配偶者居住権を設定すると、実家は売れなくなります|評価の出し方と、消すときの贈与税

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父が亡くなった。実家には母が住み続ける。建物と土地の名義は子にして、母には「住み続ける権利」だけを渡す。そうすれば母の相続財産が減るから、母が亡くなったときの相続税も軽くなる——。

令和2年4月1日から使えるようになった配偶者居住権は、たいていこう説明されます。その説明は間違っていません。ただ、同じ制度のもう半分がほとんど語られません。

配偶者居住権を設定した実家は、実質的に売れなくなります。母が施設に入っても、権利は自動では消えません。消すには母の合意が要り、対価を払わずに消すと、建物と土地を持っている子に贈与税がかかります。この記事は、その仕組みを民法・相続税法・国税庁の通達だけで組み立てます。

結論だけ先に

  • ★配偶者居住権は譲渡できません(民法1032条2項)。登記を備えていれば買主にも対抗できます(民法1031条2項が準用する605条)。つまり、負担のない状態で売るには配偶者に消してもらうしかありません。
  • ★対価を払わずに消すと、建物等の所有者に贈与税がかかります。相続税法基本通達9-13の2が、合意・放棄・所有者の消滅請求による消滅について、「対価を支払わなかったとき、又は著しく低い価額の対価を支払ったとき」は贈与により取得したものとして取り扱うと定めています。
  • 配偶者が亡くなって消滅した場合は、この取扱いはありません。同通達の注が、民法1036条が準用する597条1項・3項と616条の2による消滅(=期間満了・配偶者の死亡・建物の全部滅失)には「上記の取り扱いはないことに留意する」と明記しています。これが「二次相続で課税されない」の根拠です。
  • 登記されるのは建物だけです。不動産登記法3条9号が登記できる権利として挙げているのは「配偶者居住権」で、民法1028条1項はこれを「居住建物」についての権利と定義しています。土地の登記事項証明書を見ても、配偶者居住権の存在は分かりません。

この記事は e-Gov法令検索の条文、国税庁の法令解釈通達とタックスアンサー、法務省の公表資料だけで書いています。当サイトに税理士・弁護士・司法書士はいません。設定するかどうかの判断は必ず専門家に確認してください。最終確認日:2026年8月25日。

1. 配偶者居住権とは何か

民法1028条1項です。

被相続人の配偶者は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、その居住していた建物(以下「居住建物」という。)の全部について無償で使用及び収益をする権利(以下「配偶者居住権」という。)を取得する。ただし、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっては、この限りでない。
一 遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき。
二 配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき。

項目 内容 条文
誰が 被相続人の配偶者(法律婚) 民1028①
何を 建物の全部を無償で使用・収益する権利。一部だけの設定はできない 民1028①
条件 相続開始の時にその建物に居住していたこと 民1028①
使えない場合 被相続人が相続開始時に、配偶者以外の者と建物を共有していたとき 民1028①ただし書
取得の方法 ①遺産分割 ②遺贈 ③家庭裁判所の審判 民1028①・1029
存続期間 原則は配偶者の終身。協議・遺言・審判で別段の定めができる 民1030
登記 できる。建物所有者に登記を備えさせる義務がある 民1031①、不登3⑨
譲渡 できない 民1032②
増改築・賃貸 建物所有者の承諾が必要 民1032③
民法1028条〜1032条、不動産登記法3条9号から作成

「被相続人が配偶者以外の者と共有していた場合は成立しない」は見落とされやすい要件です。二世帯住宅を父と子の共有名義にしていたら、その建物には配偶者居住権を設定できません。

2. なぜ売れなくなるのか

3つの条文が積み重なっています。

① 配偶者は売れない(民法1032条2項)

配偶者居住権は、譲渡することができない。

② 所有者が売っても、買主は明渡しを求められない(民法1031条2項)

