取得費加算の特例|実家を売るなら「3年10か月」の中身を先に確認してください

【PR】本ページには広告(PR)を含みます。条文は租税特別措置法・同施行令・相続税法をe-Gov法令検索で全文開いて確認し、国税庁タックスアンサーNo.3267およびNo.3306(いずれも令和7年4月1日現在法令等)と突き合わせました(2026年8月17日確認)。孫引きはしていません。

最終更新:2026年8月17日

結論だけ先に

相続税を払った実家を売ると、払った相続税の一部を「買ったときの値段」に足せます。その分だけ売却益が減り、譲渡所得税が下がります。これが取得費加算の特例です。

ただし、期限があります。よく「3年10か月」と言われますが、この数字は条文のどこにも書かれていません。条文が書いているのは「相続の開始があった日の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日まで」です。そして空き家の3,000万円特別控除とは、どちらか一方しか選べません。

この記事は、条文(租税特別措置法39条)と政令(同施行令25条の16)を開いて組み立てています。金額の計算と申告は税理士の仕事です。当サイトは税理士ではありません。ここで読めるのは「どういう仕組みで、いつまでに、何と引き換えなのか」までです。

まず、これは「相続税が戻ってくる制度」ではありません

名前が長いので、誤解されやすい制度です。正式名称は「相続財産に係る譲渡所得の課税の特例」、通称が取得費加算です。

戻ってくるのは相続税ではなく、譲渡所得税のほうです。しかも「戻る」のではなく「これから払う額が減る」だけです。順番はこうなります。

時期 起きること この特例の関わり
親が亡くなる 実家を相続する —
10か月以内 相続税を申告して払う ここで払った額が、あとで使う材料になります
その後、実家を売る 売却益に譲渡所得税がかかる 払った相続税の一部を取得費に足せます
売った翌年の確定申告 譲渡所得を申告する ここで申告しないと使えません

だから、相続税を1円も払っていない人には、この特例は関係ありません。条文は対象者をこう限定しています。

相続又は遺贈…による財産の取得…をした個人で当該相続又は遺贈につき同法の規定による相続税額があるものが…

出典:租税特別措置法第39条第1項(e-Gov法令検索で全文を確認/2026年8月17日)

相続財産の合計が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)以下なら、相続税はかかりません。その場合、この記事の話は最初から成立しません。相続税がかかるかどうかは、この特例を考える前に確かめる必要があります。相続税の申告書を作っていない、税務署から何も来ていない、という場合は、そもそも課税されていない可能性が高いです。まずそこからです。

★ 「3年10か月」は条文に書かれていません

この制度の解説は、まず間違いなく「3年10か月以内」と書きます。実務では正しく機能する言い方ですが、条文はそう書いていません。

…当該相続の開始があつた日の翌日から当該相続に係る同法第二十七条第一項又は第二十九条第一項の規定による申告書…の提出期限…の翌日以後三年を経過する日までの間に当該相続税額に係る課税価格…の計算の基礎に算入された資産の譲渡…をした場合…

出典:租税特別措置法第39条第1項

分解すると、こうなっています。

条文の書き方 実際の日付
始まり 相続の開始があった日の翌日 亡くなった日の翌日
途中 相続税の申告書の提出期限 相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月
終わり その提出期限の翌日以後3年を経過する日 申告期限+3年

相続税の申告期限は、相続税法にこう書かれています。

…その相続の開始があつたことを知つた日の翌日から十月以内…に課税価格、相続税額その他財務省令で定める事項を記載した申告書を…提出しなければならない。

出典:相続税法第27条第1項

「知った日」であって「亡くなった日」ではありません。ふつうは同じ日ですが、疎遠だった親の死を数か月あとに知った場合、この2つはずれます。そのとき、10か月のカウントは「知った日」から始まるので、取得費加算の期限は相続開始から3年10か月より長くなります。

「3年10か月」の正体

10か月(申告期限)+3年=3年10か月。足し算の通称です。だから、申告期限が延びる事情があれば、取得費加算の期限も一緒に動きます。逆に、期限をカレンダーに書くときは「3年10か月後」ではなく「申告期限の日付+3年」で計算したほうが正確です。

実家じまいでこの差が効くのは、実家を放置してしまったケースや、共有名義でもめて売却が止まったケースです。「もう3年過ぎたから無理だ」と諦める前に、申告期限の日付を確かめてください。

