地主が売却を承諾しない|借地非訟という手続の中身と費用

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借地に建つ実家を相続した。買い手も見つかった。ところが地主が「売るのは認めない」と言う。ここで多くの人が、話が終わったと思ってしまいます。

終わっていません。地主が承諾しなくても、裁判所が代わりに許可を出す制度があります。借地借家法19条1項です。しかも、これに反する特約は無効だと法律が明記しています(同21条)。契約書に「裁判所に申し立てない」と書いてあっても、その部分は効きません。

この記事は、その手続を条文と裁判所の公式資料だけで組み立てます。いくら払えば承諾がもらえるかという「相場」は書きません。裁判所・法務省・国土交通省の公式資料を当たりましたが、承諾料の相場も算定方法も、どこにも書かれていなかったからです。よく見る「借地権価格の10%」という数字の出どころは、公的資料には見つけられませんでした。

結論だけ先に

  • 地主が承諾しなくても、裁判所が「承諾に代わる許可」を出せます(借地借家法19条1項)。これに反する借地権者に不利な特約は無効です(同21条)。
  • 申立先は、土地の所在地を管轄する地方裁判所(同41条)。代理人になれるのは弁護士だけです(同44条1項)。東京地裁の案内では、多くの事件が概ね1年以内に終わっています。
  • ★許可が出ても、効力が生じてから6か月以内に建物を譲渡しないと、許可は失効します(同59条)。買主を決めてから申し立てる順番になります。
  • 地主には「介入権」があります(同19条3項)。「他人に売るくらいなら自分が買う」と申し立てられる制度で、この裁判が出た後は、双方の合意がないと取下げもできません(同5項)。

条文は2026年8月24日にe-Gov法令検索で、手続は裁判所(courts.go.jp)と法務省の公式ページで確認しました。費用と運用は東京地方裁判所民事第22部の案内によるもので、裁判所によって異なる場合があります。実際の申立ては弁護士にご相談ください。

1. なぜ地主の承諾が要るのか

民法第612条(賃借権の譲渡及び転貸の制限)
第1項 賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
第2項 賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。

売るのは建物。でも土地の賃借権が一緒に動きます

借地上の実家を売るとき、売買の対象は建物です。ですが建物を買った人は、その土地を使い続けなければ意味がありません。つまり建物の売買には、土地の賃借権の譲渡が必ずついてきます。だから612条1項の承諾が要ります。

黙って売るという選択肢はありません

612条2項は、無断で譲渡すると賃貸人は契約を解除できると定めています。解除されれば、買主は土地を使えなくなり、建物を撤去することにもなりかねません。

「解除が認められないこともある」という議論は実務上ありますが、この記事はそこに踏み込みません。裁判例を一次情報で特定できなかったからです。後述の「確認できなかったこと」に書いています。無断譲渡を勧める記述は、この記事にはありません。

2. ★裁判所が、地主の代わりに許可を出す

借地借家法第19条第1項
借地権者が賃借権の目的である土地の上の建物を第三者に譲渡しようとする場合において、その第三者が賃借権を取得し、又は転借をしても借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず、借地権設定者がその賃借権の譲渡又は転貸を承諾しないときは、裁判所は、借地権者の申立てにより、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。この場合において、当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは、賃借権の譲渡若しくは転貸を条件とする借地条件の変更を命じ、又はその許可を財産上の給付に係らしめることができる。

判断の枠組みは「地主に不利となるおそれがないか」

同第2項
裁判所は、前項の裁判をするには、賃借権の残存期間、借地に関する従前の経過、賃借権の譲渡又は転貸を必要とする事情その他一切の事情を考慮しなければならない。

「相続したが自分は住まない」「維持できない」という事情は、2項の「譲渡を必要とする事情」にあたります。感情の問題ではなく、条文が考慮すべきと定めている要素です。

★契約書の不利な特約は無効になります

借地借家法第21条(強行規定)
第十七条から第十九条までの規定に反する特約で借地権者又は転借地権者に不利なものは、無効とする。

ただし20条は対象外です

21条が守っているのは17条・18条・19条で、競売・公売の場合の20条は含まれていません。競売で借地上の建物を落札した場合の話は、この保護の外にあります。

3. ★見落とされる59条──許可には6か月の期限があります

借地借家法第59条(譲渡又は転貸の許可の裁判の失効)
第十九条第一項……の規定による裁判は、その効力を生じた後六月以内に借地権者が建物の譲渡をしないときは、その効力を失う。ただし、この期間は、その裁判において伸長し、又は短縮することができる。

