遺産分割がまとまらない|10か月・3年・そして2か月。特例が消える期限の一覧

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遺産分割の話し合いが止まっている家に、期限だけが順番に来ます。3か月、10か月、3年。そのどれもが「話がまとまったら考えよう」で通り過ぎてしまう種類の期限です。

なかでも知られていないのが、申告期限から3年経ったところにある、たった2か月の窓です。ここで1枚の書類を出さないと、配偶者の税額軽減も小規模宅地等の特例も、そのまま消えます。書類の名前は「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」。長いですが、これが正式名称です。

この記事は、揉めている中身の話ではありません。揉めたまま、何をいつまでに出せば損をしないかだけを、様式と条文で整理します。

結論だけ先に

  • 未分割のまま申告すると法定相続分でいったん課税されます(相続税法55条)。このとき配偶者の税額軽減・小規模宅地等の特例・特定計画山林の特例などが使えません。
  • だから申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付します。国税庁は「添付した上で…3年以内に分割したときは、税額軽減の対象になります」と書いています。
  • 3年でも間に合わないときは、3年を経過する日の翌日から2か月以内に「やむを得ない事由がある旨の承認申請書」を出します。この2か月が、いちばん落とされる期限です。
  • 登記のほうは相続人申告登記で先に義務を切れます。ただし売却や抵当権設定には別途、相続登記が必要です。

根拠と出典は本文にあります。急いでいる方は、下の目次から必要な章だけ読んでください。

期限は1つではありません。7つあります

いつまで 何を 起算点 根拠
3か月 相続放棄・限定承認 自己のために相続の開始があったことを知ったとき 民法915条1項
10か月 相続税の申告と納税
+分割見込書の添付
被相続人が死亡したことを知った日の翌日 相続税法27条
3年 相続登記の申請 相続の開始と所有権取得を知った日 不動産登記法76条の2
3年を経過する日の属する年の12月31日 空き家の3,000万円特別控除を使うなら譲渡 相続の開始があった日 措置法35条3項
申告期限から3年 遺産分割(特例を使うなら) 相続税の申告期限 相続税法19条の2ほか
+2か月 やむを得ない事由がある旨の承認申請 申告期限後3年を経過する日の翌日 相続税法施行令4条の2第2項ほか
4か月 更正の請求 分割のあったことを知った日の翌日 相続税法32条

「10か月」と「3年」は多くの人が知っています。落ちるのは、いつも3年の直後にある2か月です。ここは通知も催促も来ません。

未分割で申告すると、いったん「高いほう」を払います

相続税法55条により、申告期限までに分割が終わっていない財産は法定相続分で分けたものとして課税価格を計算します。実際にはまだ誰のものでもないのに、税金だけ先に確定します。

このとき使えなくなる特例は、「申告期限後3年以内の分割見込書」の様式そのものに列挙されています。様式に書いてある=国税庁が示している一覧です。

使えなくなる特例 根拠条文(様式の表記どおり)
配偶者に対する相続税額の軽減 相続税法第19条の2第1項
小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例 租税特別措置法第69条の4第1項
特定計画山林についての相続税の課税価格の計算の特例 租税特別措置法第69条の5第1項
特定事業用資産についての相続税の課税価格の計算の特例 改正前の租税特別措置法第69条の5第1項

実家じまいで効くのは、小規模宅地等の特例です。居住用宅地なら330㎡まで評価額が8割減る制度が、未分割のあいだは丸ごと使えません。

農地の納税猶予については確認できませんでした

「未分割だと農地等の納税猶予も使えない」と説明されることがありますが、国税庁のタックスアンサーNo.4147には遺産分割・未分割に関する記述が見当たりませんでした。この記事では断定しません。農地がある方は、農地・山林を相続したときを読んだうえで、税務署か税理士に確認してください。

だから、申告書に「分割見込書」を必ず添付します

正式名称は「申告期限後3年以内の分割見込書」。手続名は「B1-5 相続税の申告書の提出期限から3年以内に分割する旨の届出手続」です。A4・1枚で、書く欄は3つしかありません。

欄 書くこと
1 分割されていない理由
2 分割の見込みの詳細
3 適用を受けようとする特例等(上の4つから選ぶ)

国税庁のNo.4158(配偶者の税額の軽減)に、こう書かれています。

申告書または更正の請求書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付した上で、申告期限までに分割されなかった財産について申告期限から3年以内に分割したときは、税額軽減の対象になります。