「3年10か月」の中身 起算 相続開始の翌日 亡くなった日の翌日から 10か月 申告期限 知った日の翌日から10か月 その翌日以後3年 合わせて通称3年10か月

いくら足せるのか——政令の計算式

加算できる金額は、条文本体ではなく政令に書かれています。

法第三十九条第一項に規定する譲渡をした資産に対応する部分として政令で定めるところにより計算した金額は、第一号に掲げる相続税額に第二号に掲げる割合を乗じて計算した金額とする。

出典:租税特別措置法施行令第25条の16第1項(e-Gov法令検索で全文を確認/2026年8月17日)

中身 条文上の根拠
①相続税額 その人が実際に納めた相続税額
延滞税・加算税(附帯税)は含みません
施行令25条の16第1項一号
②分子 売った資産の、課税価格の計算の基礎に算入された価額 同二号
③分母 その人の相続税の課税価格
ただし債務控除がなかったものとした場合の金額
同二号かっこ書き
加算額 ① ×(② ÷ ③) —

売った資産の分だけが分子です。相続した土地を全部足すのではありません。なお国税庁の確定申告書等作成コーナーは「計算式は相続又は遺贈の開始した日によって異なります」と案内しています。古い相続を前提にした解説記事をそのまま読むと、計算式を間違えます。

★ 分母は「借金を引く前」の金額です

ここが、ほとんどの解説で流されている部分です。政令の二号は、分母をこう定義しています。

…相続税法第十一条の二に規定する課税価格(…同法第十三条の規定の適用がある場合には同条の規定の適用がないものとした場合の課税価格…)のうちに当該譲渡をした資産の当該課税価格の計算の基礎に算入された価額の占める割合

出典:租税特別措置法施行令第25条の16第1項第2号

相続税法13条は債務控除の条文です。被相続人の借金と葬式費用を、財産の額から引ける、というルールです。

…課税価格に算入すべき価額は、当該財産の価額から次に掲げるものの金額のうちその者の負担に属する部分の金額を控除した金額による。
一 被相続人の債務で相続開始の際現に存するもの(公租公課を含む。)
二 被相続人に係る葬式費用

出典:相続税法第13条第1項

取得費加算の分母は、この債務控除を「なかったことにして」計算します。つまり借金と葬式費用を引く前の、大きいほうの数字が分母になります。

分母が大きくなれば、割合は小さくなります。割合が小さくなれば、加算できる額も小さくなります。

Aさん(借金なし) Bさん(借金2,000万円)
相続した実家の評価額 4,000万円 4,000万円
その他の財産 2,000万円 2,000万円
債務・葬式費用 0円 2,000万円
課税価格(債務控除後) 6,000万円 4,000万円
取得費加算の分母 6,000万円 6,000万円
実家の割合 4,000 ÷ 6,000 = 約66.7% 4,000 ÷ 6,000 = 約66.7%

※割合の考え方を示すための単純化した例です。実際の相続税額の計算はこれより複雑で、税理士の領域です。

Bさんは債務控除で相続税そのものが下がっていますが、割合の分母は下がりません。だから加算額は「下がった相続税額 × 変わらない割合」になります。債務があるほど、取得費加算で戻る額は小さくなる、という構造です。

親の家に住宅ローンが残っていた、施設の未払い金があった、葬式費用が大きかった——実家じまいでは珍しくない事情ですが、これらは相続税を軽くする一方で、取得費加算の効き目を弱めます。

★★ 小規模宅地等の特例を使うほど、この特例は小さくなります

政令の分子をもう一度読んでください。「当該譲渡をした資産の当該課税価格の計算の基礎に算入された価額」です。

「相続税評価額」ではなく「課税価格に算入された価額」。小規模宅地等の特例を使うと、土地の評価額は330㎡まで20%になります。課税価格に入るのは、その20%のほうです。

小規模宅地を使わない 小規模宅地を使う
実家の土地の評価額 5,000万円 5,000万円
課税価格に算入される価額 5,000万円 1,000万円(20%)
取得費加算の分子 5,000万円 1,000万円
相続税額そのもの 高い 大幅に低い

分子も小さくなり、掛ける相続税額も小さくなります。両方が縮みます。

小規模宅地を使うと、加算額は小さくなります 使わない 評価額 5,000万円 課税価格 5,000万円 分子 5,000万円 相続税額は高い 使う 評価額 5,000万円 課税価格 1,000万円 分子 1,000万円 相続税額は大幅に低い それでも小規模宅地を使うほうが、ほぼ確実に有利

