解体工事の近隣トラブル|挨拶は誰の義務か、壊れた壁は誰が払うのか

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解体でいちばん怖いのは、費用でも工期でもありません。終わったあとも、その土地の隣に人が住み続けることです。売るにしても、しばらく更地で持つにしても、揉めた記憶は残ります。

それなのに、多くの人が「近隣への挨拶は業者がやってくれる」と思い込んだまま着工します。ところが、解体工事の近隣説明を直接義務づけた法律は、今回調べた範囲では見当たりませんでした。自治体の条例か要綱で、しかも市区町村によっては、義務を負うのが業者ではなく施主本人です。

この記事は、条文を開いて確かめられることだけで組み立てます。誰が届け出て、誰が説明し、隣の壁が割れたら誰が払うのか。そこだけ先に分かっていれば、たいていのことは揉める前に片づきます。

結論だけ先に

  • 近隣への説明を義務づけた法律は、調べた範囲では見当たりませんでした。建設リサイクル法12条1項の説明義務は「元請になろうとする業者 → 施主」への説明で、近隣向けではありません。近隣説明は自治体の条例・要綱で決まっています。
  • 渋谷区は条例で、義務者を「解体工事の発注者」=施主本人としています(工事開始15日前まで)。業者に任せておけば済む、とは限りません。
  • 隣の家が傷んだとき、民法716条により施主は原則として賠償責任を負いません。ただし「注文又は指図」に施主の過失があれば、そこは例外になります。
  • 境界線上のブロック塀は「共有」と推定されます(民法229条)。「うちの塀だから壊していい」と業者に指示すると、その指図こそが716条ただし書に当たり得ます。
  • 揉めたときに建設工事紛争審査会は使えません。建設業法25条1項が扱うのは「建設工事の請負契約に関する紛争」で、近隣との紛争は対象外です。

条文はすべてe-Gov法令検索で本文を確認しました(2026年8月24日)。自治体の条例・要綱は市区町村ごとに違うので、実家のある市区町村の公式ページで必ず確認してください。

1. 何が法律の義務で、何がそうでないか

ここを整理しないと、業者との会話がかみ合いません。解体をめぐる届出は、義務を負う人がバラバラです。

手続き 根拠 義務を負うのは 期限・提出先
特定建設作業の実施届出(騒音) 騒音規制法14条1項 元請業者 作業開始日の7日前まで/市町村長
特定建設作業の実施届出(振動) 振動規制法14条1項 元請業者 作業開始日の7日前まで/市町村長
分別解体等の実施 建設リサイクル法9条1項 受注者又は自主施工者 —
対象建設工事の届出 建設リサイクル法10条1項 発注者(施主) 着手の7日前まで/都道府県知事
分別解体等の計画の事前説明 建設リサイクル法12条1項 元請になろうとする建設業者
→ 施主へ書面交付して説明
契約前
石綿の事前調査・結果の掲示 大気汚染防止法18条の15第1項・5項 元請業者又は自主施工者 作業開始前/現場に公衆が見やすいよう掲示
特定粉じん排出等作業の実施の届出 大気汚染防止法18条の17第1項 発注者(施主) 作業開始日の14日前まで/都道府県知事
近隣への事前説明 法律には見当たらない 自治体の条例・要綱による 自治体による
届出の義務者は、手続きごとに違います 騒音・振動の届出 騒音規制法14条1項ほか 元請業者 対象建設工事の届出 建設リサイクル法10条1項 施主 石綿の調査と掲示 大気汚染防止法18条の15 元請業者 特定粉じん作業の届出 大気汚染防止法18条の17 施主 近隣への事前説明 法律には見当たりません 条例・要綱 淡い黄は施主の側。業者任せにはできません

騒音と振動の届出は元請の義務、建設リサイクル法とアスベストの届出は施主の義務。そして近隣説明については、義務づけている法律を見つけられませんでした。

建設リサイクル法12条1項をよく読むと、説明の相手は近隣ではないことが分かります。

対象建設工事…を発注しようとする者から直接当該工事を請け負おうとする建設業を営む者は、当該発注しようとする者に対し、少なくとも第十条第一項第一号から第五号までに掲げる事項について、これらの事項を記載した書面を交付して説明しなければならない。