これが、この記事でいちばん実務に効く条文です。許可を取ってから買主を探すのでは、間に合わない可能性があります。

しかも「効力を生じる」までにもう一段あります

同第55条第2項
前項の裁判は、確定しなければその効力を生じない。

決定が出ても、即時抗告の期間(決定書の送達を受けた日から2週間)が過ぎて確定して、はじめて効力が生じます。そこから6か月です。

順 やること 根拠・目安
1 まず地主に承諾を求める 民法612条1項。承諾が得られれば裁判所は不要
2 買主を決めておく 19条1項は「第三者に譲渡しようとする場合」なので、譲渡の相手が特定している必要があります
3 弁護士に依頼して申立て 借地借家法44条1項(代理人は弁護士に限る)
4 審理(東京地裁で概ね1年以内) 東京地裁民事第22部の案内
5 決定 → 2週間で確定 55条2項・即時抗告2週間
6 確定から6か月以内に建物を譲渡 59条。過ぎると許可が消えます
許可は、6か月で消えます 1 地主に承諾を求める 民法612条1項。得られれば不要 2 買主を決めておく 譲渡の相手が特定している必要 3 弁護士に依頼して申立て 44条1項。代理人は弁護士だけ 4 審理 東京地裁で概ね1年以内 5 決定 → 2週間で確定 即時抗告の期間が2週間 6 6か月以内に譲渡 59条。過ぎると許可が消えます

4. ★地主の「介入権」──自分が買うと言われたら

借地借家法第19条第3項
第一項の申立てがあった場合において、裁判所が定める期間内に借地権設定者が自ら建物の譲渡及び賃借権の譲渡又は転貸を受ける旨の申立てをしたときは、裁判所は、同項の規定にかかわらず、相当の対価及び転貸の条件を定めて、これを命ずることができる。この裁判においては、当事者双方に対し、その義務を同時に履行すべきことを命ずることができる。

「他人に売られるくらいなら、自分が買い取る」と地主が言える制度です。東京地裁は、これを「借地権設定者の建物及び土地賃借権譲受申立事件」として6類型の1つに挙げています。

介入権が出た後は、取り下げられなくなります

同第5項
第三項の裁判があった後は、第一項又は第三項の申立ては、当事者の合意がある場合でなければ取り下げることができない。

東京地裁も「介入権行使の申立てを認める裁判があった場合は、申立人及び相手方は、いずれも、自分の申立てを取り下げるためには、他方の当事者と書面で取下げの合意をすることが必要になります」と案内しています。

つまり「地主が買うと言い出したから、やっぱりやめます」が効かなくなります。申し立てる前に、地主が介入してきたらどうするかを決めておいてください。

対価は裁判所が定めます

介入権の裁判では、裁判所が「相当の対価」を定めます。東京地裁は、鑑定委員会が意見を述べる対象の例として「介入権を行使した者に支払を命じる建物及び土地賃借権の適正な対価」を挙げています。売り先が変わるだけで、金額が宙に浮くわけではありません。

介入権の裁判が出ると、やめられません 介入権を認める裁判が、もう出ましたか はい 取り下げられません 双方の合意が必要 いいえ まだ取り下げ可能 申し立てる前に決める

なお、介入権の申立期限は条文上「裁判所が定める期間内」です。法令で一律に決まった日数はありません(この点は後述の「確認できなかったこと」もご覧ください)。

5. どこに、いくらで申し立てるのか

借地借家法第41条(管轄裁判所)(抜粋)
……に規定する事件は、借地権の目的である土地の所在地を管轄する地方裁判所が管轄する。ただし、当事者の合意があるときは、その所在地を管轄する簡易裁判所が管轄することを妨げない。

実家の所在地の地方裁判所です。あなたが住んでいる場所ではありません。東京23区と島しょ部は東京地裁民事第22部、多摩地区は立川支部が担当します。

代理人は弁護士だけ

同第44条第1項
法令により裁判上の行為をすることができる代理人のほか、弁護士でなければ手続代理人となることができない。ただし、簡易裁判所においては、その許可を得て、弁護士でない者を手続代理人とすることができる。