「出し忘れたら終わり」と断定した国税庁の文言は、見つけられませんでした

正直に書きます。「分割見込書を添付しないと特例が使えない」と正面から書いたページは、国税庁のサイトで確認できませんでした。読めたのは上の引用のような条件文までです。ただし文の構造は「添付した上で…対象になります」なので、添付が適用の条件として書かれていることは分かります。

実務上は、1枚のことなので必ず付けるとしか言いようがありません。付けて損はしません。

3年で間に合わないときが本番。窓は「2か月」です

正式名称は「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」。手続名は「B1-6」です。

提出期限 申告期限後3年を経過する日の翌日から2か月を経過する日まで
提出先 相続税の申告書を提出した税務署
根拠(様式に印字されている条項) 相続税法施行令第4条の2第2項/租税特別措置法施行令第40条の2第23項又は第25項/同第40条の2の2第8項又は第11項ほか
書く欄 被相続人の住所・氏名、相続開始の日、申告書を提出した日、やむを得ない理由(自由記述・「具体的に記載してください」)、相続人等の住所氏名、代表者の指定

「やむを得ない事由」として、様式が想定しているもの

様式の注記にある添付書類の区分が、そのまま想定されている事由の分類になっています。

添付する書類 典型的な状況
① 訴えの提起を証する書類 遺産をめぐって訴訟になっている
② 和解、調停または審判の申立てを証する書類 家庭裁判所に調停を申し立てている
③ 遺産分割の禁止・期間の伸長を証する書類 遺言や審判で分割が禁止されている
④ ①〜③以外で分割されなかった事情の明細書 それ以外

実家じまいで現実的なのは②です。調停を申し立てているなら、その申立ての受理を証する書類を添えて出す。逆に言えば、「話し合いが進まないまま何もしていない」状態だと、④の明細書で事情を説明するしかありません。ここが通るかどうかは税務署の判断です。

承認されたら、いつまでに分割すればよいのか

国税庁 No.4158にこう書かれています。

相続税の申告期限から3年を経過する日までに分割できないやむを得ない事情があり、税務署長の承認を受けた場合で、その事情がなくなった日の翌日から4か月以内に分割されたときも、税額軽減の対象になります。

「判決の確定等の日の翌日から4か月以内」という言い方もされますが、国税庁の読めた資料での表現は「その事情がなくなった日の翌日から4か月以内」まででした。この記事では原典の表現に合わせます。

また、「2か月以内に承認・却下の通知がないときは承認されたものとみなす」という規定があるかどうかは、確認できませんでした。様式の裏面に記載がなく、手続案内のページが読めませんでした。承認された前提で動かないでください。

2か月は、2回出てきます 1 申告期限 相続を知った日の翌日から10か月 2 3年を経過する日 19条の2第2項・69条の4第4項 3 その翌日から2か月 ★承認申請の窓。施行令4条の2第2項 4 提出から2か月 ★返事がなければ承認とみなす。同4項 5 分割ができた日 その翌日から4か月以内に分割

★条文を、逐語で置きます

この記事はこれまで、条文の番号だけを国税庁の資料から拾って書いてきました。条文の本文をe-Gov法令検索で全文確認したので、ここに置きます。「3年」と「2か月」と「4か月」が、どの条文のどこに書かれているかが分かります。

相続税法第十九条の二第二項(配偶者に対する相続税額の軽減)
前項の相続又は遺贈に係る第二十七条の規定による申告書の提出期限(以下この項において「申告期限」という。)までに、当該相続又は遺贈により取得した財産の全部又は一部が共同相続人又は包括受遺者によつてまだ分割されていない場合における前項の規定の適用については、その分割されていない財産は、同項第二号ロの課税価格の計算の基礎とされる財産に含まれないものとする。ただし、その分割されていない財産が申告期限から三年以内(当該期間が経過するまでの間に当該財産が分割されなかつたことにつき、当該相続又は遺贈に関し訴えの提起がされたことその他の政令で定めるやむを得ない事情がある場合において、政令で定めるところにより納税地の所轄税務署長の承認を受けたときは、当該財産の分割ができることとなつた日として政令で定める日の翌日から四月以内)に分割された場合には、その分割された財産については、この限りでない。

出典:e-Gov法令検索 相続税法第19条の2第2項(全文を開いて確認/2026年9月3日)