出典:e-Gov法令検索 建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律12条1項/2026年8月24日確認

説明されるのは施主です。近隣ではありません。「法律で決まっている説明」は、あなたが受ける側の説明であって、隣の家に対する説明ではないという点は、意外に知られていません。

アスベストの届出と費用負担については実家の解体とアスベストに、届出から更地までの日数の組み方は家の解体はいつ終わるかにまとめています。

2. 近隣説明は「条例」と「要綱」で決まっています

ここが、この記事の核です。近隣説明の義務は自治体レベルで決まっていて、しかも「条例(法規範)」と「要綱(行政指導)」が混在しています。

自治体 種類 説明する範囲 時期 義務を負う者
渋谷区 条例(建築物の解体工事計画の事前周知に関する条例) 敷地境界線から建築物の高さに等しい水平距離の範囲内の居住者・事業者・公共施設の管理者 工事開始15日前まで 解体工事の発注者または請負によらず自ら解体する人。請負業者も間接的に義務を負う
千代田区 要綱(建築物解体工事計画の事前周知要綱) 木造は敷地境界から10m/その他は建物の高さの範囲+その範囲の町会 標識は中1か月前/説明は大規模建築物14日前、その他5日前 発注者等(発注者・元請・下請・自主施工者を含む)
江東区 要綱(建築物の解体工事の事前周知に関する指導要綱) 敷地境界線から建物の高さの水平距離。10mに満たない場合は10m 標識は着手の14日前(木造は7日前)から完了まで/説明は工事開始7日前まで 発注者
大阪府 条例(生活環境の保全等に関する条例95条) 周辺住民 前もって 作業を行う者。ただし努力義務

出典:各自治体公式サイト/2026年8月24日確認

「業者に任せておけば済む」とは限りません

渋谷区の条例は、義務者を「解体工事の発注者」=施主本人としています。千代田区の要綱は「発注者等」として発注者・元請・下請をまとめて含めています。実家がどこにあるかで、あなた自身が説明義務者になるかどうかが変わります。契約前に「この市区町村に事前周知の条例か要綱はありますか」と業者に確認し、その答えを自分でも市区町村の公式サイトで裏取りしてください。

逆に、確認した範囲で解体工事に限定した近隣説明の義務が見当たらなかった自治体もありました。神戸市の「神戸市民の住環境等をまもりそだてる条例」には、新築・増築等の指定建築物の説明義務(11条)と届出義務(12条)はありますが、解体工事に限定した規定は見当たりませんでした。大阪市・神奈川県の特定建設作業の案内ページにも、条例に基づく周知義務の記載はありませんでした。

つまり「法律で決まっているから業者がやる」でも「条例があるから安心」でもありません。実家のある市区町村が、条例で施主に課しているのか、要綱で指導しているのか、何も定めていないのか。この3択を先に確かめるところから始まります。

3. 騒音と振動:どこからが違反になるのか

そもそも規制の対象になるのは「2日以上かかる作業」

騒音規制法・振動規制法が規制するのは「特定建設作業」です。政令の書き方が独特で、「2日以上」とは書かれていません。

法第二条第三項の政令で定める作業は、別表第二に掲げる作業とする。ただし、当該作業がその作業を開始した日に終わるものを除く。

出典:e-Gov法令検索 騒音規制法施行令2条/振動規制法施行令2条/2026年8月24日確認

「その作業を開始した日に終わるものを除く」。結果として2日以上にわたる作業が対象になります。1日で終わる斫り作業は、条文上は特定建設作業に当たりません。

ブレーカーは、騒音ではなく振動の側にあります

これは多くの解説が混同しているところです。騒音規制法施行令の別表第二に「ブレーカー」という語はありません。ブレーカーが明記されているのは振動規制法施行令の別表第二の四号です。