では小規模宅地を使わないほうがいいのか

いいえ。ほぼ確実に、小規模宅地等の特例を使ったほうが有利です。小規模宅地は相続税の課税価格そのものを8割落とします。取得費加算は、払った相続税の一部を譲渡所得の計算に回すだけです。減らせる税額の桁が違います。

ここで言いたいのは有利不利ではなく、「相続税を抑えるほど、売却時に戻せる額も減る」という関係になっているということです。この2つを合計した金額で比べる話は、税理士でないとできません。当サイトが言えるのは、片方だけを見て判断すると読み違える、というところまでです。

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控除の判定より先に、売った場合の金額を出しておく

取得費加算も3,000万円控除も、売却額が決まらないと効き目を計算できません。制度の要件を読む前に、いくらで売れるのかの目安を持っておくほうが、判断は早くなります。

先に断っておきます。買取は、仲介で売れた場合より手取りが下がります。それでも見る価値があるのは、比較対象の数字が手に入るからです。運営は株式会社ネクサスプロパティマネジメント(宅地建物取引業免許:国土交通大臣(1)第10311号)。同社は「個人情報の入力は不要、匿名のまま利用でき、営業電話もありません」という匿名のAI査定も公開しています(入力3項目・最短30秒/2026年6月20日 同社発表)。まだ売ると決めていない段階なら、まず匿名のほうで桁だけ確かめてください。ただし匿名で出るのは機械的な概算です。実際の金額を知るには、連絡先を入れて査定を申し込む必要があります(申し込めば担当者から連絡が来ます)。

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売ると決めてから調べるものではありません。決めるために調べるものです。年間の維持費は空き家の維持費を実額で積み上げた記事にまとめました。

★★ 空き家の3,000万円特別控除とは、どちらか一方しか選べません

これが、実家じまいでいちばん判断を迫られる場面です。

空き家の3,000万円特別控除は、一人暮らしだった親の家を相続して売ったとき、譲渡所得から最大3,000万円を引ける制度です。この制度の条文には、取得費加算を明示的に排除する一文が入っています。

…次に掲げる譲渡(当該相続の開始があつた日から同日以後三年を経過する日の属する年の十二月三十一日までの間にしたものに限るものとし、第三十九条の規定の適用を受けるもの及びその譲渡の対価の額が一億円を超えるものを除く。以下この条において「対象譲渡」という。)をした場合…

出典:租税特別措置法第35条第3項(e-Gov法令検索で全文を確認/2026年8月17日)

「第三十九条の規定の適用を受けるもの」を除く、と括弧の中に書かれています。第39条が、この記事の取得費加算です。国税庁のタックスアンサーも、空き家控除の要件として「売った家屋や敷地等について、相続財産を譲渡した場合の取得費の特例…など他の特例の適用を受けていないこと」と書いています(No.3306/令和7年4月1日現在法令等)。

併用はできません。同じ実家について、どちらか一方です。

取得費加算(39条) 空き家3,000万円控除(35条3項)
減る対象 取得費が増える
(=譲渡益が減る)
譲渡益から最大3,000万円を控除
前提 相続税を払っていること 相続税を払っていなくても使えます
期限の起算 相続の開始があった日の翌日 相続の開始があった日
期限の終わり 相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日
(通称3年10か月)
3年を経過する日の属する年の12月31日
制度自体の期限 なし(恒久措置) 令和9年12月31日までの譲渡
売却額の上限 なし 1億円以下
建物の条件 なし 耐震基準を満たすか、更地にすること等
使われた場合 — 貸したり住んだりしていたら使えません

出典:租税特別措置法第35条第3項/国税庁タックスアンサーNo.3306(令和7年4月1日現在法令等)

期限の切り方が違う点に注目してください。取得費加算は日付で切れます。空き家控除は年末で切れます。1月に亡くなった親と12月に亡くなった親では、空き家控除の実質的な猶予がほぼ1年違います。取得費加算のほうは、その差が出ません。

同じ実家について、どちらか一方です 取得費加算 措法39条 取得費が増える =譲渡益が減る 相続税を払った人だけ 空き家3,000万円控除 措法35条3項 譲渡益から 最大3,000万円を控除 相続税なしでも可 35条3項の括弧書きが、39条の適用を受けるものを除く