小規模宅地等の特例のほうも、同じ形です。

租税特別措置法第六十九条の四第四項
第一項の規定は、……申告書の提出期限(以下この項において「申告期限」という。)までに共同相続人又は包括受遺者によつて分割されていない特例対象宅地等については、適用しない。ただし、その分割されていない特例対象宅地等が申告期限から三年以内(当該期間が経過するまでの間に当該特例対象宅地等が分割されなかつたことにつき、当該相続又は遺贈に関し訴えの提起がされたことその他の政令で定めるやむを得ない事情がある場合において、政令で定めるところにより納税地の所轄税務署長の承認を受けたときは、当該特例対象宅地等の分割ができることとなつた日として政令で定める日の翌日から四月以内)に分割された場合……には、その分割された当該特例対象宅地等については、この限りでない。

出典:e-Gov法令検索 租税特別措置法第69条の4第4項(全文を開いて確認/2026年9月3日)。括弧書きの一部を省略しています

2つの条文が、ほとんど同じ文で書かれています。「申告期限から三年以内」「やむを得ない事情」「税務署長の承認」「分割ができることとなつた日……の翌日から四月以内」。配偶者の税額軽減も、小規模宅地等の特例も、同じ仕組みで動いています。だから片方が使えるなら、もう片方も同じ手続きで使えることが多いのです。

2つの特例は、同じ文です 配偶者の税額軽減 相続税法19条の2 第2項ただし書 申告期限から3年 4か月以内に分割 小規模宅地等の特例 措置法69条の4 第4項ただし書 申告期限から3年 4か月以内に分割 片方の手続きで、もう片方も動くことが多い

★「2か月」と「みなし承認」は、施行令4条の2にあります

「窓は2か月」と書いた根拠は、施行令です。そして、この記事が「確認できなかった」と書いていた「返事が来ないときどうなるか」も、同じ条にありました。

相続税法施行令第四条の二(配偶者に対する相続税額の軽減の場合の財産分割の特例)
2 法第十九条の二第二項に規定する……やむを得ない事情があることにより同項の税務署長の承認を受けようとする者は、当該相続又は遺贈に係る申告期限後三年を経過する日の翌日から二月を経過する日までに、その事情の詳細その他財務省令で定める事項を記載した申請書を当該税務署長に提出しなければならない。
3 税務署長は、前項の申請書の提出があつた場合において、承認又は却下の処分をするときは、その申請をした者に対し、書面によりその旨を通知する。
4 第二項の申請書の提出があつた場合において、当該申請書の提出があつた日の翌日から二月を経過する日までにその申請につき承認又は却下の処分がなかつたときは、その日においてその承認があつたものとみなす。

出典:e-Gov法令検索 相続税法施行令第4条の2第2項から第4項(全文を開いて確認/2026年9月3日)

「2か月」が2回出てきます。混同しないでください

①出す側の2か月(2項)。「申告期限後三年を経過する日の翌日から二月を経過する日まで」。これが申請の窓です。3年を過ぎてから2か月。

②返ってくる側の2か月(4項)。「申請書の提出があつた日の翌日から二月を経過する日までに……処分がなかつたときは、その日においてその承認があつたものとみなす」。返事が来なければ、承認されたものとして扱われます。

その根拠が、施行令4条の2第4項です。ただし、返事が来ないまま進めるのは不安が残ります。申請したことと、提出日は必ず控えておいてください。

★「やむを得ない事情」は4つに分かれています

同令第四条の二第一項
法第十九条の二第二項に規定する政令で定めるやむを得ない事情がある場合は、次の各号に掲げる場合とし、同項に規定する政令で定める日は、これらの場合の区分に応じ当該各号に定める日とする。
一 ……三年を経過する日において、当該相続又は遺贈に関する訴えの提起がされている場合…… 判決の確定又は訴えの取下げの日その他当該訴訟の完結の日
二 ……三年を経過する日において、当該相続又は遺贈に関する和解、調停又は審判の申立てがされている場合…… 和解若しくは調停の成立、審判の確定又はこれらの申立ての取下げの日その他これらの申立てに係る事件の終了の日
三 ……三年を経過する日において、……民法第九百八条第一項若しくは第四項の規定により遺産の分割が禁止され、又は同法第九百十五条第一項ただし書の規定により相続の承認若しくは放棄の期間が伸長されている場合…… 当該分割の禁止がされている期間又は当該伸長がされている期間が経過した日
四 前三号に掲げる場合のほか、……分割されなかつたこと及び当該財産の分割が遅延したことにつき税務署長においてやむを得ない事情があると認める場合 その事情の消滅の日