騒音規制法 別表第二 振動規制法 別表第二
家屋解体で当たりやすいもの 三号「さく岩機を使用する作業」/六号「バックホウ(原動機の定格出力が八〇キロワット以上のものに限る)」/七号「トラクターショベル(七〇キロワット以上)」/八号「ブルドーザー(四〇キロワット以上)」 二号「鋼球を使用して建築物その他の工作物を破壊する作業」/四号「ブレーカー(手持式のものを除く。)を使用する作業」
敷地境界線での基準 85デシベル 75デシベル

出典:e-Gov法令検索 騒音規制法施行令/振動規制法施行令/環境省告示(昭和43年厚生省・建設省告示第1号)/環境省パンフレット/2026年8月24日確認

時間と日数の制限

規制基準は、区域の区分で変わります。第1号区域は「良好な住居の環境を保全するため、特に静穏の保持を必要とする区域」など。学校・保育所・病院等の周囲おおむね80mの区域内も第1号区域に入ります。第2号区域は、指定地域のうち第1号区域以外です。

項目 第1号区域 第2号区域
作業してよい時間 午前7時〜午後7時 午前6時〜午後10時
1日の作業時間 10時間まで 14時間まで
連続日数 同じ場所で連続6日を超えないこと
日曜・休日 作業しないこと

出典:特定建設作業に伴つて発生する騒音の規制に関する基準(昭和43年厚生省・建設省告示第1号)、環境省 振動規制法パンフレット/2026年8月24日確認

作業してよい時間は、区域で変わります 第1号区域 午前7時〜午後7時 1日10時間まで 学校・病院の周囲 おおむね80m 第2号区域 午前6時〜午後10時 1日14時間まで 指定地域のうち 第1号区域以外 連続6日まで・日曜と休日は作業しないは共通です

つまり「日曜に工事をしている」「朝6時半から音が出ている」は、第1号区域なら基準に反している可能性が高い、という話になります。ただし、これは指定地域内での特定建設作業についての基準です。指定地域は自治体ごとに指定されているので、実家がその範囲に入るかは市区町村に確認が要ります。

4. 罰則は3万円と5万円。だから罰則では止まりません

ここは正直に書きます。「罰則があるから業者は守る」という説明は、条文と合いません。

違反 条文 罰則
騒音:14条1項の届出をしなかった/虚偽の届出 騒音規制法31条 三万円以下の罰金
騒音:15条2項の改善命令に違反 騒音規制法30条 五万円以下の罰金
振動:14条1項の届出をしなかった/虚偽の届出 振動規制法26条 十万円以下の罰金
振動:15条2項の命令に違反 振動規制法25条 三十万円以下の罰金
建設リサイクル法:10条1項の届出をしなかった/虚偽の届出 建設リサイクル法51条1号 二十万円以下の罰金(施主に向く)
アスベスト:18条の17第1項の届出をしなかった/虚偽の届出 大気汚染防止法34条1号 三月以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金(施主に向く)

出典:e-Gov法令検索 各法条文/2026年8月24日確認

騒音側の罰金は3万円と5万円です。工事費が百万円を超える現場で、3万円の罰金が抑止力になるとは考えにくい。しかも、いきなり罰則が来るわけでもありません。

段階 条文 誰が何をするか
1 改善勧告 騒音規制法15条1項 市町村長が、期限を定めて騒音の防止方法の改善または作業時間の変更を勧告できる
2 改善命令 騒音規制法15条2項 勧告に従わないで作業を続けているときに、命令できる
3 罰則 騒音規制法30条 命令に違反して、五万円以下の罰金

実際に効くのは罰金ではなく、市町村の指導が入ることと、近隣が民事で動くことです。だから「法律を守っている」ではなく「近隣に嫌われない」を目標に置くほうが、結果的に安く済みます。

苦情の電話は、まず施主に来ます

近隣の人は、工事の看板より先に「あそこの家の人」を思い浮かべます。届出義務が元請にあっても、電話がかかってくるのは施主です。だから「届出は業者の仕事だから知らない」では通りません。着工前に、いつからいつまで・何時から何時まで・どの機械を使うのかを、自分の言葉で説明できる状態にしておいてください。

5. 隣の家が傷んだとき、払うのは誰か(民法716条)