どちらを選ぶかの目安

相続税を払っていないなら、選ぶ余地はありません。空き家控除だけです。

相続税を払っていて、売却益が3,000万円に届かないなら、空き家控除のほうが単純に有利なことが多いです。控除額が譲渡益を上回れば税額はゼロになります。

売却益が大きく、かつ相続税額も大きい場合は、計算しないと分かりません。ここは税理士に両方の数字を出してもらってください。確定申告のときには、もうどちらかを選んだあとです。売る前に相談してください。

売って損したら、この特例は使えません

政令には、ただし書きが2つあります。どちらも上限と下限の話です。

ただし、当該計算した金額が、当該資産の譲渡所得に係る収入金額から…当該資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額を控除した残額に相当する金額を超える場合には、その残額に相当する金額とし、当該収入金額が当該合計額に満たない場合には、当該計算した金額は、ないものとする。

出典:租税特別措置法施行令第25条の16第1項ただし書き

状況 加算できる額
計算した加算額が、譲渡益より小さい 計算した加算額をそのまま足せます
計算した加算額が、譲渡益より大きい 譲渡益の額まで(税額はゼロになりますが、それ以上は出ません)
売って損が出た(譲渡損) ゼロ。加算はなかったものとされます

この特例は、譲渡所得税を減らす制度であって、赤字を作る制度ではありません。実家が値下がりしていて売却損が出るなら、この特例の出番はありません。その場合はそもそも譲渡所得税がかからないので、「相続税を払ったのに何も戻ってこない」と感じるかもしれませんが、もともと払う税金がない、というだけの話です。

地方の実家は、取得費が分からず概算取得費(売却価格の5%)を使うと、逆に大きな譲渡益が出てしまうことがあります。この場合は取得費加算が効きます。売買契約書が見つかっているかどうかで、結論がひっくり返る場面です。

申告しないと使えません(39条2項)

小規模宅地等の特例と同じ構造です。黙っていても適用されません。

前項の規定は、同項の規定の適用を受けようとする年分の確定申告書又は修正申告書…に、前項の規定の適用を受けようとする旨の記載があり、かつ、同項の規定による譲渡所得の金額の計算に関する明細書その他財務省令で定める書類の添付がある場合に限り、適用する。

出典:租税特別措置法第39条第2項

必要なのは、①適用を受けようとする旨の記載と、②明細書などの添付です。実務では「相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書」を確定申告書に付けます。

ただし、第3項に救済規定があります。

税務署長は、確定申告書若しくは修正申告書の提出がなかつた場合又は前項の記載若しくは添付がない確定申告書若しくは修正申告書の提出があつた場合においても、その提出又は記載若しくは添付がなかつたことについてやむを得ない事情があると認めるときは…

出典:租税特別措置法第39条第3項

「やむを得ない事情」の基準は、条文に書かれていません。税務署長の認定です。あてにできる規定ではない、と考えてください。

あとから相続税が変わったら、加算額も変わります

政令の第2項に、こう書かれています。

前項第一号に掲げる相続税額は、同号に規定する納税義務の成立する時後において、当該相続税額に係る相続税につき修正申告書の提出又は…更正があつた場合には、同号の規定にかかわらず、その申告又は更正後の相続税額とする。

出典:租税特別措置法施行令第25条の16第2項

相続税の税務調査で評価額が上がれば、取得費加算も増えます。逆も同じです。実家じまいでよくあるのは、未分割のまま申告して、あとから分割が確定して修正するパターンです。共有名義や遺産分割でもめている実家は、この順番が絡み合うので、税理士に流れごと相談してください。

実家じまいの4つの期限を、1つの表にします

小規模宅地等の特例の記事で「期限が逆を向いている」と書きました。取得費加算を足すと、その表が完成します。

制度 期限 その期限が言っていること
相続登記 取得を知った日から3年以内 名義を変えろ(過料あり)
小規模宅地等の特例 相続税の申告期限(10か月)まで保有 売るな・貸すな(同居親族・家なき子の場合)
取得費加算 申告期限の翌日以後3年(通称3年10か月) 売れ
空き家3,000万円控除 相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日 売れ、ただし貸すな・住むな