民法1031条2項が605条を準用しています。605条は「不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その不動産について物権を取得した者その他の第三者に対抗することができる」という条文です。

つまり、配偶者居住権の登記があれば、建物を買った人に対しても権利を主張できます。買主は、母が住んでいる家を買うことになります。当然、そんな建物を買う人はまずいません。

③ 所有者から一方的には消せない

建物所有者の側から消滅させられるのは、配偶者が用法違反をして、相当の期間を定めた是正の催告に応じなかった場合だけです(民法1032条4項)。普通に住んでいるだけの配偶者に対しては、所有者は何もできません。

結果として、負担のない状態で売るには配偶者に合意解除か放棄をしてもらうしかありません。そしてそこで税金が出てきます。

3. 消すときに贈与税がかかる

相続税法基本通達9-13の2です。長いですが、この記事のいちばん大事なところなので条文どおりに読みます。

配偶者居住権が、被相続人から配偶者居住権を取得した配偶者と当該配偶者居住権の目的となっている建物の所有者との間の合意若しくは当該配偶者による配偶者居住権の放棄により消滅した場合又は民法第1032条第4項の規定により消滅した場合において、当該建物の所有者又は当該建物の敷地の用に供される土地の所有者が、対価を支払わなかったとき、又は著しく低い価額の対価を支払ったときは、原則として、当該建物等所有者が、その消滅直前に、当該配偶者が有していた当該配偶者居住権の価額に相当する利益又は当該土地を当該配偶者居住権に基づき使用する権利の価額に相当する利益に相当する金額(対価の支払があった場合には、その価額を控除した金額)を、当該配偶者から贈与によって取得したものとして取り扱うものとする。

母に「もう住まないから権利を放棄してほしい」と頼んで、無償で放棄してもらうと、その分の価値を子が母から贈与されたことになります。

消滅のしかた 建物等所有者への贈与税 根拠
配偶者と所有者の合意 対価がなければ課税 相基通9-13の2
配偶者による放棄 対価がなければ課税 相基通9-13の2
用法違反による所有者の消滅請求(民1032④) 対価がなければ課税 相基通9-13の2
配偶者の死亡(民1036→597③) 取扱いなし=課税されない 同通達(注)
存続期間の満了(民1036→597①) 取扱いなし=課税されない 同通達(注)
建物の全部滅失等(民1036→616の2) 取扱いなし=課税されない 同通達(注)
相続税法基本通達9-13の2およびその(注)から作成

逆に言えば、対価を払えば贈与税は出ません。ただし今度は、対価を受け取った配偶者の側で所得税の問題が起きます。この点について当サイトは一次情報を確認できませんでした。専門家に確認してください。

4. 施設に入っても、権利は自動では消えません

民法が定める消滅事由は、次の5つだけです。

  • 配偶者の死亡(民法1036条が準用する597条3項「使用貸借は、借主の死亡によって終了する」)
  • 存続期間の満了(民法1030条、1036条が準用する597条1項)
  • 居住建物の全部滅失等(民法1036条が準用する616条の2)
  • 用法違反等に対する所有者の消滅請求(民法1032条4項)
  • 配偶者が建物の完全な所有権を取得したとき(民法1028条2項の反対解釈)

この中に「配偶者が住まなくなったこと」はありません。民法1032条1項は「従前の用法に従い」使用収益すべきことを定めていますが、住み続ける義務は課していません。むしろ同条3項は、所有者の承諾があれば第三者に賃貸できることを前提にしています。

いちばん多い誤解

「母が施設に入ったら配偶者居住権は消えるから、そのとき売ればいい」——消えません。母が存命である限り権利は残り続け、建物は売れないままです。消したければ合意か放棄が必要で、対価を払わなければ子に贈与税がかかります(相基通9-13の2)。施設の入居一時金のために実家を売る、という将来設計は、配偶者居住権を設定した時点で難しくなります。