出典:e-Gov法令検索 相続税法施行令第4条の2第1項(全文を開いて確認/2026年9月3日)。括弧書きの一部を省略しています

1号から3号は、事実で決まります。訴訟が起きている、調停・審判が動いている、遺産分割が禁止されている、あるいは相続の承認・放棄の期間が伸ばされている。いずれも「三年を経過する日において」その状態にあることが条件です。3年が来る前に手続きが始まっていなければなりません。

4号だけが、税務署長の判断です。「税務署長においてやむを得ない事情があると認める場合」。1号から3号に当てはまらないときの受け皿ですが、認められる保証はありません。

「やむを得ない事情」は4つです 1号 訴えの提起 3年を経過する日にされている 訴訟の完結の日 2号 和解・調停・審判 同じく申立てがされている 事件の終了の日 3号 分割の禁止など 民法908条・915条1項ただし書 期間が経過した日 4号 税務署長が認める 前三号に当たらないとき 事情の消滅の日 右は各号が定める「政令で定める日」です

そして各号が「その日」を決めています。19条の2第2項の「分割ができることとなつた日として政令で定める日」とは、この各号の右側です。そこから4か月以内に分割する、という順番になります。

3年が来る前に、始まっていますか 3年の日に訴訟や調停が動いていますか はい 1号から3号に当たる 施行令4条の2第1項 いいえ 4号の判断になる 認められる保証なし

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2か月の窓に気づける人が、身近にいるかどうか

この2か月には、税務署から通知も催促も来ません。10か月の申告を自分でやった人ほど、3年後のこの期限を知らないまま過ぎます。共有名義、老人ホーム、調停中——条件が重なっているなら、期限の管理だけでも人を入れる価値があります。

特例が問題なく使えると分かっているなら、相談する必要はありません。迷う要素があるとき(共有名義、被相続人が老人ホームに入っていた、店舗を兼ねていた、要件の期限が近い)だけで十分です。
相談そのものは無料ですが、税理士に依頼すれば報酬がかかります。依頼するかどうかは、減る税額と報酬を比べてから決めてください。特例で税額がゼロになるなら、依頼する意味は薄くなります。
問い合わせは「相続の相談」として送ってください。過去1年以内に同サービスを使ったことがある場合と、1世帯で2回目の相談は、運営側で受け付けない扱いになると明記されています。
当サイトは税理士ではありません。ここに書いた税の話は制度の説明であって、あなたのケースへの回答ではありません。

自分のケースで使えるか税理士に聞く(無料)

相談の前に、この記事の表を印刷して、自分の相続開始日から各期限の日付を書き込んでおいてください。話が早くなります。

分割がまとまったら、4か月以内に更正の請求

特例を使って税額が下がる場合、自動では戻ってきません。更正の請求という手続きが要ります。

期限 分割が成立した日(分割のあったことを知った日)の翌日から4か月以内
手続名 B1-27 相続税及び贈与税の更正の請求手続
根拠 相続税法32条(タックスアンサーの根拠法令等欄の表記は「相法32」まで)

何年も揉めて、ようやくまとまった直後の4か月です。疲れ切って手続きが止まりやすいところなので、分割協議書に判を押した日をカレンダーに入れてください。

★更正の請求は、相続税法32条1項1号です

更正の請求の根拠は、相続税法32条1項1号です。条文を置きます。

相続税法第三十二条(更正の請求の特則)
1 相続税又は贈与税について申告書を提出した者又は決定を受けた者は、次の各号のいずれかに該当する事由により……相続税額……が過大となつたときは、当該各号に規定する事由が生じたことを知つた日の翌日から四月以内に限り、納税地の所轄税務署長に対し、……更正の請求……をすることができる。
一 第五十五条の規定により分割されていない財産について民法……の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従つて課税価格が計算されていた場合において、その後当該財産の分割が行われ、共同相続人又は包括受遺者が当該分割により取得した財産に係る課税価格が当該相続分又は包括遺贈の割合に従つて計算された課税価格と異なることとなつたこと。