最初の10か月は「売るな」、そのあとの3年は「売れ」。しかもその3年のあいだ、空き家のまま置いておかないと空き家控除が消えます。維持費は毎年かかりますが、賃貸に出した瞬間に空き家控除は使えなくなります。

4つの期限は、逆を向いています 相続登記 取得を知った日から3年以内 名義を変えろ 小規模宅地等の特例 申告期限(10か月)まで保有 売るな・貸すな 取得費加算 申告期限の翌日以後3年 売れ 空き家3,000万円控除 3年を経過する年の12月31日 売れ、貸すな 最初の10か月は売るな。そのあとの3年は売れ

逆算するとこうなります

相続開始 → 10か月:相続税の申告・納付(この間は売らない)
10か月〜1年半:相場を調べて売り出す準備。相続登記を済ませておかないと売れません
1年半〜3年:売却活動。仲介で時間をかけるか、買取で確実に決めるかを、残り期間から逆算します
3年10か月:取得費加算のタイムリミット

「まだ3年ある」と思っているうちに、売り出しから引き渡しまでで半年から1年が消えます。中古戸建ての売却は、内覧が入ってから決済まで2〜3か月かかるのが普通です。期限の直前に動き出すと、間に合いません。

建物を壊してから売る場合の注意

古家付きで売るか、更地にして売るかは実家じまいの定番の悩みです。取得費加算については、壊しても影響しません。条文は「課税価格の計算の基礎に算入された資産の譲渡」としか言っていないからです。

影響するのは、隣の2つです。

制度 相続前に壊す 相続後に壊す
小規模宅地等の特例 使えなくなります(建物の敷地であることが条件) 申告期限まで保有していれば影響しません
空き家3,000万円控除 — 更地にして売るのは要件のひとつ(または耐震改修)
取得費加算 — 影響しません

解体費用そのものは、譲渡費用として売却益から引ける場合があります。解体費用の相場と自治体の補助金も、売却の手取りに直結します。ただし、更地にすると翌年の固定資産税が上がります。「6倍になる」という言い方の中身は別の記事に書きました。

この特例で見落とされやすい5つ

見落とし 実際
1 相続税がゼロでも使えると思っている 使えません。「相続税額があるもの」が条件です
2 延滞税・加算税も足せると思っている 附帯税は除かれます(施行令25条の16第1項一号)
3 相続した土地を全部足せると思っている 売った資産の分だけです
4 空き家控除と両方使えると思っている 選択です(措置法35条3項の括弧書き)
5 相続税を払えば自動で適用されると思っている 確定申告での記載と添付が必要です(39条2項)

4番が、いちばん取り返しがつきません。確定申告で片方を選んで提出したあとに、もう片方のほうが有利だったと気づく——これは実際に起きます。売る前に、両方の数字を出してもらってください。

この記事で分からないこと

正直に書きます。当サイトは税理士ではありません。条文と政令を読んで書ける範囲には限界があります。次の点は、条文を読んでも決まりません。

  • あなたの場合にいくら加算できるのか。相続税額と課税価格の内訳がないと計算できません
  • 取得費加算と空き家控除のどちらが有利か。売却額・取得費・相続税額の3つが揃わないと比較できません
  • 小規模宅地等の特例との合計でどうなるか。相続税と譲渡所得税をまたぐ比較になります
  • 39条3項の「やむを得ない事情」がどこまで認められるか。条文に基準がありません
  • 共有で相続した場合の各人の加算額。各相続人の相続税額と課税価格がそれぞれ必要です

これらは税理士の仕事です。この記事の役割は、相談に行く前に「何を聞けばいいか」が分かる状態にすることです。「取得費加算と空き家控除、うちはどちらが得ですか」と一言で聞ければ、話が早く進みます。

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取得費加算と空き家3,000万円控除、どちらが得かは計算しないと出ません

この記事で繰り返し書いたとおり、当サイトは税理士ではありません。売却額・取得費・相続税額の3つを入れて両方を計算し、有利なほうを選んで確定申告に載せる——ここから先は税理士の仕事です。
税理士ドットコムは弁護士ドットコム株式会社が運営する税理士紹介サービスです。全国対応で、相談も紹介も無料。「相続した実家を売るので、取得費加算と空き家控除のどちらが有利か計算してほしい」と条件を伝えて、対応できる税理士を探してもらう形になります。