ここがいちばん誤解されています。条文を先に読んでください。

第七百十六条 注文者は、請負人がその仕事について第三者に加えた損害を賠償する責任を負わない。ただし、注文又は指図についてその注文者に過失があったときは、この限りでない。

出典:e-Gov法令検索 民法716条/2026年8月24日確認

原則、施主は責任を負いません。例外は「注文又は指図」に施主の過失があったとき。この2段構えが716条のすべてです。

隣が傷んだとき、原則は業者が払います 注文や指図に、施主の過失がありましたか はい 施主も払います 716条ただし書 いいえ 施主は負いません 716条本文

「指図」であって「指示」ではありません。条文の言葉をそのまま使うと、話がぶれません。

例外に落ちる典型

条文から論理的に導ける範囲で書きます。判例の当てはめまでは確認していませんので、実際にどう判断されるかは弁護士に確認してください。

施主がやりがちなこと なぜ危ないか
明らかに無理な工期や単価を押しつける 大気汚染防止法18条の16第1項は、発注者に対し「作業基準の遵守を妨げるおそれのある条件を付さないように配慮しなければならない」と定めています。配慮義務に反する条件は、716条ただし書の「注文」の過失に近づきます
境界の塀を「うちのだから壊していい」と指示する 民法229条により、境界線上の塀は共有と推定されます。共有物を一方の指図で壊させた形になります
越境した枝を「切ってしまって」と指示する 民法233条1項は、まず竹木の所有者に切除させることを原則にしています。催告なしに切れる場合は3項に限定列挙されています
近隣の敷地に足場を出させる 他人の土地の使用を指図した形になります

716条で守られていても、717条で来ることがあります

もう1本、別の経路があります。

第七百十七条 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。

解体前の空き家の所有者は、この「所有者」に当たり得ます。工事中に壊れたのか、もともと傷んでいた建物が倒れたのか。原因が「請負人の仕事」なら716条、「工作物の瑕疵」なら717条で、経路が変わります。放置してきた期間が長いほど、717条側で来る可能性が上がるという関係です。放置のリスクは空き家を放置するとどうなるかにまとめています。

6. ブロック塀は「共有」と推定されます(民法229条)

第二百二十九条 境界線上に設けた境界標、囲障、障壁、溝及び堀は、相隣者の共有に属するものと推定する。

出典:e-Gov法令検索 民法229条/2026年8月24日確認

「推定する」なので、反証があればくつがえります。塀が完全に自分の敷地内に収まっていることを示せれば、共有ではありません。ところが、その反証をするには境界がどこかを確定させる必要があります。

解体のあとに残って揉めるのが、この塀です

解体すると、塀だけが残ります。残せば「危ないから撤去しろ」と言われ、壊せば「勝手に壊した」と言われる。先に境界を確定させておかないと、どちらを選んでも文句が出る構造です。境界標が地面に残っているか、確定測量図があるかを、解体前に確認してください。手順は実家の境界が決まっていないときにまとめました。

越境した枝についても、条文は非対称です。

条文 できること
枝 民法233条1項 竹木の所有者に切除させることができる(自分で切るのではない)
枝(例外) 民法233条3項 ①催告したのに相当の期間内に切除しないとき ②所有者を知ることができず、又は所在を知ることができないとき ③急迫の事情があるとき は、自分で切り取れる
根 民法233条4項 催告なしで切り取れる

枝は催告してから、根はいきなり。この非対称が条文に書かれています。解体業者が「邪魔だから」と隣の枝を切ってしまうと、施主の指図によっては716条ただし書の話になります。

7. 立証できるのは、着工前に撮っておいた人だけ

「工事の前から、あのひび割れはありましたよね」と言われて、返せる材料があるかどうか。ここで勝負が決まります。

民間の解体工事に家屋の事前調査を義務づける法令は、確認した限りありません。ただし、国は公共事業について事前調査を制度化しています。

条 内容
第2条(事前調査) 「工事の着手に先立ち、又は工事の施行中に起業地及びその周辺地域において、次の各号に掲げる事項のうち必要と認められるものについて調査を行うものとする」(地形及び地質、地下水の状況、過去の地盤変動、建物等の配置及び現況など)
第3条(事後調査) 損害の申出があったときは「地盤変動による損害等と工事との因果関係について、速やかに調査を行う」。工事着手時の地形・地下水位と、損害発生時のそれとの比較などを行う