申立手数料

訴額等 借地非訟事件の申立て (参考)通常の訴えの提起
100万円 5,000円 12,500円
500万円 15,000円 32,500円
1,000万円 25,000円 52,500円
3,000万円 55,000円 112,500円
5,000万円 85,000円 172,500円
1億円 160,000円 322,500円

借地非訟の手数料は、通常の訴えのおおむね半分の水準です。そして、ここでいう「訴額」は売買代金ではありません。

東京地裁の案内によれば、申立手数料は「借地権が設定された土地の価格を基礎として算定」し、土地の価格は「固定資産評価額に2分の1を乗じて得られた金額を基準」とします(平成6年4月1日から)。譲渡許可(19条1項)は「その他の申立事件」にあたるので、土地の固定資産評価額÷2が訴額になります。

費目 金額
申立手数料 上の早見表(訴額=土地の固定資産評価額÷2)
予納郵便切手(相手方1名) 6,000円分(500円×8、110円×10、50円×10、20円×10、10円×20)
相手方が1名増えるごと 500円×2枚(1,000円)を追加
鑑定委員の費用 国が負担。当事者の負担はありません
弁護士費用 別途(この記事では扱いません)

必要書類

  • 申立書(正本1通、副本は相手方の人数分)
  • 土地の固定資産評価証明書(原本)/建物の固定資産評価証明書(原本)──手数料算定の基礎になります
  • 現場の住宅地図
  • 証拠資料(賃貸借契約書など)
  • 資格証明書(当事者が法人の場合)、委任状

東京地裁は申立書と答弁書の書式をPDFとRTFで公開しています。譲渡許可に対応するのは「土地賃借権譲渡・土地転貸許可申立書」です。

手数料は、通常の訴えの約半分です 訴額 100万円 5,000円 訴額 500万円 15,000円 訴額 1,000万円 25,000円 訴額 3,000万円 55,000円 訴額 5,000万円 85,000円 訴額 1億円 160,000円 訴額は土地の固定資産評価額÷2。売買代金ではない

6. 手続の中身

段階 内容 根拠
申立て 申立書を管轄裁判所へ 41条
第1回審問期日 申立てから概ね1か月〜1か月半後に指定 東京地裁の案内
審問期日 裁判所は審問期日を開き、当事者の陳述を聴かなければならない。当事者は他の当事者の審問に立ち会えます。非公開です 51条
鑑定委員会 3人以上で組織。東京地裁は「弁護士、不動産鑑定士及び有識者(建築士を含む)」から指定。現地調査は審問期日から約1か月半程度後 47条、19条6項
意見書提出後 1か月〜1か月半程度で審問期日 東京地裁の案内
審理の終結 審問期日で宣言 54条
裁判 決定の形式。理由を付さなければならない 55条・56条
不服申立て 決定書の送達を受けた日から2週間以内に即時抗告 東京地裁の案内
全体 「多くの事件は、特段の事情がなければ、概ね1年以内には終わっています」 東京地裁「第1 借地非訟とは」

記録は当事者以外も見られます

借地借家法46条1項により、当事者と、利害関係を疎明した第三者は、事件記録の閲覧・謄写を請求できます。買主候補が手続の進み具合を確認したい、という場面で使えます。

給付を命じる裁判には執行力があります

同第58条(抜粋)
……給付を命ずるものは、強制執行に関しては、裁判上の和解と同一の効力を有する。

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借地非訟の代理人になれるのは弁護士だけです(借地借家法44条1項)。ただ、その前に決めなければならないことがあります。59条により許可は効力発生から6か月で失効するので、買主を決めてから申し立てる順番になる——つまり先に「いくらで、誰に売るか」を固める必要があるということです。ここは借地権を専門に扱う不動産会社の窓口で、無料相談から現地調査・査定・売買契約・地主との代理交渉までを一括で対応すると案内しています。借地非訟にも対応するとしています。

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7. 19条以外の5つの類型

東京地裁は借地非訟事件を6類型に整理しています。相続した実家で関係しうるものを並べます。

類型 根拠 使う場面
借地条件変更 17条1項 「木造に限る」といった条件を変えたいとき
増改築許可 17条2項 借地条件に「増改築を制限する旨の定めがある場合」に限ります。制限特約が無ければ、そもそもこの手続の場面ではありません
更新後の建物再築許可 18条1項 平成4年8月1日以降に設定された借地権のみ
土地賃借権譲渡・転貸許可 19条1項 この記事の主題
競売・公売に伴う賃借権譲受許可 20条1項 代金支払後2か月以内。期限が短い
介入権 19条3項・20条2項 地主側が申し立てる