①申し込むと、30日以内に電話またはメールで確認の連絡が来ます。知らない番号でも出てください。ここで内容が確認できないと、税理士の紹介そのものが進みません。
②「税理士を紹介してほしい」と伝えるためのサービスです。税務相談そのものに答える窓口ではありません。相続税申告をお願いしたい、という前提で申し込んでください。
③過去1年以内にこのサービスを使ったことがある方は対象外です。ご家族が先に申し込んでいないか、確認してから使ってください。
お住まいの地域の税理士会や、相続税を扱う近所の事務所にも1件あたって見比べてください。
それによって紹介料や税理士報酬が変わることはありません(紹介自体は無料です)。

相続税申告での信頼できる税理士選び

相談するなら、売る前です。確定申告の時点では、もうどちらかを選んだあとになります。相続税の申告期限(知った日の翌日から10か月)を過ぎていても、取得費加算の期限はまだ残っています。まず小規模宅地等の特例を使ったかどうかと、空き家3,000万円控除の要件に当てはまるかを手元で確かめてから相談すると、話が早く進みます。

よくある質問

Q. 相続税を払っていません。取得費加算は使えますか。

使えません。条文が対象者を「相続又は遺贈につき相続税額があるもの」と限定しているためです(措置法39条1項)。相続財産の合計が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)以下なら相続税はかからないので、この特例の前提が成立しません。

ただし、がっかりする必要はありません。相続税を払っていない方でも、空き家の3,000万円特別控除は使える可能性があります。こちらは相続税とは無関係の制度です。要件は建物の状態や売却額など別のところにあるので、判定ツールで当てはまるかどうかを先に確かめてみてください。

Q. 「3年10か月」を1日でも過ぎたらどうなりますか。

使えません。期限を過ぎた譲渡は対象外です。宥恕規定(39条3項)は「申告書の提出や記載・添付がなかったこと」についてのもので、譲渡の時期そのものは救済されません。

ただし諦める前に、日付を正確に数え直してください。期限の起点は「亡くなった日」ではなく「相続税の申告期限」です。そして申告期限は「相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月」です(相続税法27条1項)。疎遠だった親の死を後から知った場合、期限は世間で言われる3年10か月より後ろにずれます。相続税の申告書控えに書かれた提出期限を見て、そこに3年を足すのが正確です。

Q. 空き家の3,000万円控除と、どちらが得ですか。

金額を入れて計算しないと決まりません。ただし、判断の入口は絞れます。

売却益が3,000万円以下なら、空き家控除で税額がゼロになる可能性が高いです。控除額が譲渡益を上回れば、それ以上有利にはなりません。一方取得費加算は、払った相続税の一部を取得費に足すだけなので、譲渡益をゼロまで落とせるとは限りません。

逆に、売却益が大きく(3,000万円をはるかに超える)、かつ相続税額も大きい場合は、取得費加算のほうが上回ることがあります。ここは実際に両方を計算するしかありません。

なお空き家控除には売却額1億円以下という上限と、相続から譲渡まで貸したり住んだりしていないことという要件があります(措置法35条3項、国税庁No.3306)。空き家3,000万円控除の記事で要件を先に確認してから、税理士に「両方の計算をお願いします」と伝えてください。

Q. 実家と、親の預金と株を相続しました。実家だけ売った場合はどうなりますか。

実家の分だけが分子になります。政令は分子を「当該譲渡をした資産の当該課税価格の計算の基礎に算入された価額」としています(施行令25条の16第1項二号)。預金や株の分は、実家を売ったときの加算には乗りません。

逆に言えば、あとで株も売れば、そのときは株の分で加算が使えます。期限内であれば、資産ごとに使えます。ただし期限は同じ日で切れます。実家の売却に時間を取られて期限を過ぎると、他の資産の分もまとめて使えなくなります。

Q. 小規模宅地等の特例を使うと損をしますか。

ほぼ確実に、使ったほうが有利です。小規模宅地等の特例は相続税の課税価格そのものを330㎡まで8割落とします。取得費加算は、払った相続税の一部を譲渡所得の計算に回すだけです。効き目の桁が違います。

この記事で書いたのは「小規模宅地を使うと取得費加算の分子(=課税価格に算入された価額)も小さくなる」という関係の話で、使うべきでないという話ではありません。「相続税を抑えるほど、売却時に戻せる額も減る」という構造を知っておくと、税理士の説明が腑に落ちやすくなります。