出典:公共事業に係る工事の施行に起因する地盤変動により生じた建物等の損害等に係る事務処理要領(昭和61年4月1日 建設省経整発第22号)/2026年8月24日確認

国自身が「着手前の記録がなければ因果関係を判断できない」という前提で制度を作っています。民間の解体でも、理屈はまったく同じです。

施主がやっておくことは3つです。

  1. 着工前に、隣接する家の外壁・基礎・塀・門柱を写真に撮る。日付が入る設定にして、引きと寄りの両方を撮ります。
  2. 撮るときに、隣の人に声をかけて一緒に見てもらう。これが「第三者が見た」という事実になります。断られたら、外から見える範囲だけで構いません。
  3. 解体業者に「家屋調査はやりますか」と見積り段階で聞く。やらない業者もあります。やらないなら、自分でやると決めてください。

写真は「工事のあと」では意味がありません

着工後に撮った写真は、いつ付いた傷かを示せません。撮るなら、重機が入る前の日までです。解体の日程は工事の1〜2週間前には固まるので、そのタイミングで予定に入れてください。日程の組み方は家の解体はいつ終わるかにあります。


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近隣対応の中身は、見積りの段階でしか聞けません

解体費は業者によって幅が出ますが、近隣への構えにも同じくらい差が出ます。養生をどこまで張るか、散水をどうするか、着工前の家屋調査をやるか、掲示板をいつ出すか。工事が始まってからでは変えられないので、複数社に同じ質問をぶつけて、答えの差を見るのがいちばん早い。解体工事一括netは、条件を入れると複数社から見積りが集まる窓口です。

①成果の対象外になる県があります(大分・山形・青森・秋田・福井・鳥取・愛媛・香川・沖縄・石川・徳島・宮崎)。これらの県に実家がある方は、この記事の後半で紹介している解体の窓口のほうが対応しています。②申込後、本人確認の連絡が入ります。③補助金を使うなら、契約より前に自治体へ。多くの制度が交付決定前の契約を対象外にしています。

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聞くのは4つで足ります。「近隣説明は誰が、いつ、どの範囲にやりますか」「着工前の家屋調査はやりますか」「養生と散水はどうしますか」「特定建設作業の届出は出しますか」。この4問の答えが、そのまま業者の差になります。

8. 掲示が出ていないと、近隣は不安になります

近隣の人が工事のことを知る手段は、挨拶のほかにもう1つあります。現場の掲示です。

元請業者又は自主施工者は…調査に係る解体等工事を施工するときは…記録の写しを当該解体等工事の現場に備え置き、かつ、当該調査の結果その他…事項を、当該解体等工事の現場において公衆に見やすいように掲示しなければならない。

出典:e-Gov法令検索 大気汚染防止法18条の15第5項/2026年8月24日確認

環境省のリーフレットによると、掲示板の大きさはA3サイズ(42.0cm×29.7cm)以上、場所は「公衆の見やすい場所」、時期は「作業の開始前」です。掲示する内容は、調査を行った者の氏名・名称・住所、調査を終了した年月日、調査の方法、特定工事に該当する場合は特定建築材料の種類(大気汚染防止法施行規則16条の10)。

この掲示は、施主のためではなく近隣のためにあります。掲示が出ていない現場は、近隣から見れば「何をしているか分からない現場」です。不信の起点はたいていここです。

そしてアスベストの届出だけは施主の義務で、しかも作業開始の14日前まで(大気汚染防止法18条の17第1項)。建設リサイクル法の7日前より前倒しです。罰則も3月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金と、騒音側とは桁が違います。詳しくは実家の解体とアスベストに書きました。

9. 揉めたときの窓口(建設工事紛争審査会は使えません)

ここは、他の解説の誤りを正しておきたいところです。

第二十五条 建設工事の請負契約に関する紛争の解決を図るため、建設工事紛争審査会を設置する。
2 建設工事紛争審査会は、この法律の規定により、建設工事の請負契約に関する紛争につき、あつせん、調停及び仲裁を行う権限を有する。