出典:e-Gov法令検索 相続税法第32条第1項第1号(全文を開いて確認/2026年9月3日)。括弧書きの一部を省略しています

起算点は「その事由が生じたことを知つた日の翌日」です。「判決の確定等の日」ではなく、条文はもっと広く「事由が生じたことを知つた日」としています。分割が成立した日ではなく、それを知った日から4か月。

そして1号は「第五十五条の規定により分割されていない財産について……計算されていた場合」から始まります。未分割で法定相続分どおりに申告していた人が、あとで分割したとき——この記事が扱っている場面が、そのまま1号に書かれています。

家庭裁判所の統計では、3年を超えるのは3.7%です

「3年もあれば足りるだろう」と思うか、「3年でも足りない」と思うか。最高裁の資料に、遺産分割事件の審理期間の分布があります(令和4年に終局した事件)。

審理期間 件数 割合
6月以内 4,256件 32.8%
6月超1年以内 4,183件 32.2%
1年超2年以内 3,088件 23.8%
2年超3年以内 972件 7.5%
3年を超える 482件 3.7%
既済件数 12,981件 100%
平均審理期間 12.9月(平成30年は11.5月)

読み方は2つあります。約9割は2年以内に終わっているので、調停に入ったからといって3年の枠を必ず超えるわけではありません。いっぽうで平均審理期間は11.5月から12.9月へ長期化しています。

この統計の限界も書いておきます

これは家庭裁判所に持ち込まれた事件の統計です。「協議がまとまらないまま、誰も何もしていない相続」は、この数字のどこにも入っていません。実家じまいで止まっている家の多くは、そもそも調停すら始まっていません。その場合は、承認申請の④「その他の事情の明細書」で説明することになります。

揉めている中身をどう動かすかは、兄弟で実家の相続が揉めたときに書きました。10年という別の期限もあります。

登記のほうは、相続人申告登記で先に義務を切れます

税の話とは別に、2024年4月1日から相続登記が義務になりました(不動産登記法76条の2)。3年以内に申請しないと10万円以下の過料の対象です。

分割がまとまらないときの逃げ道が相続人申告登記(同法76条の3)です。

誰が 特定の相続人が単独で申出できます
どこへ 不動産を管轄する法務局。郵送・オンラインも可
何を 申出書/相続人であることが分かる戸籍謄本等/住所を証する情報/(代理なら)委任状
効果 申出人の氏名・住所等が職権で登記に付記されます
限界 権利関係を公示するものではないため、売却や抵当権設定には別途、相続登記が必要

被相続人の出生から死亡までの戸籍を全部そろえる必要がないので、3年の期限だけを先に切る手段としては現実的です。ただし遺産分割が成立したら、その日から3年以内に、分割に基づく登記を別途申請する義務が生じます(同法76条の3第4項)。

手順は相続登記の義務化にまとめてあります。相続税の「申告期限後3年」と、登記の「取得を知った日から3年」は、起算点も中身も別物です。混同しないでください。

いちばん怖いのは、空き家の3,000万円控除が先に切れることです

空き家の3,000万円特別控除の期限は、分割の進み具合とは無関係に進みます。

相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。ここを過ぎたら、あとから分割がまとまっても戻りません。

そして未分割の状態でこの控除が使えるのかどうかは、国税庁の公開情報では確認できませんでした。タックスアンサーNo.3306にも、東京国税局のチェックシートにも、確定申告書等作成コーナーの説明にも、遺産分割・未分割・共有に関する記述が一切ありません。

ここは自分で確かめてください

この記事では「使える」とも「使えない」とも書けません。相続開始から2年が経とうとしていて、まだ分割がまとまっていないなら、税務署か税理士にこの1点だけ聞いてください。「未分割のまま売った場合、措置法35条3項は使えますか」。答えによって、話し合いを急ぐか、先に売ってしまうかが変わります。

売る方向に傾いたときのために、金額の見当だけは先に付けておいてください。いくらで売れるかが分からないまま、兄弟で話し合っても結論は出ません。

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話し合いが止まっているなら、まず金額を1つ置く

分割がまとまらない理由の多くは、「いくらのものを分けているのか」を誰も知らないことです。査定は数日で数字が出ます。売らなくても、数字が1つあるだけで話は動きます。

①買取は仲介より手取りが下がります。相場に近い額で売りたいなら仲介を先に検討してください。②査定額は売れる価格ではありません。③匿名のAI査定では実額は出ません。桁を確かめるだけのものです。④LINEからの相談は、このリンク経由の申し込みとして扱われません。フォームから進んでください。⑤日本国外からの申し込みは対象外です。⑥未分割の不動産を実際に売るには、共有者全員の同意が必要です。査定は1人で頼めますが、契約は1人ではできません。