5. 登記されるのは建物だけです

不動産登記法3条は、登記できる権利を限定列挙しています。所有権・地上権・永小作権・地役権・先取特権・質権・抵当権・賃借権・配偶者居住権・採石権の10種類です。

そして民法1028条1項は、配偶者居住権を「居住建物」についての権利と定義しています。不動産登記法81条の2が定める登記事項も、居住建物を前提にしています。

土地について配偶者居住権を登記する規定は、不動産登記法にありません。土地の全部事項証明書だけを見ても、配偶者居住権の存在は分かりません。

もうひとつ。登記義務は建物所有者にあります(民法1031条1項)が、登記されないまま所有者が第三者に売却してしまうと、配偶者は買主に対抗できません。遺産分割が成立したら、速やかに登記してください。

6. 相続税評価はどう出すのか

相続税法23条の2が、4つの価額を定めています。建物と土地が、それぞれ「配偶者の権利」と「所有者の取り分」に割れます。

評価するもの 計算の考え方 条文
配偶者居住権 建物の相続税評価額 −(建物の評価額 ×(耐用年数 − 経過年数 − 存続年数)÷(耐用年数 − 経過年数)× 複利現価率) 相法23の2①
居住建物(所有権部分) 建物の相続税評価額 − 配偶者居住権の価額 相法23の2②
敷地利用権 土地の相続税評価額 −(土地の評価額 × 複利現価率) 相法23の2③
居住建物の敷地(所有権部分) 土地の相続税評価額 − 敷地利用権の価額 相法23の2④
相続税法23条の2。土地の側には耐用年数の要素が入りません。

耐用年数・経過年数・存続年数・複利現価率

  • 耐用年数:所得税法施行令129条の耐用年数のうち居住建物に係るものを1.5倍した年数(相続税法施行令5条の7第2項)。木造住宅なら22年×1.5=33年です。
  • 経過年数:建築後の経過年数。6か月以上の端数は1年、6か月未満は切捨て
  • 存続年数:終身の場合は配偶者の平均余命(相続税法施行令5条の7第3項1号)。平均余命は厚生労働省の完全生命表によります(相続税法施行規則12条の3)。国税庁のタックスアンサーNo.4666の具体例は「第23回生命表に基づく平均余命12.25年」を使っています。
  • 複利現価率:存続年数に応じた法定利率による複利現価率(相続税法23条の2第1項3号)。法定利率は年3%で、3年ごとに見直されます(民法404条2項・3項)。法務省は、令和8年4月1日から令和11年3月31日までの期の基準割合を年0.4%と告示しており、直近変動期との差が1%未満のため法定利率は3%のまま変わりません。

国税庁のタックスアンサーNo.4666には具体的な計算例が載っています。耐用年数33年(22年×1.5)、経過年数10年、存続年数12年、複利現価率0.701(端数処理前0.7014)という前提です。計算式そのものは画像で示されているため、実際に数字を当てるときは国税庁の「配偶者居住権等の評価明細書」を使ってください。

小規模宅地等の特例は敷地利用権にも使えます

租税特別措置法69条の4第1項が対象とする「宅地等」は「土地又は土地の上に存する権利」と定義されているので、敷地利用権も含まれます。ただし限度面積(特定居住用宅地等なら330㎡)の判定は、敷地の所有権部分と敷地利用権とで、価額の比によって面積を按分します(租税特別措置法施行令40条の2第6項)。

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配偶者居住権の評価は耐用年数・経過年数・平均余命・複利現価率の4つで動きます(相続税法23条の2)。建物が新しいほど、配偶者が若いほど、配偶者居住権の価額は大きくなります。そして本当に見るべきは一次相続と二次相続を通算した税額です。配偶者の税額軽減と小規模宅地等の特例をどう組み合わせるかで結論が変わるので、設定する前に、設定した場合としなかった場合の両方を出してもらってください。ここは相続税を扱う税理士を紹介してもらう窓口で、紹介自体は無料です。