出典:e-Gov法令検索 建設業法25条/2026年8月24日確認

審査会が扱うのは「建設工事の請負契約に関する紛争」です。つまり「施主 対 解体業者」には使えますが、「近隣 対 施主・業者」には使えません。

解体業者との間の紛争(工事が終わらない、追加請求が出た、施工がずさん)であれば、審査会が受け皿になります。申請手数料は請求する事項の価額に応じて決まります。

請求額 あっせん 調停 仲裁
100万円まで 10,000円 20,000円 50,000円
500万円まで 価額(1万円単位)×20円+8,000円 価額(1万円単位)×40円+16,000円 価額(1万円単位)×100円+40,000円
2,500万円まで 価額(1万円単位)×15円+10,500円 (1億円まで)価額(1万円単位)×25円+23,500円 (1億円まで)価額(1万円単位)×60円+60,000円

出典:国土交通省「6.紛争処理に要する費用」/2026年8月24日確認。1万円未満は切り上げて計算

近隣との間の話は、まず市区町村の公害苦情の窓口です。騒音規制法15条の勧告・命令を出すのは市町村長なので、動かせる立場にあるのは市区町村です。それでも収まらなければ民事の話になります。

「受忍限度」という言葉について

騒音の裁判でよく出てくる「受忍限度」は、条文にある言葉ではありません。民法にも騒音規制法にも規定はなく、判例が積み上げてきた考え方です。裁判所の公式サイトに掲載された判決文に、違法性の判断について次の枠組みが示されています。

侵害行為の態様と侵害の程度、被侵害利益の性質と内容、侵害行為のもつ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等を比較検討するほか、侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況、その間にとられた被害の防止に関する措置の有無及びその内容、効果等の事情をも考慮し、これらを総合的に考察してこれを決すべきものである

ここで注目すべきは「その間にとられた被害の防止に関する措置の有無及びその内容、効果」が判断要素に入っていることです。養生をしたか、散水をしたか、時間を守ったか、苦情に対応したか。やったことは、あとから効きます。

10. 揉めないための実務

いつ やること 理由
業者を選ぶとき 「近隣説明は誰が、いつ、どの範囲にやりますか」と聞く 自治体によっては施主の義務。答えられない業者は、その市区町村の規範を知らない
契約前 建設リサイクル法12条の書面交付を受ける これは施主が受け取る権利。もらえない契約はおかしい
着工の2週間前 隣接する家の外壁・基礎・塀を撮影 着工後の写真では、いつ付いた傷か示せない
着工の1週間前 自分でも近隣に一言入れる 苦情の電話は施主に来る。顔を知られていると、電話の前に一言もらえる
着工前 掲示板が出ているか見に行く 公衆の見やすい場所に、作業開始前に出す義務がある
工事中 作業時間・日曜の扱いを確認 第1号区域なら7時〜19時・1日10時間・連続6日・日曜休日は作業しない
苦情が来たら その場で謝って、業者に伝えて、対応した内容を書き残す 「被害の防止に関する措置の有無及びその内容、効果」は、後の判断要素になる
写真は、重機が入る前の日までです 着工の2週間前 隣の外壁・基礎・塀を撮影する 着工の1週間前 施主からも近隣に一言入れる 着工前 掲示板が出ているか見に行く 工事中 作業時間と日曜の扱いを確認 苦情が来たら 謝る・業者に伝える・書き残す

費用の相場と見積書の読み方は実家の解体費用に、補助金が使えるかは全国の解体補助金データベースで市区町村ごとに調べられます。更地にしたあとの固定資産税は解体すると固定資産税は何倍になるかに、解体後1か月以内の登記は建物滅失登記を自分でやるにまとめました。


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47都道府県に対応している窓口から、もう1社

解体の窓口は、物件の情報を入れると加盟業者から金額が集まる形のサービスです。運営会社のサイトには「47都道府県すべて対応しています」「ご利用は無料。ご成約後の請求も一切ございません」「契約まで、業者からご連絡がいくことはございません」と書かれています(2026年8月確認)。電話のやり取りを増やしたくない場合に向きます。