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数字が出たら、この記事の期限表と並べてください。「いつまでに、いくらのものを、どう分けるか」が1枚になります。

よくある質問

分割見込書を出さずに申告してしまいました

更正の請求書に添付する方法が、国税庁のNo.4158に書かれています(「申告書または更正の請求書に…添付した上で」)。気づいた時点で税務署に相談してください。ただし更正の請求そのものに期限があるので、放置しないでください。

承認申請書の「やむを得ない理由」に、何を書けばいいですか

様式には「具体的に記載してください」としかありません。添付書類の区分(訴えの提起/調停等の申立て/分割の禁止/その他の明細書)に対応する事実を、時系列で書くことになります。調停を申し立てているなら、その受理の書類を添えるのがいちばん確実です。

相続放棄の3か月を過ぎていますが、まだ放棄できますか

家庭裁判所は、申立てにより3か月の熟慮期間を伸長できます。ただしその申立ても原則として3か月以内に必要です。過ぎている場合の扱いは事案によります。相続放棄をするとどうなるかに、放棄後も残る管理義務まで書いてあります。

とりあえず共有名義にしておけば、期限は守れますか

登記の義務は果たせます。ただし共有は、あとで必ずもう一度揉めます。売るにも壊すにも全員の同意が要り、その間に共有者の誰かが亡くなれば、相続人がさらに増えます。共有になっている実家を先に読んでから決めてください。

未分割のあいだ、固定資産税は誰が払うのですか

相続人が連帯して負担することになり、市区町村は代表者を指定して納税通知書を送ります。払っている人が損をしたまま何年も続くのが、揉める原因のひとつです。建物を放置したままだと管理不全空家等の勧告で税額がさらに上がることもあります。

この記事で確認できなかったこと

  • ★条文本文は、e-Gov法令検索で全文を確認して本文に引用しました(2026年9月3日)。相続税法19条の2第2項・32条1項1号、相続税法施行令4条の2第1項から第4項、租税特別措置法69条の4第4項です。
  • ★「2か月以内に承認・却下の通知がないときは承認とみなす」規定は、ありました。相続税法施行令4条の2第4項です。本文に引用しています。
  • ★「やむを得ない事情」の各号と、それぞれの「政令で定める日」も逐語で確認しました。施行令4条の2第1項1号から4号です。
  • 租税特別措置法施行令40条の2(小規模宅地等の特例の側の「やむを得ない事情」)は開いていません。措置法69条の4第4項が相続税法19条の2第2項とほぼ同文であることは確認しましたが、その政令が相続税法施行令4条の2と同じ内容かどうかは確認していません。
  • 空き家の3,000万円特別控除が未分割でも使えるか。措置法35条3項・4項・5項・12項・13項の全文を確認しましたが、分割/未分割/共有についての記述はありませんでした。「書かれていない」ことまでが確認できた範囲です。
  • 農地等の納税猶予が未分割では使えない旨。措置法70条の6は開いていません。
  • 「分割見込書を出し忘れると特例が使えない」と断定した国税庁の記述。条文の側では、相続税法19条の2第3項が「……財務省令で定める書類の添付がある場合に限り、適用する」と定め、同条4項が「添付がなかつたことについてやむを得ない事情があると認めるときは……適用することができる」としています。「出し忘れたら終わり」ではなく、救済の規定が条文にあります。

まとめ

  1. 未分割だと法定相続分でいったん課税(相続税法55条)。配偶者の税額軽減と小規模宅地等の特例が使えません
  2. 申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付する。書く欄は3つだけです
  3. 3年で間に合わないときは3年経過日の翌日から2か月以内に承認申請書。通知も催促も来ません
  4. 承認されたら事情がなくなった日の翌日から4か月以内に分割
  5. 分割がまとまったら翌日から4か月以内に更正の請求
  6. 家裁の統計では、遺産分割事件で3年を超えるのは3.7%。ただし調停に入っていない相続は数に入っていません
  7. 登記は相続人申告登記で3年の義務を切れます。ただし売却には別途、相続登記が必要
  8. 空き家の3,000万円控除の3年は、分割の進み具合を待ってくれません。未分割で使えるかは国税庁の公開情報では確認できませんでした

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