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敷地利用権に小規模宅地等の特例を使う場合、限度面積は価額の比で按分されます(租税特別措置法施行令40条の2第6項)。この点も必ず確認してください。

7. 二次相続で課税されない、というメリットの正体

ここが配偶者居住権の最大の利点です。そしてその根拠は、意外にも通達の(注)にあります。

(注)民法第1036条において準用する同法第597条第1項及び第3項並びに第616条の2の規定により配偶者居住権が消滅した場合には、上記の取り扱いはないことに留意する。

597条3項は「使用貸借は、借主の死亡によって終了する」です。つまり配偶者が亡くなって配偶者居住権が消滅したときには、9-13の2の贈与課税の取扱いは適用されません。

そして配偶者居住権は譲渡できず(民法1032条2項)、配偶者の死亡で当然に消滅するので、配偶者の相続財産にもなりません。相続税法にこれを課税対象とみなす規定も置かれていません。

一次相続(父が死亡) 二次相続(母が死亡)
母が建物と土地を相続した場合 建物と土地の全額が母の取得財産(配偶者の税額軽減あり) 建物と土地の全額が課税対象
母が配偶者居住権を取得した場合 母は配偶者居住権+敷地利用権、子は所有権部分 配偶者居住権は消滅し、課税されない
相続税法基本通達9-13の2およびその(注)、民法1032条2項・1036条から整理。実際の税額は財産構成と基礎控除で変わります。

これは本物のメリットです。ただし、その代償が「売れない実家」です。相続税の総額と、実家を売れないまま母の存命中ずっと持ち続けるコストを、両方並べて比べてください。

8. 修繕費と固定資産税は誰が払うのか

費目 負担する人 条文
通常の必要費 配偶者 民1034①
通常の必要費以外の費用 所有者への償還の問題になる 民1034②(583②準用)
使用収益に必要な修繕 配偶者が「することができる」。しないときは所有者ができる 民1033①②
修繕が必要になったときの通知 配偶者に通知義務がある 民1033③
固定資産税の納税義務者 所有者(配偶者居住権者ではない) 地方税法343条
民法1033条・1034条、地方税法343条から作成

固定資産税の納税通知は所有者である子に届きます。それが民法1034条1項の「通常の必要費」に当たって最終的に母の負担になるのかどうかは、条文に明記がなく、当サイトでは確認できませんでした。設定する前に、誰がいくら払うのかを家族で決めて書面にしておいてください。

9. 配偶者短期居住権との違い

名前が似ていますが、別の制度です。配偶者短期居住権は、遺産分割がまとまるまでのつなぎです。

配偶者居住権 配偶者短期居住権
権利の中身 建物全部の使用及び収益 居住していた部分の使用のみ
範囲 建物の全部 無償で使用していた部分でよい
期間 原則は終身 遺産分割の確定日か相続開始から6か月の遅いほう
どうやって発生するか 遺産分割・遺贈・審判 法律上当然に発生する
登記 できる できない
相続税の評価 相続税法23条の2で評価する 評価の対象ではない
譲渡 できない できない
民法1028条〜1041条、不動産登記法3条9号、相続税法23条の2から作成

短期のほうは登記できないので、遺産分割の最中に建物が第三者に売られると立場が弱くなります。民法1037条2項は「居住建物取得者は、第三者に対する居住建物の譲渡その他の方法により配偶者の居住建物の使用を妨げてはならない」と定めていますが、譲渡そのものを禁じてはいません。

10. 設定する前に、実家がいくらなのかを知っておく

配偶者居住権を設定するかどうかは、次の比較で決まります。

  1. 設定した場合に減る相続税——一次相続と二次相続を通算して出す
  2. 設定しなかった場合に売れる金額——設定した後は事実上売れなくなるので、これが失う選択肢
  3. 母が存命の間、実家を持ち続けるコスト——固定資産税、火災保険、修繕、管理