増改築の「許可」が要るとは限りません

17条2項は「借地条件に建物の増改築を制限する旨の定めがある場合において」という要件から始まります。契約書にその制限が書かれていなければ、17条2項の出番ではありません。

まず契約書を読んで、増改築の制限特約があるかどうかを確かめてください。「地主に断らないと建て替えられない」と思い込んでいるだけ、というケースがありえます。

なお、これらの手続の対象は「建物の所有を目的とする土地賃貸借契約又は地上権設定契約」に限られます。東京地裁が明示しており、使用貸借(無償で借りている場合)は対象外です。親戚の土地に無償で建てている実家は、この制度の外にあります。

借地非訟には、6つの入口があります 借地条件変更 17条1項。「木造に限る」など 条件を変える 増改築許可 17条2項。制限特約があるときだけ 契約書を読む 更新後の建物再築許可 18条1項。平成4年8月1日以降 新法の借地のみ 賃借権の譲渡・転貸許可 19条1項。この記事の主題です 売るときはここ 競売・公売の譲受許可 20条1項。代金支払後2か月以内 期限が短い 介入権 19条3項・20条2項 地主側が申し立てる 使用貸借(無償)は、この制度の対象外です

8. ★承諾料の「相場」を、この記事は書きません

条文が定めているのは、ここまでです。

条文 定めていること
19条1項後段 裁判所は許可を「財産上の給付に係らしめることができる」
19条2項 残存期間・従前の経過・譲渡を必要とする事情その他一切の事情を考慮しなければならない
19条6項 鑑定委員会の意見を聴かなければならない
17条3項 借地条件変更でも「財産上の給付を命じ」ることができる
21条 17〜19条に反し借地権者に不利な特約は無効

当たった資料と、その結果

承諾料の算定方法・金額水準を探して、次を確認しました。いずれにも記載はありませんでした。

東京地裁民事第22部の案内(第1〜第4の全ページ)/法務省「借地非訟手続の概要」PDF/国土交通省「不動産鑑定評価基準」(「承諾料」「名義書換料」「譲渡承諾料」の語自体が登場しません)/大阪地裁の借地非訟のページ。

よく見る「借地権価格の10%」という数字は、これらの公的資料のどこにも存在しませんでした。民間の実務慣行として流通している数字で、公的な根拠を示せません。だから書きません。

条文どおりに言えるのは、「裁判所が、事案ごとに、鑑定委員会の意見を聴いたうえで『財産上の給付』として定める」ということだけです。

だからこそ、契約書の特約に注意してください

「譲渡承諾料は借地権価格の◯%とする」という特約が契約書にあっても、21条により、19条に反して借地権者に不利な限りは無効になりえます。地主が契約書を根拠に金額を主張してきたとき、その特約が有効かどうかは、それ自体が争点になります。

9. 動く順番

順 やること ここで確かめること
1 借地契約書を探す 増改築の制限特約はあるか/譲渡に関する特約は/期間は/いつ設定された借地権か(平成4年8月1日の前後)
2 建物の登記事項証明書を取る 建物の登記があれば借地権を第三者に対抗できます(借地借家法10条1項)。法務局で600円
3 土地・建物の固定資産評価証明書を取る 申立手数料の算定に必要。市区町村(東京23区は都税事務所)
4 まず地主に承諾を求める 承諾が得られれば裁判所は不要。やりとりは書面で残す
5 買主を決める 19条1項は「譲渡しようとする場合」。59条の6か月があるので、この順番になります
6 弁護士に相談する 代理人は弁護士のみ(44条1項)
7 申立て 土地所在地の地方裁判所(41条)
8 地主が介入してきた場合の方針を決めておく 介入権の裁判後は、双方の合意がないと取り下げられません(19条5項)

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対象エリア外、あるいは「買ってくれる人が見つからない」ときに

19条1項の申立ては、買主が決まっていることが前提になります。許可の効力が生じてから6か月で失効するからです(59条)。ラクウル(株式会社ネクサスプロパティマネジメント/国土交通大臣(1)第10311号)は、借地権・底地・再建築不可・共有持分といった物件を日本全国で買い取っている会社です。自社で買い取るので、買主が先に確定します。仲介手数料はかかりません。