①申込には物件の情報と写真が要ります。遠方の実家なら、次に帰ったときに外観と室内を撮っておいてください。②解体する予定がないなら申し込まないでください。③1社で決めず、地元の業者にも1社あたってください。④補助金は契約・着工の前に申請します。

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補助金が使えるかどうかは全国の解体補助金データベースで市区町村ごとに調べられます。交付要件で施工業者を市内の事業者に限定している自治体があるので、紹介された業者では補助の対象から外れることがあります。そこも見積りの前に確認してください。

よくある質問

挨拶回りは、どこまでの範囲に行けばいいですか

法律に範囲の定めはありません。自治体の条例・要綱に書いてある範囲が、いちばん確かな目安になります。渋谷区は「敷地境界線から建築物の高さに等しい水平距離の範囲内」、千代田区は木造なら「敷地境界から10m」、江東区は「建物の高さの水平距離。10mに満たない場合は10m」としています。

実家の市区町村に定めがなければ、この考え方を借りて「両隣・向かい・裏の家」+「工事車両が通る道沿い」くらいを目安にしてください。車両が通る家は、音より振動と埃で影響を受けます。

業者が挨拶に行くと言っています。施主も行くべきですか

行ってください。理由は義務の話ではなく、苦情の宛先の話です。近隣の人は工事看板より先に「あそこの家の人」を思い出します。顔を知られていれば、市役所に電話する前にあなたに一言くれます。その一言があるかないかで、話が大きくなるかどうかが変わります。

渋谷区のように条例で発注者に義務を課している自治体では、そもそも施主が説明する側です。実家の市区町村がどうなっているかを、先に確認してください。

日曜に工事をしていると言われました。違反ですか

その作業が指定地域内の特定建設作業に当たるなら、規制基準は「日曜日その他の休日に行われる特定建設作業でないこと」としています。ただし、①その市区町村が指定地域になっているか ②その作業が別表第二の作業に当たるか ③1日で終わる作業ではないか、の3つを満たして初めて対象です。

判断は市区町村の環境部門がします。近隣から指摘があったら、まず業者に確認し、そのうえで市区町村の公害苦情窓口に問い合わせてください。勧告・命令を出せるのは市町村長です。

隣の家のひび割れを、うちのせいだと言われました

まず、民法716条により、施主は原則として請負人が第三者に加えた損害の賠償責任を負いません。窓口になるのは解体業者と、その業者が加入している保険です。工事の請負契約に賠償責任保険が付いているかを、契約書で確認してください。

ただし例外が2つあります。ひとつは716条ただし書で、注文または指図に施主の過失があった場合。もうひとつは民法717条で、建物そのものの瑕疵が原因だった場合です。どちらに当たるかは事実関係次第なので、金額が大きければ弁護士に相談してください。

境界のブロック塀を撤去してよいですか

境界線上にある塀は、民法229条により共有と推定されます。共有物なので、一方の判断では壊せません。まず隣の人に「この塀はどちらのものでしょうか」と聞き、確定測量図や境界標を確認してください。

やってはいけないのは、「うちの塀だから壊しておいて」と業者に指示することです。その指図自体が、716条ただし書の「指図についての過失」に当たり得ます。判断がつかないなら、塀は残して更地にするほうが安全です。手順は実家の境界が決まっていないときに書きました。

解体業者と揉めました。どこに相談すればいいですか

相手が解体業者(請負契約の相手方)なら、建設工事紛争審査会が使えます。中央審査会は国土交通省に、都道府県審査会は都道府県に置かれています(建設業法25条3項)。あっせん・調停・仲裁の3つがあり、請求額100万円までならあっせん10,000円、調停20,000円、仲裁50,000円です。

逆に、近隣との紛争には使えません。審査会が扱うのは請負契約に関する紛争だからです。近隣の話は市区町村の公害苦情窓口が先です。

近隣説明の記録は残しておくべきですか

残してください。日付・訪問先・会った人・伝えた内容・出た要望をメモしておくだけで構いません。裁判所が示した判断枠組みに「その間にとられた被害の防止に関する措置の有無及びその内容、効果」という要素が入っています。やったことは、あとから効きます。逆に、何もしていない期間は、何もしていない事実として残ります。

