別の寄与」と評価される具体的な線引き。条文には基準が書かれておらず、裁判例の検討が必要な領域です。当サイトは裁判例を確認していません。
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