①は税理士に、③は積算すれば出ます。②だけは、設定してしまうと確かめられなくなります。順番として、先に②を押さえてください。

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設定する前に、いまの実家の金額だけ確かめる

配偶者居住権を設定すると、実家は実質的に売れなくなります。配偶者は譲渡できず(民法1032条2項)、登記があれば買主にも対抗できるからです(1031条2項→605条)。つまり「売った場合いくらだったのか」は、設定した後では確かめる意味がなくなります。節税額と比べるべき相手はこの金額です。ラクウルは訳あり物件・空き家・共有持分などを全国で買い取っている会社で、自社買取なので仲介手数料はかかりません。

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③1世帯で2回以上の申込は無効になります。ご家族が先に申し込んでいないか確認してください。
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よくある質問

Q. 配偶者居住権を設定した実家は売れますか?

実質的に売れません。配偶者は譲渡できず(民法1032条2項)、所有者が売っても登記のある配偶者居住権には対抗できません(民法1031条2項が準用する605条)。負担のない状態で売るには、配偶者に合意解除か放棄をしてもらう必要があります。そして対価を払わなければ、所有者に贈与税がかかります(相基通9-13の2)。

Q. 母が施設に入ったら配偶者居住権は消えますか?

消えません。民法が定める消滅事由は、配偶者の死亡・存続期間の満了・建物の全部滅失等・用法違反に対する消滅請求・配偶者が完全所有権を取得したとき、の5つです。「住まなくなったこと」は入っていません。むしろ民法1032条3項は、所有者の承諾があれば第三者に賃貸できることを前提にしています。

Q. 配偶者が亡くなったとき、相続税や贈与税はかかりますか?

かかりません。相続税法基本通達9-13の2の(注)が、民法1036条が準用する597条3項(借主の死亡による終了)などによって消滅した場合には「上記の取り扱いはないことに留意する」と明記しています。配偶者居住権は譲渡できず、配偶者の死亡で当然に消滅するので、配偶者の相続財産にもなりません。

Q. 登記しないとどうなりますか?

第三者に対抗できません。民法1031条1項は建物所有者に登記を備えさせる義務を課していますが、登記がないまま所有者が建物を第三者に売却すると、配偶者は買主に権利を主張できません。遺産分割が成立したら速やかに登記してください。

Q. 土地にも配偶者居住権は登記されますか?

されません。不動産登記法3条は登記できる権利を限定列挙しており、土地について配偶者居住権や敷地利用権を登記する規定はありません。民法1028条1項も、配偶者居住権を「居住建物」についての権利と定義しています。土地の登記事項証明書からは、配偶者居住権の存在を読み取れません。

Q. 建物が父と子の共有名義でも設定できますか?

できません。民法1028条1項ただし書が「被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっては、この限りでない」と定めています。二世帯住宅を親子の共有名義にしているケースは、この要件で落ちます。

Q. 建物の一部だけに設定できますか?

できません。民法1028条1項は「その居住していた建物の全部について」と定めています。1階だけ、居住部分だけ、という設定はできません。

Q. 配偶者居住権の評価はどうやって出しますか?

相続税法23条の2で、建物と土地がそれぞれ2つに割れます。配偶者居住権の価額は、建物の相続税評価額から「建物の評価額×(耐用年数−経過年数−存続年数)÷(耐用年数−経過年数)×複利現価率」を引いた額です。耐用年数は法定耐用年数の1.5倍(木造なら22年×1.5=33年)、存続年数は終身なら平均余命、複利現価率は法定利率3%で計算します。国税庁の「配偶者居住権等の評価明細書」を使ってください。

Q. 小規模宅地等の特例は使えますか?

敷地利用権にも使えます。租税特別措置法69条の4第1項の「宅地等」は「土地又は土地の上に存する権利」と定義されているからです。ただし限度面積は、敷地の所有権部分と敷地利用権とで価額の比により按分して判定します(租税特別措置法施行令40条の2第6項)。