Q. 兄弟3人で相続しました。取得費加算は3人とも使えますか。

それぞれが、自分の払った相続税と自分の課税価格で計算します。政令は「当該取得をした者の…相続税額」「同号に規定する者についての…課税価格」と個人単位で書いています(施行令25条の16第1項一号・二号)。兄弟でも取得した財産の内訳が違えば、加算額は違います。

注意が必要なのは、共有のまま売るケースです。共有名義の実家は全員の同意がないと売れません。1人が反対しているあいだに3年10か月が過ぎると、全員が同時にこの特例を失います。期限があることを、話し合いの早い段階で共有しておいてください。

Q. 売買契約書が見つかりません。取得費加算は関係ありますか。

むしろ、関係が深くなります。取得費が分からないと、売却価格の5%を概算取得費として使うことになります。3,000万円で売れた実家なら取得費は150万円。差額の2,850万円がほぼそのまま譲渡益になります。

このとき取得費加算が大きく効きます。加算額は譲渡益が上限なので(施行令25条の16第1項ただし書き)、譲渡益が大きいほど加算できる枠が広がるからです。

ただしまず契約書を探してください。実際の取得費が使えるなら、そのほうがはるかに大きく効きます。契約書以外で取得費を証明する方法を別の記事にまとめています。

Q. 相続してすぐ売りました。小規模宅地等の特例はどうなりますか。

取得した人によって答えが変わります。配偶者が取得した場合は保有継続要件がありませんが、同居親族と家なき子は、相続税の申告期限まで保有していることが要件です。申告期限(10か月)より前に売ると、その要件を満たさなくなります。

つまり最初の10か月は「売るな」、そのあとの3年は「売れ」という順番になります。この記事の期限の表を、売却スケジュールを組む前に一度見てください。急いで売ると小規模宅地を失い、のんびりしていると取得費加算を失います。

Q. 売って損が出そうです。何か使える制度はありますか。

取得費加算は使えません。譲渡損の場合は「加算額はないものとする」と政令に明記されています(施行令25条の16第1項ただし書き)。

ただし、損が出るということは譲渡所得税もかからないということです。そもそも減らす税金がありません。この場合に考えるのは税金ではなく、売却額そのものと、売れるまでの維持費です。

空き家を持ち続ける費用は年間で数十万円になります。特定空家に指定されると固定資産税の優遇も外れます。損切りの判断は、税金ではなくこちらの数字でしてください。仲介と買取の違いも、この段階で効いてきます。

Q. 確定申告を自分でやるつもりです。何を用意すればいいですか。

正直に申し上げると、この特例を使う年の確定申告は税理士に頼むことをおすすめします。相続税額と課税価格の内訳、債務控除を戻した分母、譲渡した資産の課税価格算入額——相続税の申告書を読み解かないと数字が揃いません。

それでもご自身でやる場合、最低限そろえるのは次のものです。

  • 相続税の申告書の控え一式(第1表・第11表など。課税価格の内訳が必要です)
  • 相続税を納付した領収証
  • 売買契約書(売ったときのもの・買ったときのもの)
  • 譲渡費用の領収証(仲介手数料・測量費・解体費など)
  • 「相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書」

確定申告書に「適用を受けようとする旨」を記載し、明細書を添付しないと適用されません(措置法39条2項)。ここを忘れると、条件を全部満たしていても使えません。

まとめ

  1. 相続税を払った人だけの制度です。相続税額がゼロなら対象外です(措置法39条1項)
  2. 「3年10か月」は条文にありません。正しくは「相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日まで」
  3. 申告期限は「知った日の翌日から10か月」(相続税法27条1項)。亡くなった日ではありません
  4. 加算額=相続税額 ×(売った資産の課税価格算入額 ÷ 課税価格)(施行令25条の16)
  5. ★ 分母は債務控除を戻した金額です。借金や葬式費用を引く前の数字が分母になります
  6. ★★ 小規模宅地等の特例を使うと分子も小さくなります。それでも小規模宅地のほうが有利です
  7. ★★ 空き家3,000万円控除とは選択です。措置法35条3項が39条の適用を受けるものを除いています
  8. 譲渡損なら加算はゼロ。譲渡益が上限です(施行令25条の16第1項ただし書き)
  9. 附帯税(延滞税・加算税)は相続税額に含めません
  10. 確定申告で記載と添付をしないと適用されません(措置法39条2項)

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