①買取価格は、仲介で売れる価格より低くなります。②買取業者が買う場合でも、賃借権の譲渡には地主の承諾(民法612条1項)か、裁判所の許可(借地借家法19条1項)が必要です。買取だから承諾が要らない、ということはありません。③申し込むと担当者から連絡が入り、物件の状況を聞かれます。売却を考えていない相談は対象外です。④当サイトはこの会社の査定額や対応を確認していません。⑤このリンク経由の申込で、当サイトは広告収入を受け取ります。それによって買取価格が下がることはありません。

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金額が出てから、申し立てるかどうかを決めてください。順番を逆にすると、6か月の期限に追われます。

よくある質問

地主が「絶対に認めない」と言っています。もう売れませんか

売れる可能性があります。借地借家法19条1項により、その第三者が賃借権を取得しても地主に不利となるおそれがないのに承諾しないときは、裁判所が承諾に代わる許可を与えることができます。裁判所は「賃借権の残存期間、借地に関する従前の経過、賃借権の譲渡を必要とする事情その他一切の事情」を考慮します(同2項)。「相続したが自分は住まない」という事情は、この2項が考慮すると定めている要素にあたります。

契約書に「裁判所に申し立てない」と書いてあります

その部分は無効になりえます。借地借家法21条は「第十七条から第十九条までの規定に反する特約で借地権者又は転借地権者に不利なものは、無効とする」と定めています。19条の申立権を奪う特約は、これに触れます。ただし20条(競売・公売の場合)は21条の対象に入っていません。

いくらかかりますか

申立手数料は、土地の固定資産評価額÷2を訴額として算定します(東京地裁の案内)。訴額1,000万円なら25,000円、3,000万円なら55,000円です。通常の訴え提起のおおむね半分の水準です。予納郵便切手は相手方1名で6,000円分。鑑定委員の費用は国が負担するので、当事者の負担はありません。これとは別に弁護士費用がかかります。

どのくらい時間がかかりますか

東京地裁は「多くの事件は、特段の事情がなければ、概ね1年以内には終わっています」と案内しています。第1回審問期日は申立てから概ね1か月〜1か月半後、鑑定委員会の現地調査はその約1か月半程度後、意見書提出後1か月〜1か月半で審問期日、という流れです。決定に不服があれば2週間以内に即時抗告できるので、そこで延びることもあります。

許可が出たら、いつまでに売ればいいですか

効力が生じてから6か月以内です(借地借家法59条)。しかも決定は「確定しなければその効力を生じない」ので(55条2項)、即時抗告の期間が過ぎて確定してから6か月を数えます。期間は裁判の中で伸長・短縮できるとされていますが、原則は6か月です。だから買主を決めてから申し立てる順番になります。

地主が「自分が買う」と言い出しました

介入権です(借地借家法19条3項)。裁判所が定める期間内に地主が自ら譲り受ける旨を申し立てると、裁判所は「相当の対価」を定めて、それを命ずることができます。注意点は、この裁判が出た後は、双方の合意がなければ申立てを取り下げられなくなることです(同5項)。「やっぱりやめます」が効かなくなるので、申し立てる前に方針を決めておいてください。

自分で申し立てられますか

代理人を立てるなら弁護士でなければなりません(借地借家法44条1項)。ただし簡易裁判所では、その許可を得て弁護士でない者を代理人にできます。本人が自分で手続をすること自体を禁じる条文は見当たりませんが、鑑定委員会の意見に対する反論や、財産上の給付の額をめぐるやりとりが伴う手続です。東京地裁の案内も、代理人は弁護士に限られると明記しています。

どこの裁判所に申し立てますか

実家(借地)の所在地を管轄する地方裁判所です(借地借家法41条)。あなたが住んでいる場所の裁判所ではありません。当事者の合意があれば、同じ所在地の簡易裁判所でも構いません。東京23区と島しょ部は東京地裁民事第22部、多摩地区は立川支部です。

建て替えたいだけなのですが、これも申立てが要りますか

契約書に増改築の制限特約があるかどうかで変わります。借地借家法17条2項は「借地条件に建物の増改築を制限する旨の定めがある場合において」という要件から始まります。制限特約が無いなら、そもそもこの手続の場面ではありません。まず契約書を確認してください。なお、更新後の建物再築の許可(18条1項)は平成4年8月1日以降に設定された借地権にしか使えません。