アスベストの届出は業者がやってくれますか

調査と掲示は元請業者の義務ですが、特定粉じん排出等作業の実施の届出(大気汚染防止法18条の17第1項)は発注者、つまり施主の義務です。実務上は業者が代行することが多いのですが、義務者はあくまで施主で、罰則も施主に向きます。作業開始の14日前までなので、建設リサイクル法の7日前よりも先に動かないと間に合いません。詳しくは実家の解体とアスベストに書きました。

工事の音がひどいので、こちらから業者に文句を言っていいですか

施主として伝えるのは問題ありません。ただ、市町村長に勧告・命令の権限があるのは、あなたではなく市区町村です。「基準を超えているかどうか」を測って判断できるのも市区町村です。感覚で「うるさい」と伝えるより、「何時から何時まで」「何の機械か」「何日目か」を記録して伝えるほうが、業者も市区町村も動きやすくなります。

この記事で確認できなかったこと

  • 振動規制法施行規則(環境省令)別表の原文。振動規制法15条1項は「環境省令で定める基準」としていますが、その省令本文を取得できませんでした。75デシベル・作業時間・連続6日・日曜休日という数値は、環境省のパンフレットによるものです。
  • 東京都環境確保条例123条〜125条の条文原文。東京都例規集・東京都環境局のいずれも本文を取得できませんでした。条番号(125条1項=勧告、2項=命令)は区が公表している資料で確認しました。
  • 大阪府生活環境の保全等に関する条例93条〜95条の条文原文。大阪府例規本文ページは92条までしか取得できませんでした。95条が事前説明の努力義務であることは、大阪府の公式解説ページの記載によります。
  • 渋谷区の条例の条文原文と条番号。区例規集のページが取得できませんでした。範囲・時期・義務者は渋谷区公式の解説ページによります。
  • 「受忍限度」の判断枠組みを示した判決の事件番号・裁判所名。文言は裁判所公式サイトに掲載された判決文で確認できましたが、その文書の事件番号の特定に整合しない点があり、確定できませんでした。
  • 足場・仮囲いが道路法32条1項の第何号に当たるか。条文からは特定できませんでした。
  • 民間の解体工事で家屋の事前調査を義務づける法令。存在を確認できませんでした。本文で引用した事務処理要領は公共事業を対象とする国の内部基準です。
  • 「解体工事」に特化した消費生活相談の件数。国民生活センターの公表資料から切り出せませんでした。訪問販売によるリフォーム工事や点検商法の件数は公表されていますが、解体工事単独の数字ではありません。
  • 近隣と施主・業者の紛争を扱う公的な紛争処理制度(公害紛争処理制度・都道府県公害審査会)の費用と件数。今回は確認していません。
  • 騒音規制法・振動規制法の「指定地域」が、個別の実家の所在地に掛かるかどうか。自治体ごとに指定が異なるため、一般論では確定できません。市区町村に確認してください。

まとめ

  1. 近隣説明を義務づけた法律は見当たりませんでした。決めているのは自治体の条例・要綱で、渋谷区のように施主本人に義務を課しているところがあります。
  2. 届出は騒音・振動が元請、建設リサイクル法とアスベストが施主。アスベストは14日前で、罰則も施主に向きます。
  3. 規制基準は敷地境界線で騒音85dB・振動75dB、第1号区域なら7時〜19時・1日10時間・連続6日・日曜休日は作業しない。
  4. 罰則は3万円と5万円。抑止力は罰金ではなく、市町村の勧告・命令と、近隣が民事で動くことです。
  5. 隣家の損害は民法716条により施主は原則責任を負いません。例外は「注文又は指図」の過失。だから余計な指示をしないことが、いちばんの防御になります。
  6. 境界線上のブロック塀は共有と推定されます(民法229条)。壊す指示を出す前に、境界を確認してください。
  7. 着工前の写真だけが、あとから効きます。国も公共事業では事前調査を制度化しています。

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