Q. 修繕費や固定資産税は誰が払いますか?

通常の必要費は配偶者の負担です(民法1034条1項)。固定資産税の納税義務者は所有者なので(地方税法343条)、納税通知は所有者に届きます。それが「通常の必要費」として最終的に配偶者の負担になるのかどうかは、条文に明記がなく当サイトでは確認できませんでした。設定前に家族で取り決めて書面にしておいてください。

Q. 配偶者短期居住権とは何が違いますか?

短期のほうは、遺産分割がまとまるまでのつなぎです。法律上当然に発生し、期間は遺産分割の確定日か相続開始から6か月の遅いほうまで。権利の中身は「使用」だけで収益権はなく、登記もできません(不動産登記法3条は配偶者短期居住権を挙げていません)。相続税法23条の2の評価対象でもありません。

この記事で確認できなかったこと

  • 配偶者居住権の設定登記が、実際に年間何件されているか。法務省の登記統計に「配偶者居住権の設定」という区分があることまでは分かりましたが、e-Statの統計表を開けず、件数の実数を確認できませんでした。
  • 死因贈与によって配偶者居住権を取得できるかどうか。民法1028条1項が挙げる取得原因は「遺産の分割」と「遺贈」だけで、1029条の審判を加えても3つです。死因贈与の可否について、一次情報を確認できませんでした。
  • 対価を受け取って配偶者居住権を消滅させた場合の、配偶者側の所得課税。譲渡所得になるのかどうかを示す一次情報を確認できませんでした。
  • 固定資産税が民法1034条1項の「通常の必要費」に含まれるかどうか。納税義務者が所有者であること(地方税法343条)までは確認しましたが、配偶者が最終的に負担すべきかを定めた規定は見当たりませんでした。
  • 相続税法23条の2の適用開始時期(改正法附則)。民法側の施行日が令和2年4月1日であることは法務省の公表資料で確認しましたが、相続税法側の附則の文言は確認していません。
  • タックスアンサーNo.4666に掲載されている計算式の画像の中身。数式が画像で提供されているため、本記事では条文(相続税法23条の2)からの読み取りで説明しています。実際の計算には国税庁の評価明細書を使ってください。

まとめ

  1. 配偶者居住権は、建物の全部を無償で使用・収益する権利です(民法1028条1項)。被相続人が配偶者以外の者と建物を共有していた場合は成立しません。
  2. ★設定すると実家は実質的に売れなくなります。配偶者は譲渡できず(1032条2項)、登記があれば買主にも対抗できます(1031条2項→605条)。
  3. 消せるのは、合意・放棄・用法違反の消滅請求だけです。そして対価を払わずに消すと、建物等の所有者に贈与税がかかります(相基通9-13の2)。
  4. 母が施設に入っても権利は消えません。民法の消滅事由5つに「住まなくなったこと」は入っていません。
  5. 登記されるのは建物だけです。土地の登記事項証明書には現れません(不動産登記法3条・81条の2)。登記しないと第三者に対抗できません。
  6. 評価は相続税法23条の2で4つに割れます。耐用年数は法定耐用年数の1.5倍、存続年数は平均余命(第23回生命表)、複利現価率は法定利率3%です。
  7. 小規模宅地等の特例は敷地利用権にも使えます。限度面積は価額の比で按分します(措置法施行令40条の2第6項)。
  8. ★配偶者の死亡による消滅には課税されません。これが二次相続対策と言われる理由で、根拠は相基通9-13の2の(注)です。
  9. 通常の必要費は配偶者が負担します(民法1034条1項)。固定資産税の納税義務者は所有者です(地方税法343条)。
  10. 設定する前に、実家がいくらで売れるのかを確かめてください。設定した後は、それを確かめる意味がなくなります。

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