承諾料はいくら払うことになりますか

この記事は金額を書きません。裁判所・法務省・国土交通省の公式資料を当たりましたが、承諾料の算定方法も相場も、どこにも記載がありませんでした。国土交通省の「不動産鑑定評価基準」には「承諾料」「譲渡承諾料」「名義書換料」という語自体が出てきません。条文が定めているのは、裁判所が事案ごとに、鑑定委員会の意見を聴いたうえで「財産上の給付」として定める、というところまでです(19条1項後段・6項)。

年間どれくらい申し立てられていますか

件数は書けませんでした。司法統計年報(民事・行政編)の第4表に「借地非訟」という独立した事件区分が存在することまでは目次で確認できましたが、数値そのものを取得できませんでした(検索システムの表示方式のため)。裁判所データブック2026にも借地非訟の内訳はありません。「よくある手続なのか、めったに使われないのか」を数字で示せないので、書いていません。

この記事で確認できなかったこと

  • 譲渡承諾料・建替承諾料の相場と算定方法。東京地裁民事第22部の全ページ、法務省「借地非訟手続の概要」PDF、国土交通省「不動産鑑定評価基準」、大阪地裁の案内のいずれにも記載がありませんでした。「借地権価格の10%」という数字は公的資料に存在しません。
  • 無断譲渡でも解除が認められない場合があるという判例法理。裁判所の裁判例検索で該当裁判例の本文にたどり着けませんでした(検索結果の詳細ページが表示できず)。一次情報で特定できていないため、本文では扱っていません。
  • 借地非訟事件の年間件数の実数。司法統計年報の第4表に区分が存在することは確認しましたが、数値は取得できませんでした。
  • 平均審理期間の統計値。東京地裁の「概ね1年以内」という定性的な記述以外に、統計にもとづく公表値は見つかりませんでした。
  • 民事訴訟費用等に関する法律「別表第一」のどの項が借地非訟の手数料の根拠か。裁判所の手数料ページは「民事訴訟費用等に関する法律で決められており」とするのみで、項番号への言及がありませんでした。本文の金額は、裁判所が公開している手数料早見表PDFの数値です。
  • 介入権の申立期間を定めた法令。条文は「裁判所が定める期間内」とするのみで、日数を一律に定めた規定は発見できませんでした。なお、この点について当初「政令で定める期間」と理解していましたが、条文にそのような委任はありませんでした。
  • 東京地裁の手数料算定式に出てくる係数の定義。土地の一部についての算定式に係数が使われていますが、その定義文をページ本文から確認できませんでした。
  • 借地非訟事件の手続費用の負担についての規定。借地借家法41条〜61条を通して確認しましたが、独自の負担規定は見当たりませんでした。非訟事件手続法の一般規定によると読めますが、それを明記した資料は確認できていません。
  • 費用と運用の全国的な一般性。本文の費用・期間・必要書類は東京地方裁判所の案内によるものです。大阪地裁のページには管轄・流れ・費用・期間の記載が確認できませんでした。他の裁判所では異なる場合があります。

まとめ

  1. 借地上の建物を売るには、土地の賃借権の譲渡について地主の承諾が要ります(民法612条1項)。無断でやると解除されえます(同2項)。
  2. 承諾しないときは、裁判所が承諾に代わる許可を出せます(借地借家法19条1項)。判断の枠組みは「地主に不利となるおそれがないか」。
  3. これに反する借地権者に不利な特約は無効です(同21条)。ただし20条は対象外。
  4. 許可は、効力が生じてから6か月で失効します(同59条)。しかも決定は確定してはじめて効力が生じます(同55条2項)。買主を決めてから申し立てる順番です。
  5. 地主には介入権があります(同19条3項)。その裁判が出た後は、双方の合意がないと取り下げられません(同5項)。
  6. 申立先は土地所在地の地方裁判所(同41条)。代理人は弁護士のみ(同44条1項)。
  7. 手数料は土地の固定資産評価額÷2を訴額として算定。予納郵券は相手方1名で6,000円分。鑑定委員の費用は国負担。
  8. 東京地裁では「概ね1年以内」に終わる事件が多い。審問期日は非公開です。
  9. 増改築の許可(17条2項)は、契約書に増改築の制限特約がある場合の手続です。特約が無ければ出番ではありません。
  10. 承諾料の相場は、公的資料に存在しませんでした。条文が言うのは「裁判所が鑑定委員会の意見を聴いて財産上の給付として定める」ところまでです。

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